スペインを旅する目的として「美食」を楽しみにしている人は多いのではないでしょうか。その期待に応えてくれるのが、地元グルメが揃うバルです。特に首都マドリードには、新旧多様な店が数多く、人気のバル通りがいくつもあります。そんな数あるバルの名所のなかでも、もっとも古い伝統が残っているのがカバ・バハ通り。街の観光の中心である広場「プエルタ・デル・ソル」から徒歩約10分の好立地で、気軽にマドリード流「バルのハシゴ=タペオ(tapeo)」が体験できます。今回はカバ・バハ通りで、初めてでも行きやすいバルを巡るタペオに皆さまをご案内します。

約300mの小道に50軒以上のバルが立ち並ぶ「カバ・バハ通り」

画像: カバ・バハ通り

カバ・バハ通り

約300mという短い距離に50以上のバルが軒を連ねる、マドリードのカバ・バハ通り。地元に住むマドリレーニョなら、知らない人はいない老舗のバル通りです。「ハシゴ」に出かける前に、少しだけバルの楽しみ方を知っておきましょう。

画像: スペインの小皿料理「タパス」は少量でたくさんの種類を味わえるのが楽しい

スペインの小皿料理「タパス」は少量でたくさんの種類を味わえるのが楽しい

バルにはそれぞれ特長があります。特定の種類のお酒に力を入れていたり、「タラのコロッケがおいしい」「マッシュルームが絶品」など、特に評判のおつまみメニューがあったり。その一品を目当てに人々は 店を訪れます。

1軒だけに長居せず、店から店へと移動しながら飲むことが多いため、カウンター周辺で立ったままおしゃべりを楽しんでいる、というのもよくある光景。複数の店の良さを少しずつ味わうためには、各店でオーダーをしすぎないのがコツです。ドリンク1杯につきミニタパスが無料でサービスされる店もあるので、あまり注文するとすぐ満腹になってしまいます。できるだけお腹を空かせて、さっそく1軒目から巡っていきましょう。

「とりあえずビール」ならぬ「とりあえずベルムー」で乾杯

La Bolita Negra(ラ・ボリータ・ネグラ)

マドリードでは「とりあえずビール」ではなく、「ベルムー」で乾杯してみませんか? ベルムーとは、ワインにハーブなどを漬け込んだお酒で、日本ではベルモットと呼ばれています。スペインでは食前酒として昔から親しまれてきたものですが、数年前からさらに人気が高まっています。

「La Bolita Negra(ラ・ボリータ・ネグラ)」は、約20種の個性豊かなベルムーを取り揃える専門店。ベルムーには、食欲を高めて消化を助けてくれる働きがあります。1杯目で心地良く胃を目覚めさせれば、いっそうおいしくタパスが味わえるはず。

画像: おすすめは、カウンターのサーバーから注がれる生ベルムー

おすすめは、カウンターのサーバーから注がれる生ベルムー

マドリード製の生ベルムー「Vermut de Madrid」はクセがないため飲みやすく、ほんのり甘口。ついゴクゴク喉を潤してしまいそうですが、アルコール度数は強いので飲みすぎには注意してください。グラスに添えられたオリーブの実と特製のドライフルーツを一緒に味わうと、爽やかな香りと酸味がベルムーと溶け合い、さっぱりとした味わいを演出してくれます。

画像: カウンターに座って、会話を楽しむのもバル巡りの醍醐味のひとつ。この店は深夜になるとカクテルバーに変わるので、食前ならベルムー、締めの一杯ならカクテルを、それぞれ味わってみてください。

カウンターに座って、会話を楽しむのもバル巡りの醍醐味のひとつ。この店は深夜になるとカクテルバーに変わるので、食前ならベルムー、締めの一杯ならカクテルを、それぞれ味わってみてください。

La Bolita Negra(ラ・ラボリータ・ネグラ)
営業時間月・火・木・日曜12:00〜26:00 / 水曜12:00〜24:00 / 金・土曜12:00〜26:30
定休日なし
住所Cava Baja 34

半熟卵がトロ〜リとろける。スペイン料理の定番「トルティージャ」に舌鼓

Pez Tortilla(ペス・トルティージャ)

続いては、スペインの伝統料理を代表する「トルティージャ」が評判の店へ。日本ではスペイン風オムレツとも呼ばれていますが、たかがオムレツと見過ごせない奥深さがあるのがトルティージャ。

カバ・バハ通りを含め、マドリード内に2店舗を構える人気店「Pez Tortilla(ペス・トルティージャ)」では、絶妙な焼き加減の半熟トルティージャが味わえます。定番の「Clásica(クラシカ)」は、卵とジャガイモと玉ねぎでつくられたシンプルなもの。素朴なだけに、この店のトルティージャのおいしさがいっそう際立って伝わってきます。

画像: ペス・トルティージャの「Clásica(クラシカ)」

ペス・トルティージャの「Clásica(クラシカ)」

このほか、パプリカやトリュフ、チョリソなど、さまざまな具が入ったものがあります。また、2ユーロからというリーズナブルな価格で日替わりタパスが食べられるのも、この店が人気の理由のひとつです。

画像: アンチョビとポテトサラダのタパス

アンチョビとポテトサラダのタパス

ビールは、マドリードの地ビールをはじめ、世界中から取り揃えた8種類の生と15種類のクラフトを扱っています。この近辺では比較的新しく、清潔感のある明るい店内で、若者たちにも人気のお店です。

画像: Pez Tortilla(ペス・トルティージャ)
Pez Tortilla(ペス・トルティージャ)
営業時間月〜水曜18:00〜26:00 / 木曜12:00〜26:00 / 金曜18:00〜26:30 / 土曜12:00〜26:30 / 日曜12:00〜26:00
定休日なし
webpeztortilla.com
住所Cava Baja 42

マドリードにいながら、美食で有名なバスク地方のグルメを満喫

Txakolina(チャコリーナ)

画像: バスクを代表するおつまみ「ピンチョス」

バスクを代表するおつまみ「ピンチョス」

マドリードを楽しみながら、スペイン屈指の美食の地域として知られるバスク地方のグルメも味わえるのが「Txakolina(チャコリーナ)」です。カウンターのガラスケースには、見るだけで食欲を刺激する、色鮮やかで種類豊富なピンチョスがずらり。ピンチョスとはバスク地方を代表するおつまみで、パンの上に一品料理が乗った軽食をいいますが、どれも驚くほどボリューム満点です。

画像: ナスとベーコンとチーズのピンチョス(左)と、スペインならではの食材「グラス」のピンチョス(右)

ナスとベーコンとチーズのピンチョス(左)と、スペインならではの食材「グラス」のピンチョス(右)

ピンチョスはすべて指差しでオーダーできるので、スペイン語がわからなくても安心です。おすすめは「グラス(gulas)」が乗ったピンチョス。スペインではうなぎの稚魚が大変な高級食材として扱われているのですが、グラスは白身魚のすり身をそれに見立てて細長く整形したものです。

背びれ部分はイカスミで色づけされ、見た目は本物のよう。グラスそのものはあっさりと淡白ですが、たっぷりのニンニクとオリーブオイルで調理されたアヒージョ風味で、赤唐辛子がわずかに舌を刺激します。「もどき」とはいえ十分に贅沢を感じられる美味です。

ドリンクには、店名にも掲げられている名物の「チャコリ(Txakoli)」をぜひ。バスク地方の微発泡白ワインで、ボトルを頭上にかかげて高い位置からグラスに注ぐのが特徴です。こうすることで酸味がまろやかになり、きめ細かな泡が生まれるのです。見事なパフォーマンスにも注目してみてください。

画像: 店はカバ・バハ通りのちょうど中央辺り。チャコリを注いでいるかわいいイラストが目印

店はカバ・バハ通りのちょうど中央辺り。チャコリを注いでいるかわいいイラストが目印

異文化が交錯し、あらゆる個性が共存しているのが、マドリードの街の最大の魅力。各地から集まったさまざまな食文化を堪能できるのも、マドリードならではの贅沢のひとつです。

Txakolina(チャコリーナ)
営業時間月~木曜12:00〜17:00、19:00〜24:00 / 金曜12:00〜17:00、19:00〜26:00 / 土曜 12:00〜26:00 / 日曜 12:00〜24:00
定休日なし
住所Cava Baja 26

壁一面を埋め尽くすワインボトル。厳選されたスペイン産を飲み比べ

Tempranillo(テンプラニージョ)

最後にご紹介するのは「Tempranillo(テンプラニージョ)」。説明の前に、まずは店内の写真を見てみてください。

画像: Tempranillo(テンプラニージョ)

壁一面を埋め尽くすワインの数々は、すべてスペイン産。この店のワインへのこだわりは、店名からも伺えます。テンプラニージョとは、スペインを代表する赤ワインのぶどう品種。香り豊かで酸味を含む繊細な味わいです。もちろん、この店のワインリストには選りすぐりのテンプラニージョが並びます。恵まれた環境と熟練の技から生まれた上質のスペインワインを飲み比べるなら、絶好の一軒です。

画像: グラスワインはもちろんテンプラニージョ。右のタパスは「ウズラ胸肉のグリル サルモレッホソース」

グラスワインはもちろんテンプラニージョ。右のタパスは「ウズラ胸肉のグリル サルモレッホソース」

タパスのおすすめは「ウズラ胸肉のグリル サルモレッホソース」(Pechuga de codorniz a la parrilla con salmorejo)。サルモレッホとは、トマトベースのクリーム状スープです。香ばしいパンにサルモレッホがしっとり染み込み、塩気の効いた柔らかでジューシーな肉と調和します。数人でシェアするなら、「焼いた小イカと天然アーティチョーク」(Chipirones a la plancha con alcachofas naturales)がおすすめ。

画像: 静かで居心地の良い店内

静かで居心地の良い店内

この店は16時から20時のあいだ閉店しています。スペインは夏の暑さが厳しいため、一般的に13時から16時頃の時間帯は「シエスタ」と呼ばれる休憩をとって、涼しくなってから活動を再開する習慣があります。飲食店の人々も同様にシエスタの休憩をとるのです。時間帯は店によりますが、観光客の特に多いエリアでなければ終日営業している店は少なく、多くの店では数時間の休憩があります。

Tempranillo(テンプラニージョ)
営業時間月曜13:00〜16:00 / 火〜日曜13:00〜16:00、20:00〜24:00
定休日なし
住所Cava Baja 38

1日5回の食事をとる、スペイン人の胃袋を支える場所

スペインでは一般的に、1日5回の食事をとります。7時頃の朝食、10時頃の軽食、14時前後の昼食、18時頃のおやつ、そして21時過ぎの夕食。バルというと夜にお酒を飲む大人の社交場のイメージですが、地元の伝統的なバルの多くは早くからオープンし、5回の食事すべてに対応しています。

出勤前に朝食のチュロスを食べ、コーヒーを飲んでいる人もいれば、仕事の休憩中に生ハムを挟んだボカディージョ(サンドイッチ)を食べて一息ついている人も。小さな子どもを連れた家族もバルにやってきます。バルはまさにスペイン人の胃袋と生活を支える場所なのです。

画像: 1日5回の食事をとる、スペイン人の胃袋を支える場所

ご紹介したカバ・バハ通りへの最寄りの地下鉄駅は「La Latina(ラ・ラティーナ)」。日曜日にはこの周辺で、マドリード最大の蚤の市「ラストロ」が開かれます。周辺の観光とあわせて、マドリレーニョの日常を垣間見られるバル巡りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

木村円

マドリード在住。編集・ライターとして雑誌制作に携わっている。マドリードの地元クリエイターたちによる街ガイド「Madrid Diferente」の日本語版ウェブサイトを創設。最新のマドリード情報を配信中。
www.madriddiferente.jp

JALで行くスペイン旅行ツアー

掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。

This article is a sponsored article by
''.