1.古市憲寿が語る「短時間でも自分の部屋になる」ホテルライフ
テレビの収録や講演会など、多忙な日々を送る、社会学者・古市憲寿さん。近年は小説家としても活躍され、全国を飛び回る日々のようです。全国津々浦々、たくさんの宿泊施設を利用されているそうですが、古市さんのホテルライフとはどんなものなのでしょうか。
「宿泊施設で過ごす時間って、睡眠時間も入れたら結構長いですよね。どれだけ忙しい滞在でも、10時間くらいはいると思います。24時間のうち10時間を過ごす場所となると、ほぼ自分の生活の一部になるということ。だからすごく大事だと思うんです」
確かに言われてみれば、どんなに観光などをしても、宿泊施設に戻ってから翌朝までのことを考えると、滞在は必然的に長時間にわたります。では、宿泊施設を選ぶ基準は厳しいのでしょうか?
「泊まるだけ、でなく物語だったり、雰囲気だったり、そこでしか感じられないものがある宿泊施設が好きです。日本ではサービスとかホスピタリティとかよく言われますが、僕自身は“そこそこ”がベスト。丁寧過ぎず、雑過ぎないちょうどいい感じのホスピタリティがあればいい。それよりはデザインとか設備とか、空間が気持ちいいところが好きです。たとえ一晩でも、“自分の部屋”になるわけですから」
「物語や雰囲気」。古市さんが重要視する項目においても星のや東京は秀逸です。伝統的な素材と現代的なデザインを融合させています。その素材の一つ一つについてスタッフの方に尋ねると、丁寧に説明をしてくれます。まさにたくさんの物語がつまった日本旅館と言えるでしょう。
2.普通のシティホテルでは得られない、圧倒的な感性への刺激
“物語の存在”は知性と感性を刺激してくれる重要なもの。研究や創作活動を精力的に行う古市さんにとっては、自然と求めるものなのかもしれません。
椅子やたんすなど、調度品のデザインや、クッションの布地。ふみしめる畳の感触や香りなど、星のや東京の細部に至るこだわりは、他の日本旅館やホテルを圧倒します。
「オブジェひとつとっても、デザインが優れていたり、素材が気持ち良かったりして、結構じっくり見てしまいますよね」と、古市さんも室内の調度品やデザインなどのディテールに興味津々です。
さらに、週末の夜は2階のロビーで「雅楽の夕べ」と呼ばれる生演奏のステージが楽しめるなど、視覚だけでなく、聴覚も楽しませてくれる催しが行われます。古くから伝わる日本の伝統音楽である雅楽を至近距離で堪能でき、海外からのゲストはもちろんですが、我々日本人にとっても非日常の体験。新鮮に感じます。
音楽をはじめ、江戸東京の情緒や文化を感じることのできるさまざまなアクティビティが用意されており、滞在中も退屈することなく過ごせるのです。
3.オリジナルアクティビティで江戸文化を体感
星のや東京で用意されているアクティビティは、そのほとんどが、日本の伝統的な体験や芸術が楽しめるものとなっています。古市さんは「めざめの朝稽古」にチャレンジ。江戸時代、神田に道場を構えた剣術流派「北辰一刀流」の剣術の所作と深呼吸を組み合わせたストレッチプログラムです。
「僕は、あまり運動はしないのですが…」と言いながらも、熱心に教えてくれるスタッフさんとともに没頭。
「着物を着たり、木刀を持ったりって、多くの人にとっては非日常ですよね。それが実際に体験できるのはとても素敵だと思います」
2020年の東京は新しい施設のオープンラッシュ。ついつい“新しいもの”に目が向きがちです。東京の伝統的な側面は意識しないと触れられません。
「特に海外からのゲストに喜んでもらえそうですね。「剣術」や「着物」など、いかにも「日本」という文化を求めて東京を訪れる人は多いでしょうから。このようなわかりやすいアクティビティがあると、人にも勧めやすいですね」
4.独創的なスタイルの美食に舌鼓
海外にも友人が多い古市さんにとって、ゲストが来日した際のおもてなしにはやはり「食」が外せないそう。
「食事は、自信を持って紹介できますよね。それは東京の最大の魅力だと思います」
「和食だけじゃなく、全ジャンルの料理が食べられるし、何より安い。世界に負けないレベルで美味しいものが東京にはたくさんあります」
そんな食通の古市さんに楽しんでもらうのは、星のや東京の地下にあるダイニング。調味料に至るまで国産食材にこだわり、魚と野菜を中心にしたコース料理を提供しています。世界的コンクールでも評価される精緻な技法を用いて生まれた、日本ならではのコース料理を独創的なスタイルで提供しています。
差し出されたお品書きに書いてあるのは、「石」「温」「旨」などの漢字一文字。
「漢字と食材の名前しか書いてないので、どんな料理なのかわからない…。ワクワクしますね、楽しみ!」
「前菜のあん肝でございます」と料理を運んできたスタッフさんの手には、なんと「ちょうちん」。
「ちょうちん?」と不思議な表情の古市さん。すると、スタッフさんがひとこと。
「ちょうちんあんこう、でございます…!」
洒落が利いているユニークな提供方法が、独創的です。金柑のピューレとともに楽しむ一皿から、コースがスタートします。
「面白いー! 僕、こういうのすごく好きです」
見た目も楽しい器やお皿、美しい盛り付けの品々が出され、その確かな味を楽しみながら、五感を刺激してくれるコース料理を堪能します。
「土地の素材を活かしながら、料理や盛り付けのアプローチが洗練されているレストランには海外でもよく行きます。味がおいしいのは大前提だけど、せっかく行くからには、何か驚きや格好良さなど、プラスアルファが欲しいと思っています」
星のや東京ダイニングの看板メニューは「五つの意思」。日本料理の5つの味「酸味・塩味・苦味・辛味・甘味」を表現した料理が「石」の上に載って提供されます。台座となっている石ごと持って、手で食べるスタイル。料理に合わせて石の温度をそれぞれ変えているというのも驚きです。伝統とクリエイティブが融合した、浜田統之料理長の代表作のひとつだそう。
「僕は何より食感が一番印象に残りました。食材の柔らかさと、口に触れる石の硬さのギャップ、グラデーションが楽しかったです」
弁当箱を意識した器など、美しい料理はもちろん、そのプレゼンテーションにも釘付けです。そして提供されるたびにそれらについて語られる物語に、古市さんも会話を止めてついつい聞き入ります。
もちろん提供方法だけでなく、調理そのものも繊細。出汁や薬味を巧みに用いて表現される味わいは、まさに「日本らしさ」そのもの。確かなフレンチの技術に裏打ちされた料理と、日本の食材への探求がこれでもかと楽しめる時間です。
「提供方法を含めて、スタッフさんが説明してくれるストーリーがすごくいいですよね。思わず、“へぇー!”って言ってしまいます。それに、小さいポーションでたくさん出してくれるからそれも嬉しい」
と、大満足の古市さん。
「歴史的なものと、最新のものがうまく融合して、それが面白いクリエイティブになっている。どちらかだけだと、ちょっと疲れちゃうんですよね」
料理だけでなく、星のや東京の魅力はそのクリエイティビティにあるのかもしれません。
5.東京人から見た、「星のや東京」の魅力
東京に住んでいると、東京で宿泊するという体験はなかなかなさそうですが、この「星のや東京」の魅力はなんでしょうか。
「僕自身、泊まるならここっていうお気に入りの場所があると、その街自体が好きになるし、また行きたい街になる。だから、東京を好きになってもらうのにここはすごくいい場所だと思います。新旧の文化がセンスよく混じりあっている。それはとても東京的ではないでしょうか」
伝統的な「江戸文化」らしいしつらえと、現代的なデザインが融合する「星のや東京」は、まさに江戸と東京が交差した、古市さんのいう「東京らしさ」を象徴するような宿泊施設と言えるでしょう。
滞在後、海外からゲストが来るなら、絶対に星のや東京を勧めると断言してくれた古市さん。
「僕自身の話でいうと、地方に行くと、星野リゾート系列があると嬉しくなりますね。星のや東京もそうだけど、空間も接客もすべてが“ちょうどいい”ので好きです。
実は小説『平成くん、さようなら』の中にも熱海にある星野リゾートの宿泊施設を登場させているんですよ。小説内でも、“星野リゾートだし、安心だ”みたいな雰囲気で書いています(笑)。今回の滞在でも、やっぱり空間の美しさだけでなくスタッフさんの“つかず離れず”の感じがちょうどよくて、とても居心地がよかった。どんどん日本中につくってほしいと思います」
古市憲寿
1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で注目される。以降、著書や雑誌等の連載を多数持ち、最新作『奈落』は三冊目の小説作品。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
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