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西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。
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1日目
2日目
10:00 築100余年、赤れんがの銀行建築「PORT ART&DESIGN TSUYAMA」
2日目は洋館を中心に津山の魅力を探っていきます。
ここは1920(大正9)年「旧妹尾銀行林田支店」として建てられ、1973(昭和48)年まで使われていた建物です。その後、市の管理となり、2010(平成22)年までの32年間は津山洋学資料館として、そして現在はギャラリーとして使われています。
赤いレンガの壁、重厚な屋根は檜皮葺でその上に銅板が敷かれ、さらに、雨に濡れると艶が出て高級感が増すスレートが葺かれています。正面には堂々の構えを見せる千鳥破風が見られ、格式高い寺院のようにも見えます。
内部も和風建築の技巧が詰め込まれています。吹き抜けになった天井は、あめ色に輝く吉野杉の折上格天井。カウンターは総ケヤキ造りで、ため息が出るほどの良質な建材を用いています。360度どこを見ても和風建築の技を詰め込んだ細工、高価な建材が惜しげもなく使用されており、一見の価値があります。
普段はアート作品の展示やイベントなどが開催されるギャラリーなので、美術鑑賞の場としても楽しめます。銀行の保管庫であった建物の中での作品展示は、赤茶の柔らかいレンガ色に作品が浮かび上がるような、独創的な世界観が広がっていました。
敷地内にはカフェも併設されており、こだわりの豆でブレンドした「ポートオリジナルコーヒー」が提供されています。
アートとコーヒー、そして語り尽くせないほどの日本和風建築の粋を集めた技術を間近にし、感性呼び醒まされる豊かな時間をすごしました。
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「旧妹尾銀行林田支店」の建物を使ったアートギャラリーにお邪魔しました。
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赤レンガに囲まれた寺院のような建築。バランスよく端正な姿です。
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本館の吹き抜け天井。折上格天井には吉野杉。その側面には今では貴重な屋久杉が使われています。
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レンガの合間には岡山の石「万成石(桜みかげ石)」が使われています。
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元銀行時代の金庫も、ギャラリーとして使われています。
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レンガギャラリーではこの日、「中西 學 2010-2020 展」(2021.1.9 ~ 2.2)が開催中。素朴な質感の空間に作品が映えます。
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本館の吹き抜けの部屋でおいしいコーヒーもいただけました。
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歴史を感じながらアートも楽しめるスポットです。
PORT ART&DESIGN TSUYAMA
住所 | : | 岡山県津山市川崎823 |
---|---|---|
営業時間 | : | 10:00~18:00 |
休日 | : | 火曜、祝祭日の場合は次の日、12/29~1/3休 |
web | : | https://www.port-tsuyama.com/ ※コーヒースタンドの営業には変動があります。ホームページをご確認ください。 |
11:00 古ビルを改装した居心地よいカフェ「田町文化STORE」
市内の田町地区は武家屋敷があった地域で、今でも古い武家の屋敷が点在しています。
この地にある古い倉庫ビルを改装したカフェへとお邪魔しました。アートや音楽、本などの文化を発信する場所として、近隣から愛されるカフェ「田町文化STORE」です。
もともと古い家具などを集めていたというオーナーさんが、それらを使って落ち着きあるカフェをオープンさせたのが4年ほど前。ベルベットのカーテンやアンティーク風のチェア、革のトランクやドライフラワーなどがセンス良く置かれ、見ているだけで飽きません。テーブル上にはセレクトされた文庫本が用意されていて、料理を待つ間の時間も有意義に過ごせます。ひとりでも使いやすいお店で安心できました。
この日はおすすめされたメニューの、ワンプレート“あらびきハンバーグセット”を。
箸を入れた途端に肉汁あふれ出す、ジューシーハンバーグがメインです。オーダーが入ってから手ごねして焼くというハンバーグは、肉のうまみがぎゅーっと閉じ込められていて、デミグラスソースでどんどん箸が進みます。とろとろのさつまいものポタージュにサラダもたっぷり、クリーミーなマッシュポテトも美味しくて、あっという間に平らげてしまいました。
ビル内には、レコード店や古着屋さんも入店しているので、ぜひ帰りに立ち寄ってみてください。
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田町エリアのカフェでランチいただきます。
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おしゃれな空間に誘われる階段。
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シャビーな雰囲気を感じる店内。

ランチはあらびきハンバーグ。ワンプレートスタイルランチ。
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テーブルには文庫本が置かれています。
コーヒーをいただきながら落ち着いた時間を過ごせます。
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タイルの外観もオシャレ。1階は家具やアンティークグッズが並ぶお店です。
田町文化STORE
住所 | : | 岡山県津山市田町19 |
---|---|---|
営業時間 | : | 11:00~17:00 |
休日 | : | 火曜 |
web | : | https://www.instagram.com/tamachi_bunka_store/ (Instagram) |
12:30 大正時代の図書館「森本慶三記念館」、明治時代の学校「津山高校旧本館」
明治・大正期に建てられた2つの洋館を観に行きました。
最初の建物は、かつての呉服・金融商「錦屋」を営んでいた森本家が建てた、キリスト教関連書籍を集めた図書館として建てられた洋館です。現在はその名残とともに、豪商・森本家の家財や暮らしのものを展示する歴史民俗館となっています。
十代目・森本慶三は東京大学在学中に内村鑑三と出会いキリスト教に改宗、津山に戻り、日本で唯一のキリスト教公共図書館「津山基督教図書館」を建設しました。開館式典には内村鑑三も出席し、記念講演が行われました。
書籍は1970(昭和45)年までに65,000冊にまで増え、哲学や思想、歴史、自然科学などの分野を取り揃え、津山の教育の一端を担いました。その後図書館業務を廃止し、「森本慶三記念館」に改名しました。
森本慶三記念館は、お城の登り口にあるのですぐにわかります。木造3階建ての洋風建築で、イオニア式の柱、キリストの王冠と左右には羊と山羊が描かれ、時計塔や十字架も見られる宗教施設のようなデザインで、現在は国の登録有形文化財に指定されています。
津山の偉人が私財を投じて建てた津山の教育・教養の場は、今も地域の教育向上の土台となって生かされ続けていることでしょう。
もうひとつの洋館は学校です。岡山県立津山高等学校旧本館は、明治時代に建てられた高校の校舎です。
岡山県津山尋常中学校として建てられた歴史を持つ校舎で、とても保存状態が良く、また凝った意匠もあり見ごたえがあります。多くの著名人を輩出している学校でもあり、現在は岡山県北の進学校として新校舎で授業が行われています。
木造ルネッサンス様式を取り入れたデザインで、上から見ると十字架の形になっています。正面は三角形や半円のペディメントや歯状飾り(デンティル)などで装飾され、優美な姿を今に残しています。外観はピンク、内部も優しい色合いで、明治建築にしばしば使われる淡い色の重なりが見られます。
内部には昔のままの学校の備品や教科書なども残され、明治時代の皇太子(後の大正天皇)が行幸の折、お休み処として使われた部屋には、おしゃれなカーテンレールが増築された名残もありました。
国の重要文化財として選定され、卒業生、在校生、地域の人にも大事にされている学び舎です。

森本慶三記念館は、津山城のふもとにある洋館です。
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イオニア式の石柱や、聖書のモチーフである王冠などが描かれた外観。
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内村鑑三の助言のもとに建てられた、私立の基督教図書館です。
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森本家の家財や暮らしの道具などが展示された大講堂。ここでキリスト教の伝道も行われていました。
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豪商であった森本家のかんざしがキレイでした。
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教会の尖塔のような時計塔は、この建物のシンボルです。
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津山高等学校旧本館の見学へ。
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木造ルネッサンス建築の和洋折衷です。三角やかまぼこ型のペディメントや様々な装飾が見られます。
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階段や手すりも優雅な彫刻の意匠が見られます。
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明治時代の皇室行幸の際に改装されたカーテンレール。
森本慶三記念館
住所 | : | 岡山県津山市山下98-1 |
---|---|---|
営業時間 | : | 9:00~17:00 |
休日 | : | 3月、7月、9月は月曜 / 6月、11月~2月は月・火曜 |
web | : | http://www.fushigikan.jp/zaidan/keizou/ |
岡山県津山高等学校
住所 | : | 岡山県津山市椿高下62 ※一般見学者には内部非公開 |
---|---|---|
web | : | http://www.tuyama.okayama-c.ed.jp/ |
14:00 西洋学問の先進地・津山を学ぶ「津山洋学資料館&和蘭堂」「箕作阮甫旧宅」
城東地区にある「津山洋学資料館」には、誰もが歴史で習った、あの「解体新書」が公開されていました。
ここは津山ゆかりの洋学者たちの活動のあゆみや、蘭学に関する資料などが展示される資料館です。城東地区のメインにあり、とても立ち寄りやすいスポットです。もともとは「PORT ART&DESIGN TSUYAMA」の場所にありましたが、資料の数も膨大になってきたため、今の場所に新築移転して開館しました。
津山藩は江戸後期から明治時代にかけ、多くの洋学者(蘭学者)の偉人を輩出しました。江戸屋敷詰めの医者であった宇田川玄随(げんずい)がそのひとりで、当時の医者たちに西洋内科医学の知識をもたらしました。そしてその後を継いだ玄真(げんしん)、榕菴(ようあん)は“宇田川三代”とも呼ばれ、洋学界で大いに活躍します。
宇田川玄真に学び、様々な西洋医学書を翻訳し広めた、津山出身の箕作阮甫(みつくりげんぽ)も、地元で語り継がれる偉人のひとりです。アメリカのペリーが来航した際持参した親書を翻訳し、また、ロシアのプチャーチンが長崎に来航した際には交渉使節団に随行をし、多彩な活躍を見せた人物です。箕作阮甫の生家は今も城東地区に残る国指定の史跡で、入館無料です。江戸時代後期の典型的な家屋が見られる施設で、中には阮甫の経歴を紹介するパネル等も設置されています。
杉田玄白が翻訳した「解体新書」からスタートした江戸蘭学の中心で活躍した津山藩の医者たちは、今でも津山の人たちの誇りです。
さて、隣にある「和蘭堂(オランダどう)」では、一杯のおいしいコーヒーをいただきました。
このコーヒーとは“榕菴珈琲(ようあんコーヒー)”。
私たちがふだん何気なく使っている「珈琲」という漢字は、宇田川榕菴が当てたもの。それ以外にも、翻訳する際に酸素、水素、炭素など元素名や、温度、沸騰、分析、成分と言った日常の中でも使われる言葉を新たに生み出したのが榕菴です。こうした言葉は、それ以前には存在しなかったんですね!
榕菴が飲んでいたとされる江戸時代後期当時のコーヒーに最も近い品種にこだわった「榕菴珈琲」は、ドリップパックでお土産としても購入でき、また店内で飲む際には、地元陶芸作家が創作した榕菴珈琲に合う和風コーヒーカップで提供してもらえます。
榕菴はそのマルチな才能と旺盛な好奇心で植物学書や、各国の言葉で記した研究メモなどを残しました。これらも資料館に榕菴コーナーとして展示されており、学びの欲求が満たされた後のコーヒーはその味にも増して美味しく感じられました。
私たち日本人の学問や医学の礎となった津山藩の優れた学者たちの奮闘を称えつつ、貴重な資料に触れてみてください。
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城東地区にある津山洋学資料館。津山の偉人の銅像が並んでいます。
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解体新書の本物も展示されていました。
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宇田川榕菴の植物学書。繊細な手描きの絵に基づく木版刷りの図。
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蘭学を学び、多くの書籍を翻訳した津山の学者たちの軌跡が見られます。
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津山洋学資料館の敷地内にあるカフェ&ショップの和蘭堂(オランダどう)。

地元陶芸作家のカップ&ソーサーで提供される榕菴珈琲(ようあんコーヒー)。
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ドリップコーヒーなどお土産もあります。

和蘭堂の隣にある箕作阮甫(みつくりげんぽ)の生家。
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箕作阮甫は津山藩医の家に生まれ、その後江戸で蘭学を学びました。
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庭にある蔵には箕作阮甫についてのパネル展示があります。
津山洋学資料館
住所 | : | 岡山県津山市西新町5 |
---|---|---|
営業時間 | : | 9:00~17:00 |
休日 | : | 月曜、祝祭日の場合はその翌日 |
web | : | http://www.tsuyama-yougaku.jp/ |
15:30 電車好き垂涎のスポット レトロ車両がかわいい「津山まなびの鉄道館」
最後の目的地は、津山駅からすぐ近くの鉄道基地。
ここは1936(昭和11)年に設置された「旧津山扇形機関車庫」です。現在も現役で使われるJRの車庫で、レトロな車両の展示が行われています。
津山が山陰と山陽をつなぐ要衝であったことからここに設置され、日本の旅客と貨物輸送を支えてきました。
まず入館する際には、昔ながらの硬券がもらえます。パチンッとハサミを入れてもらえて、一気に昭和の時代にタイムスリップ。奥へと進むと、目の前にレトロでかわいい車両がずらりと並ぶ機関車庫が現れます。さらに、車庫へと車両を運び入れる“転車台”も現役です。かなり近寄れるので迫力も満点です。
この車庫内では、かつて蒸気機関車の整備が行われていました。天井は真っ黒で、機関車のすすがびっしりとついています。あの大きい鉄の塊がここに並んでいたのを想像するだけで、大人も子どももきっと大興奮できるでしょう。機関車の煙で見えにくくなってしまう庫内には大きなガラス窓があり、自然光を取り込めるようになっています。私にとっては懐かしい車両もあり、撮影大会になってしまいました。
施設の中には、歴史や鉄道の仕組みが理解できる各ルームがあり、学校学習などでも利用されているということです。ジオラマの部屋は津山の町並みが俯瞰できる力作なので、ぜひ見てみてくださいね。
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津山まなびの鉄道館は津山駅からすぐの立地。
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産業考古学会(現・産業遺産学会)「推薦産業遺産」、経済産業省の「近代化産業遺産」などに認定されています。
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車両を回転させるための転車台。イベントでは実際に動かすこともあるそう。
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今も残る機関車の煙のすす。
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大きな窓がある車庫。
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すぐ近くで車両が見られ、写真も撮れるのがこの施設の魅力。
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キハ181 12にはヘッドマーク「やくも」。
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DE501。日本で唯一この1台しかないディーゼル機関車。
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単線での衝突を防ぐために使われた「タブレット閉そく器」を体験できます。
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機関車庫をジオラマで見るのも楽しいです。
津山まなびの鉄道館
住所 | : | 岡山県津山市大谷 |
---|---|---|
営業時間 | : | 9:00~16:00(入館は15:30まで) |
web | : | http://www.tsuyamakan.jp/manabi/ |
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