続く冬のツアーは、2023年1月23~25日に実施されました。ハイライトである仕込み体験をはじめ“日本酒造りに関わるあらゆる人に会う”ことが大テーマです。
【冬のツアー概要】テーマ:匠
冬のツアーでは、日本酒造りを酒蔵で実際に体験。日本酒造りに欠かせない「水」「香り」「麹」についても学びを深めます。仕込み水や東広島の食材を使った食事も楽しみのひとつです。
アクティビティの例
- 龍王山トレッキング(仕込み水源流体験)
- 仕込み水を使ったグルメ
- 酒類総合研究所で「香り」について学ぶ
- 麹セミナー
- 杜氏と楽しむペアリング夕食
- 芸国分寺で朝のお勤め
- 酒造り体験
- 杜氏行きつけの店で角打ち
ここからは、再びフィリップスさんとともにツアー当日の様子をご紹介します。
酒造りに必要な「水」について知る
寒波が訪れ赤瓦に雪が積もり、情緒ある雪景色となった東広島市・西条。酒造りに使う仕込み水はどこから流れてくるのか、それを知るところから冬のツアーがスタートしました。
酒蔵通りから車で約10分の「龍王山」を目指します。山へ向かう車中のガイダンスは、水の硬度について。「ヨーロッパはミネラルを多く含む硬水、日本は口あたりがまろやかな軟水が主流といわれています。しかし、ここ西条の仕込み水は中硬水です」。その理由は源流を見て確かめます。
天気がよければ、約1時間のトレッキングで山頂を目指せる龍王山。この日は積雪のため、車で八合目付近まで上がります。
「西条龍王の名水」と書かれた石の下に、湧き水が流れています。「まずは味わってみましょう。この水は超・軟水といわれているんですよ」という案内のもと、湧き水を汲んで試飲すると、たしかに口当たりが軽くまろやかな印象です。
この水が長い年月をかけて龍王山の地層を通って酒蔵通りに湧き出すころには、酒造りに適した中硬水になっているのだそう。
わたしたちが口にするおいしい仕込み水や、その水で醸した日本酒は、自然の中で、長い時間を経て流れてきた水のおかげなのです。
地層も見学しました。現在、地元の研究者によって地層や地質、水についての研究が進められています。今後も、龍王山の「水」にまつわる話題に注目が集まりそうです。
展望台からは、酒蔵通りも見えます。緑に囲まれた美しい西条盆地は、すてきなフォトスポットでした。
龍王山
住所 | : | 広島県東広島市西条町寺家941-17 |
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電話 | : | 082-422-0005(憩いの森公園管理事務所) |
web | : | http://www.ikoinomoripark.com/ |
仕込み水を使ったパン&コーヒー。酒粕香るランチに舌鼓
昼食は、酒蔵通りにある、築80余年の建物を改修した「くぐり門珈琲店」へ。先ほど学んだばかりの仕込み水を使った特別ランチをいただきます。
仕込み水を使った、しっとり柔らかな厚切り食パンに、酒粕とチーズ、砂糖をトッピングした人気メニュー「酒粕チーズトースト」。から揚げは、西条酒に漬け込んだ鶏肉に米粉の衣をつけた東広島名物「コメカラ」。コーヒーは、西条の杜氏が集まって、利き酒ならぬ「利きコーヒー」をして生まれたオリジナルブレンドを、仕込み水で淹れてあります。
西条の水や酒を感じる昼食を食べ終わったところで、「利き水体験」です。賀茂鶴酒造の仕込み水と、硬度の異なる3種の水を少しずつ試飲。
「比べるとまろやかなのがわかる!」「こんな試飲をイベントにしたら楽しいね」と、盛り上がる参加者たち。「水」にもいろいろな特徴があることを知り、仕込み水のまろやかさ、やわらかさを舌で感じたひとときでした。
くぐり門珈琲店
住所 | : | 広島県東広島市西条本町17-1 |
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電話 | : | 082-426-3005 |
web | : | https://kugurimon.com/ |
日本で唯一! お酒の研究所で知る香りの世界
次は、日本で唯一の“酒類に関する国の研究機関”である「酒類総合研究所」へ。酒類の分析や鑑定、研究、調査、品質評価、醸造技術者の育成を目的とした講習などを実施し、また、明治時代から100年以上続く「全国新酒鑑評会」を毎年開催しています。
ここでは、「清酒の香りとその由来について」を学びます。
清酒の香りは、その特徴を表現するための円形の表「フレーバーホイール」にまとめられ、「カラメル様」「酸味」「甘味」などと、細かく分類されています。思い描いた香りを目指して細かな調整を繰り返す、杜氏さんたちの努力を知ることができました。
6種の香りが何の香りなのかを判別してみます。リンゴ、バナナ、バラなど、さまざまで、また人によっても感じ方が違うことを実感。その多様性が日本酒の魅力のひとつでもあります。
最後に、大きな杉玉と一緒に記念撮影。
独立行政法人酒類総合研究所
住所 | : | 広島県東広島市鏡山3-7-1 |
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電話 | : | 082-420-0800 |
web | : | https://www.nrib.go.jp/ |
総杜氏自らレクチャーする「麹セミナー」へ
最後のテーマは「麹」です。賀茂鶴酒造の総杜氏の案内で、普段、一般の人は入れない酒蔵へ足を踏み入れます。
賀茂鶴酒造では、酒米を自社製米し、38%まで磨いています。精米するときに出た粉のうち、外側部分は米油やぬか、家畜の飼料、肥料として再利用され、内側に近い部分は「米粉」「おかき用粉」として販売されているそうです。農家が一生懸命作る米を、無駄にせず、大切に扱う姿勢を感じました。
続いて、麹室へ移動。部屋の中は麹が活動しやすい温度、湿度を保ってあります。精米し、洗って蒸し、お酒になる前の状態の蒸米を試食させてもらったフィリップスさん。こんなことができるのも、プレミアムツアーならではです。
「いつものごはんは炊くのに対して酒米は蒸されているので、外は硬く内側は軟らかい、独特の食感。田植えから稲刈り、洗米、精米と、多くの人の手によって、いくつもの作業を経てこの一粒があると思うと、感慨深いです」
翌日の酒造りがますます楽しみになった、フィリップスさんでした。
賀茂鶴酒造
住所 | : | 広島県東広島市西条本町4-31 |
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電話 | : | 082-422-2122 |
web | : | https://www.kamotsuru.jp/ |
SNS | : | https://www.instagram.com/kamotsuru_sake_brewing/ |
日本酒×冬の食材で ペアリング夕食を杜氏と楽しむ
夕食は、総杜氏と一緒に日本酒ダイニングへ。甘さが増した冬の食材をふんだんに使った料理に、4種の日本酒を合わせていただきます。
まずは、スパークリング日本酒で乾杯。
純米酒、純米吟醸酒など4つの日本酒を、冷や常温、ぬる燗、熱燗など、違う温度で味わいます。
こくのある「純米しぼりたて冷酒」を、東広島市安芸津町産アナゴとネギのエスカベッシュの酸味と合わせて。海老芋、ゆりね、くわいの揚げ物は、酸味のある「純米吟醸 生酛 酒中在心」と一緒に食べることで、口の中がすっきり、後味もよくなるそうです。
総杜氏、料理長、一日を共にした皆さんと一緒に囲む夕食は格別。会話が進み、いつしか連帯感も生まれ、初日は終了しました。
日本酒ダイニング佛蘭西屋
住所 | : | 広島県広島市東広島市西条本町9-11 |
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電話 | : | 082-422-8008 |
web | : | https://www.france-ya.jp/ |
朝のおつとめで日本酒造りに向かう心を整える
2日目は、周囲が真っ暗な朝5時50分、静寂に包まれた安芸国分寺からスタートです。
山門をくぐり、本堂へ。6時から、ご住職のお勤めが始まります。本堂に響く読経を聞きながら、日本酒造りに必要な五感を研ぎ澄まし、心を整えました。
安芸国分寺
住所 | : | 広島県東広島市西条町吉行2064 |
---|---|---|
電話 | : | 082-430-7763 |
web | : | https://www.aki-kokubunji.com/ |
蔵人となり、酒造り体験に挑戦
身支度を整え、お待ちかねの酒造り体験です。前日、洗った酒米を、甑(こしき)の中へ入れる作業から。
米を蒸す際に使った麻布を洗い、外へ干します。吹き飛ばないよう、しわにならないよう、手早く済ませます。
「留添(とめぞえ)」の作業。タンクに蒸米、麹米、水を入れます。
朝一番に作業した甑前へ再び集合すると、米が蒸し上がっていました。「いい香り~」と、参加者たちから感嘆の声があがります。
蒸し上がった米は、蔵人たちが素早く桶に入れ、2階へ運びます。布の上に広げ、手でほぐして熱をとる作業。
「蔵人の皆さんが力を合わせ、お互いを信頼し、尊重しながら素早く進行していくのがよくわかりました。作業を前へ進める人、後ろで片付けたり支えたりする人と、きちんと役割分担がなされているんですね」と感心するフィリップスさん。
実際に酒造りに参加した人だけがわかる、スピード感や熱気、連帯感があります。
熱をとった米を、麹室へ搬入します。
三段仕込みの「留添」の作業を体験。蒸米、麹米、水の入ったタンクに、長い「かい棒」を差し込み、1時間くらいかきまぜます。ずっと続けていくとクタクタ。とても重労働であることを身をもって知ります。
翌日の準備のひとつ、米洗い。
水に米を浸す時間も、杜氏が長年の経験で培った感覚で設定。
蔵人はその時間を時計で確認し、秒単位でたらいの中から米を引き上げます。人手が足りないときは、一人で行うこともあるというから驚きです。
再び麹室のある2階へ。固まった蒸米をほぐし、床に広げます。
杜氏が蒸米に麹菌をふりかけます。その間、30度の麹室でじっと動かず、その作業を見守ります。麹室に空気の流れができ、麹菌が付着する際にムラができるのを防ぐためです。いつの間にかじんわり汗をかいていました……。
菌がきちんと蒸米にくっつくよう、混ぜ合わせます。麹菌をふりかける、混ぜ合わせる、の作業を3回繰り返しました。全身を使う作業が続きます。映像で見たり聞いたりしたことはあっても、リアルな酒造り体験は初めてのフィリップスさん。
「いまやWebで簡単に情報を入手できるようになりました。コロナ禍もあり、オンライン会議ツールなどでコミュニケーションも取りやすい。でも、香り、音、光、触った感覚、味わい……、五感をフルに使う酒造りは、リアルに触れてこそわかることがたくさんありました」と体験することの価値を改めて感じていました。
角打ちで杜氏と語らい、酒造りの余韻を味わう
ラストは、杜氏のおすすめ角打ち店「standing bar radical」へ。日本酒専門の立ち飲みバーです。70種類以上の日本酒を取りそろえ、気軽に飲み比べることができます。
「乾杯!」
今日一日の苦労を分かち合い、杜氏と酒談議が始まります。飲むお酒は、もちろん西条のものを。酒造りツアーを経て飲む日本酒の味わいは、より一層特別に感じられました。
standing bar radical
住所 | : | 広島県東広島市西条栄町9-33 |
---|---|---|
SNS | : | https://twitter.com/m_tomishima |
この蔵人体験プレミアムツアーは、日本酒好きのためだけに作られたツアーではありません。
「西条の日本酒を飲んでほしいという前に、まずは日本酒ができるまでを知り、関心を持ってもらいたいんです。『西条のお酒が気になるな、行ってみたいな』と思ってもらえるようなきっかけを作りたいし、ファンを作りたい。西条を訪れる人、酒蔵の人、西条の人たち、関わるすべての人がハッピーになる、息の長いプレミアムツアーになればと願っています」とフィリップスさんは語ります。
あまり開かれていない酒造りの工程を体験できるだけでも、特別な機会。日本酒好きにとっては聖地のような場所である酒造りの現場を訪れて、体験してこそわかる、日本酒の魅力にぜひ触れてください。
JALパックのツアー紹介ページで詳細をご覧ください。
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