食欲の秋、旅の目的を“食事”としている人もいるでしょう。それならルレ・エ・シャトーに認められた宿に泊まりながら、ワンランク上の食事を堪能する旅はいかがでしょうか。
厳格な審査をクリアした宿やレストランの証「ルレ・エ・シャトー」
1954年に発足した「ルレ・エ・シャトー」は、質の高い食とホスピタリティを提供する世界中のホテルとレストランのみが加盟できる非営利組織です。厳格な審査をクリアした世界68カ国の580のホテルとレストランが名を連ねます。
地元との共存、食文化の豊かさや多様性を継承するなど強い信念を持ち、お客さまと心のこもった関係を築きたいと願う個人経営のホテルオーナーやシェフによって、ルレ・エ・シャトーは支えられています。2014年にはユネスコで、土地の歴史や環境の保護にも積極的に取り組む20のルレ・エ・シャトーのビジョンを宣言しました。
日本で加盟しているのは、11の宿と9つのレストランのみ。そんな選ばれし施設の中から、今回は5つの美食宿をご紹介します。
べにや無何有(石川県加賀市)
加賀能登の豊富な食材を、料理長が毎朝ひく出汁で味わう和懐石
「べにや無何有(むかゆう)」は、石川県加賀市の加賀山代温泉街から続く細い坂道の先、薬師山の高台に佇む温泉宿です。「無何有」とは、“何の作為もない、ただ自然なこと”を意味し、かつて荘子が愛した言葉のひとつだといわれています。
慌ただしい毎日から離れ、自然の癒やしによって無心を取り戻す。そんな静かで平和で贅沢な時間を過ごすことができます。
客室は全16室、源泉露天風呂つき。樹齢300年以上の赤松をはじめ、しだれ桜や楓、木蓮などさまざまな樹木が生い茂る薬師山の自然を取り囲むように建てられているので、すべての部屋から緑豊かな景色を楽しむことができます。
なかでもひと際人気が高いのが、2018年に完成した特別室「白緑」。部屋の広さは約100平方メートル、庭を眺めながら入ることができる露天風呂と広縁があり、その間には書院が置かれています。大きな月見台(テラス)もあり、季節ごとに移り変わる自然の様子を眺めながら、静かにくつろぐのにぴったりです。
べにや無何有の料理は、加賀能登が誇る旬の食材の力を最大限に活かす“引き算”が鍵。料理長・角博昭さんが自ら毎朝ひく出汁を土台にしており、夕食では季節に合わせた和懐石が味わえます。
たとえば、地元・橋立港で捕れた香箱蟹と呼ばれるズワイガニの雌の身を取り出し、蟹酢のゼリーを添えた香箱蟹琥珀ゼリーは、冬季だけ楽しめる贅沢な一品。
加賀で育てた鴨を使った鴨つみれ鍋(期間限定)は、べにや無何有の看板料理のひとつ。鴨の骨でとった特製のお出汁が、味わいの深みを生んでいます。ロースに砂肝やレバーなどを混ぜ込んだ特製のつみれ、そして鍋の後の濃厚な雑炊は、リピーターも多い極上の味。
北陸といえば高級魚として知られるのど黒が有名ですが、こちらでは炭火で丁寧に焼き上げたのど黒の炭火焼きをいただけます。お好みですだちを搾って召し上がれ。
九谷焼や山中塗、輪島塗をはじめとする石川の文化薫る器の数々と共に、目と舌で加賀の美食を堪能できます。
朝食には、鮮度のいい釣りたらこ(はえ縄漁で釣り上げたスケトウダラの卵巣)や自家製ちりめん山椒、地元の新鮮な卵を使っただし巻き卵、出汁のきいた味噌汁など、滋味あふれる、これぞ日本の朝ごはんという品々が並びます。一部屋ごとに個別の土鍋で炊き上げたご飯は、地元の契約農家が栽培しているこしひかりを自家精米しています。
館内には、山代の温泉水と薬草を用いたトリートメントが人気の「スパ円庭施術院」や静かで豊かな時間が流れる「図書室」、さらには、苔をボトルの中に詰めて自分だけの庭を作る「苔テラリウム」など2泊以上滞在すると参加できるさまざまな体験も。宿からほど近い場所にある九谷焼の窯元「四代須田菁華窯」や、山代温泉街の街並みを堪能しつつ、自然の中でゆっくりと流れる時間を体験しに出かけてみては。
べにや無何有
住所 | : | 石川県加賀市山代温泉55-1-3 |
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web | : | https://mukayu.com/ |
強羅花壇(神奈川県箱根町)
四季の移ろいを目と舌で堪能。地元食材をはじめ旬の素材を活かした懐石料理
戦後、箱根の豊かな自然に囲まれた旧閑院宮別邸を譲り受けたことから「強羅花壇(ごうらかだん)」の歴史は始まりました。現在のスタイルが完成したのは、平成元年のリニューアル後。和と洋の心地よさを併せ持ち、訪れる人をやさしく癒やしてくれる空間です。
特に目を引くのは、「柱廊」と呼ばれる、客室と大浴場をつなぐガラス格子戸の渡り廊下。四季の移ろいを肌で感じられるように……という現女将の粋な計らいにより設計されました。
注目のお料理は、食材が出回りはじめる「走り」、食べ頃である「旬」、旬を過ぎて去りゆく季節を惜しむ「名残り」という懐石料理の醍醐味を意識した、四季の移ろいを味覚でも楽しめる品々。
のど黒や金目鯛をはじめとする魚介は、相模湾と駿河湾に囲まれた好立地から、その日両湾で水揚げされた鮮度の高い魚を仕入れることができるため、最高の状態を楽しむことができます。
朝食のお品書きの中で人気が高いのが、地元・小田原の特産物である干物。塩鮭・銀鱈・アジ・カマスの中からお好きな魚を選べます。なお、洋食メニューも用意されていますので、お好みの方をどうぞ。
41ある客室のなかでもおすすめは、2021年4月にオープンした別邸「暁」。「美肌の湯」とも呼ばれる弱アルカリ性単純泉を独り占めできる露天風呂からは、強羅の特徴でもある岩石を大胆に配置した枯山水庭園を望むことができます。背後にそびえる大文字山を含め、一体感ある圧巻の景色です。最大6名まで宿泊できる広々とした和室には、女将がこだわって集めた調度品の数々が置かれています。
熟練の技を持つエステティシャンが日頃の疲れを癒やしてくれる「KADAN SPA」では、一人ひとりの症状に合わせた施術内容が用意されています。併設する岩盤浴と組み合わせれば、より深い癒しを得られるでしょう。雄大な富士山を望む芦ノ湖や箱根神社、大涌谷など、周囲に点在する絶景と自然のエネルギーがチャージできるスポットもお見逃しなく。
強羅花壇
住所 | : | 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300 |
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web | : | https://www.gorakadan.com/ |
西村屋本館(兵庫県城崎町)
地元名物の但馬牛や松葉ガニを160年引き継がれた伝統の味でいただく
兵庫県北部に位置する城崎温泉。開湯1300年の歴史を持ち、情緒豊かな温泉街の姿を色濃く残すこの地に、今を遡ること160年前に誕生したのが「西村屋本館」です。国の登録有形文化財にも指定された建物内では、歴史の息吹が確かに感じられる、厳かでゆるやかな時が流れます。ロビーから望む美しい庭園も、訪れる人々を魅了してやみません。
開業以来、脈々と受け継がれてきた「西村屋伝統の味」が楽しめる料理の数々は、いずれもここだけでしか味わえない食材が並びます。
お品書きは、総料理長・高橋悦信さんが地元から仕入れた四季折々の食材を使って考案した料理ばかり。神戸牛の元牛である但馬牛や、日本海で水揚げされた甘鯛、はたはたなどの新鮮な魚介、城崎温泉の冬の名物である松葉がに(ズワイガニ)といった地元但馬の食材をふんだんに取り入れています。
毎月献立が違うので、訪れるたびに新しい味に出会えるでしょう。食事は客室で提供され、日本旅館ならではのおもてなしを体感できるのも人気の秘密です。
全部で33ある客室は、庭を囲むように造られているため、それぞれに違った景色が楽しめます。なかでもおすすめは、「観月の間」。数寄屋の名工・平田雅哉が手掛けた別棟・平田館に位置し、高床式の独立した建物と、信楽焼の陶器の浴槽を備えた露天風呂が魅力のお部屋です。
この「観月の間」からしか見ることのできない庭園の池もあり、西村屋本館の中でもひと際特別感が味わえる一室。
館内には、檜の香りに包まれた和風の「吉の湯」、上品な中国タイルのモチーフで装飾した「福の湯」、そして中庭を望む「尚の湯」という3つの大浴場があるほか、宿泊者には城崎温泉の7つの公衆浴場(外湯)無料券のサービスも。浴衣と下駄でカランコロンと温泉街をそぞろ歩きするのもまた、旅の一興です。
西村屋本館
住所 | : | 兵庫県豊岡市城崎町湯島469 |
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web | : | http://www.nishimuraya.ne.jp/honkan/ |
天空の森(鹿児島県霧島市)
大自然の恵みを一番良い状態で。シェフのこだわりが至るところで感じられる創作料理
東京ドーム13個分という広大な敷地に、温泉付きヴィラがわずか5棟のみ。「天空の森」は、オーナーである田島健夫さんの世界観をもとに造られたラグジュアリーリゾートです。
さらに鹿児島空港から車で15分という好立地にありながら、霧島連山を望む、ダイナミックな自然に囲まれたこちらの施設。客室は、宿泊用のヴィラが3棟と日帰り専用のヴィラ2棟。その贅沢な空間で過ごせば、時間も日常も忘れて心を解放できるでしょう。
なかでも「茜さす丘」は、夕陽がもっとも美しく差し込むように設計されており、日の移ろいを五感すべてで感じられます。ひょうたん型の露天風呂から眺める霧島連山は得も言われぬ絶景。デッキの先端からは、段々畑も一望できます。
「花散る里」は日帰り用のヴィラですが、朝焼けがとても綺麗な場所。実は、ほかのヴィラの宿泊者が、早起きして絶景を眺めに行くこともできるのです。
こちらのホテルが提供する料理のテーマは、「大地を食べ、季節を食べる」。そして「季節を愛でる」。30種類以上の野菜類を無農薬栽培している段々畑から、オーナーが見極めた旬の野菜を、食材本来の姿で提供します。
たとえば、安納芋と地鶏のマリネ、ヘチマとオニカサゴ、グリーンオリーブのアクアパッツァ、黒毛和牛ホホ肉とビーツの煮込み料理など、まるで霧島の大地と海の恵みをそのままいただいているかのようなメニューの数々は、どれも心躍ります。
朝食では、地卵を使ったメイン料理に加えて、季節のパンや、収穫したての野菜や果物を使ったスープ、スムージーなどが並びます。デコポンのジュレや自家製低温殺菌ヨーグルトなど、デザートもお楽しみのひとつ。その日に手に入った食材の良さを最大限に引き出せるよう、調理方法から盛り付けまで、至るところにシェフのこだわりが光ります。
豊かな自然や文化、歴史など、九州の魅力すべてを体全体で感じながら、「天空の森」が織りなす特別な空間を楽しみましょう。
天空の森
住所 | : | 鹿児島県霧島市牧園町宿窪田市来迫3389 |
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web | : | https://tenku-jp.com/ |
ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ(沖縄県読谷村)
自家農園産の食材と地元で採れた旬の鮮魚を使ったコンチネンタルフレンチ
全48の客室はすべてプール付きのヴィラタイプ。家族や仲間と気兼ねなく極上の時が過ごせるのが、沖縄本島の中部・読谷村にある「ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ」です。
数ある客室のなかでも特に人気が高いのが「プレミアムヴィラ 2ベッドルーム」。広さ137平方メートル、リビングと2つのベッドルームの2棟がプライベートプールを挟むように建てられており、まるで別荘のような雰囲気のなか、思い思いの時間を楽しむことができます。
こちらのホテルでは、「Our Farm to Table」をコンセプトに、ホテルに隣接する自家農園「OUR FARM」で収穫された自然の恵みをレストランやバー&ラウンジで提供しています。
化学肥料を使わない自然農法で育てられているのは、四季折々の野菜やハーブ、果物など1シーズン10種類以上。スーパーマーケットなどではなかなかお目にかかれない珍しい野菜なども育てられています。
レストラン「ファインダイニング」では、フレンチをベースにしたコンチネンタル料理が味わえます。地元の海で獲れる新鮮な魚介をタルタルにし、自家農園の野菜を庭に見立てて華やかに盛り付けたオードブルや、乾燥野菜からゆっくりと煮出したブイヨンで仕上げた風味豊かなリゾット、沖縄県産の黒毛和牛フィレ肉を備長炭で香ばしくグリルした肉料理など、“地産地消”にこだわったシェフ渾身のメニューです。
朝食は、肉・魚・卵・ガレットのなかからメインを1つ選び、ドリンクやサラダ、フルーツなどはブッフェスタイルで楽しめます。
宿泊するお部屋のリビングルーム、あるいはプールサイドで食事ができる「インルームダイニング」も人気です。プライベート空間でのんびり楽しむ食事は、まさにリゾートヴィラならではの贅沢。
「インルームダイニング」のメニューの中でも特におすすめは、ディナータイムに提供している一日限定10食の「洋風膳“Chef’s Jewelry Box”」。水揚げされたばかりの新鮮な魚を天然塩で丁寧にマリネし、サトウキビベースのほんのり甘酸っぱいソースを合わせたカルパッチョ、赤ワインと地元特産のトーマミー味噌(ソラマメの味噌)のオリジナルソースでいただく牛フィレ肉など、見た目にも味にもこだわった品々が並びます。
自家農園で収穫された野菜やハーブは、エステルームでのトリートメントでも使用され、自然のパワーを体中にチャージできます。トマトを使ったボディパックや、ハーブを浮かべたジェットスパなどのメニューも好評です。そのほか、沖縄の美しい海を船から楽しめるプライベートクルージングなど、ホテル周辺でのアクティビティもぜひ体験してみてください。
ジ・ウザテラス ビーチクラブヴィラズ
住所 | : | 沖縄県中頭郡読谷村宇座630-1 |
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web | : | https://www.terrace.co.jp/uza/ |
心地よい空間と美食の数々にあふれる宿の数々、いかがでしたか。「食欲の秋」をテーマに、次の旅ではルレ・エ・シャトーが認めた確かな味わいを求めて美食ツアーをおすすめします。 目も舌も喜ぶ素晴らしい体験が、あなたを待っています。
※各宿泊施設のお料理の内容は、季節や気候、食材の仕入れ状況によって異なります
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