リリーさんがスコットランドのウイスキー蒸留所や麦畑などを訪ねるドキュメンタリー本編はもちろん注目ですが、現地での買い物や滞在先のホテルでウイスキーについて語るシーンにも聞き逃がせない名言が満載。ウイスキーとスコットランドの魅力が詰まったドキュメンタリーの見どころを紹介します。
文:タナカヒロシ 編集:佐々木鋼平(CINRA. inc,)
本場のウイスキーと蒸溜所を求めて、5泊7日、スコットランドの旅へ
「ウイスキーは男のロマン」――誰が言いはじめた言葉か知らないが、リリー・フランキーさんがスコットランドの蒸留所を旅する動画を見て、そんなことを言いたくなる気持ちが理解できた。
その動画とは、GQ JAPANのウェブサイトで公開されている『PILGRIMS 行きたかったあの場所へ』。WOWOWとの共同制作によるドキュメンタリーで、PILGRIMSは「巡礼者」を意味する。
リリーさんは4年前にもWOWOWの番組『聖地巡礼 リリー・フランキーの洋酒紀行』で、スコットランドのアイラ島を訪れているが、今回訪れたスペイサイドはスコットランドのモルトウイスキー蒸留所の約半数が密集するエリア。いわばスコッチウイスキーの総本山だ。
『GQ JAPAN』での配信版動画は全12話で構成され、各エピソードは3分前後。ショートフィルムフォームらしいストーリー展開で、非常に短い動画となっているが、序盤から名言を連発するリリーさんの話術にグイグイと引き込まれる。
第1話では、50年熟成された希少なモートラックを口にして、「ナイス熟女の味ですよ」と発したかと思えば、「このウイスキーが見てきた風景が見えますもんね」と、その熟女の解説を始める。
「商業高校から東京に来て、いいとこに嫁いだ」
「遊んでたらこの味にはなりません」
「どんだけ良いところに嫁いでも、実家のソウルを忘れてない」
ウイスキーをたった一口飲んだだけで、次から次へと浮かび上がる人物像。一体どんな味がするのか、これを見て自分も飲んでみたいと思わない人はいないだろう。
スコットランドの大自然と蒸溜所のコラボレーションを体感する
第2話でも、グレンリベット蒸留所の水源となっているリベット川を訪れ、「蒸留所は好きな子の実家に行く感じがする」「水源を見ると実家の親御さんに挨拶している感じ」と表現。その言葉のセンスに脱帽させられる。
リリーさんは作家としても『東京タワー』をはじめ、数々の作品を残しているが、その言語感覚はウイスキーを飲むことで養われた部分もあるのではないだろうか。そんなことさえ考えてしまうほどに、ウイスキーを前にしたときのリリーさんは饒舌だ。
番組では3つの蒸留所を訪れる。2014年に設立されたばかりの「バリンダルロッホ」(第6話)、大量生産のなかでもアナログな要素を大切にする「グレンフィディック」(第10話)、そしてシングルモルトのロールスロイスと言われる「マッカラン」(第12話)。
特に蒸留所だけでなく、数メートルの高さまで無数のボトルが展示されているマッカランは、リリーさんが「完全に近代美術館」と唸るほど壮観な映像が楽しめる。
旅先の買い物での独特の高揚感を味わわせてくれる名シーンも
そうした蒸留所ごとの違いも見どころだが、もうひとつ「男のロマン」を感じさせるのが、現地でリリーさんが買い物をするシーンだ。
第3話では、チャールズ王子がカミラ夫人と再婚した際につくられた記念ボトルを見つけて衝動買い。子どものようにはしゃぐ姿は、なんだかこちらまで顔がほころんでしまう。
第8話では、1895年に創業した老舗ボトラーのゴードン&マクファイルを訪れ、試飲を勧められた「特別なウイスキー」が、リリーさんの生まれと同じ1963年11月にボトリングされたものだと判明。運命に導かれるように2500ポンド(約35万円)のボトルを購入する。
「俺が買わなきゃ誰が買う」「こんなの銀座のクラブでバカ騒ぎしてる金額で買える」と興奮冷めやらぬ様子で話すリリーさんの姿は、まるで自分に言い訳をしているようで、男なら誰しも似たような経験をしたことがあるのではないだろうか。
とても他人事とは思えなかったと同時に、見ているこちらにまで、買い物で奮発したときの独特の高揚感を味わわせてくれるシーンだった。
このほかにもウイスキーを愛する取材同行ドライバーの自宅を訪れる第5話、同じ原酒を違う樽で57年間寝かせたという2種類のウイスキーを飲み比べる第7話などは、人間味あふれるエピソードが奥深く、ウイスキーの持つ不思議な魅力を感じさせてくれる。
リリーさんは第10話で、ウイスキーとワインの違いについて持論を語っているが、そのなかでも印象的だったのが「男は人に惚れる習性がある」という言葉。
それを踏まえて全12話を振り返ると、「気持ち」がキーワードになるエピソードが多いことに気づかされる。それこそが男を動かす最大の理由であることは、男なら胸に手を当ててみればわかるだろう。
ウイスキーが「男のロマン」であると言われる所以は、そこにヒントがあるのかもしれない。
インフォメーション
『PILGRIMS』by 『GQ JAPAN』 & WOWOW スペシャル
『ウイスキーの本場スペイサイドの蒸留所を訪ねるスコットランド7日間』
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番組概要
『PILGRIMS 行きたかったあの場所へ リリー・フランキー、スペイサイド編』
Produced by 『GQ JAPAN』 & WOWOW
製作・著作:Condé Nast Japan & 株式会社WOWOW
https://gqjapan.jp/series/gq-pilgrims-movie
『GQ JAPAN』公式ウェブサイト
https://gqjapan.jp/video/life/PILGRIMS
『GQ JAPAN』公式まとめページ
https://gqjapan.jp/culture/movie/pilgrims
『GQ JAPAN』公式YouTube
http://youtube.com/GQJAPAN
WOWOW 番組公式ウェブサイト
http://wowow.bs/pilgrims
タナカヒロシ
1980年生まれの松坂世代。横浜市出身。いまはなき音楽フリーマガジン「BG MAGAZINE」で、立ち上げから数年間、編集・ライターをしたのち、2008年10月からフリーランスに。主に音楽を中心としたエンタメ系の記事、およびクレジットカードなど決済サービスに関する記事を執筆。K-POPにハマったことをきっかけに、2011年以降は頻繁に韓国旅行をしていたが、最近は「どこかにマイル」を使った弾丸国内旅行が趣味。
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