お客さまがご搭乗される航空機を輪切りにして見たとき、客室に当たる部分はちょうど上半分です。下半分はすべて貨物スペースとなり、ご搭乗のお客さまからお預かりしたお手荷物のほかさまざまな貨物が積載されます。
藤野「私たちJALカーゴが空輸する代表的な貨物は、いわゆる宅配貨物です。野菜や果物、鮮魚が多いほか、医療で使われる検体や電子部品などもあります。しかし、完成車を運ぶケースはなかなか珍しいケースです」
特別な車両を運ぶための、特別なプロセス
JALが協賛する「JAL Classic Japan Rally 2019 HIRADO」に参加する車両の空輸は2018年から始まり、昨年で2回目。特別な車両を運ぶためには、特別なプロセスが求められます。
宮前「お客さまのお車を当日航空機に搭載できず、レースに出場できないという事態は絶対にあってはなりません。そこでまずお客さまと事前に綿密な打ち合わせを経て、しっかりとお車を事前確認させていただきました」
藤野「規定内の市販車両の空輸には飛行機に乗せるための『J SOLUTIONS WHEEL』という車両専用のプラットフォームを用います。車両をスムーズに載せられ、車体の骨格であるトーションビーム、ロアアーム、ホイールをプラットフォームと固縛する作業で済みます。しかし、繊細で特別な作りであるクラシックカーの輸送はケースバイケースの対応が求められるのです」
猪飼「タイダウンベルトという、機内で貨物が動かないようにするためのストラップ状の固縛器具があるのですが、大事なお車に傷がつかないように、お車のどの箇所とを固縛するか綿密にお打ち合わせをし、お車と航空機に積載する器材(パレット)を固縛します」
重量バランスも考えなければなりません。空を飛ぶ飛行機の重量バランスが前後左右で適正になるように、貨物それぞれの重量を事前に把握し、パズルのように配置する必要があります。
宮前「パレットの重量を早めにロードコントロールセンターに渡して、機体の重量バランスがよく、安全な場所に搭載できるように調整しました」
お客さまの下で繰り広げられる、繊細で慎重な作業
事前のシミュレーションは可能でも、リハーサルはできません。綿密に準備し、当日はお客さまが直接運転して貨物ターミナルにお運びいただきます。今回の機体はボーイング777-200。小型のセダン程度なら搭載できる積載能力を備えます。
貨物用パレットには、特設のスロープを使い、お客さまの運転で載せていただきます。
猪飼「機体の貨物室への搭載はさらに気を遣います。貨物室は狭く、スペースはギリギリです。機体の揺れや傾きによって車体が内壁と接触しないよう、前後左右のスペースに注意を払いました」
慎重さが求められる一方、定時運航のための迅速さも必要です。こうして搭載を終え、お客さまは旅客ターミナルへ。愛車と同じ便のフライトで福岡空港までご移動されます。
宮前「車両を下ろす際、貨物室のドアが開いてクラシックカーが出てくるのですが、降機前のお客さまがご覧になり、機内がざわついたそうですよ(笑)」
車両の空輸は、実はどなたでもご利用いただけます
お預かりしたクラシックカーはすべて無事に現地まで空輸し、4日間のラリー行程を終え、再び空路で羽田空港まで送り届けることができました。クラシックカーの空輸は特別な仕事ですが、実は車両の空輸は条件が合えば、ご要望に応じてどなたでもご利用いただけるサービスなのです。
宮前「車両の空輸はひとつひとつフルオーダーでご用意します。たとえば今回と同じようなご要望があれば、そのリクエストにお応えできます。羽田空港に隣接した貨物ターミナルに愛車に乗ってお越しいただき、そのままお預けいただいて同じ便でフライトしていただけるのです」
藤野「実際に新千歳空港へのフライトに愛車のサイドカーを載せ、北海道でツーリングを楽しんでいただいたケースもあります。フェリーであれば何日もかかりますが、空輸であればすぐに到着し、当日からツーリングを楽しんでいただけますよ」
2kgまで850円で、その日のうちに全国どこへでも
宮前「ご存じないお客さまも多いと思いますが、航空貨物はとても使い勝手がいいのです。発着地空港の貨物カウンターまでお越しいただければ、貨物は全国の空港にてお取り扱いをさせていただきます。企業間のみならず、企業と個人のお客さま、個人のお客さま同士でも気軽にご利用いただけるサービスです」
藤野「私たちの強みは1日約800便もの国内線を運航するネットワークです。ご希望のダイヤで、2kgまでなら全国どこの空港間でも一律850円(税込)でお送りできます。たとええば、北海道新千歳空港から沖縄那覇空港までも850円なのです。他の物流インフラと比較して、空輸の強みは第一にスピードです。就航している空港がお近くにあることで、さまざまな貨物を素早く輸送できるわけです。つまり国内におけるスムーズな物流網を築く一助になると考えています。またJALカーゴのネットワークは地域創生の観点からもご活用いただけると思っています」
災害支援物資の輸送も最速で。物流インフラとしての社会的責務
通常の物流のみならず、航空貨物は、実はさまざまな局面で応用できるソリューションといえます。
藤野「またこの早さという強みを活かし、ライフラインを支えることもJALカーゴの社会的責務と捉えています」
宮前「近年は自然災害などが多く発生していますが、陸海空の物流網のなかでもっとも立ち上がりが早いのが空輸です。荷物を迅速かつ安全に届けることが私たちの使命であり、社会の皆さまからのご期待に添える仕事だと思います」
猪飼「大きな災害が起きると、支援物資をいち早く届けるために最善を尽くします。誰かのお役に立てて、社会貢献ができていることに誇らしく感じています」
日本における物流インフラのうち、空輸が占める重量の割合はわずか1%すら満たしません。しかしその役割は1%よりはるかに大きなものだといえます。JALの役割は、お客さまの快適な空の旅をご提供するばかりではありません。日常の物流を担い、ときにクラシックカーなどの特殊品や緊急支援物資を運び、人々の暮らしを陰ながら支える“空の上の力持ち”でもあるのです。
A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。
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