
西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。
宇部市北部・中山間地域は、かつて山陽道の要所として宿場町なども作られた古い歴史を持つエリア。バスを乗り継ぎ旅情を高めつつ、宇部市の船木ではパワー全開なこの地域の名前の由来にもなった大楠、吉部地域では廃校を利用したカフェに立ち寄ります。大人気の「じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった」彫刻はこのエリアにあります。
樹齢700年の楠が迎えてくれる船木エリアへ。
宇部新川駅からバスに乗り約40分。目的地は「吉部」。しかしバスでは乗り換えが必要になるので、乗り換え停車場の「船木」で一度下車して街歩き。
船木はかつての街道「山陽道」があった宿場町で、多くの人が交差する基点となっていました。代官所もあり、参勤交代の際は大名も立ち寄ったと言われています。その名残を木造白壁造りの大きな家々に見ることが出来ます。
合併後宇部市となったこの街の旧名は「楠町」。その名前の由来ともなったのが「岡崎八幡宮」です。ここには樹齢700年、高さ20メートルの大きな楠が植えられ、古くからこの地域を見守ってきました。この楠には「シーボルト・コギセル」という細長い巻貝が寄生していて、幹の割れ目などを見るとその姿を確認できます。
また社内でのお酒の醸造が許されている全国でも数少ない神社で、酒樽を模した石灯籠が置かれています。

バスを乗り継ぎ、宇部市北部地域を回ります。宇部市に編入する前このエリアは「厚狭郡楠町」でした。その地名の由来ともなった楠を観に行きます。

宇部新川駅から船木地域へ。どんどんのどかになってゆく景色。バス停もなかなかレトロです。
同じ宇部でも市街地とは違い、穏やかな田園風景が広がるエリアです。

子供の頃に見た景色に似てる…。赤瓦の屋根、トタン、ブロック塀に用水路。船木には私の懐かしい風景がありました。

船木は江戸時代に栄えた街で、宇部市よりも古い歴史があります。旧道の脇には、広い範囲ではないのですが重厚で赤瓦の大きな屋根を持つ、建築装飾も興味を引く建物が並びます。

「鏝絵」がありました。鏝絵とは左官が漆喰と鏝で白壁に描くレリーフのこと。山口県には多いとされていますが下関の方が有名で、山間部の船木にもこんなに滑らかで見事なカーブが描かれた鏝絵があるとは思いませんでした。

シンプルなものですが「うだつ」もありました。この筋だけでも様々な建築装飾を見ることができます。

漆喰に四角い窓の特徴ある家も見られます。ガラスは後の時代にはめ込まれたのではと思いますが、そのガラスもよく見ると波打っていて、現代のものではなく古い時代のものだとわかります。

地元の古い醤油蔵、明治初期から代々続く「不二醤油」では、屋根が内側にカーブするむくり屋根が見られました。

地元の鎮守様、岡崎八幡宮へ向かいます。少し小高くなった場所にあります。
ここには樹齢700年とも800年とも言われる大楠があります。これはこの地域の地名「楠木町」の由来となったご神木です。

社殿は古く趣があります。何度も衰退していたところを大内氏や毛利氏の手によって再興、修復され、現在に至っています。

全国でも珍しく「酒の醸造」が許されている社殿で、お正月やお祭りの際にふるまわれます。

なんといっても目を引くのは、高さが約20メートルもある大木。高いだけでなく横にも枝が広がっており、その下にいると大きな日陰を作ってくれます。なんとも神秘的な生命の尊さを感じる巨木です。

この木の幹には「シーボルト・コギセル」という細長い巻貝が寄生しています。この日も割れ目にたくさんの貝殻が見えました。古くから船乗りのお守りなど縁起の良いものとして珍重されています。
伝統工芸品の製作を継承する工場から大人気スイーツまで。様々な楽しみ方ができる船木。
この船木には今では希少な伝統楽器の匠がいます。その楽器とは「箏」。木の胴に弦を張り、それを指にはめた爪で弾き音を奏でる和楽器です。現代では触れたことがないという方も多いかと思いますが、長い弦を指先で弾くので、結構力がいるものなんです。少しだけ経験のある私はまたいつか始めたいと思っていたのですが、まさか製作現場に遭遇するとは思っていませんでした。
製作と販売を行っている「たましげ琴製作所」は、現在は四代目で100年以上の歴史を持っています。音色へのこだわりはもちろん、見た目にも雅な芸術品として、手間暇惜しまず一つずつ手作りしているのが特長。その場で一曲ご披露いただき、その場にいた全員が琴の魅力に一気に引き込まれました。
洋菓子専門店「エールラポール」は、バス停から徒歩数分という場所にあり、田畑広がるのどかな風景に突如現れる可愛いケーキ屋さんです。
人気なのはざっくりとした生地と、あふれ出すほどにたっぷり入れられたクリームの「クロッカンシュー」。特にカスタードクリームへのこだわりが強く、地元の美味しい卵を使っているとのことです。程よく塩味が効いていて、大人にも子供にも人気のメニューです。

船木の伝統工芸である箏の製作現場を見せてもらうためにやってきたのは「たましげ琴製作所」。

工場前には無造作に置かれた箏。こちらは天日干しで乾燥中です。琴は桐材から作られます。

皆さんは箏を近くで見たことがあるでしょうか。弦の下に「琴柱(ことじ)」を差し込むことで音の高低を作り演奏する和楽器です。表面は焼きを入れ濃い色に仕上げます。爪で弾いて音を出します。

実際に演奏をしてもらいました。近くで聴くと結構大きな音です。現在は四代目が琴司として製作を受け継ぎ、筝曲演奏をして下さった五代目がさらにその伝統を引き継いでいかれるということです。

そろそろバスの時間も近いということで船木のバス停へ向かい、次の目的地へ。その途中立ち寄ったのが地元でも人気のケーキ屋さん「エールラポール」。
小さな店内ですがぎっしりと美味しそうなお菓子が並びます。夢のような空間です。

小さな焼き菓子はお土産に良いサイズなので、いくつか購入しました。しっとりとして風味豊かな味でした。

中でも人気なのは「クロッカンシュー」。ざくざくの生地に溢れんばかりのカスタードクリーム。本当に溢れてし

いよいよさらなる北部地域・吉部へ。なんと100円均一というお値段で、バスに揺られて旅は続きます。
大人気!突如道端に現れる「じいちゃん」彫刻と廃校利用「職員室cafe」。
船木からさらにバスで約20分、廃校となった小学校を地域で利用するリノベーションカフェ「職員室cafe」へ向かいます。
名前の通り、旧吉部小学校の職員室だった場所を誰もが使えるカフェに改修した「職員室cafe」。この日は吉部の美味しいお米を使ったおにぎりとおかずの特別メニューをセットで出してもらいましたが、いつもは仕出し屋さんがカレーや定食を作ってくださっているとのこと。
旧吉部小学校は、イベントスペースなどとしても地域のつながりを創出する場所となっています。教室を使ってマルシェを行ったりミニ四駆を走らせたりと、地域全体のコミュニティの場として有効活用されています。近くには石積みとレンガによって作られた旧船木鉄道のトンネルもあり、探検気分も味わえます。
道路脇に設置されているのは彫刻「じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった」。
鼻の中を覗いてみると本当に宇宙がありました…!第25回UBEビエンナーレで人気投票1位になった作品です。
宇部から秋吉台方面へ抜ける道の途中にあり、大きな駐車場も併設されているので、ドライブ途中の立ち寄りスポットとしても良さそうです。
旧吉部小学校前にて下車。廃校を利用したカフェがあると聞いてやってきました。小さな木造校舎を想像していたら、なんともまぁ立派な鉄筋校舎でした。ライトブルーでとても可愛いです。

建てられた年数はわからないのですが、外から教室に入室する“外廊下”ってなんとなく歴史を感じますね。

「職員室cafe」ではランチをいただきます。ここは実際に小学校の職員室だった場所。
学校で使われていた机と椅子が並べられ、ノスタルジックな雰囲気が感じられます。

この日は宇部尽くしの特別メニュー、吉部のお米を使ったおにぎりや地元卵の玉子焼き、宇部市の酒蔵の酒粕などの定食でした。普段は給食をコンセプトにした日替わり給食メニューや吉部米のカレーなどがあります。

吉部米が本当に美味しかった!この地域はお米の産地で、コンクール受賞米が作られています。
お腹を満たして早速見に行ったのが、吉部小前に置かれた彫刻。

「じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった」。どっからどう見てもインパクト強すぎ。道路沿いにあるので、車やバイクで通り過ぎた人がわざわざ戻ってくるそう。納得です。

第25回UBEビエンナーレに出品された作品。さっそく鼻の穴を覗いてみると…。

そこには本当に宇宙が広がっていました…!明かりが差し込むように工夫されているので、これは自然光でできています。素晴らしいアイデア!

さらにこの吉部小の近くにはちょっとした冒険気分を味わえるスポットが。

それは「船木鉄道」の線路跡。戦中の鉄の供出により廃線、その後荒廃していたようですが、地元の方たちの手により整備され、小学校から歩いて見に行けます。小学校裏手から土手を登り進むこと数百メートル。

いまでもくっきりと線路があった跡が目に見えます。切通しになっていたようですが脇には田畑もあってイノシシ除けの柵が掛けてあります。

そうして到着するのが石積みと煉瓦で造られた「大棚トンネル」です。ジブリ感!

下部は石、カーブが大きくなる上部は煉瓦。トンネルの上にはたくさんの竹が生い茂っていました。

時間を経てすっかり自然の中に溶け込んだ人工物。緑と煉瓦の対比がとても美しい鉄道遺構でした。

地元の人たちがこの場所を盛り上げようと作った大棚駅名看板。廃線ツアーなどで訪れる人も多くなってきているスポットなのだそうです。

全国でも注目される「廃校利用」。子供たちの学びの場所が生まれ変わり、アートイベントやマルシェ、また地域コミュニティーの基点として使われる“みんなの場所”になっていました。
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