JALでエアバスA350の国内線仕様がデビューしたのが2019年。その約1年前となる2018年から、A350国際線仕様のプロジェクトがスタートしました。お客さまからのニーズ、トレンドや市場動向など、多角的な視点から構築されたのが、A350-1000の客室仕様です。
3つのテーマを掲げて開発が進められた、新客室仕様
西垣「新しいA350-1000の客室仕様とサービスのベースには、3つのコンセプトがあります。『最上のやすらぎとくつろぎ(安心・快適)』『空のコンシェルジュサービス』『お客さまと共に創るサステナブルな体験』です。
新機材の導入を伴う国際線の客室仕様の刷新は、約20年ぶりの一大事業。これらを随所に盛り込む一方、従来JALが取り組んできたスカイスイート仕様の客室を延長するのではなく、次世代を見据えた印象的なものを作りたい。そして商品力の向上をさらに進めたいと考えました」
こう語るのが、客室仕様の開発を担当した商品・サービス開発部の西垣淳太です。プロジェクトチームは、まず課題の整理から取り組みました。そして仮説を立て、検証と議論を重ねていく作業に、2年間を費やしました。客室仕様の開発は、数年後の将来をさまざまな観点で見据えながら、知恵を出し合うコミュニケーションから始まるのです。
初のエアバス製の国際線。JALらしい“カタログにない”こだわりをふんだんに
西垣「これまでJALでは、国際線にボーイング社の機体を採用してきましたが、今回は初めてのエアバス社です。たとえばボーイング777-300ERとエアバスA350-1000の全長はほぼ同じですが、細かな機体仕様には違いがあります。客室内の幅は少し狭いのですが、ドアの枚数は5枚から4枚に減りました。座席のレイアウト上、横配置に制限はあるものの、シートピッチ(前後幅)で従来機よりも工夫の余地があります。そのような条件のもと、全てのシートで広々とした空間を提供することを目指しました」
またエアバス社の開発姿勢は、カスタマーである航空会社との二人三脚。客室仕様の新しいオプションも「JALとして取り入れたいものを一緒に考えたい」というスタンスだったと振り返ります。
西垣「JALならではのこだわりは数多くあります。たとえば、ビジネスクラスに設けたバーカウンターは、今後訪日のお客さまが増えていくことを見据え、サービスの幅を広げ自由度を高めたいというJALの意向を受け止めてもらい、開発を進めました。ラバトリー(お手洗い)も、そのひとつです。温水洗浄便座は日本の文化として定着していますが、海外では珍しい仕様です。JALのA350-1000ではすべての便座にTOTO製のウォシュレットを標準装備していますが、これは同型機のなかでもJALオリジナルの仕様です。エアバスの担当者も日本人のお客さまならではの嗜好を理解しており、熱心に応えてくれて完成しました」
このように、こだわりとオリジナリティが随所にちりばめられているのがJALのA350-1000なのです。
“日本らしさ”を取り入れた、洗練されたシックなインテリア
期間にして足かけ5年をかけて企画開発されたのが、この客室空間です。エントランスから搭乗いただければ、真っ先に目に入るのがえんじ色の壁に掛けられたJALのロゴマークです。シックで落ち着いた印象のえんじ色は、客室のキーカラーです。
西垣「世界で評価される日本の美意識と、JALらしいブランドを表現しています。このエントランスを含め、客室のインテリアに国内線A350-900との統一感を抱かれると思います。今後、国内線と国際線を乗り継がれるお客さまが一層増えていくことが予想されますので、機体が変わっても、JALならではの上質な印象を抱いていただきたいと考えました」
華美ではなく、厳かで洗練された機内空間と感じていただけたとしたら、チームの狙いは成功です。モチーフの直接的な表現はあえて避け、日本の伝統的な織り柄やパターンを“忍ばせる”ようなデザインアプローチを心がけました。
西垣「国内線同様、客室仕様はイギリスのtangerine社とのコラボレーションです。“日本らしさ”を海外の企業と共有して表現することは難しいと感じられるかもしれませんが、同社はJALだけではなく日本企業との協業実績があり、スムーズにやりとりできました。日本人が感じる日本らしさのみならず、海外のお客さまが期待する日本らしさも踏まえる必要がありました。その点、国外からの視点を持つtangerineの知見に助けられました」
いわゆる固定観念的な日本のイメージからは脱却したいとチームは考えました。日本らしさは踏襲しながら、洗練されたシックな空間としてグローバルで評価されるものを目指したのです。
3人掛けまでも可能。業界最高水準を目指した完全個室のファーストクラス
西垣「トレンドを踏まえ、最上級の仕様をふんだんに取り入れました。きめ細やかさと華々しさが同居したモダンジャパニーズスタイルの個室ですが、個室の外との連続性を意識しました。障子で家の外と中を仕切ることができる日本らしい伝統的な空間の捉え方にならい、キャビン全体で繋がっているものの、プライバシーはしっかり確保しています。洗練されたコンセプトの空間で、ごゆっくりお過ごしいただけます」
シートにおける最大の特長は横並びの4席から3席になったことです。その結果、1.3倍の広いシートを実現。約123cmのシートには2名が座れ、個室内のオットマンを使えば3名掛けが可能です。壁も従来よりも35cm程高くなり、約157cmを実現。広々とした個室で、天井には座席上の手荷物収納棚はなく、オットマンの下に荷物を2個収納可能です。そのことで、開放感のある237cm程の天井高を実現できました。これはマンションなどの居室と同レベルの高さ。個室の中では、ベッドとサイドシートを同時に利用できるモードもあり、自由度の高い居住空間を実現しています。
またファーストクラス、ビジネスクラス共通の新装備として、シートのヘッドレストにスピーカーを内蔵しました。音響性能にこだわったスピーカーを使用しており、ヘッドフォンなしで映画や音楽をお楽しみいただけます。
高いプライバシー性を確保した、ラグジュアリーなビジネスクラス
従来に比べて座席数を多く確保し、現行より質感や機能を格段に高めたビジネスクラスも個室仕様。ファーストクラス同様に中央列の天井は座席の上の手荷物収納棚がなく、広々とした印象です。
西垣「ビジネスクラスではまず座席配置にこだわり、互い違いのスタッガード方式の新レイアウトを採用しました。横幅を拡大し、前後のシートピッチも十分に取ることで、おひとりごとに広々とした個室空間を用意しています。ベッドモードでは、前席のサイドテーブルの下に後ろの席が潜り込むような設計を採ることで、ベッド長は約198cmと、従来のスカイスイートから10cm延長しました」
また現行は上着やコートを掛けるフックがありましたが、新ビジネスクラスでは透明な扉の付いたワードローブを導入。お召し物を到着地までハンガーに掛けて収納できます。
西垣「ビジネスクラスは、エアライン各社が力を入れている分野です。マーケットのトレンドを取り入れ、さらに一段クオリティを上げることに成功できたはずです」
シートアレンジの幅が広がった、半個室に近いプレミアムエコノミークラス
西垣「プレミアムエコノミークラスは、大型のパーテイション(仕切り壁)を採用し、お隣のシートからのプライバシーを大きく向上。半個室に近い印象を持たれるかもしれません。E席/F席の間以外は可動式なので、お隣がお連れさまの場合は、パーテイションを開けることもできます」
またシートの電動リクライニング化を実現し、レッグレストが90度まで上がる仕様です。これにより座面が広く使え、あぐらをかいて着座することもでき、ゆったりとお過ごしいただけることでしょう。
シートの標準角度にもこだわった、足もとの広いエコノミークラス
エコノミークラスでは、40cm×26cmの大型テーブルを採用したことで、フルサイズのトレイも安定しておくことができます。また国内線シートより、座席の角度が1インチ倒れた状態になっていることも特徴です。これにより離着陸時の窮屈さが緩和され、シートを倒さなくても、リラックスしたフライト時間を過ごすことができるはずです。
西垣「この仕様を実現するために座席メーカーとは何度も議論を重ね、時間はかかりましたが、JALはスカイトラックス(航空会社の品質を評価する格付け機関)から6年連続で世界最高の格付けを保持しており、その品質をさらに磨くことが必要不可欠でした。他にも、前後間隔の広さに加え、書籍入れをモニター下に設置することで、より広々としたスペースを確保しています」
非接触も追及した、新時代の共有エリア
各クラスの座席仕様のみならず、客室仕様の改良点は数多く存在しています。たとえば先述のウォシュレットが備わったラバトリーは、コロナ禍を経て、衛生面をより強化しています。
西垣「開発期間の多くがコロナ禍ということもあり、非接触による清潔さも追求しています。抗菌加工やフットペダルを導入したほか、水栓はセンサーによるタッチレス。点字案内プラカードを設置し、アクセシビリティにも配慮しました。これらの工夫により、多くの方により安心してラバトリーをご利用いただけます。また、非接触の観点はほかにも取り入れました。前述のビジネスクラスでご利用いただけるバーカウンターは、セルフサービスの内容をこれまでより強化しています」
ギャレーの扉を開くと現れるバーカウンターには、冷蔵庫を新設しました。冷たいドリンクなどをいつでも自由にお取りいただけ、その結果、客室乗務員が他のサービスに注力することが可能になります。コロナ禍のまっただなかで開発が進められた新たな客室仕様は、新しい旅のスタンダードに対応することを追求したといえます。
西垣「コロナ禍の影響で、製造拠点である欧州に出向くことができない時期が暫くありました。しかしだからといって、完成度や品質を下げることは許されません。チームは現地とのコミュニケーションの頻度を高めることで、直接行くことができないという不利をカバーしようと懸命に努めました」
A350-1000の新客室で、長距離線フライトを有意義にお過ごしください
こうして完成したA350-1000の客室仕様は、JALの自信作です。
西垣「目指していたテーマは達成できたと思っています。A350-1000の客室仕様の開発で大事にしていたことは、提供者であるJALではなく、お客さま目線での新しい体験を提案することでした。デザインも質感も居住性も、今回の客室仕様ではその境地に至っていると自負しています。ただ、あくまで私たちのチームが作ったのは“箱”です。ご提供するサービスの品質も大事ですし、そのためにA350-1000に関わる社員が全力を注げる環境を整えていくことがこれからの課題ですね」
A350-1000で生まれ変わったサービスの内容は、ぜひ以下の記事からご覧ください。今回ご紹介した客室の上質なインテリアと快適なシートに加え、機内食や機内エンターテインメント、機用品といったサービスがハイレベルで組み合わさったフライト体験こそ、フルサービスキャリアであるJALが提供する価値です。
従来のスカイスイートからもう一段レベルが上がり、世界的な基準から見てもハイクラスな仕様を実現したJALの国際線が、A350-1000です。羽田からニューヨークまでは、12時間30分前後。長いフライトですが、これまで以上に自由にお過ごしいただけるでしょう。どうぞ、ごゆっくりご堪能ください。
※2023年12月1日に一部内容を更新いたしました
A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。
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