日本には、その土地ごとに歴史や文化を色濃く映し出した“饗応(きょうおう)料理”、すなわちおもてなし料理があります。食卓を鮮やかに彩る美しい料理たち。たとえば仙台の箪笥(たんす)料理は、会席が箪笥に収められているという珍しい趣向が凝らされています。一方、京都の萬福寺で振る舞われる普茶(ふちゃ)料理は、なんともにぎやかな精進料理のフルコース。胸躍るご馳走を求めて、旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
画像1: 仙台の箪笥料理と、京都の普茶料理。東西おもてなし料理の美食旅

工夫を凝らし、こだわりの調理法でおいしく仕立て上げるのが、各地に伝わるおもてなし料理の醍醐味といえます。本来であればお祝いごとなど特別な饗応でしかご相伴にあずかれないものですが、近年では観光客向けに提供していることも少なくありません。

地元に根ざした食文化を深く堪能できるおもてなし料理のなかでも、東と西で趣を変えてご紹介しましょう。

伊達家ゆかりの邸宅が、人気のレストランに様変わり

まず訪れたのが、仙台。伝統的な木地呂漆で仕上げられた小さな仙台箪笥に、四季折々の趣向を凝らした会席が詰められているのが、「箪笥料理」です。仙台といえば伊達家の領地。明るい趣向を好んだとされる伊達政宗公のお膝元ならではの、驚きに満ちたおもてなし料理といえます。

画像1: 伊達家ゆかりの邸宅が、人気のレストランに様変わり

箪笥料理をいただけるのが「旧伊達伯爵邸 鍾景閣(しょうけいかく)」。ここは伊達家15代当主が大政奉還ののちに家臣から買い取った屋敷を改修して移り住み、自邸として居住した場所。材木はすべて秋田杉の柾目ばかり。今ではほとんどお目にかかれない贅沢な造りです。

画像2: 伊達家ゆかりの邸宅が、人気のレストランに様変わり

「常在戦場」といわれる、常に戦に備える家風が色濃く反映されており、至るところに凛々しさを感じられます。文化財として風化を防ぐため館内は無料開放されており、いつでもご覧いただけますが、鍾景閣はレストランとしても有名です。

画像3: 伊達家ゆかりの邸宅が、人気のレストランに様変わり

「もともと仙台城から見える場所にありましたが、教育の場に提供したいという伊達家の意向があり、学校施設として使用されていました。約40年前に宮城県沖地震が発生し学校施設としては使えなくなり、県に寄贈されたのです。その後、この場所に移築され、現在はレストランとして活用しています」

こう教えてくれたのが、浮津秀逸さん。箪笥料理をいただけるコースはいくつかありますが、比較的食べ切りやすい「箪笥ミニ膳」(5,500円)を、主人の部屋として使われた居間書院でいただきます。

重厚な箪笥のなかには、きらびやかな料理が

画像1: 重厚な箪笥のなかには、きらびやかな料理が

重厚感溢れる箪笥が運ばれてきました。蓋を開け、引き出しを引くと、ハッとするような美しい料理の数々が。目で見て楽しめる趣向です。

画像2: 重厚な箪笥のなかには、きらびやかな料理が

(左)箪笥上段は昆布のうま煮とイセ海老しんじょう、(右)中段は故郷を感じる小鉢という趣向です。ずんだ餅はふんわりとした食感で豆の存在感があります。そして甘辛く煮付けられたツブ貝は歯ごたえが楽しいもの。

画像3: 重厚な箪笥のなかには、きらびやかな料理が

(左)下段は前菜が美しく盛り付けられています。牛タン味噌、ホタテのうま煮、蛇籠(じゃかご)サーモン巻きは爽やかな酸味、イカや人参カステラが箸休めにうってつけです。(右)扉を開けると先付として、鮭のなれ寿司麹漬け。ねっとりとしたおいしさで、日本酒がほしくなります。

まだまだ続くおもてなし料理の数々

画像1: まだまだ続くおもてなし料理の数々

献立は箪笥のなかのみならず。(左)揚げ物は天ぷら盛り合わせ。鱚の雲丹揚げはサックリとしたなかにふくよかな旨みが閉じ込められています。ズッキーニやインゲンなど、季節の名脇役が花を添えています。(右下)旬のお造りに炊き合わせ。(右上)そして焼き物は鰆の朴葉焼きです。胡麻の味わいが濃厚な一品です。

画像2: まだまだ続くおもてなし料理の数々

極めつきはご飯。ふっくらとした鰻が載っており、香のものが付きます。止め椀はお麩と生のりのみそ汁で、さらにデザートも。梨のゼリー寄せをいただくころには、すっかり満腹になっていることでしょう。

画像3: まだまだ続くおもてなし料理の数々

「もともと本格会席でしたが、もっと気軽に召し上がっていただきやすいよう5,500円にしたところ大人気となり、海外からもお客さまが見えるようになりました。四季折々、月替わりで出しています。毎月来るお客さまもいらっしゃいますよ」と浮津さん。石巻出身の板長さんが腕を振るう、絢爛豪華な東北の宴に舌つづみを打ちませんか。

旧伊達伯爵邸 鍾景閣

住所宮城県仙台市太白区茂庭字人来田西143-3
電話022-245-6665
営業時間11:30~14:00(L.O.13:30)、17:00~20:00(L.O.19:30)
定休日12/29~31、1/1のランチ
webhttps://shoukeikaku.jp

精進料理のなかでも、中国にルーツを持つ普茶料理

伊達家にルーツを求められる箪笥料理を武門のおもてなしとするならば、打って変わって仏門のおもてなしは趣深いものです。西に目をやれば、古都京都にはおもてなし料理の数々があります。なかでも「黄檗宗大本山萬福寺(おうばくしゅうだいほんざんまんぷくじ)」には、「普茶料理」と呼ばれる精進料理が伝わります。

画像1: 精進料理のなかでも、中国にルーツを持つ普茶料理

1661年に中国の禅僧・隠元禅師によって開創された伽藍は、中国明朝様式をふんだんに取り入れたもの。日本の禅寺とは一線を画する重厚感溢れるたたずまいに、背筋を正されるような思いを抱くことでしょう。

隠元禅師により伝えられた普茶料理には「普く(あまねく)大衆と茶を供にする」という意味が込められていると伝わります。日本古来の食事作法では上座からそれぞれに個別の膳が用意されますが、普茶料理は席に上下の隔たりを作らず、和気あいあいと料理を囲む“団らん”がお作法。

画像2: 精進料理のなかでも、中国にルーツを持つ普茶料理

すなわち大皿が基本で、こちらはスタンダードな4人盛り。現在はコロナ禍に配慮し個別に盛り付けられた「特別普茶膳『あおい』」(8,888円)がオススメだとか。

にぎやかな普茶料理を食べやすいアレンジに

画像1: にぎやかな普茶料理を食べやすいアレンジに

「麻腐(まふ)」は胡麻豆腐のルーツともいうべき精進料理のスタンダード。胡麻の味わいと香りが口のなかいっぱいに広がります。

画像2: にぎやかな普茶料理を食べやすいアレンジに

「油(ゆじ)」は素材と衣に味付けがされており、実は唐揚のルーツなのだとか。油もふんだんに使用して栄養価の高い料理として修行僧に愛されてきたといいます。サクッとした食感も楽しく、年代を問わず楽しめる一品です。また、普茶料理といえば「もどき」が有名です。肉を一切使わずに鰻の蒲焼やカマボコに見立てたものもあり、新鮮な驚きとともに味わえます。

ちなみにファーストドリンクは無料。「玉兎(たまうさぎ)」という、ボトルに入った料亭御用達の高級玉露も選べます。

「精進手毬寿司」は目にも鮮やか。旬ごとに変わる色とりどりの漬物などを使った、鮮やかなひとくちサイズのお寿司。精進料理というと、素朴で滋味に溢れた料理という印象があるかもしれませんが、中国から伝わった普茶料理は華やかで起伏に富んだもので、新鮮な驚きに溢れていました。

食後には、お坊さんと伽藍を拝観

ちなみに食前には、山内の拝観も可能です。「特別普茶膳『あおい』」を頼めば、お坊さんが付きっきりで30分から1時間ほど諸堂を案内してくれます。

「食を通じて“禅”を体感していただきたいとの想いから、黄檗宗務本院高僧による特別拝観のご接待をさせていただいております。萬福寺での体験が思い出深いものになるよう、精進努力を重ねてまいります。ほっこり半日、あるいはゆったりと一日、ぜひ京都宇治の萬福寺でお過ごしください」

画像: 食後には、お坊さんと伽藍を拝観

こうお話をいただいたのが、宗務総長の荒木将旭さん。静謐(せいひつ)な伽藍で饗される、鮮やかで力強い精進料理と禅文化に触れるおもてなしは、旅のひとときを豊かな時間にしてくれることでしょう。

黄檗宗大本山萬福寺

住所京都府宇治市五ケ庄三番割34
電話0774-32-3900
営業時間11:30~14:30(昼食のみ)
定休日なし
webhttps://www.obakusan.or.jp

ところ変われば食も変わる。津々浦々のおもてなし料理

文化が変われば食も変わります。ところ変わればおもてなしも変わるのです。言いかえれば津々浦々におもてなし料理があり、その神髄は心づくしにあるといえます。

その場所にある食材と、その土地に根付いた文化のなかで、できる限りの腕を尽くして振る舞われるご馳走には、温かな歓待の思いを感じることができます。箪笥料理や普茶料理のみならず、各地にあるおもてなし料理は、きっと旅に華やかなアクセントをもたらしてくれることでしょう。

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