取材・文・撮影 / 丸田武史
細い路地の扉を開け、カブトムシの標本が並ぶ空間へ。メニューがない店で特別な一杯を
J.Boroski
中環エリアを東西に横切るHollywood Roadから一本入った、細い路地にあるJ.Boroski。「隠れ家」のようなこの店の扉を開けると、目の前に広がるのは、外の世界を一気に忘れさせる独創的な内装の空間。滑らかな曲線が美しいカウンターの背景から天井にかけて一面カブトムシの標本が並ぶほか、奥の壁にはクモの標本も飾られています。
これらのインテリアは、香港でも数々のバーを手がける世界的なオーストラリア人デザイナーのアシュレー・サットン氏によるもの。壁や天井に標本が並ぶ、一見すると異様な光景にもかかわらず、あっという間に安心できてしまうのが、この店の面白いところ。その理由は、柔らかい照明や、温かな色合いのインテリアの効果なのかもしれません。
その内装と並び、特徴のひとつとされているのが、カクテルのメニューが存在しないということ。バーテンダーに自分の飲みたいスピリッツや、フルーツなどの食材、雰囲気を伝え、好みのドリンクを楽しむことができます。世界中から集ったトップバーテンダーと相談しながら、旅の思い出に残る一杯をつくってもらってみてはいかがでしょうか。
J. Boroski(ジェイ・ボロスキー) | ||
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定休日 | : | なし |
営業時間 | : | 日〜水 18:00〜26:00 木〜土 18:00〜27:00 |
住所 | : | LG/F, Chinachem Hollywood Centre, 1-13 Hollywood Road, |
Web | : | http://www.diningconcepts.com/restaurants/JBoroski |
香港トップのバーテンダーによる、神聖な儀式のようなプレゼンテーション
Quinary
バーやお酒の専門誌として名高いイギリスの雑誌『Drinks International』が発表したランキング「The World’s 50 Best Bars 2017」で、第40位に選ばれたQuinary。香港で4店舗のバーを手がけるAntonio Lai氏が2012年にオープンさせたこの店は、Hollywood Roadに面し、日々、多くの人でにぎわっています。
Quinaryでバーマネージャーをつとめるのは、世界最高峰のバーテンダーコンペティション「World Class 2017」の香港・マカオ大会でチャンピオンに輝いたSamuel Kwok氏。彼がカクテルをつくる仕草や振る舞いは、まるで神聖なる儀式のようで、見るものを惹きつけます。
人気の一杯は、ジンをベースに複数のリキュールを混ぜ、バーナーで炙ったマシュマロを乗せた「Lavender Meringue Pie」。そのほか、マティーニをベースに、液体窒素や遠心分離機をつかって、泡状や粒状に加工した紅茶でアクセントをつけた「Earl Grey Caviar Martini」など、不思議なカクテルを楽しむことができます。
Quinaryでは、バーテンダーのプレイを間近で感じられる、カウンター席が断然オススメ。ただし人気店ゆえ、カウンターを確保するためには予約するか、少人数での来店が望ましいでしょう。また、店の周辺は、大胆な壁画アートが描かれた人気の撮影スポットが。お店は夕方からオープンしているので、あわせて寄ってみてはいかがでしょう。
毎日使うお皿やコップなどの日用品に、家や窓、洗濯物、木や鳥など、身近にあるものを描くのがマリーナさんの作品の特徴です。図柄は繊細な絵筆のラインで、シンプルかつモダンに描き出されています。どれも世界でたったひとつしかない、オリジナルな作品です。
Quinary(クイナリー) | ||
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定休日 | : | 日曜日 |
営業時間 | : | 17:00〜25:00 |
住所 | : | 56-58 Hollywood Road, Central, Hong Kong |
Web | : | http://www.quinary.hk |
1970〜80年代の香港の面影が残る店で、最先端の香港産クラフトビールを
65Peel 何蘭正
多くのバーが集う中環地区で、クラフトビールを楽しみたいという方にオススメなのが、65Peel 何蘭正。香港産のクラフトビールを中心に、常時12種類のタップ(ビア樽に接続された注ぎ口)が用意されています。なかでも、不動の人気を誇っているのが、香港で最大級のクラフトビール・ブリュワリー「Young Master Brewery」でつくられた「Contemporary Pilsner」。飲みやすく、くせのない味わいが特徴です。
ビール以外のアルコールでオススメなのが、小豆を原料とした飲み物「紅豆冰」をベースにした「Sweetened red bean」というカクテル。中華圏で子どもから大人まで多くの人が愛する紅豆冰に、ラムやリキュールを加え、カクテルに昇華した一杯です。
また、「古きよき香港スタイルを、いまの時代にアップデートしたい」というオーナーのLam Chun Wai氏の言葉どおり、1970〜80年代の香港を踏襲した店内の雰囲気も魅力。ピンクのネオンや、中華圏の古いスタイルの喫茶店・冰室(ビンサッ)の面影があるタイルなどが目を引きます。日曜日は14時から、それ以外の日は16時からと早めの時間からオープンしているので、町歩きの休息にもぴったりです。
何蘭正 65 Peel(ホーランジェン・シックスティーファイブ・ピール) | ||
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定休日 | : | なし |
営業時間 | : | 金・土 16:00〜26:00、月〜木・日 16:00〜24:00 |
住所 | : | G/F, 65 Peel St, Central, Hong Kong |
秘密のパスワードを入力し、屋上へ。中華スタイルにこだわったルーフトップバー
Fu Lu Shou
オフィスやデパートが立ち並ぶ中環地区の中心部において、開放感のあるルーフトップでお酒や食事を楽しめるのがFu Lu Shou。この店に入るためには、入り口にある機械に、公式Facebookで告知されているパスワード(PINコード)を入力する必要があります。「旧式の中国建築は、セキュリティのためほとんどの建物が入り口でPINコードを設定している。その文化をオリジナルとして踏襲したい」と語るのは、オーナーのJack Leung氏。
秘密基地に入るようなアプローチから、お店のある7階に上がると、まず目に入るのが3体のオブジェ。このオブジェは、日本では七福神のひとつ「福禄寿」として親しまれる神様の「香港版」で、店名の由来にもなっているもの。それぞれが「Fu(繁栄)」「Lu(地位)」「Shou(長寿)」を司っています。
この店でぜひ味わいたいのが、チャイニーズワインといわれる五加皮酒をベースにした「“Dong Ning Cha” 128」。日本酒の徳利のような器に、ストローを刺して味わうカクテルです。麻雀牌を敷き詰めてつくられたカウンターも含めて、どこまでも「中華スタイル」へのこだわりが感じられるこのお店。心地よい夜風も楽しめるので、2〜3軒目に寄って、クールダウンにオススメ。香港の蜃気楼に囲まれながらお酒が飲める、貴重な一軒です。
Fu Lu Shou(フー・ルー・ショウ) | ||
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定休日 | : | 日曜日 |
営業時間 | : | 17:00〜26:00 |
住所 | : | L7, 31 Hollywood Rd Central, Hong Kong |
Web | : | https://www.facebook.com/FuLuShouHK |
世界的流行の兆しを見せるクラフトジンを、卓球場をリノベーションしたバーで味わう
Ping Pong 129
Ping Pong 129は、香港鉄路(MTR)港島線・中環駅から2駅離れた西営盤エリアにある、クラフトジンをメインにしたバー。卓球場をリノベーションして生まれたお店で、赤い外観と、日本語で「卓球場」を意味する看板が目印です。店内も赤を基調にしたライトが全体を包むなか、とくに目を引くのが「鍛錬身體」というネオンライト。これは日本語で、「体を鍛えましょう」という意味で、卓球場の名残を感じさせます。
この店で楽しめるのは、クラフトビールに続き、世界的なブームの兆しを見せている「クラフトジン」。世界有数のジン大国スペイン出身であるこの店のオーナー、Juan Martínez Gregorio氏は、香港でのジンブームを古くから育ててきました。
Juan氏のオススメのカクテルは、「GIN TONIC MACARONESIAN」。北大西洋に浮かぶ、スペイン領カナリア諸島産のジンとバルセロナのトニックウォーター1724でつくったジントニックに、グレープフルーツの皮を乗せた一杯です。スウィーティーで飲みやすい味わいが印象的。膨大な種類のジンが用意されているため、ベースのジンを変え、飲み比べながら自分好みのカクテルを探すのも、楽しいかもしれません。
スペイン出身のオーナーが務めるだけあって、タパスをはじめとしたスパニッシュフードも充実。店内では、テーブル席で食事をしながらドリンクを楽しむ人や、カウンターでバー使いする人、スタンディングで自由にお酒を飲む人など、それぞれ思い思いにこの空間を楽しみます。クラフトジンの最前線を楽しみたい方は、ぜひPing Pong 129へどうぞ。
Ping Pong 129(ピンポン129) | ||
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定休日 | : | なし |
営業時間 | : | 18:00〜23:00(L.O) |
住所 | : | 129 Second Street, L/G Nam Cheong House, Sai Ying Pun, Hong Kong |
Web | : | http://www.pingpong129.com |
今回紹介したお店の多くがあるのは、中環の中心地エリア。現地で暮らす住民たちが夜を過ごす場所としてバーの需要が高まり、いまでは世界的に注目を集めるバーのホットスポットにまで成長。スタイリッシュな店とともに、古きよき香港文化をいまに伝えることをコンセプトにした店も登場しています。東洋と西洋のハイブリッドな魅力を、もっとも身近に感じられるスポットのひとつが、バーなのかもしれません。
丸田武史
1984年北海道生まれ。帯広育ち。タフでハーコーな、流浪の民。主にメディア運営と、制作全般に従事する。得意分野は、アジア全域と中南米、世界中の島+ドローン。近年のメディア運営に、アジアのクリエイティブシティガイド『HereNow(ヒアナウ)』がある。
100万ドルの夜景や世界の美食が集まる街、香港
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