取材・文:岩村良介(PILOT PUBLISHING) 写真:秋田英貴
カムイルミナが誘う、自然とアイヌの幻想世界」の記事はこちら
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観光客に阿寒湖温泉をもっと満喫してほしい
OnTrip JAL編集部(以下、JAL):まずは、立ち上げの経緯からお聞かせください。
稲垣利展(以下、稲垣):火山・森・湖がおりなす豊かな原自然を有する阿寒摩周国立公園内の阿寒湖温泉地区は、外国人観光客を地方へ誘客する「観光立国ショーケース」(釧路、金沢、長崎)と、国立公園を世界水準に進化させる「国立公園満喫プロジェクト」(34国立公園の中から8国立公園)に選定されています。
阿寒湖温泉を起点に知床や摩周湖、弟子屈などへも足を伸ばしていただくことを目的に、インバウンドをさらに増やしていくための施策の一つとして実施したのが、今回開催になった参加体験型のナイトウォーク「カムイルミナ」です。
JAL:夜のアクティビティに着目されたのはなぜでしょうか?
稲垣:温泉地に訪れる海外からの観光客は、日本人と比べると夜の観光も積極的に楽しまれます。そんな外国人ゲストを筆頭にして、観光客のみなさんに阿寒湖温泉をもっと満喫してもらえたら。そんな想いをもとに、プランニングしました。
また、「阿寒湖アイヌシアター イコㇿ」では今年3月より、アイヌ古式舞踊と現代舞踊、デジタルアートを融合した舞台演目「阿寒ユーカラ ロストカムイ」を上演しています。
「ロストカムイ」と「カムイルミナ」の舞台は阿寒湖温泉街の西と東の両端に位置し、主要道路も一本道で散歩にちょうど良い距離感となっていますから、観光客のみなさまに周遊していただくことで、活性化につながればと考えました。
世界最高峰のデジタルアート集団が手がける最新作
JAL:制作を手がけたモーメント・ファクトリーはどのようなクリエイターでしょうか?
稲垣:カナダ・モントリオールを拠点とするマルチメディア・エンターテインメント・カンパニーのモーメント・ファクトリーは、世界最高峰のデジタルアート集団として、スペインの世界遺産「サグラダ・ファミリア」でのプロジェクションマッピング、「シルク・ドゥ・ソレイユ」や安室奈美恵さんのファイナルツアーの演出など、さまざまなプロジェクトを手がけ、高い評価を受けています。
JAL:提携にいたる決め手は何だったのでしょうか?
稲垣:日本でも近年デジタル技術が目覚ましく進化し、デジタルアートを駆使したショーも展開されていますが、モーメント・ファクトリーは最先端の技術や作品のクオリティーの高さもさることながら、その土地ごとの地域性や伝統を取り入れてストーリーを作っているのが魅力でした。
「カムイルミナ」は、その土地の文化と自然をもとに作り上げる「ルミナ・ナイトウォーク」シリーズの世界10作目にあたる最新作なのですが、カナダで6作、シンガポールで1作、そして日本では長崎と大阪に続いて3作目となります。打ち合わせは約2年ほど前から始め、制作段階ではお互いのプロジェクトメンバーを交えて、少なくとも週1回はウェブ会議を行い、ディスカッションを密に重ねながら一緒に作り上げていきました。
北海道の先住民族アイヌがプロジェクトチームに参加
JAL:北海道の先住民族アイヌが作品の題材となっていますね。
稲垣:「ルミナ・ナイトウォーク」は、その土地固有の伝説や言い伝えなどから着想を得て、地域性を活かした作品となっているのが特徴です。今やアイヌは国内外から注目を集めていますし、阿寒湖温泉にはアイヌコタンもありますので、「カムイルミナ」ではアイヌに古くから伝わるユーカラ(叙事詩)を取り入れたストーリーとなっています。
JAL:アイヌの方々の意見も取り入れられたのでしょうか?
稲垣:アイヌの方々の間で口頭伝承的に伝えられてきた「コンクワ」(フクロウの神が歌った謡)を題材にしていますので当然、彼らにもプロジェクトチームに加わっていただいています。
「カムイルミナ」には、アイヌ文化とその根幹の考え方である「自然との共生」というメッセージが込められています。阿寒湖温泉地域が大切にしてきた自然との共生とフィロソフィーの重要性を、観光客のみなさんに体感していただき、それぞれ持ち帰っていただければと思います。
自然環境への配慮と地元への還元により、持続可能性を向上
JAL:阿寒湖温泉ならではの特色が随所に盛り込まれていますね。
稲垣:「ルミナ・ナイトウォーク」を国立公園で実施するのは、今回が世界で初めてです。加えて、最新技術を駆使したプロジェクションマッピングやシノグラフィー(光と音の舞台装置)などが、独創的なデジタル体験であり素晴らしい。阿寒湖ならではの地形や景観を活かした演出や、インタラクティブ(双方向型)な仕掛けが盛り込まれているのも大きな特徴です。
JAL:森林やボッケ(泥火山)などの自然が違和感なく融合し、見事に活かされています。
稲垣:国立公園は日中に散策される方も多いですから、設備を最小限にしているのはもちろん、すべて自然に溶け込むようカモフラージュしています。また、昼間見てもわからないようにするだけでなく、機材を設置するためでも倒木すら動かさない、枝や枯葉は近くのものを使うことを徹底するなど、外来種を含めた生態系への影響がないよう、自然環境には最大限配慮しています。
「カムイルミナ」の入場料の一部は、阿寒湖周辺の自然環境保護活動に役立てていただきます。また、温泉街ではオフィシャルグッズの販売も行っているのですが、その収益の一部はアイヌの文化振興に寄付されます。自然環境に配慮し、地元にも還元される仕組みを作ることで、サステナビリティ(持続可能性)を向上させることも重要なポイントとなっています。
JAL:地元全体にメリットを生み出すからこそ、長く続けられるんですね。
稲垣:私たちは今回のプロジェクトを通じて、自然を守りながら、自然を楽しむという取り組みを積極的に実施し、発信していきたいと考えています。阿寒湖地区の原自然が開発されず、そのまま維持されているのは、明治時代から続く地元の自然保護活動の積み重ねによるものです。
会場となっている「ボッケの森遊歩道」は、阿寒湖周辺の森林約3600ヘクタールを所有・管理する前田一歩財団のご協力を得てお借りしているのですが、私たちは財団の創始者である前田正名氏の想いを受け継いで活動しています。
自然との共生を、気軽に楽しみながら学べる
JAL:全体を通して、見どころを教えてください。
稲垣:「カムイルミナ」は大きく8つのゾーンに分かれているのですが、あるポイントでは動物がいきいきと躍動する迫力のある映像が印象的であったり、またあるポイントでは無数のレーザーによる幻想的な演出が美しかったりと、ゾーンごとに見せ方や演出が変わっています。またストーリーもゾーンごとにメッセージが込められ、それぞれに伝えたいことが表現されています。
JAL:参加者は登場人物の一員となり、ストーリーを通して疑似体験できるんですよね。
稲垣:内容的には壮大なテーマを扱っていますが、キャラクターが登場したり、コミカルな演出もあるなど、年齢や国籍問わず幅広く楽しんでいただける内容となっています。参加型で物語を実体験するスタイルですので、ナイトウォークを通じて「自然との共生」を気軽に楽しみながら、学んでいただきたいと思います。
カムイルミナはまだこれから、さらに進化していく
JAL:実際に開催されてみて、お客さまからの反応はいかがでしょうか?
稲垣:おかげさまで大変ご好評をいただいており、外国人やお子さんの笑顔を見ることにやりがいを感じています。しかし「カムイルミナ」はまだ始まったばかりですので、これに満足することなく、これから阿寒湖温泉の夜の魅力の一つとして定着できるよう随時改善しながら、より良いコンテンツに進化させていきたいと考えています。
JAL:最後に、阿寒湖温泉として今後の取り組みについてお聞かせください。
稲垣:私どもは、この地域で長く滞在していただけるような取り組みにも力を入れています。地域独自のアイヌ文化をはじめとして、阿寒湖温泉には他にも見どころがたくさんありますので。
例えば、天然記念物であるマリモは、数年前にアイスランドでは死滅して、現在は阿寒湖だけにしか生息していません。阿寒観光汽船に乗船して、チュウルイ島にある「マリモ展示観察センター」で見ることができます。これはとても貴重な機会です。
このように、豊かな自然環境を生かした観光コンテンツを作っていきたいですね。大自然を満喫できる注目スポットが増えれば、連泊してゆっくり過ごしていただけるはずです。阿寒湖温泉を含めた周辺地区は、まだまだ大きな可能性を秘めていますから。
KAMUY LUMINA(カムイルミナ) | ||
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住所 | : | 北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉1丁目5-20(阿寒湖温泉ボッケ遊歩道) |
電話 | : | 0154-67-3200(阿寒アドベンチャーツーリズム) |
開催日 | : | 2019年7月5日~11月10日 |
web | : | http://www.kamuylumina.jp/ |
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