ボーイング767機長の福地です。
私は中学校の修学旅行で日本航空のDC10に乗ってからパイロットになることを夢みてきました。
夢が現実になり日常になるのは本当に有難いことです。
そんな日常のひとコマをご紹介させてください。
ボーイング767機長 福地
フライト前のパイロットの準備は多岐にわたり、この旅コラムでも色々と紹介されていますが、今回は「航空機の外部点検」についてわかりやすくお話しいたします。
皆さまもご搭乗前に飛行機の周りをパイロットが歩いているのをご覧になったことがあるのではないでしょうか。エアラインの飛行機は、整備士が事前に外部点検を行い不具合がないかをしっかりと確認していますが、航空法によって、「航空機の外部点検」は機長が出発前に行う義務の1つとして規定されています。
さて外部点検で大切なことは何でしょう?
最も重要なのは機体に異常がないこと。マニュアルの表現では「Acceptable Condition(アクセプタブル・コンディション)」にあることを確認します。
「Acceptable Condition」とは、目視点検し、それ以上の検査をする必要がないと判断できる状態です。
外部点検で、「あれ?」と思ったとき、例えばタイヤに傷があったときや、車輪のストラットという伸び縮みする場所に汚れがあったときなどは整備士に大丈夫なのかどうかを確認します。
ボーイング767は全長55メートル、全幅48メートルなので、一周すると陸上トラック半分の約200m以上。その距離を普段約5分で周りますので、時速約2キロでゆっくり歩いていることになります。
歩きながら色々なことを考えます。
まず、怪我をしないこと!昔は点検中に怪我をしてしまった先輩もいたそうで、怪我は絶対にするなと教わってきました。せっかく出発の準備をして、お客さまも搭乗口の前で待ってくださっているのに、パイロットが怪我をして飛べないなんて悲しすぎますね。
また、晴れている日ばかりではありません。大雨や、強い風、雪の日でも昼夜を問わず外部点検を行います。周りの天気、風を感じたり、雲を見たり。観天望気という言葉もありますが、この外部点検中に天気の変わり目を感じることもあります。
飛行機に手を当てて「この便もよろしく!』と語りかけることもあります。
お客さまのことも考えます。観光や帰省の方も沢山いらっしゃるから景色の良い場所でアナウンスをしよう。英語の表現はこうしよう。客室乗務員にはフライトのイメージをこう伝えよう。
隣から出て行く飛行機や、搭乗口付近から見て下さっているお客さまに手を振って、「いってらっしゃい」、「ようこそ。一緒に飛びましょうね」と気持ちを伝えることもあります。
飛行機は、車や電車や船と違って、一度離陸し空に飛び立ったら、どのようなことが起きても時速250キロから速い時は時速1000キロを越えるスピードで着陸まで飛び続けなければなりません。
お客さまを目的地に安全にお連れするのが機長の責任でもあり、義務でもあります。
そんなフライトの始まる前に、気持ちを込めるのがこの外部点検かもしれません。
皆さまと空を飛べるのを楽しみにしています。
※旅コラムは、2018年10月10日時点の内容です。
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