美食の国として名高いスペイン。さまざまな民族が混在することから郷土料理のバラエティの豊かさも魅力のひとつです。中でもスペイン・アストゥリアス州は、昔ながらの食文化が今もなお根付いており、街中のレストランなどで気軽に伝統料理を楽しむことができます。複数の料理を食べ巡り、お気に入りを見つけるのも楽しそう。美食大国で伝統料理を味わう旅へ、ご案内します。

遡ること400年前。アストゥリアスの食文化

画像: 遡ること400年前。アストゥリアスの食文化

スペイン北部に位置するアストゥリアス州。北側はカンタブリア海に面し、州の南側は山と渓谷が広がる地域です。日本ではまだまだ知られていないエリアですが、アストゥリアスの州都オビエドへは、日本から欧州他都市経由で、アストゥリアス空港へ向かうルート、もしくは、マドリードのバラハス空港から列車でアクセスできます。

州の全面積の3分の1が国立公園や自然保護区に指定されている風光明媚な場所で、海の幸に山の幸にと、どちらも豊富にそろっています。また、険しい山々に囲まれていて他の地域からの影響を受けにくかったといわれています。

こうした背景から“食”に関してもスペインの他の地域とは少し異なる進化を遂げてきたアストゥリアス州。特に16世紀から始まった白インゲンなどの栽培により、アストゥリアスの代表料理が次々と確立され、独自の食文化が形成されてきました。

知る人ぞ知る食の宝庫。アストゥリアスを代表する伝統料理

アストゥリアスには、今も昔と変わらない食べ方をしたり、代表的な食材を使ったりする料理がたくさんあります。ここからは、アストゥリアスで出合える代表的な伝統料理を4つご紹介します。

伝統的な注ぎ方と飲み方で社交的に楽しむ「シードラ」

「シードラ」はりんごの果汁を発酵させて造るアストゥリアスの伝統的なお酒。りんごのお酒としてはフランスの「シードル」のほうが有名ですが、両者は基本的には同じものです。

つづりもシードラが“cidra”で、シードルが“cidre”。ちなみに英語では「サイダー(cider)」となります。日本でサイダーというと「甘さをつけた炭酸水」を指しますが、語源はりんご酒です。

知名度はさておき、歴史があるのはアストゥリアスのシードラのほう。11世紀頃、フランスのブルターニュ地方やノルマンディー地方で、シードラの製法が発展していったといわれています。

アストゥリアス観光文化管理推進協会によると、ローマ時代の地理学者のストラボンが「その時(紀元前1世紀)すでにアストゥリアス人はシードラ(伝統的なりんごのお酒)を飲んでいた」と記述した記録が残されているとのこと。なんと2000年以上の歴史を持つお酒なのです。

今でもアストゥリアスはシードラの主要生産地で、国内生産量の約80%を占めています。

画像1: 伝統的な注ぎ方と飲み方で社交的に楽しむ「シードラ」

この「シードラ」のアストゥリアス流の注ぎ方がとても特徴的。市内のレストランで店長を務めるダビッドさんに実演してもらいました。

画像2: 伝統的な注ぎ方と飲み方で社交的に楽しむ「シードラ」

右手に持った瓶を頭の上まで高々と持ち上げ、腰のあたりに構えたグラスに注ぎ入れます。この手法は「エスカンシアール」と呼ばれて、これを専門的に行う人には「エスカンシアドール」という職業名までついているほど。注ぎ方コンテストも行われているそうです。

画像: シードラのアルコール度数は4度から8度ほど

シードラのアルコール度数は4度から8度ほど

なぜこんな特殊な注ぎ方をするのでしょうか?ビールを注ぐ際、泡の量にこだわる人もいますが、これでは泡だらけになってしまいそう。

ですが、「まさに泡が重要なのです」とダビッドさん。「高いところからそそぐことであえて泡立たせます。泡で表面積が増えることで香りや味わいがより引き立つんです」と教えてくれました。

泡がお酒の味をさらにおいしくする。そのため、注がれた瞬間から、泡が消える前に素早く飲み干すのが流儀です。みなさんもぜひ地元の人のスタイルでクイッとお楽しみください。

顔がすっぽり隠れる巨大牛ヒレ肉の包み揚げ「カチョポ」

画像1: 顔がすっぽり隠れる巨大牛ヒレ肉の包み揚げ「カチョポ」

「カチョポ」は牛ヒレ肉にハムとチーズをはさみ、パン粉で包み揚げた料理です。日本にも似たレシピがありそうですが、サイズが桁違い!このサイズ感のものにはなかなか出合えないでしょう。

画像2: 顔がすっぽり隠れる巨大牛ヒレ肉の包み揚げ「カチョポ」

カチョポの通常サイズは、長さ約30cm×幅12cm×厚さ2cm。これを2~4人くらいで分け合って食べるのが王道スタイルです。サクサクした衣を切ると、味付けされたヒレ肉とハムの中からチーズがとろりと出てきます。

画像: 現在は、ベジタリアン用のものをはじめ、さまざまな「創作カチョポ」が編み出されています(写真はベジタリアン用のカチョポ)

現在は、ベジタリアン用のものをはじめ、さまざまな「創作カチョポ」が編み出されています(写真はベジタリアン用のカチョポ)

画像3: 顔がすっぽり隠れる巨大牛ヒレ肉の包み揚げ「カチョポ」

こちらは2018年に一番おいしいカチョポを決める大会で優勝した「創作カチョポ」。中身は、イベリコベーコン、スモークチーズとホワイトソースで、ボルチーニとクランベリーソースがかかったジャガイモが添えてあります。

肉の存在感が際立つ通常のカチョポと比べ、細かく刻まれたベーコンの旨みが全体にしっかり行き届いており、なめらかでクリーミーな味わい。

画像4: 顔がすっぽり隠れる巨大牛ヒレ肉の包み揚げ「カチョポ」

燻製したチーズの匂いも楽しめるようにと、蓋をして提供されます。蓋を開けた瞬間、香ばしい匂いとともに煙がもくもく立ち上ります。チーズの味わいも深く、チーズ好きも唸る一品です。

白インゲンとソーセージの極旨煮込み「ファバダ」

画像1: 白インゲンとソーセージの極旨煮込み「ファバダ」

アストゥリアスで作られる白インゲン(ファベス)をチョリソ、モルシージャ(豚の血液と玉ねぎや米などを混ぜたソーセージ)とともに、パプリカパウダーやサフランを入れて煮込んだ料理が「ファバダ」です。

川の近くで育てられる白インゲンは、皮が薄くクリーミーなのが特徴。具材から染み出た旨みとコクのあるソースも絶品で、白インゲンのやさしい味わいとソーセージの濃厚な風味が見事にマッチしています。

画像2: 白インゲンとソーセージの極旨煮込み「ファバダ」

レストランでファバダを頼むと、鍋に入ったまま出てくることがほとんど。食べたい分を自分でお皿に盛っていきます。しかもこの鍋に入っている分であれば、何回盛っても料金は同じ。熱々のファバダを思い切り堪能してください。

チョリソを包んで焼いたパン「ボジョス・プレニャオス」

画像: チョリソを包んで焼いたパン「ボジョス・プレニャオス」

最後に、アストゥリアスのお祭りやイベントで必ず見るのが「ボジョス・プレニャオス」。アストゥリアスのパン屋さんでも購入できます。

チョリソから出た肉汁がパンにじわっと染みこみ、外はカリカリ、中はモチモチで、食べだしたら止まらない一品。風味豊かなチョリソとパンの相性が抜群です。

サイズは小さめなので、街歩きの合間に間食としても楽しめますが、最初に紹介したりんご酒「シードラ」のおつまみとして味わうのもおすすめ。どちらも購入して、アストゥリアスの伝統料理の融合を楽しんでみては?

食とあわせて観光も楽しむなら、ぜひ「教会巡り」へ

歴史ある街・アストゥリアスを語る上で外せないものといえば、ユネスコの世界遺産にも登録されている中世初期の大聖堂と教会群。アストゥリアスには複数の教会が点在していて、アストゥリアスのこれまでの歴史を目でも体感できるスポットです。9世紀から16世紀までのさまざまな時代の建物を見ることができます。

アストゥリアスの顔「オビエド大聖堂」

画像1: アストゥリアスの顔「オビエド大聖堂」

「オビエド大聖堂」の正式名称は「サン・サルバドール大聖堂」。別名「サンクタ・オヴェテンシス」としても知られています。オビエド大聖堂は古くから巡礼者の目的地とされていました。13世紀末から16世紀半ばまでと長い建設期間がかかっているため、さまざまな建築様式が入り交じっているのが特徴です。

画像2: アストゥリアスの顔「オビエド大聖堂」

大聖堂の中はひんやり涼しく、一歩足を踏み入れると静かな空間が待っています。入り口の目の前にあるメイン祭壇は、イエス・キリストの生涯23の場面の装飾が施されており、圧巻です。

画像3: アストゥリアスの顔「オビエド大聖堂」

大聖堂の2階は、博物館になっています。教会にまつわる文化財を見学してみてください。

平日は予約をせずに入ることができますが、7月や8月のスペインの夏休み時期は、念のためオンライン予約をしていくのがおすすめです。

オビエド大聖堂(Catedral de Oviedo)

住所Plaza Alfonso II El Casto S/N
電話+34 985 219 642 (Turismo)
料金8ユーロ
webオビエド大聖堂 公式サイト(外国語サイト)
※7~9月以外の月は、窓口の営業時間が13:00から16:00のためご注意ください

プレロマネスク様式最古の建築「サン・フリアン・デ・ロス・プラドス教会」

オビエド大聖堂から徒歩15分ほどの場所にある2つ目の世界遺産が「サン・フリアン・デ・ロス・プラドス教会」。プレロマネスク建築では最古となる9世紀に建てられました。専門ガイドによると、教会内部に半円型のアーチを施した教会は、他に類をみないのだとか。

祭壇の前に立ったらぜひ天井を見上げてください。カトリックの教会には珍しい木造となっています。

画像: 壁の右側にある家のような模様は、この教会だけのオリジナルデザインです

壁の右側にある家のような模様は、この教会だけのオリジナルデザインです

塗装方法もカトリック教会には珍しいエジプトのピラミッドの壁画と同じ技法で描かれているそうです。

サン・フリアン・デ・ロス・プラドス教会(Iglesia de San Julián de los Prados)

住所Calle Selgas 2
電話+34 687 052 826
料金大人4ユーロ、子ども1ユーロ(毎月第1月曜日は無料)
※事前予約可能

山の斜面にそびえ建つ9世紀の元神殿「サンタ・マリア・デル・ナランコ教会」

画像: 山の斜面にそびえ建つ9世紀の元神殿「サンタ・マリア・デル・ナランコ教会」

オビエド中心部から約4kmの場所に位置するナランコ山の斜面に「サンタ・マリア・デル・ナランコ教会」はあります。842年にプレロマネスク建築様式で建てられており、当初、アストゥリアス王のラミロ1世を埋葬するための神殿として造られたといわれています。その後、教会として用いられたため、世界遺産にも教会として登録されています。

画像: 坂の下から眺めることもできます

坂の下から眺めることもできます

市の中心部からはタクシーで約10分、バスで20分弱で行くことができるので、アクセスも抜群です。

サンタ・マリア・デル・ナランコ教会(Santa María del Naranco)

住所Laderas del Monte Naranco a 3 Km
電話+34 638 260 163
料金5ユーロ(サン・ミゲル・デ・リジョ教会付き)1回につき定員25人
webサンタ・マリア・デル・ナランコ教会 公式サイト(外国語サイト)
※事前予約可能

ナランコ教会と同じ9世紀に建てられた「サン・ミゲル・デ・リジョ教会」

先述したサンタ・マリア・デル・ナランコ教会から250mほど坂を上がった先にあるのが「サン・ミゲル・デ・リジョ教会」です。こちらもプレロマネスク建築様式で造られています。ナランコ教会と同時期の842年に建てられたといわれています。

画像: ユニークな窓の造りが目を引きます

ユニークな窓の造りが目を引きます

サン・ミゲル・デ・リジョ教会を内観したい場合は、サンタ・マリア・デル・ナランコ教会の売り場でチケットを購入できます。あわせて巡るのがおすすめです。

サン・ミゲル・デ・リジョ教会(San Miguel de Lillo)

住所Laderas del Monte Naranco
電話+34 985 295 685 (Parroqui)
料金5ユーロ(チケットはサンタ・マリア・デル・ナランコ教会で購入)

スペインの穴場・アストゥリアスは、知れば知るほど興味がわくおすすめエリアです。伝統料理を堪能しながら、世界遺産の歴史を巡る。アストゥリアスの旅に出かけてみませんか。

取材・撮影/きえフェルナンデス

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