地元の人は知っているけれど、世間的にはまだまだ知られていない隠れた観光地を見つけるシリーズ。第1回目の今回は、岡山県高梁(たかはし)市を旅します。山城として現存する唯一の天守を持つ「備中松山城」やその城下町など市内のスポットを巡ります。
画像: あなたの知らないディープ岡山。備中高梁の城下町を巡る

西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎(実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典(PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

世界初の猫城主!?現存天守を持つ「備中松山城」

山々に囲まれた盆地であり、一級河川・高梁川が流れる明光風靡な町。市内中心地からふと目をやると山頂に山城が堂々とした構えを見せ、城下町ならではの落ち着いた佇まいを見せる静かな地域、高梁市。
備中高梁駅を最寄りとする「備中松山城」は国内に現存する12の天守のひとつで、標高430mにあり、山城としては現存する唯一の天守を持つとして城好きには有名です。
この城のはじまりは延応2(1240)年と伝えられています。山陰と瀬戸内の真ん中に位置し、これが交通の要所にあたることから、さまざまな歴史の物語が繰り広げられた場所であったと言われています。

大手門から見上げるとそこには、高くそびえるような石垣と土塀があります。自然石による巨大な岩をそのまま活かし、その上にさらに築石を重ねた石垣は圧巻です。当時の職人の高度な技術、野趣に溢れたダイナミックな姿に、まず誰もが驚かされることでしょう。
時代に応じて藩主が手をかけながら城を修復し、近代の城の姿にまで造り上げた傑作です。現在見られる城郭は1680年ごろから3年をかけ、2代藩主・水谷勝宗により大修築が行われたものです。
明治期の廃城令を逃れ、今の時代に残された天守および二重櫓、および土塀の一部は、国の重要文化財に指定され保存されています。

このお城には、もうひとつのおおきな魅力があります。
それが猫城主「さんじゅーろー」の存在。
高梁市は平成30年7月豪雨により集中豪雨、土砂災害など大きな被害がありました。その年にひょっこりと城の三の丸に現れたのが、「さんじゅーろー」です。名前は備中松山藩出身の新選組の七番隊組長「谷 三十郎」にちなみ、また見つかった三の丸にもかかっています。城に住み着き有名になったころ、6キロ先のお宅から逃げ出してきた猫であったことがわかりましたが、話し合いの末に観光協会に譲渡されることになり、今は城主としてお城を見回ったりお昼寝したりと城内で愛くるしい姿を見せてくれています。町なかでも「さんじゅーろーグッズ」が販売され、人気の高さがうかがえます。
歴史好きな人たちに愛され、猫好きの心をもつかむ備中松山城は、まさに盤石の布陣で私たちを迎え入れてくれる“最強の城”とも言えます。

備中松山城

住所岡山県高梁市内山下1
電話0866-22-1487
開城時間4月~9月 9:00~17:30
10月~3月 9:00~16:30 (最終入城時間:閉城時間の30分前)
休城日12月29日~1月3日
URLhttp://takahasikanko.or.jp/modules/spot/index.php?content_id=1

街ブラしながら見つけた昭和レトロな駄菓子屋「植田菓子店」

備中高梁駅の駅前通りを100mほど行ったところを右折すると、栄町商店街があります。この商店街を抜けたところにある駄菓子屋さんがここ、植田菓子店です。

今や珍しい、日用菓子を量り売りで販売する菓子店。
その歴史は60年。先代はこの地でせんべい屋を営んでいましたが、その後少しずつ仕入れを増やし今に至るということです。暑い夏もおせんべいを焼くのはなかなかの重労働だったそう。醤油のいいにおいが近所に漂い、子どもからお年寄りまでが立ち寄る人気のお店だった当時の店の姿は、町のお年寄りたちの想い出の中にきっと刻まれているでしょう。

店内には使っていた鉄の焼型が飾られていたり、古い神棚があったりと情緒もたっぷり。当時焼いたおせんべいを入れて使っていた木箱は今も現役です。
仕入れは一か所ではなくさまざまな問屋から、できるだけスーパーマーケットなどでは売られていないお菓子を取り扱っているとのこと。
お菓子は100グラム単位で購入できます。目移りしながらやっと選んだそれを、現店主のお母さんがすくって小さな袋に詰めてくれます。はかりに乗せなくてもちゃんと100グラムなのはさすが長年の手仕事の勘。お話をしながら手渡してくれるそのやり取りそのものが、もう既に新鮮な感覚。こんなお店は全国探してもそう多くはないでしょう。
たのしい会話をしながらお菓子を選んで、レトロな気分に浸ってみてはいかがでしょうか。

植田菓子店

住所岡山県高梁市東町1889
電話0866-22-3294
営業時間9:00~18:00
定休日木曜日

江戸初期から変わらぬ町割り 高梁の城下町歩き

江戸時代、高梁川から瀬戸内海を結ぶ水運「高瀬舟」の整備を行いさまざまな物資や鉄、銅などを流通させ藩の財政を潤わせた備中松山藩。城主・水谷勝宗による城の二重櫓や大手門の増築、大改修なども行われ、徐々に整った城下町が完成しました。今の高梁の町なかには、その時代の面影を感じさせる場所が多く残っています。

臥牛山にあった備中松山城のふもとには、「御根小屋」と呼ばれる藩主の居城がありました。城は象徴として存在し、実際の職務は御根小屋で行われており、実質城としての役目は御根小屋が持っていました。
よって、この御根小屋には備中松山城にも負けない高い石垣が築かれています。石垣に沿い“鍵曲がり”(クランク)になった道もそのままで、城下町特有のつくりに江戸時代の町並みを感じることができます。

この御根小屋からほど近くにある「石火矢町」は、武家屋敷が並ぶエリア。当時の町並みが保存されている他、旧折井家と旧埴原家が一般公開されています。これらは中級武士の官舎で、どちらも質素な造り。庭には食料や生活に必要な樹木が植えられ、当時の暮らしぶりがうかがえる土間や間取りなどを見学できます。

武家屋敷から南へ進むと、歴史の一端を感じることができる禅寺「天柱山 頼久寺」があります。
室町時代に「安国寺」として足利尊氏が建立した寺で、備中松山城主・上野頼久の名前から安国頼久寺と呼ばれるようになりました。
江戸時代になり、備中国奉行として治めた小堀遠州が寺を一時住まいとし、その際に遠州流の庭園を築きました。日本全国にある遠州の庭の中でも初期に作庭されたものですが、枯山水の中にヨーロッパ庭園を思わせる刈り込みや、日本庭園によく置かれる「鶴亀」の見立てなど、さまざまな要素を組み合わせていることがわかります。
現在は学校となり内部を見ることができない御根小屋にも心字池を中心とした庭があり、こちらも遠州作です。

以上ご紹介した場所は当時の形を留めている場所が多く、藩主もこれらを眺めたと思うと感慨もひとしお。比較的アップダウンも少ないのでレンタサイクルもスイスイ、徒歩でものんびりと周遊できます。
気軽に歴史と触れられるエリアなので、城とセットでまわることをオススメします。

武家屋敷 旧折井家

住所高梁市石火矢町23-2
電話0866-22-1480
開館時間3月~11月 10:00~17:00 12月~2月 10:00~16:00
休館日12月29日~1月3日
URLhttps://www.city.takahashi.lg.jp/soshiki/9/bukeyashiki4240131.html

武家屋敷 旧埴原家

住所高梁市石火矢町27
電話0866-23-1330
開館時間3月~11月 10:00~17:00 12月~2月 10:00~16:00
休館日12月29日~1月3日
URLhttps://www.city.takahashi.lg.jp/soshiki/9/bukeyashiki4240131.html

頼久寺

住所岡山県高梁市頼久寺町18
電話0866-22-3516
開館時間9:00~17:00
休館日年中無休
URLhttps://raikyuji.com/

しっとりと落ち着いた町並みを散策できる紺屋川美観地区

高梁市内に流れる紺屋川沿いは桜と柳、もみじなどが四季を通じて美しい散策道で「日本の道100選」にも選ばれています。
もともとは外堀としても利用されていたという紺屋川。生活用水としても使われていたのか、小さな階段で下に降りることができ、美しいせせらぎを間近に感じることができます。沿いには藩士のために作られた学校「藩校有終館跡」の石碑、その向かい側には県下でもっとも古い教会堂もあります。
紺屋川の上には小さな祠があり、町並みに風情を与えています。これは「高梁七恵比寿」。市内7か所に恵比寿様を祀る江戸時代盛んになった信仰のひとつで、今でも大切に祀られています。

川と交差する本町通りは高梁川にも近く、水運が発達した時代の繁栄を感じさせる建物や石碑が遺されています。
家々は間口が狭く奥に長い典型的な町屋造の家々が並び、格子や袖壁、虫籠窓(むしこまど)、軒下につけられる持ち送りなどの装飾も見られます。中には同市内「吹屋地区」で産出されたベンガラを使ったと思われる、朱塗りの家もありました。

少し歩くと「高梁市商家資料館 池上邸」が。
享保(きょうほう)年間に小間物屋をはじめ、その後両替商や高瀬舟の廻船問屋などを経て、昭和の時代まで醤油問屋を営んだ商家です。
当時の道具などが展示される主屋や、なまこ壁を施した蔵や小さな庭などを見ることができます。

城下町として造られた町並みと、後の歴史の流れによって築かれた建物や地域特性を今も色濃く残す高梁市。
昔ながらの細路地を地図やパンフレットを片手に歴史を訪ね、土地ならではの空気感や歴史の断片をひとつずつ拾いながらゆっくりまわると、気づけば大きな充足感に満たされる…、そんな旅ができる町でした。

紺屋川美観地区

住所岡山県高梁市鍜冶町
URLhttp://takahasikanko.or.jp/modules/spot/index.php?content_id=55

高梁基督教会堂

住所岡山県高梁市柿木町26
電話0866-22-3311
開館時間随時
URLhttp://takahasikanko.or.jp/modules/spot/index.php?content_id=7

※団体見学の場合は要連絡、日曜10:00~12:00主日礼拝

高梁市商家資料館 池上邸

住所岡山県高梁市高梁市本町94
電話0866-21-0217
入館時間10:00~16:00
休館日12月29日~1月3日
URLhttp://takahasikanko.or.jp/modules/spot/index.php?content_id=5

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