アスファルトの路面に陽炎が立ち、濃密な香りが立ち上る季節になると、不思議と食べたくなるのがうなぎだとしたら、それは日本人として無理からぬこと。江戸期から庶民の間に広まり、夏バテに効くとされてきた滋養食材は、なにせおいしいのだから仕方ありません。全国に産地は数あれど、このたびは東西に名の知られた静岡の浜名湖へと、うなぎ旅に赴きます。古く遠江(とおとうみ)と呼ばれた地には、うなぎを取り巻く、食との出会いが待っていました。
画像1: うなぎは焼きでも刺身でも。初夏の静岡、五感で味わう遠江

※価格は税込み表記です。

羽田空港から車で約3時間半、中部国際空港セントレアからなら約2時間。フジドリームエアラインズとのコードシェア便が就航する静岡空港からなら、約1時間です。遠州とも呼ばれる遠江(とおとうみ)は、古くは今川家の領地として栄え、徳川家康の居城・浜松城を有し、うなぎの一大産地として知られる浜名湖があります。

画像2: うなぎは焼きでも刺身でも。初夏の静岡、五感で味わう遠江

浜名湖周辺には専門店がひしめき、東西の交流地らしく、焼きも蒸しも思いのままに選び放題。さらには世にも珍しいうなぎの刺身があるというではありませんか!

パリッと焼かれた蒲焼きと、透き通るような薄造り。「松葉」で出会うふたつのうなぎ

東名高速の浜松ICを降りてすぐのところに、老舗のうなぎ店、松葉があります。

画像1: パリッと焼かれた蒲焼きと、透き通るような薄造り。「松葉」で出会うふたつのうなぎ

大きな駐車場に車を駐めて暖簾をくぐると、備長炭が弾く音に混じって甘い蒲焼きの香りが漂います。グレードはどうするか、ご飯の量はどれほどか、うなぎのオーダーで迷い、焼き上がりを待つ時間ほど、心ときめく待ち遠しさはないかもしれません。やがて現れたのが、存在感をたたえた黒いお重です。

画像2: パリッと焼かれた蒲焼きと、透き通るような薄造り。「松葉」で出会うふたつのうなぎ

蓋を開けると、湯気とともに立ち上る濃密なうなぎの香り。焼き色が強めで、皮はパリッ、身をふわっと仕上げる三度焼きです。しっかりと弾力があり、焼き目は香ばしく、タレはほどよく甘みを抑えており、箸はどんどんと進みます。付け合わせの柴漬けと肝吸いがほどよい箸休めとなり、うなぎの時間はかくも幸せで一瞬のはかなさです(上うな重4,466円)。

画像3: パリッと焼かれた蒲焼きと、透き通るような薄造り。「松葉」で出会うふたつのうなぎ

桶に入ったざるに、こんもりとうずたかく積まれた氷の上に、品良く薄切りの白身が並びます。これが世にも珍しいうなぎの刺身(3,212円)。箸で一枚つまんでさしちょこに付けると、黒い醤油の水面にパッと脂の花が咲き、「ただの白身ではないぞ」と訴えかけるよう。コリコリとした食感で、口の中はたっぷりとうまみが広がります。臭みはまるでなく、食感とうまみ、豊かな脂がたまりません。思わず冷酒を頼みたくなる珠玉の名物です。

松葉

住所静岡県浜松市中央区下石田町982-1
電話053-421-3714
営業時間11:00~14:00、16:30~20:00(L.O.19:30)
定休日不定休
web松葉 公式サイト

静岡といえばお茶。香ばしい香りと芳純な味わいで迎えてくれる、「界 遠州」

うなぎを求める今回の旅の逗留地に選んだのが、浜名湖・内浦の南岸にある、界 遠州です。

画像1: 静岡といえばお茶。香ばしい香りと芳純な味わいで迎えてくれる、「界 遠州」

星野リゾートの温泉宿「界」ブランドの施設で、土地に根付いた文化や特色をサービスに変換して、唯一無二の宿泊体験を提供してくれます。界 遠州では、名産のうなぎもさることながら、浜名湖に備わった魅力が体験できます。

画像2: 静岡といえばお茶。香ばしい香りと芳純な味わいで迎えてくれる、「界 遠州」

ロビーへ足を踏み入れると、煎茶の香りがたきしめられています。明るいラウンジには、壁一面に並んだ真鍮の茶筒が鈍い光を放ちます。そう、界 遠州の掲げるテーマは「お茶」なのです。

画像3: 静岡といえばお茶。香ばしい香りと芳純な味わいで迎えてくれる、「界 遠州」

界には、各施設で地元のことを楽しく学ぶアクティビティ「ご当地楽」を実施しています。銘柄はもちろん、収穫時期や淹れる温度の違いで味わいが変わることなどを踏まえ、おいしいお茶の入れ方を学びます。夏にピッタリの3煎を飲み比べ、どれを最初に飲んだのかを当てるお茶当てゲームも。

画像4: 静岡といえばお茶。香ばしい香りと芳純な味わいで迎えてくれる、「界 遠州」

最後にゆず茶を一煎。季節で変わるサブレは、レモン風味のものを添えて。すがすがしく、気付きに溢れた粋なウェルカムセレモニーです。

温泉とお茶でゆったりとくつろぎ、食休み

画像1: 温泉とお茶でゆったりとくつろぎ、食休み
画像2: 温泉とお茶でゆったりとくつろぎ、食休み

美茶楽ラウンジには常時たくさんの茶葉があり、サーバーには2種の冷茶が常備されています。気に入ったお茶をお部屋に持ち帰ることができる趣向です。

画像3: 温泉とお茶でゆったりとくつろぎ、食休み
画像4: 温泉とお茶でゆったりとくつろぎ、食休み
画像5: 温泉とお茶でゆったりとくつろぎ、食休み

客室はすべてレイクビュー。障子越しの柔らかな光が遠州綿紬のクッションに差し込み、湖面を渡る風と溶け合い、深呼吸だけで心が整うかのようです。特別室には大きなテーブルが備わり、急須と湯飲みがたくさん準備されています。これはゆっくりとお茶を飲んでくつろぐための趣向。部屋付きの露天風呂は信楽焼で、風情があります。

画像6: 温泉とお茶でゆったりとくつろぎ、食休み

界 遠州がある舘山寺温泉の源泉は、全国でも屈指の塩分濃度を誇る塩化物強塩泉。館内には檜造りの内湯と露天を配した「湖都の湯」、大桶のヒバ露天が特徴の「華の湯」のふたつの大浴場があり、いずれも浜名湖を渡る風が肌を心地よく撫でます。

茶の葉が沈む湯呑の底のようにゆっくりと時間が流れていきます。高い塩分が湯冷めを防ぎ、短時間で体を芯から温めてくれるので、夕映えの湖を眺めながらの湯浴みが格別です。

ディナーはうなぎに加え、ふぐまで。遠州の美味オールスターズ

おまちかねのディナーは、うなぎに加えてふぐまで楽しめる、「ふぐうな会席」です。ドウダンツツジを生けた宝楽盛りには、度肝を抜かれることでしょう。

画像1: ディナーはうなぎに加え、ふぐまで。遠州の美味オールスターズ

先付けは、白焼き鰻の柑香和え。みかん酢とだいだい酢に白焼きを合わせ、あえて梅を載せた逸品です。従来食べ合わせが悪いとされてきましたが、その理由は「おいしすぎて食べすぎるから」だとか。花の香りのするお茶とのペアリング。ふくよかな風味が、うなぎの豊満で爽やかな味わいとよく合います。

画像2: ディナーはうなぎに加え、ふぐまで。遠州の美味オールスターズ

辛口の日本酒を冷やでオーダーするのもいいでしょう。ちなみにうなぎは後半にも出てきて、こちらは鍋仕立ての「うなすき」です。甘めに味付けた割り下に、ゴボウの歯ごたえが効いています。卵とうなぎ、よく合う組み合わせです。最初はそのままいただき、途中で半熟卵を崩し、トロリとこぼれる黄身にうなぎを絡めれば、濃密なうまみにご飯が欲しくなりますが、そこはご安心ください。止め椀と白米が出てきます。

画像3: ディナーはうなぎに加え、ふぐまで。遠州の美味オールスターズ

お造りには、昆布締めにしたふぐが。うまみがギュッと詰まった凝縮感に驚かされます。もとより淡泊で滋味深いふぐに、コリコリとした歯ごたえが加わり、昆布の華やいだうまみが上乗せされ、なんとも言えない芳純さ。

裏手に見えるのが八寸や小鉢。なかでも野菜由来のうまみがたっぷり入った「海老とセミドライトマトの琥珀寄せ」や、食感のコントラストが楽しい、ずんだ黄身まぶし。とろみのある優しい味の養老豆腐にうにを載せたものは、淡く繊細なおいしさです。

画像4: ディナーはうなぎに加え、ふぐまで。遠州の美味オールスターズ

ふぐはもう一品あり、天然ものの真ふぐの唐揚げです。そんじょそこらの白身魚とは一線を画す、濃密で肉感的で筋肉質な、力強い味わいが印象的です。グラスの白ワインと合わせるならリースリングがおすすめでしょうか。華やかで酸味を抑え、ミネラル感をよく感じられる一杯なら、好相性で受け止めてくれます。

画像5: ディナーはうなぎに加え、ふぐまで。遠州の美味オールスターズ

21時。夜が更けてからはラウンジでバータイムです。無料で振る舞われるお茶とお酒のカクテル、その名も「おちゃけ」です。四季に加えて新茶の時期、年間で5つのレシピが楽しめます。夏は紅茶とジンをベースに甘みを加え、炭酸で割った「月紅(げっこう)」というオリジナルカクテル。

画像6: ディナーはうなぎに加え、ふぐまで。遠州の美味オールスターズ

柔らかい口当たりで、ジンと紅茶のオリエンタルな香りが鼻腔をくすぐります。度数は強くないものの、お酒が苦手な方にはノンアルコールのモクテルをご用意しているのだとか。ほうじ茶ベースの豆のお菓子をおつまみに。ほろ苦く、ほんのり甘い大人の味わいです。

体と呼吸を整える茶摘み体操と、すがすがしい香りに満ちた茶箱の朝食

翌朝、「浜名湖茶摘み体操」が始まります。茶畑を背景に、しばしのリラクゼーション。

画像1: 体と呼吸を整える茶摘み体操と、すがすがしい香りに満ちた茶箱の朝食

茶畑を見渡すようなゆるやかな旋回運動。茶摘みの姿勢で腕を伸ばし、肩甲骨を開くものなど、お茶にまつわるプログラムはユニークな25分間です。動きは見た目以上に全身をほぐし、薄く朝もやのかかった湖面に深い呼吸を誘います。

画像2: 体と呼吸を整える茶摘み体操と、すがすがしい香りに満ちた茶箱の朝食

体操後は川根杉で組んだ茶箱に小鉢を収めた「茶箱朝食」。開ければ茶葉が敷き詰められており、ほんのりお茶の香り。あおさとアサリの味噌汁は鍋にかけて提供されます。ご飯は炊き立てで、つやつやのピカピカ。ほどよく冷ました煎茶を添えて。素朴ながら滋味深い遠州の朝の味が、目覚めたばかりの体に染み込んでいきます。

界 遠州

住所静岡県浜松市中央区舘山寺町399-1
電話050-3134-8092(界予約センター)
チェックイン/チェックアウト15:00/12:00
客室数33室
体験利き茶、浜名湖茶摘み体操
web界 遠州 公式サイト

「うなぎパイファクトリー」で、旅の甘い余韻に浸る

チェックアウト後、浜松西ICへ向かう途中に立ち寄りたいのがうなぎパイファクトリーです。

画像1: 「うなぎパイファクトリー」で、旅の甘い余韻に浸る

全国的な知名度を誇る浜松の銘菓であり、「夜のお菓子」としてあまりにも有名です。うなぎの粉が練り込まれた繊細なパイ生地は約9000層に及び、10年以上の経験が求められる職人の手仕事だということをご存じでしたか。

画像2: 「うなぎパイファクトリー」で、旅の甘い余韻に浸る

そんな手仕事を経て、ガラス越しに見える製造ラインでは、パイ生地がリズミカルに整列し、秘伝のタレが塗られた途端に黄金色へ変わる様子が見学できます。予約制ツアーに参加すれば、焼きたてのうなぎパイを試食できます。

画像3: 「うなぎパイファクトリー」で、旅の甘い余韻に浸る

2階のカフェでは食事やうなぎパイを使った本格スイーツが楽しめます。

画像4: 「うなぎパイファクトリー」で、旅の甘い余韻に浸る

季節によって味が変わるパフェは、「夜のお菓子とひこうき雲〜マンゴー〜」(1,400円。8月までの期間限定)は、飛行機雲のようなアーモンド入りメレンゲがそびえ立ちます。濃密なマンゴーソルベは自家製。食感と品のいい甘さがハーモニーを奏でます。「うなぎパイジェラート」(550円〜)は、自家製ミルクジェラートとうなぎパイ1.5本分を、提供直前にブレンド。“ジャリ×サク”の食感が楽しめます。

画像5: 「うなぎパイファクトリー」で、旅の甘い余韻に浸る

うなぎパイの製造・発売元である春華堂のお菓子がたくさん並ぶ直売店も併設。お土産選びも楽しいものです。ブランデーが香る「うなぎパイうなぎパイV.S.O.P.」などのほか、直売店限定のお得用もありますが、連日完売する人気だとか。気になる方はお早めに。

うなぎパイファクトリー

住所静岡県浜松市中央区大久保町748-51
電話053-482-1765
営業時間10:00~17:30
定休日火・水曜
webうなぎパイファクトリー 公式サイト

食を求める旅とは、土地に思いを馳せる旅でもあります

かくして浜名湖の旅は、うなぎの香ばしさから始まり、ふぐの繊細な味わいを楽しみ、お茶の爽やかな余韻に浸り、甘いうなぎパイのデザートで締める――。一連の旅路は、和食の懐石のような緩急に彩られました。一方で、土地の物語を知ることもできました。淡水と海水が混じる湖が育むうなぎは豊かな土地を示し、ふぐの繊細で筋肉質な味わいは遠州灘の海流を想起させ、お茶の鮮烈な香りは丘陵地の寒暖差を示唆します。

画像: 食を求める旅とは、土地に思いを馳せる旅でもあります

最後に徳川家康が17年間を過ごし、「出世城」とも呼ばれる浜松城を訪ねれば、この土地が古くから人々の営みと深く結びつき、食文化や産業が育まれてきたことを実感できます。食を求める旅路とは、土地に思いを馳せる旅でもあるのです。さて、お昼ご飯はどこに行きましょうか。

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