しかし近年、高雄は大きく生まれ変わろうとしています。まず政府とクリエイターたちが手を組んで、デザインやアートを盛り上げる取り組みをはじめました。また、それに呼応するように地元の若者たちが、自分の街をもっと面白くしたいと立ち上がりました。これまで持っていた、陽気な港町の開かれた雰囲気はそのままに、アートやカルチャーを軸にして町起こしが進む高雄。今回は台湾在住の私が、「高雄の生まれ変わっていく姿」を感じられるスポットを4つ紹介します。
文・写真:東洋子 編集:原里実、佐々木鋼平(CINRA)
お土産を探しに。台湾クリエイターによる服や雑貨を集めた人気スポット
棧貳庫KW2(ヂァーアーク)
MRT駁二蓬萊駅から徒歩5分の高雄港。ここは台湾最大の貨物取扱量を誇る港湾で、青い海の上を大きな船がいつも往来しています。
その高雄港に隣接しているのが、古い倉庫群を改築した「棧貳庫KW2(ヂァーアーク)」。2018年3月に開業したばかりの、台湾カルチャーがぎゅっと凝縮された複合施設です。
もともと、これらの倉庫群が建てられたのは約100年前。高雄港で積み下ろされた物資を保管するために使用されていました。その後、長らく放置されていたそうですが、昔の面影は残しつつも大胆にリノベーションされ、いまでは高雄有数の賑わいを見せるスポットに生まれ変わっています。
「棧貳庫KW2」は床面積が約1,700坪、天井が高く広々と開放的な空間です。なかにはコーヒーショップやドリンクスタンド、レストランなど美食が楽しめるお店のほか、台湾雑貨や文具、洋服などの買い物も楽しめる場所になっています。
じつはこれまで、台湾のデパートやショッピングモールで取り扱っている商品といえば、海外製ばかりというのが常でした。いいなと思った商品のタグに「Made in JAPAN」の文字を発見することも度々。
しかし、この「棧貳庫KW2」で販売されているアイテムの多くは、台湾のクリエイター、もしくは台湾発のブランドのもの。ここでしか手に入らないローカルな個性に溢れたアイテムや伝統的な工芸品が並んでいます。ぜひ、一つひとつのお店に時間かけて訪れてみてください。
お買い物が終わったら、台湾の軽食(小吃)を買って、オープンスペースで海を見ながらの休憩がおすすめ。ゆっくりと海上を滑るように進む大きな船を眺めていると、呼吸が深くなり肩の力が抜けます。
高雄の海はスピードアップした生活のテンポを落としてくれる存在。「棧貳庫KW2」だけでなく、近くにある複合アートスペース「駁二芸術特区エリア」と合わせて、まる1日楽しめます。
棧貳庫KW2(ヂァーアーク) | ||
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定休日 | : | なし |
営業時間 | : | 月曜~金曜 10:00〜21:00 土曜、日曜 10:00〜22:00 |
住所 | : | 高雄市鼓山區蓬萊路17號 |
Web | : | https://www.kw2.com.tw/ |
動物好き必見。ペットと一緒に楽しめる、高雄のユニークな美術館
灰灰基地美術館(フゥェイ フゥェイ ジー ディ メイ シュ グァン)
中央公園駅から徒歩10分の静かな住宅街のなかにある「灰灰基地美術館(フゥェイ フゥェイ ジー ディ メイ シュ グァン)」。設立者は塩埕区(シオテイ)にある有名な文具店「本東倉庫商店」のオーナーであり、台湾では広く知られた絵本作家の李瑾倫(リー ジン ルン)さん。ここでは絵本作家やイラストレーターの作品が展示されています。
オーナーの李さん、そして美術館スタッフはみんな大の動物好き。展示されているイラストや絵本の多くは動物をモチーフにしたものです。
またこの美術館のユニークな点は、ペットと一緒に入館OKなところ! 美術館といえば、シーンと張り詰めた空気のなかで静かに展示作品と向き合う……というイメージが強いですが、「灰灰基地美術館」では、スタッフのペットが歩いていたり、訪問者のペットがじゃれ合っていたりで、静かな美術館に慣れている私たちにはちょっと新鮮な空間。
週末になると、高雄の動物好きがペットを連れて、お散歩がてらに立ち寄る姿を見ることができます。台湾は日本に比べると室内でペットを飼う人が多く、ペットとともに入店できるお店も多くあります。
そんな環境にすっかり慣れているのか、美術館のなかでも動物たちは静かに飼い主が鑑賞し終わるのを待っています。落ち着いた空間のなかでゆっくり作品を鑑賞したい人も安心です。
美術館のなかにはショップも併設されています。ここでは高雄をはじめとする台湾人作家の作品やグッズを購入することができるので、アニマルグッズを集めている、そんな人はぜひ訪れてみてください。
私はここで猫のイラストが描かれたマスキングテープを買いました。日本のイラストレーターとはまた違った、台湾作家によるアニマルグッズを手に入れることができます。
灰灰基地美術館(フゥェイ フゥェイ ジー ディ メイ シュ グァン) | ||
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定休日 | : | 水曜、木曜 |
営業時間 | : | 10:00〜18:00 |
住所 | : | 高雄市新興區民有街71號 |
Web | : | http://www.huei-huei.com/ |
台湾で唯一。真っ暗な本屋で、固定概念から外れた読書を体験する
無關 實驗書店 Wuguan Books(ウーグァン)
高雄の湾岸部、下町と呼ばれる塩埕区にある塩埕埔駅から徒歩10分。「無關 實驗書店 Wuguan Books(ウーグァン)」は、台湾で唯一、18歳未満は入場できない変わった本屋です(2018年11月現在)。
なにやら怪しいその理由は、後でご説明しますが、エントランスに入って驚くのは、アート作品が展示された真っ白な空間。はじめて訪れたときは間違えてギャラリーに来てしまったのかと焦るかもしれません。
さらに店内の奥に入っていくと……真っ暗! 暗闇のなかに明かりに照らされた無数の本たちが浮かび上がっています。
店内が真っ暗な理由を店長の蘇郁珊(スーユーシェン)さんに聞いたところ、「普段、私たちの持っている常識や固定概念から自由になった状態で、本との出会いを楽しんでほしい」とのこと。
たしかに真っ暗で視界からの情報が少ない店内では、ライトに照らされた本のそばまで歩み寄って、手に取らないとどんな本なのかわかりません。そんななかで、文字を噛みしめるように読んでいくと、本の世界にどんどん入り込んでいくようです。
そしてなぜ18歳未満は入場できないのか? じつは「LGBT」や「性」の問題について取り扱った書籍が多く並び、関連イベントがよく開催されているからだとか。
取り扱っているのは、中国語の書籍のみですが、絵画や写真集など、装丁が美しく見ているだけで楽しめる本がたくさんあります。また暗闇のなかには書籍だけでなく、台湾作家によるハンドメイドアイテムも販売されています。こちらも手にとって触って、台湾を感じてみてください。
無關 實驗書店 Wuguan Books(ウーグァン) | ||
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定休日 | : | 月曜日 |
営業時間 | : | 火曜~金曜14:00〜20:00 土曜、日曜11:00〜22:00 |
住所 | : | 高雄市大義街2-1號C7-6倉庫 |
SNS | : | https://www.facebook.com/pg/wuguanbooks/ |
高雄の中心部にあるホステルで、心とカラダをゆっくり癒やす
鶴宮寓 ho̍k house(ハゴンユ)
最後におすすめしたいスポットが、私が高雄に旅行するときは必ずお世話になっているホステル「鶴宮寓 ho̍k house(ハゴンユ)」。場所は高雄の中心部、美麗島駅のすぐそばです。
美麗駅は「世界でもっとも美しい地下鉄駅ランキング」で2位になったこともあり、構内のステンドグラスアート「光之穹頂(光のドーム)」を見るために多くの観光客が日々訪れています。その美麗駅の2番出口から2分ほど歩くと、側面が柔らかくカーブしている3階建ての建物が見えてきます。
どことなくレトロな外観。その理由は、この建物が1965年から2008年まで「鶴宮大旅社」というホテルとして使われていたから。
10年間空き家だったこの建物をいまのオーナーが偶然見つけ、内部をフルリノベーションし、2017年にオープンしました。
「鶴宮寓 ho̍k house」の魅力を一言でお伝えすると「居心地の良さ」。台湾には、おしゃれで洗練された「インスタ映え」する宿が続々生まれていますが、ゆっくり心とカラダを休める宿はあまりないかもしれません。
ふかふかのベッドや作業用のテーブル、ハンガーや収納スペースなど必要なものはすべて揃っています。部屋のインテリアは白とベージュでまとめられていて、陽気で賑やかな高雄の町並みとは対照的。
またどの部屋にも大きな窓があり、日当たりがとっても良いです。窓際には小さな花が活けてあり、ホテル近辺の地図や高雄を紹介する書籍が揃っています。
部屋を出ると、キッチンやライブラリーなどの共有スペースがあります。そこにはレトロテイストが好きなオーナーが各地から集めた日用品が配置され、宿泊者は自由に触って使うことができます。
どこを見ても旅好きなオーナーの「居心地の良さ」へのこだわりが感じられる空間。宿での時間も旅のかけがえのないひとときにしたい、そんなあなたに泊まってほしいホステルです。
鶴宮寓 ho̍k house(ハゴンユ) | ||
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住所 | : | 高雄市中正四路41號2樓 |
Web | : | http://hokhouse.com/ |
高雄の魅力は古い伝統や習慣と、いまの若者の新しい概念が、マーブルのように混ざり合っているところ。建物やコンセプトはクールでスタイリッシュであっても、そこにいる人たちはみんなこれまでの陽気で明るい高雄の人々。そんなギャップを楽しむことができるのが、高雄独特の面白さかもしれません。さんさんと降り注ぐ太陽と潮風を感じながら、「生まれ変わっていく高雄」をゆっくり巡ってみてください。
東洋子
兵庫県出身の編集者、ライター。2015年より台北と京都の2拠点生活を開始。台北を始めとする台湾各都市のカルチャーやデザインを日本に紹介している。また近年では台湾だけではなく、香港や中国など、中国語圏の人とモノを日本の地方と結びつける活動も行っている。
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