ヨシダナギさんは2017年にOnTrip JALのインタビュー記事にご出演いただき、ライフワークでもあるアフリカでの活動について、その想いを語っていただきました。
現在は、新型コロナウイルスの影響で海外への渡航が制限され、大好きなアフリカへの旅だけでなく、さまざまな活動が止まってしまっています。それでも前向きに、自宅での生活を満喫しながら、また旅に出る日を楽しみにして過ごしているそうです。
ヨシダナギさんが今、感じていること
先日ヨシダさんが発表された写真集「DRAGQUEEN -No Light , No Queen-」の発売や連動したイベント・展示会は、新型コロナウイルスの影響ですべてストップしてしまいました。今は、自宅で静かに過ごしているというヨシダさん。あえて、創作活動をせずゲームをしたり、料理をしたりと「なにもしない時間」を過ごしているそうです。
「私も大変だけど、もっと大変な人もたくさんいると思うんです。私としては悲観しすぎず、これから死ぬまでの間でこんな日本を見ることはないと思うので、すごい時に立ち会ったな、という心境です。だから今は『仕事が始まったらできないこと』をとことんやろうと思っています。12時間ゲームし続けたりとか(笑)」(ヨシダナギさん・以下同)
それでも「旅をしなくなった」ことで分かってきたこともあります。
「こうして日本で自宅に閉じこもっているとゲームやネットに時間を費やしているので、見えている世界が狭いと感じています。やっぱり、外に出て直接人と触れ合うことで新しい発見があったり、世界を知ったりできるわけで、旅もそうですよね。“見えている世界が広がる”体験を、いま本当に欲しているところですね」
インターネットは世界中の情報に触れることが出来ますが、やはり直接自分の目で見て人に会って広がっていく世界は、ネットで見ている世界とは異なる魅力があります。世界を旅してきたヨシダさんだからこその、重みのある言葉です。
新しい出会いがあったインドの旅
ヨシダさんの最近の旅の思い出は、スリランカと南インド。仕事のロケハン(事前視察)とプライベートを兼ねて南インドを周遊したときにさまざまな発見があったそうです。
「南インドに行った時の発見は、意外と観光客がいないということ。知人から「インドは南側がいいよ」って話を聞いていたので観光客も多いと思っていたんですが、実際行ってみたら、現地の人ばっかりで…。インドってまだまだ知られていない場所なんだなって思いました」
その旅ではスリランカから入り、南インドのチェンナイ、ケララ、ムンバイを巡ったそうです。どんな旅だったのでしょうか。
「スリランカは、現地の人がとてもおだやかな様子で心地よかったです。ガルからヒッカドゥワと海沿いを巡りました。ガルは海があって、綺麗な街でしたよ。ヒッカドゥワは波乗りする人は楽しめると思います。私はしないのですが… (笑)。ロケハンを兼ねて街歩きをして、アーユルヴェーダのマッサージを楽しみました」
さらに南インドに渡ってパワースポットと呼ばれる寺院を巡ったそうです。
「インドは、チェンナイから入ってケララの方まで下って行って、最後はムンバイまで行きました。インドに行きたかった寺院があったので、メインはチェンナイでの神様巡りでしたね。バラジ寺院と言って、あまり外国人に知られていない場所です。私、インド占星術的にいうと、去年が60年に1度の星回りだったらしくて。それで、せっかくだから神様を見に行こうと思って」
チェンナイはベンガルールに続くインド4位の大都市。「南インドの玄関口」として注目され、最近では多くの日系企業も進出しています。比較的近い観光地としては世界遺産のマハーバリプラムやクリシュナのバターボールなどがあります。
ヨシダさんが訪れたのはチェンナイから車で2時間ほどのティルマラという街。ここにはヒンドゥー教のベンカテシュワー(ヴィシュヌ)神を祀る寺院があり、通称でバラジ寺院と呼ばれています。毎週末10万人もの人々が訪れ、お祭りのある時は参拝するだけで2、3日かかってしまうという南インドでも最大級の寺院ですが、ここでちょっとしたハプニングと素敵な出会いがあったそうです。
「バラジ寺院を参拝する時はパスポートが必要なんですが、忘れてしまって… 。ホテルに戻ってからだと受付時間に間に合わないと言われてしまい、翌日にリベンジしました(笑)」
「翌日、改めて参拝しに行ってインド人の大群衆の中で行列に並んでいたら、日本好きの女の子に出会ったんです。彼女が神様のことや寺院の由来について説明してくれて、「ここに並ぶと神様がど真ん中で見れるよ」っていう並び場所とか、掛け声のタイミングとか、いろいろ教えてくれたんです」
バラジ寺院に参拝する方は、そのほとんどがインド人で、「想像を絶する」ほどの人の多さだったそうです。外国人は手荷物やパスポートのチェックなどの検問があり、衣装も礼拝用に下を白装束に着替えるなどのルールがあるため、ガイドなしでは困難なことも多いとか。
「もし前日に入っていたら、神様を中央から見ることはできなかった。私は、神様を見たら全部祈るんだと思っていたんですけど、「ここでは祈っちゃダメ」って場所があるんですね。そういうのを全部教えてくれたので、すごくいいお祈りができたなぁと。彼女と出会えなかったら、この寺院を100%楽しめなかったなって思います」
旅を夢見て。募るアフリカへの旅
そんなヨシダさんのまた行きたい場所は、やはりアフリカでした。
「やっぱり、アフリカに行きたいです。去年からずっと行けてないんですよ。アフリカ大陸の中でも、まだ行っていない国がたくさんあって。今行きたいのは、南スーダンとアンゴラ。治安や現地の経済の混乱の面で難しい部分もありますが、いつか行きたいですね」
さらに、エチオピアで会った少年とのエピソードについて話してくれました。
「エチオピアに、2010年ぐらいから学費を送っている男の子がいるんです。その子に何年か前に会った時は、17歳ぐらいになっていて「携帯が欲しい」と言われていて。最後に会った時にスマホをプレゼントしたんです。それ以来、頻繁に連絡がくるようになってしまって(笑)、今もやりとりをしています」
「今回のコロナ禍について「日本はどう?」って聞かれたり、「エチオピアはこんな状況だよ」って連絡が来たり…。現地では、まだそんなに深刻に考えていないようなんですよね。情報がいっていない、というのもあるんですが。もともと疫病に対して善くも悪くも精神的な耐性があるみたいです。心配ではあるのですが、彼らのたくましさ、強さを感じてます」
これまで何度も訪れたアフリカには、ヨシダさんが「また会いたい」と思う人がたくさんいるのだそう。
「今まで一緒に仕事をしたガイドさんや、一緒に撮影をしてきた民族の方たちにもう一度会いたいですね。彼らからすると、旅人や外国人は、一回会って終わりの関係、というイメージが強いんです。でも、すごく可愛がってもらったので、もう一回、顔を見せに行くことが彼らに対しての敬意でもあるかなって思っています。元気だよ、というのを伝えに行きたいなって」
旅の素晴らしさは、「また会いたい」と思える人に出会えることだというヨシダさん。アフリカは彼女の仕事の場でもあり、人生にとってかけがえのない思い出のある場所。旅を夢見るならやはり、「また会いたい人」に会いに行く旅になるのでしょう。さらにこんな楽しいお話も聞かせてくれました。
「アフリカに行く時に、現地で喜ばれるのが「東京バナナ」なんです(笑)ガイドさんや原住民の方に、たくさん持っていきます。彼らは、知らない味に抵抗があるみたいなんです。だから、バナナだと知っている味という安心感があるのと、あのスポンジのケーキのふわふわが美味しいみたいですよ。なので、お土産にはテッパンなんです(笑)」
また旅ができるようになって、東京バナナをたくさん抱えてアフリカの人たちと楽しく会話をしているヨシダさんの様子を伺うのを、楽しみにしたいと思います。「また会いたい」と思える人に出会う旅。ぜひ、体験してみたいですね。
ヨシダナギ(よしだ・なぎ)
1986年生まれ フォトグラファー 独学で写真を学び、2009年より単身アフリカへ。
以来アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。唯一無二の色彩と直感的な生き方が評価され、2017年日経ビジネス誌で「次代を創る100人」へ選出。また同年、講談社出版文化賞 写真賞を受賞。
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