アメリカの北西部にある、ワシントン州最大の都市・シアトル。サードウェーブコーヒーの世界的なブームや、スターバックスコーヒー発祥の地として、最近はおしゃれなカフェが立ち並ぶ街のイメージを持っている人も多いかもしれません。
今回はそんなシアトルという都市の魅力を、ユニークな「ミュージアム」を通してあらためてご紹介。コーヒー、カフェのほかにも、アートやポップカルチャー、航空機など、この都市には文化的な見どころがたくさんあります。
シアトルに住んで15年、さまざまな記事を現地から届けてきたエディター&ライターのハントシンガー典子さんが、シアトルならではのミュージアムめぐりの旅をご紹介します。

文:ハントシンガー典子 編集:佐々木鋼平(CINRA. inc,)

実物大のジェット機など175の飛行機が並ぶ、超巨大な展示スペースは必見

シアトル航空博物館

2019年7月20日は、人類が初めて月面に降り立ったアポロ11号の偉業から50周年の日。

その記念すべき日に、アポロ11号プロジェクトの司令船を務めた宇宙船・コロンビア号を展示する場所が、シアトル航空博物館です(巡回展により9月2日まで展示予定)。

画像: シアトル航空博物館 ©The Museum of Flight

シアトル航空博物館 ©The Museum of Flight

シアトル航空博物館は、シアトルの中心部・ダウンタウンから少し南に位置し、通称ボーイングフィールドことキング郡国際空港に隣接しています。

富士山に似たレーニア山を望む広大な敷地の面積は25エーカー(約10万㎡)以上もあり、実物のジャンボジェット機など、合計175機もの飛行機、宇宙機が床や空中に展示されている様は圧巻。人類と飛行の歴史がそのまま展示されています。

また、常設展示のアポロギャラリーには、アポロ12、16号のF-1ロケットエンジンも。これはシアトルで創業し、いまも本社を置くAmazonのCEO、ジェフ・ベゾス氏が個人資産を投じて海底から発見・回収したもの。まさにシアトルだからこそ実現した展示です。

画像: アポロ以外にも、人工衛星やスペースシャトルなどさまざまな宇宙機の展示が ©The Museum of Flight

アポロ以外にも、人工衛星やスペースシャトルなどさまざまな宇宙機の展示が ©The Museum of Flight

ほかにも1機だけ製造された世界初の戦闘機「カプロニ Ca.20」や、大日本帝国陸軍の戦闘機「中島 キ43 一式戦闘機 隼」など、マニアにはたまらない歴史的な飛行機がずらり。

画像: レアな飛行機コレクション ©The Museum of Flight

レアな飛行機コレクション ©The Museum of Flight

お子さまや飛行機にあまり興味のない方には、体験型の展示がおすすめです。

2016年の6月にオープンしたアビエーションパビリオンには、アメリカ大統領の専用機エア・フォース・ワンの初代機や、超音速旅客機のコンコルドなど、耳なじみのある飛行機の実物が。実際に機内に入ることができるほか、ミニ空港コーナーでは搭乗手続きごっこも楽しめます。

画像: 巨大なジェット機の実物も余裕で展示 ©The Museum of Flight

巨大なジェット機の実物も余裕で展示 ©The Museum of Flight

隣のスペースギャラリーでは、スペースシャトル模型のなかに入ることも可能。

また、グレイトギャラリーにあるフライトシミュレーターは、操縦する飛行機の状態にあわせて、シートが360°回転し、リアルな操縦体験を提供。その奥には1969年にアポロ10号の宇宙飛行士として月へのフライトを体験したスヌーピーをテーマとするキッズパークもあります。

レッドバーンと呼ばれる、ボーイング創立当時に使われた納屋のような木造の工場を再現した展示室では、ライト兄弟からの人類飛行史も学べます。

画像: ボーイング創立当時の建物を復元したレッドバーン ©The Museum of Flight

ボーイング創立当時の建物を復元したレッドバーン ©The Museum of Flight

日本語の案内機器のレンタルも可能。毎月第1木曜日は夜21時まで営業しており、17時からは入館無料です(特別展、フライトシミュレーターは別料金)。

シアトルのダウンタウンからは、バス停「Downtown Seattle 3rd Ave & Pike St Stop #433」より、124番のバスに乗れば約15分で到着。

もし帰り道、シアトル中心部に戻るのであれば、バスを途中下車してレンガの壁が続くレトロな街、ジョージタウンを散策してみるのもおすすめです。クラフトビールやチョコレートなど、シアトルらしい地元グルメも楽しめます。

The Museum of Flight(シアトル航空博物館)
営業時間10:00~17:00(第1木曜は21:00まで)
定休日なし
所在地9404 East Marginal Way South, Seattle, WA 98108
webhttp://www.museumofflight.org/

建築界のノーベル賞を受賞した建築家による、ポップカルチャーミュージアム

ミュージアム・オブ・ポップカルチャー(MoPOP)

シアトルの中心部・ダウンタウンからモノレールで10分のところにあるのが、シアトルの一大観光スポット「シアトルセンター」。

1962年に開催された『シアトル万国博覧会』の広大な会場跡地につくられたこのスポットには、美術館や博物館、劇場、スタジアムなどの施設がたくさん集まります。そのなかでもひときわ目を惹くのが、ミュージアム・オブ・ポップカルチャー(MoPOP)。

画像1: ミュージアム・オブ・ポップカルチャー ©MoPOP

ミュージアム・オブ・ポップカルチャー ©MoPOP

シアトル郊外に本社を構えるマイクロソフトの共同創業者、ポール・アレン氏により創設されたこのミュージアムは、その名のとおりロックミュージックやSF・ファンタジー映画など、ポップカルチャーの歴史にまつわる品々を展示するミュージアムです。

設計はなんと、建築界のノーベル賞・プリツカー賞を受賞した超大物建築家のフランク・O・ゲーリー氏。エレキギターのパーツをイメージしたという建物は、「こんなの、どうやってつくったの?」と思わずうなるような攻めたつくりで、まさにロックそのものです。

画像2: ミュージアム・オブ・ポップカルチャー ©MoPOP

ミュージアム・オブ・ポップカルチャー ©MoPOP

じつはシアトルは音楽の街としても有名で、ギターの神様「ジミヘン」こと、ジミ・ヘンドリックスもシアトルで生まれ、ロック史に名を刻んだ一人。

1990年代初頭に世界中で大流行した伝説のバンド、ニルヴァーナもシアトル出身で、リーダーのカート・コバーンはいまでも若者たちのカリスマ的存在。

館内には、そんなロック界の大物に関する秘蔵アイテムを集めた展示がたくさんあります。

画像: ロック音楽史を振り返るコレクションが充実 ©MoPOP

ロック音楽史を振り返るコレクションが充実 ©MoPOP

そして、SFやファンタジー映画を展示するセクションでは、映画『スター・ウォーズ』や『E.T.』の撮影で実際に使用された衣装や小道具も。

画像: SFやファンタジー映画を展示するセクション  ©MoPOP

SFやファンタジー映画を展示するセクション  ©MoPOP

『オズの魔法使い』や『ハリー・ポッター』など、映画やテレビの名作に登場する幻想と魔法の世界をインスタレーションアートで再現したコーナーもあり、迫力のドラゴン登場など、子どもが夢中になれる仕掛けがいっぱいです。

画像: 童心に返るファンタジーセクション ©MoPOP

童心に返るファンタジーセクション ©MoPOP

マイクロソフトと同じく、シアトル郊外に本拠地を置くNintendo of America(任天堂の子会社)が提供するゲームセクションもあり、2019年10月からは世界的に大人気のゲーム『マインクラフト』の特別展が予定されています。

画像: 『エルム街の悪夢』などホラー作品の小道具を展示する特別展 ©MoPOP

『エルム街の悪夢』などホラー作品の小道具を展示する特別展 ©MoPOP

じっくり展示を観る時間がないという方には、館内に併設されたカフェがおすすめ。巨匠の設計した建物のこだわりを内側から眺められる特等席です。

ミュージアムのすぐ隣には無料の遊び場「Artists At Play(アーティスツ・アット・プレイ)」があり、親子で立ち寄るのにぴったり。地元のアーティストたちが設計した巨大ジャングルジムや、ジェットコースターさながらのスピード感が味わえる滑り台が人気で、多くの子どもたちで賑わっています。

また夏にシアトルセンターを訪れるなら、子どもたちはぜひ水着持参で。敷地の中央には光と音楽の演出が楽しい大噴水、インターナショナルファウンテンがあり、無料で水遊びが楽しめます。

MoPOP(ミュージアム・オブ・ポップカルチャー)
営業時間10:00~17:00(夏季は19:00まで)
定休日なし
所在地325 5th Avenue North, Seattle, WA 98109
webhttps://www.mopop.org/
Artists At Play(アーティスツ・アット・プレイ)
所在地305 Harrison Street, Seattle, WA 98109
webhttp://www.seattlecenter.com/locations/detail.aspx?id=170
International Fountain(インターナショナルファウンテン)
所在地305 Harrison Street, Seattle, WA 98109
webhttp://www.seattlecenter.com/locations/detail.aspx?id=8

インスタ映えのスポットだらけ。ガラスの植物が織りなす光のミュージアム

チフーリ・ガーデン&ガラス

MoPOPと同じシアトルセンター内にある「チフーリ・ガーデン&ガラス」は、1992年にアメリカ初の人間国宝(National Living Treasure by the Institute for Human Potential, University of North Carolina)となったガラス工芸作家、デイル・チフーリ氏の作品を収蔵した人気ミュージアム。そして一大「インスタ映え」スポットとしても有名です。

画像: チフーリ・ガーデン&ガラス ©Chihuly Garden and Glass

チフーリ・ガーデン&ガラス ©Chihuly Garden and Glass

チフーリ氏は1971年、後進のガラス職人を育てるため、シアトルに「ピルチャック・ガラス・スクール」を設立。以来、シアトルはガラス工芸の街として栄えるようになりました。

カラフルで鮮やか、ユニークなフォルムを持つ作品は、ひと目見れば「チフーリだ!」とわかるくらい独創的です。

画像1: チフーリ・ガーデン&ガラス
画像1: 神秘的な輝きを放つガラス工芸の作品群 © Chihuly Garden and Glass

神秘的な輝きを放つガラス工芸の作品群 © Chihuly Garden and Glass

ミュージアム内は、闇のなかでライトアップされた作品、自然光を浴びてキラキラと輝く作品などが並び、光によって表情が変化するガラスの特性を生かしたつくりになっています。

画像2: チフーリ・ガーデン&ガラス
画像: 自然光を浴びて輝きを放つガラス工芸の作品群 © Chihuly Garden and Glass

自然光を浴びて輝きを放つガラス工芸の作品群 © Chihuly Garden and Glass

天井に群生する花のようなガラス作品があったり、見事な庭園ににょきにょきと顔を出していたりと、まるでガラスが生きているかのよう。

画像2: 神秘的な輝きを放つガラス工芸の作品群 © Chihuly Garden and Glass

神秘的な輝きを放つガラス工芸の作品群 © Chihuly Garden and Glass

日本人なら、生け花と新島旅行にインスパイアされたという神秘的な作品『イケバナ・アンド・フロート・ボート』と『ニイジマ・フロート』は見逃せません。ガラス工芸アーティストによる制作の実演も行われています。

画像: 自然光を浴びて輝きを放つガラス工芸の作品群 ©Chihuly Garden and Glass

自然光を浴びて輝きを放つガラス工芸の作品群 ©Chihuly Garden and Glass

画像: ©Chihuly Garden and Glass

©Chihuly Garden and Glass

作品に触らなければ写真撮影は自由。プロのフォトグラファーも常駐しており、撮影してもらった写真をウェブサイトから無料でダウンロードすることもできます。

画像: © Chihuly Garden and Glass

© Chihuly Garden and Glass

ミュージアムの外には2018年にリニューアルしたシアトルのランドマーク的タワー、スペース・ニードルも望めます。高さ約184mのスペース・ニードルには、前も下もガラス張り、スケルトンの床が回転する世界でも唯一無二の展望台があり、空中散歩の気分に浸れます。ぜひ登ってみましょう。

画像: スペース・ニードル。先端からほとばしる花火は、年越しの風物詩

スペース・ニードル。先端からほとばしる花火は、年越しの風物詩

Chihuly Garden and Glass(チフーリ・ガーデン&ガラス)
営業時間10:00 ~19:00(水~土曜日は20:00まで)
定休日なし
所在地305 Harrison Street, Seattle, WA 98109
webhttps://www.chihulygardenandglass.com/
Space Needle(スペース・ニードル)
営業時間9:00~22:00(金~日曜日は23:00まで)
定休日なし
所在地400 Broad Street, Seattle, WA 98109
webhttps://www.spaceneedle.com/

シアトルに行くならマスト。ギネス認定の世界最大の工場見学

フューチャー・オブ・フライト航空センター〜ボーイング工場見学ツアー

最後にご紹介するのは、シアトルの中心地から北に約50kmのところにある観光名所「ボーイング・フューチャー・オブ・フライト」。少し離れたところにあるので、事前に日本の旅行会社などをとおして、オプションツアーを頼んでおくのがおすすめです。

画像: 親子で楽しめる体感型の展示が豊富なボーイング・フューチャー・オブ・フライト

親子で楽しめる体感型の展示が豊富なボーイング・フューチャー・オブ・フライト

フューチャー・オブ・フライト航空センターは、ボーイング社の歴史を実物大のレプリカ、体験型の展示をとおして楽しめるミュージアム施設。施設内には、飛行機に限らず、ボーイング社が関わってきた宇宙機なども含めた展示がもりだくさん。

特に興味深いのは、国際宇宙ステーション(ISS)の疑似体験コーナー。「デスティニー」という実験用モジュールの実物大レプリカのなかに入ると、足下の窓からは青い地球が覗く演出を楽しめます。

地球上と宇宙をつなぐ宇宙エレベーター構想のシミュレーターや、未来の飛行機模型などもあり、その名前のとおり「未来」を感じさせる展示でいっぱいです。

画像: フューチャー・オブ・フライトの展示室

フューチャー・オブ・フライトの展示室

しかし一番の見どころは、フューチャー・オブ・フライトに隣接している、ボーイング社のエベレット工場の見学ツアー。ボーイング社の発祥の地であるシアトルでは(現在はシカゴに本社を移転)、工場はいまだ現役でフル稼働しています。

敷地面積1,025エーカー、東京ドームおよそ89個分の広さを誇り、世界最大の建物としてギネスブックにも認定された工場を90分で見て廻るこのツアー。

参加者はフューチャー・オブ・フライトの無料ロッカーに荷物を預け、ボーイング社の歴史を紹介する映像を見てからバスに乗り込み、ハイウェイを越えて工場へ向かいます。

画像: ボーイングのエベレット工場。なかでの写真撮影は禁止で、スマートフォンも持ち込み不可

ボーイングのエベレット工場。なかでの写真撮影は禁止で、スマートフォンも持ち込み不可

広い工場内は徒歩での移動。長いトンネルとエレベーターを行き来すると、巨大な空間を一望できる見学デッキに到着。

3万人以上がシフト制で働く製造現場は、機体の部品がつくりかけのプラモデルのように散在。巨大なクレーンが移動し、機体の一部が空中を行き交う様子はなかなか見られない光景です。

ボーイングツアーは要予約の定員制。身長が122cmに満たないお子さまはツアーに参加できませんのでご注意を。

画像: 飛行機の部品を運ぶ専用機「ドリームリフター」は名古屋とエベレット工場も結ぶ

飛行機の部品を運ぶ専用機「ドリームリフター」は名古屋とエベレット工場も結ぶ

飛行機マニアなら、近くのペイン・フィールド空港内にあるフライング・ヘリテージ&コンバット・アーマー・ミュージアムもおすすめ。

前述のMoPOP同様、マイクロソフト創業者で大富豪のポール・アレン氏が個人で収集した、歴史的な戦闘機と戦車が公開されています。機体はどれも稼働状態に修復してあり、日本の「零戦」も展示。10月~3月の第1木曜日は、14時以降は入館無料です。

Boeing Future of Flight(ボーイング・フューチャー・オブ・フライト)
営業時間8:30 ~17:30(ボーイングツアーは9:00 ~15:00)
定休日なし
所在地8415 Paine Field Blvd, Mukilteo, WA 98275
webhttps://www.futureofflight.org/
Flying Heritage & Combat Armor Museum(フライング・ヘリテージ&コンバット・アーマー・ミュージアム)
営業時間10:00~17:00
定休日9月のレイバーデーから5月のメモリアルデーまでの月曜日
所在地3407 109th Street Southwest, Everett, WA 98204
webhttps://flyingheritage.org/

誰にも優しい都市・シアトルを楽しんでほしい

じつは日本からいちばん近いアメリカ本土、シアトル。都会でもなく田舎でもない「ちょうどいい」都市でありながら、世界でも稀有なレベルのミュージアムが整うのは、ボーイング社などの巨大企業や長者番付常連の資産家たちが、ゆかりの地としてスポンサーになっているから。

各ミュージアムはバリアフリー対策もばっちり。スロープやエレベーター、親子向けトイレを完備し、お父さんもお母さんも特大ベビーカーを押しながら、堂々とミュージアム鑑賞を満喫しています。それはミュージアムに限らず、どこに行っても同じ。シアトルは親子連れにも優しい街なのです。

日本からの直行便が複数あり、アラスカへのクルーズ出航地、カナダへの隣接都市でもあるシアトル。特に夏は過ごしやすく、21時頃まで明るい青空が広がり、旅行には最高の季節です。一度訪れてみてはいかがでしょうか。

ハントシンガー典子

東京、シアトルで出版社に勤め、エディター&ライター歴は約20年。シアトルを拠点にトラベル、グルメ、アート、ライフスタイル、子育て、インタビューの記事を中心に数々のメディアに寄稿する。翻訳家としても活動中。
Facebook:@norikoarticles

掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。

This article is a sponsored article by
''.