
西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

9:00 のいち駅経由で安芸へ。駅前「安芸駅ぢばさん市場」は名産品が勢ぞろい
高知龍馬空港からひがしこうち方面へは、「空港乗合タクシー」を利用して高知市を経由しないで向かいます。空港乗合バスは飛行機到着時間に合わせて運行されており、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の「のいち駅」まで送ってもらえます。
土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線(ご・な線)は海沿いを走り、青い海を車窓から眺められる、旅情かきたてられる路線です。今回の旅ではご・な線にたくさん乗りました。
安芸市に到着すると駅直結の産直市場「安芸駅ぢばさん市場」でまずはお買い物。
柚子に関する商品が多く並び、特に「ゆのす(酢)」と呼ばれる柚子生搾りの商品が多数並んでいました。これは、発酵食品の酢を使っているのではなく、柚子を搾った果汁のことを指します。これを調味に使い、酢飯に入れたり料理に酸味を加えたりして柚子の香りを加える、この土地ならではの食文化に欠かせないものとのことです。
その他にも焼き立てのパンや菓子、日本酒やご当地グルメが揃っていて、お土産探しや駅での待合い時間などに立ち寄れます。朝は7時からオープンで、生鮮食品やお惣菜もたくさん並ぶので、地元の人もお買い物に来ていました。
私ははちみつなどを加え飲みやすくした柚子ジュースを一杯。香り高い柚子の風味に、“高知旅スイッチ”が入りました。

今回の旅は「土佐くろしお鉄道 ごめん・なはり線(以下ご・な線)」で巡るひがしこうちの旅。海岸線を走る電車で、車窓から高知の海が見える気持ちのいい鉄道です。

最初の目的地は安芸駅です。横断幕には安芸市の象徴である時計台がプリントされています。

ご・な線は高知県出身の漫画家、やなせたかし氏が描く駅キャラクターが存在します。車両には各駅のキャラクターが勢ぞろいです。
安芸駅キャラクターは「あき うたこちゃん」。童謡作曲家である弘田龍太郎氏が安芸市出身であることから、同市は長年「童謡の里づくり」を行っていることに由来します。

弘田氏の作品の中には「浜千鳥」や「雀の学校」など誰もが知る童謡が多く、氏の功績を称え町中に歌碑が建てられています。

ご・な線の各駅前にはかわいいキャラクター像が建てられているので、記念に写真を撮るのもいいですね。

プロ野球チーム・阪神タイガースの春季キャンプ地ともなっている安芸。阪神カラーに縦じまのラッピングがされた車両も走っていました。阪神ファンにとってはたまらないですね。

安芸駅から直結の産直市場「安芸市ぢばさん市場」。地域の農産物や日本酒、柚子商品などが揃います。

はちみつを加えた香り高いゆずジュース、一杯100円で喉を潤します。柚子の産地として全国的にも有名な馬路村や北川村が近く、柚子の加工品がたくさんあります。

こちらは「ゆのす(酢)」。地元で料理に使われる柚子果汁です。一升瓶で売られているのに驚きました。柚子の季節に果汁を絞りゆのすを作り、次の季節が来るまでに売り切るそう。これは冬に作られたゆのすです。
高知のお菓子、芋けんぴもありました。

店内で焼くパン屋さんでは高知のご当地パン「ぼうしパン」もありました。

安芸市ぢばさん市場で自転車を借りて、さっそく安芸市を観光します。
安芸駅ぢばさん市場 | ||
---|---|---|
住所 | : | 高知県安芸市矢ノ丸4丁目2-30 |
営業時間 | : | 7:00~19:30 |
web | : | https://www.akikanko.or.jp/chokuhanjo/dibasan.html |
10:30 野良時計に岩崎彌太郎生家。無料レンタサイクルで安芸市を散策
安芸駅ぢばさん市場では無料レンタサイクルの貸し出しも行っています。これを借りて早速安芸市を散策です。まずは国の登録有形文化財に指定されている「野良時計」を目標にスタート。
時計が貴重で入手できなかった明治20年頃、地主だった畠中源馬氏は時計を取り寄せ、何度も分解・組み立てを繰り返しながら時計の仕組みを覚え、大時計を作りました。当時は時計を持っている者はおらず、農作業を行う人たちの時を知らせていました。
田畑の中に八角形の時計台が立つ姿は当時の人々にとっては町の自慢であったことでしょう。今でも安芸のシンボル的な存在となっています。
次に向かったのは土居廓中(どいかちゅう)。
土居廓中とはこの一円の古い町並みのことを指します。唯一一般公開されている武家屋敷「野村家住宅」と、その周辺を見て回りました。角を曲がると、突然に風情ある雰囲気の生垣が目に飛び込んできます。これは土用竹と呼ばれ武士の家にしか植えられなかった細い竹です。また瓦を使った塀「瓦塀」も見られます。
天保年間の1830年頃に建てられた古いものですが良く保存してあり、昔の武士が生活した空間を現代に残す貴重な建物です。
駅から少し離れた場所にあるのは、三菱財閥の創業者である岩崎彌太郎の生家です。敷地内で7つの建物が国の登録有形文化財に指定されています。
岩崎彌太郎は1835(天保5)年、安芸で生まれました。
岩崎家は甲斐源氏・武田氏の末裔と言われています。江戸時代に郷士となりましたがその後資格を売って、地下浪人になりました。幼少期から才能を発揮した彌太郎は、江戸への遊学、藩の仕事を任され長崎で貿易の仕事に従事します。類まれなる商才と行動力、そして海運業の道を邁進し、「東洋一の海上王」と呼ばれるまでになりました。貧しい家の生まれながらも学問をきわめ、向学心を持って、相手が誰でも教わるべきことを柔軟に取り入れながら成功へと突き進み、動乱の時代にわずか一代で三菱グループを大きく発展させました。
駅へ戻る道途中にも古い屋敷がいくつも見られ、この地域の特徴である漆喰壁に小さな瓦を付ける「水切り瓦」も見ることが出来ました。

安芸市のシンボル「野良時計」を見に、安芸の町を北へ向かい走ります。

川石でしょうか、丸い自然石を積み上げた壁が続きます。

野良時計へ向かうまでには、田畑や風情ある町並みが続きます。

石垣の上に建つ古い木造の建物。特に観光地として名がついていない場所でも立ち止まってしまうような、昔の風景が残っています。

町中を流れる川もきれいで、周囲に生える自然の草花は生命力に溢れていました。

漆喰の壁に瓦を付けた「水切り瓦」。高知東部によく見られる建築構造です。漆喰壁に水が流れないよう瓦を庇にして水を切る、台風や雨が多い高知ならではの建築方法です。

そして到着しました、野良時計です。

すぐ前にはひまわりが植えられ、季節になると一面黄色の世界になります。

八角形の大きな時計。当時は西洋の文化を感じさせる、とても貴重なものでした。田畑で働く人たちに遠くまで時を知らせていた時代から120年、動き続けました。

さらに自転車を走らせて土居廓中(どいかちゅう)へ。

武家屋敷・野村家住宅は江戸時代に建てられた上級武士の家です。安芸駅からここまではレンタサイクルで10分程度です。

古い時代の建物としては当時の原型を良く留めているとして登録有形文化財に指定されています。眩しいほどの緑の庭がありました。

狭い道幅や石を組んで作られた側溝、白塀や生垣など、安芸の城下町独特の景観を観ることができました。

武家屋敷から田園風景の中をさらに10分ほど走ると「岩崎彌太郎生家」へと到着します。大きな銅像が迎えてくれました。三菱グループ創業者である岩崎彌太郎は、海運業で大成功をおさめ三菱財閥の礎を築きました。

彌太郎や弟の彌之助、彌太郎の長男である久彌もここで生まれています。郷士であった岩崎家の生家は決して裕福な家ではなく大きな屋敷ではありませんが、土佐の民家の原型が詰まっていることから、当時の暮らしを残す建物として大切にされています。

武士の家にのみ植えることを許されたといわれる「土用竹(蓬莱竹)」。弓矢の矢を作れるような硬くて細い竹です。この竹垣は武家屋敷周辺の生垣にもあり、安芸を象徴する風景のひとつともなっています。

彌太郎は庭に日本列島の形を石で組み、「日本はわが庭の内にあり。」と言って幼少期から大きく羽ばたきたいという夢を抱いていたと伝えられます。写真は日本海側から見た形となります。

後に建てられた蔵の鬼瓦には岩崎家の紋「三階菱」が見られます。これは三菱マークの原型になったと言われます。

こちらも後年作られた蔵で、ここには三菱のスリーダイヤがしっかり刻まれています。

NHK大河ドラマ「龍馬伝」のロケ地としても使われた岩崎彌太郎生家。幕末ファン必見の名所です。
野良時計 | ||
---|---|---|
住所 | : | 高知県安芸市土居638-4 |
web | : | https://www.akikanko.or.jp/kanko/noradokei.html |
土居廓中 | ||
---|---|---|
住所 | : | 高知県安芸市土居 |
営業時間 | : | 9:00~17:00(野村家)、散策は常時可能 |
web | : | https://www.akikanko.or.jp/kanko/doikatyu.html |
12:00 名物しらすを使った「キッチンココ」の安芸まるごと丼
安芸に来て食べるなら「しらす丼」。
飲食店がしらす(ちりめん)の美味しさを存分に活かし、創意工夫を凝らした丼を提供しており、安芸のご当地名物グルメです。
この日は隠れ家的な「キッチンココ」の人気メニューである「安芸まるごと丼」をランチにチョイス。場所は安芸駅から数分の、安芸市役所の地下にあります。
安芸まるごと丼は、安芸周辺の名物が全て揃った贅沢な丼。生産量日本一を誇る高知のなすび、高知地鶏の土佐ジロー、そしてしらすもたっぷりと乗っています。ミョウガやネギといった薬味に加え隠し味の柚子胡椒も効いていて、一気にたいらげてしまいました!
小鉢などとのセットにすることも可能で、この時はお味噌汁付きに。
“安芸まるごと”の名前どおりの大満足ランチにお腹も心もしっかり満たされ、安芸を後にしました。

安芸の名物ランチと言えば「しらす」。市内にしらすを食べられるお店はいくつもありますが、この日はキッチンココへお邪魔します。

見てください!この華やかな丼を。安芸の名物しらす、茄子、土佐ジロー(鶏肉)が乗った「安芸まるごと丼」。

単品にお味噌汁を付けてもとてもリーズナブル。満足ランチとなりました。

ネギやごま、ミョウガ、しそ。薬味たっぷりでさわやかな風味。人気の丼なのがよくわかりました!

キッチンココは安芸市役所の地下にあります。駅からも徒歩5分程度です。
キッチンココ(Kitchen coco -心-) | ||
---|---|---|
住所 | : | 高知県安芸市矢ノ丸1丁目4-40 |
営業時間 | : | 11:30~14:30 |
休日 | : | 土日祝休み |
web | : | https://www.akikanko.or.jp/chirimen/coco.html |
14:00 シダに覆われた緑のトンネル「伊尾木洞」へ
安芸市内、伊尾木駅はご・な線の安芸駅のひとつ隣の駅。
駅から歩いて数分という洞窟「伊尾木洞」へ向かいます。まずは待ち合せ場所へ。
駅へ降り立つと静かな住宅街という感じで、ここに洞窟があるとは思えません。
待ち合せ場所から道路を隔てすぐのところに「伊尾木洞」はありました。
ここは12~3万年前まで海でした。約300万年前に海底に堆積した地層が隆起を繰り返し、それが地上に姿を現して4000~5000年前に現在の形になったと考えられています。果てしない時間の経過を、今に感じることが出来る場所です。
伊尾木洞は泥混じりの砂岩層を主とした地層でできていて、長い年月をかけて海の波で削られた「海食洞」にあたります。通常はある程度のところまで浸食されたら行き止まりと柔らかい砂岩と石灰岩が重なる地層でできた洞窟は、長い年月をかけて海の波で削られ「海食洞」にあたります。通常はある程度のところまで浸食されたら行き止まりとなる海食洞ですが、伊尾木洞はその奥にあった沢のおかげで、通り抜けていることが特徴です。
洞窟部分を抜けると、高くそびえる渓谷沿いにびっしりと生えたシダに迎えられます。様々な種類のシダが濃い緑の葉を伸ばす光景が広がり、国の天然記念物にも指定される貴重な生態系を保っています。伊尾木洞は、太古の地層が見られる洞窟、天然記念物のシダの群落、さらに沢歩きと、いくつもの顔を持ったスポットです。
この日は前日の雨により伊尾木洞の中全体が川になっていましたが、長靴で水を渡りながらカメラを落とさないように慎重に進むのはまさに冒険。安芸市観光協会からガイドの申し込みをし、丁寧に説明をもらいながら見学しました。
スケールの雄大さを感じる洞窟アクティビティ。ひがしこうちで人気の観光地なので、ぜひ旅のプランに組み込んでみてはいかがでしょうか。

安芸・伊尾木には数万年かけて作られた洞窟があります。

ランチを食べ終えたら電車で伊尾木駅へ。駅から歩いてガイドさんとの待ち合わせ場所へと向かいます。

国道脇に突然現れる洞窟の入口。ここが「伊尾木洞」です。短いコースだと数十分でまわれます。

この洞窟を形作っているのはかつての土佐湾の海の底。化石となった貝や砂が堆積した地層が隆起し、さらにそれが波で削られてできた天然の洞窟です。

洞窟は行き止まりになることが多いのですが、伊尾木洞は奥が抜けて沢につながり、洞窟内にも川が流れています。この日は水が多い日でした。

洞窟の奥には国の天然記念物に指定されたシダの群落があります。入口からは想像できなかった緑の世界が広がります。

40種類以上のシダが一か所に生息するという、大変珍しい群生地です。

沢の中に貝の化石も見つけられました。ここが海の底であったことが良くわかりますね。

沢山の生物も生息しています。この日は残念ながらあまり見られませんでしたが、ツチガエルに出会いました。ガイドさん、こんなに同系色なのに見つけてくれました。

これはトノサマガエルでしょうか?つやつやできれいなカエルです。

水質が良く小魚や海老もいます。この日は水量が多く進めなかったのですが、沢を上っていくと滝もあるそうです。

涼しい風が吹く洞窟でアクティブな体験と生物・植物観察を楽しみました。
伊尾木洞 | ||
---|---|---|
住所 | : | 高知県安芸市伊尾木 |
web | : | https://www.akikanko.or.jp/kanko/iokidou.html |
17:00 美しい川沿いに立つ美肌の湯。北川村温泉「ゆずの宿」
ご・な線終着駅の奈半利駅から、北川村村営バスに乗り換えて北川村へと向かいます。
村営バスは地元の方が使うローカル路線。車内では和気あいあい、温かい会話が飛び交います。便数が少ないので、利用時には予め運行時間を調べておくのが吉。
奈半利バス停から小島バス停までの約45分、だんだんと山あいに深く分け入っていきます。バス停を降りるとそこには奈半利川と重要文化財の小島橋、田畑広がるのどかな景色が待っていました。
ゆずの宿は14部屋全てが奈半利川ビュー。お風呂付の部屋も3部屋あります。共有スペースはフローリングや木材を使ったぬくもりある雰囲気、空間もゆったり取ってあるので心がとても落ち着きます。
大浴場は内湯と露天風呂付き。貸し切り風呂もあって、温泉を十分に楽しめます。お湯はこの上なくとろっとろで、翌朝の肌の違いをしっかりと感じ取れる美肌温泉でした。施設、食事、お湯の三拍子揃った宿で、一晩ゆっくりと寛げました。
この地域は春にはそばの花、秋から冬にかけてはたくさんの柚子の実がたわわに実る美しい田舎町。朝のお散歩の際には地元の方にたくさん声をかけていただき、優しさ溢れる時間をもらいました。

伊尾木洞からご・な線の終点なはり駅へ移動しました。ここからは北川村村営バスに乗り換えて、北川村温泉へ向かいます。

降ろしてもらったところにはかわいいバス停とのどかな風景がありました。

この日は「北川村温泉 ゆずの宿」に宿泊します。

宿は奈半利川沿いにあり、川には1932(昭和7)年に造られた小島橋がかかっています。

魚梁瀬森林鉄道の遺構で、現在は車が通れる道として整備されています。

部屋は全てリバービュー。全14部屋で、お風呂付の部屋も3つあります。

タオルも浴衣もゆず色です。アメニティももらえて、女性にやさしい宿でした。

温泉はとろとろ系美肌温泉です。貸し切り風呂もあります。

料理もとても美味しくて、施設、お湯、食事が三拍子そろったお宿でした。

木のぬくもりを感じる優しい宿。施設はゆったり広々としており、落ち着く空間です。

朝ごはんもおいしかったです!

翌朝のお肌はつるつる。1泊ではもったいないくらいでした。山と川に囲まれた秘境温泉でした。
北川村温泉ゆずの宿 | ||
---|---|---|
住所 | : | 高知県安芸郡北川村小島121 |
営業時間 | : | レストラン利用 11:30~14:00(LO 13:30)18:00~21:00(LO 20:00) 現在は土日祝のみ営業 日帰り入浴 11:00~21:00(20:30札止め) |
休日 | : | 火曜定休 |
web | : | https://www.yuzunoyado.net/ |
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。