とはいえ、生活を大きく変える決断には不安がつきもの。まずは気軽に現地を訪れたり、経験者の話を聞いたりして、イメージを具体化するのが一番です。今、自治体では2地域居住体験ツアーを運営し、地域の魅力や暮らしのリアリティを感じることができる機会を提供しています。OnTrip JALでは、そんな各地の「2地域居住」の魅力を体験ツアーを通じて取材。さまざまなエリアの情報を、連載記事で紹介しています。
2地域居住についてもっと知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
https://ontrip.jal.co.jp/_tags/2地域居住
今回ご紹介するのは、沖縄県・国頭村(くにがみそん)。「やんばる」と呼ばれる沖縄本島北部に位置し、那覇空港から車で2時間も走ればたどりつく自然豊かなエリアです。村の広範囲が「やんばる国立公園」に指定され、現在、2021年の世界自然遺産登録を目指して活気づいています。
そんな豊かな自然が身近にある国頭村での暮らしはどんなものなのでしょう。移住して実際に暮らしている方へのインタビューや自然を体感できるおすすめスポットなどを通して、その魅力をご紹介します。
知花村長メッセージ「世界自然遺産の候補地、国頭村へようこそ」
まずは、2地域居住を考えている方へ国頭村長からのメッセージをお届けします。
国頭村は沖縄本島の最北に位置し、「人と自然が調和する村づくり」に取り組む人口約4,500人の小さな村です。西に東シナ海、東に太平洋が広がり、ヤンバルクイナなどの希少生物が生息する亜熱帯照葉樹林は村の面積の84%を占めています。世界自然遺産の候補地、国頭村は次世代を担う皆様の来村を心よりお待ちしています。
やんばるの森が大部分を占め、一年を通じて温暖で湿潤な気候に恵まれた国頭村。古くから自然崇拝が生活に根付き、神様を敬う地元の方々によって守られてきた村での暮らしは、人と人とのつながりが強く、自然との共存共栄が成り立っています。
固有種・希少種を育む温暖・湿潤な“奇跡の森”を有するやんばる
2021年5月、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(奄美・沖縄)」が、ユネスコの諮問機関により世界自然遺産にふさわしい地域として登録勧告を受けました。多くの固有種や絶滅危惧種を含む生物の多様性が、世界的にかけがえのないものと認められたのがその理由です。
世界自然遺産候補地の沖縄島北部に含まれる国頭村は総面積約195平方キロメートル、本島北部のなかで最も大きな村です。“奇跡の森”といわれるやんばるの森がその大部分を占めています。村にはサンゴ礁の真っ青な海を見下ろす絶景スポットや本島最大の落差を誇る滝などもあり、人々は古くから森はもちろんのこと、海や川といった多彩な自然と共存しながら、この土地ならではの文化を築いてきました。
こうした大自然が身近にある島暮らしを満喫しながら、じつは都会との行き来にもあまり不自由を感じないのが国頭村の魅力。村の中心部から沖縄本島を縦断する沖縄自動車道の許田ICまで1時間弱、大型商業施設や飲食店、大学などが集中する名護市街まで約40分、沖縄屈指の観光スポット「沖縄美ら海水族館」へは約1時間のドライブです。
そんな国頭村の魅力や暮らしの様子を知るために、村に移住したお二人に話を伺いました。
「生態系を守る大切さを伝えたい」ネイチャーガイドの上開地広美さん
お一人目は、地域づくりをコンセプトに宿泊業や旅行業などを展開している「株式会社Endemic Garden H」で、ネイチャーツアーや環境保全活動を担当している上開地広美さん。千葉県で生まれ育ち、幼い頃から自然や生き物が大好きだったという上開地さんは、高校時代に山岳部に所属。大学では野生動物学を専攻し、日本各地で生き物の生態やその生息環境の調査・研究の補佐などに関わってきました。活動を通じて知ったのが、国立公園の巡視などを行う環境省のアクティブ・レンジャーの仕事です。
「私は個々の生き物たちが互いにつながり合って完成する生態系に一番興味があって、フィールドをめぐるのがとても好きなんです。山を歩ける仕事がある! アクティブ・レンジャーってすごい! と、応募しました。でも実際はデスクワークの方が多かったんですけどね(笑)」。応募当時、北海道や黒部などでも募集があったそうですが、まわりの研究者たちの「やんばるはおもしろいよ」という話に惹かれて、国頭村にある「やんばる野生生物保護センター」への勤務を希望したといいます。
2011年から国頭村で暮らし始めた上開地さんがアクティブ・レンジャーの仕事を通して感じたこと。それは、沖縄本島という限られた島の中のやんばるというほんの小さなエリアに、山も川も海もあり、そこに多種多様で希少な生き物がすんでいる、まさに“奇跡の森”だということでした。
「国頭村には舗装道路があって、コンビニもある。車でちょっと走れば名護や那覇のような街にも行ける。現代的な生活のそばにこんなに自然が残っているなんてすごいところだ、と心から思いました」と上開地さん。それまであまり人が足を踏み入れないような奥深い場所で調査をしていた上開地さんにとっては、国頭村はすばらしい場所に思えたそうです。
「コンクリートに囲まれた生活に慣れている方には、やんばるには何もないと映るかもしれません。でも、私からしてみれば、むしろ都会の方が何もないように感じるんですけどね」と、発見にあふれるやんばるの魅力を語ります。
こうして国頭村での暮らしも9年目を迎えた2020年、上開地さんはアクティブ・レンジャーの仕事をやめ、やんばるの豊かな自然と文化を伝えるツアーをつくるEndemic Garden Hに転職しました。地元出身で代表を務める仲本いつ美さんの「観光で地域の課題を解決したい」という思いに賛同し、ここにしかないすばらしさを多くの方々に伝えたいと考えたそうです。
現在はやんばるの自然の魅力を紹介するネイチャーガイドや、外来種対策などを通して、マナー向上のための啓蒙活動や生態系の保全活動に取り組む日々。国頭では村独自の公認ガイド制度を設け、ガイドの質を高めることで、持続可能な観光や地域資源の継承を目指しています。上開地さんもそのひとり。「やんばるはすばらしいところだけれど、人の生活と自然との距離が近いぶん、つきあい方を間違えると自然は簡単に壊れる。この地が世界自然遺産になることで、自然のすばらしさを再認識してもらい、その利用の仕方について改めて考えてもらうきっかけになれば」と語るその目は、情熱に満ちていました。
上開地さんは、自社で企画している体験コースのガイドを担当しているほか、JAL JTA セールスによるエコツアー「電気バスやんばる黄金(くがに)号で行くガイドツアー」のガイドのひとりでもあります。
電気バス「やんばる黄金号」で行くガイドツアー
Endemic Garden Hではこうしたツアーに加え、国頭村にある沖縄民家風コテージ「奥やんばるの里」も運営しています。
知れば知るほどおもしろいやんばるの自然は、訪れる人にさまざまな表情を見せてくれるはず。ぜひ国頭村に宿泊して、自然と対話するひとときをお過ごしください。
Endemic Garden H (エンデミックガーデンエイチ)
住所 | : | 沖縄県国頭郡国頭村謝敷161謝敷区共同売店内 |
---|---|---|
web | : | https://endemicgarden.jp/ |
体験コース | : | https://endemicgarden.jp/attraction/ |
奥やんばるの里
住所 | : | 沖縄県国頭郡国頭村奥1280-1 |
---|---|---|
電話 | : | 0980-50-4141 |
web | : | https://okuyanbarunosato.net/ |
西表島から沖縄本島に移住したマリンショップオーナー/水中写真家・淺原潤さん
続いてご紹介するのは、国頭村の西海岸にビーチエントリーメインのスキンダイビングショップ「CoffeeBoat」を構える淺原潤さん。静岡県出身で、大阪で映像や写真を学び、卒業後は写真家としてキャリアをスタートさせました。そんな淺原さんは、国頭村に移住する前に15年以上西表島でダイビングガイドをしていたという経歴の持ち主。撮影の仕事で行った西表島でシュノーケリングをした経験が、人生の大きな転機になったといいます。
「山の方で育ったし、中耳炎を患ったこともあって、そもそもあまり水の中に入ったことがなかったんです。たまたま最初にシュノーケリングしたのが西表島で、初めて感じた海の広さや美しさに圧倒されました」。海の魅力にすっかり取り憑かれた淺原さんは、海外で暮らしながらダイブマスターのライセンスを取得、日本に戻ってすぐにインストラクターのライセンスを取得して活動していました。その時、定住の地として真っ先に思い浮かんだのが西表島だったそうです。
「海外でもいろいろな海に潜ったんですが、世界の海を知って改めて沖縄の海ってすごいなと再認識しました。ちょっと移動したらぜんぜん違う雰囲気があって生態系が豊かなんです」。こうして西表島でダイビングのガイドをしながら、結婚して、子どもをもうけた淺原さん。西表島から国頭村に移住した理由はなんだったのでしょう。
「長年の沖縄暮らしで僕が親しんできたのは西表島の自然だけ。ほかの土地も見てみたいという欲がでました」と淺原さん。西表島を離れ、半年ほどかけて移住先を探すなか、マリン仲間の間でもほとんど情報がなかった国頭村の海の美しさに驚いたといいます。浜から2~3歩先の海に入れば、ものすごくきれいなサンゴ礁が広がっているのに、地元のほとんどの人がそれを知らないことに衝撃を受けたそうです。
国頭村の海の美しさに惹かれ、移住先に決めた淺原さん。知り合いが少ないなか、村にあるコワーキングスペース×コミュニティカフェ「HENTONA LOUNGE」に通って、さまざまな情報やアドバイスをもらえたのが助けになったそうです。
「HENTONA LOUNGEの久保さんが地域の人たちとつなげてくれて、住む場所を見つけることができました。ショップは家のご近所さんが親戚を紹介してくれて借りられることになった、空き家だったんです」。こうして2020年3月にオープンした「CoffeeBoat」は、幹線道路をはさんだ目の前に大海原が広がる好立地。奥さんが営む「カフェ&雑貨 BANANA」も併設されており、地域の人たちの集いの場にもなっています。自然が大好きな小学生の娘さんも、ライフセーバーが指導する海の学校に通っているとか。
「地球の周期的に、今はとてもサンゴがきれいな時期だと思います。だから今はここにいる。ひょっとしたらまた違う場所に行くかもしれないし、ほかの仕事をしているかもしれない。でも、それくらいのスタンスでいた方が、気持ちが楽じゃないですか。どこに行っても、いいことも悪いこともありますから」
そんな話をしながら穏やかな笑顔で海を見つめる淺原さんは、どこまでも自然体。あまり慎重になりすぎず、思い切って飛び込んだ先で自分の生活を組み立てていく。そんなスタイルを受け入れてくれるのも、国頭村の魅力なのでしょう。
CoffeeBoat(コーヒーボート)
住所 | : | 沖縄県国頭郡国頭村宇良534-1 |
---|---|---|
電話 | : | 090-4469-7207 |
web | : | https://coffee-boat.com/ |
「自然のなかで暮らす」を体感できる国頭村のおすすめスポット&アクティビティ
ここからは国頭村に興味をお持ちの方のために、自然に親しむことができる施設や、自然を体感できるツアー、地域の人との触れ合いも期待できるスポットなどをご紹介していきます。
【散策】壮大な熱帯カルスト地形に圧倒される「大石林山」
国頭村の中心部・辺土名(へんとな)地区から車で北上すること約25分。大石林山には、2億5千万年前の琉球石灰岩層が海から隆起した壮大な熱帯カルスト地形が広がっています。バリアフリーを含む徒歩20~30分の散策コースが4つあるほか、予約制でガイドツアーにも対応。園内には「沖縄石の文化博物館」やお食事処なども備えています。
大石林山(だいせきりんざん)
住所 | : | 沖縄県国頭郡国頭村宜名真1241 |
---|---|---|
電話 | : | 0980-41-8117 |
定休日 | : | 無休 |
受付時間 | : | 9:30~16:30(17:30閉園) |
web | : | https://www.sekirinzan.com/ |
【散策・宿泊】身近に自然を感じる「国頭村森林公園・やんばる 森のおもちゃ美術館」
国頭村森林公園は、オートキャンプ場やバンガロー、樹上ハウス、多目的広場などが点在する、緑に囲まれた広々とした公園です。敷地内にはウォーキングコースがあり、宿泊者以外の利用もOK。総合受付の建物内に「やんばる 森のおもちゃ美術館」を併設しており、ファミリーにぴったりのアウトドアスポットです。
やんばる 森のおもちゃ美術館は、東京おもちゃ美術館監修のもと、国頭村が設立した体験型ミュージアム。館内にはイタジイやリュウキュウマツなど、やんばるの森を形作っている木がふんだんに使われ、遊びを通して森の恵みを感じることができます。
国頭村森林公園
住所 | : | 沖縄県国頭郡国頭村辺土名1094-1 |
---|---|---|
電話 | : | 0980-50-1022 |
定休日 | : | 無休 |
web | : | https://www.kunigami-forest-park.org/ |
やんばる 森のおもちゃ美術館
開館時間 | : | 10:00~15:30(16:00閉館) |
---|---|---|
定休日 | : | 火曜 |
【体験ツアー】マイナスイオンの癒やし。4つのコースから選べる「森林セラピー」
森に息づく生命やエネルギーを感じることで日常生活の疲れやストレスを解消し、心とからだの元気を取り戻すのが、森林セラピー。沖縄本島最高峰の与那覇岳(よなはだけ)登山道、沖縄本島最大の滝を目指す比地大滝遊歩道、「やんばるの森」をトレッキングできるやんばる学びの森、国頭村森林公園と、4つのセラピーロードをセラピーガイドの案内でめぐることができます。
森林セラピー
【グルメ・ショッピング】村のグルメや特産品がそろう「道の駅 ゆいゆい国頭」
ゆいゆい国頭は、飲食店や産直市場、フードコート、おみやげ品売り場などがある沖縄最北の道の駅です。お茶やシークヮーサー、イノブタなど、国頭の特産品を使ったグルメやおみやげが充実。名物の猪豚肉そばやハンバーガー、ご当地スイーツなどを目当てに地元の人から観光客まで、幅広い客層が立ち寄る人気スポットです。
道の駅 ゆいゆい国頭
住所 | : | 沖縄県国頭郡国頭村奥間1605 |
---|---|---|
電話 | : | 0980-41-5555 |
定休日 | : | 無休 |
営業時間 | : | 9:00~18:00(レストランは11:00~15:00) |
web | : | https://www.yuiyui-k.jp/ |
【散策】沖縄本島最北、与論島や琉球創世の聖地を望む「辺戸岬」
沖縄本島最北の岬として知られる観光地、辺戸岬。遊歩道が整備されていて、随所から迫力ある断崖やサンゴ礁の海を見下ろすことができます。また、岬からは鹿児島県の与論島や中山世鑑(ちゅうざんせいかん)に記される琉球開闢(かいびゃく)伝説の女神「アマミク」が最初につくったとされる聖地「安須森(あすもり)」を眺めることも。駐車場近くの「辺戸岬観光案内所 HEADLINE」では、地域の歴史や文化に関する資料が展示されています。
辺戸岬(へどみさき)
住所 | : | 沖縄県国頭郡国頭村辺戸 |
---|---|---|
web | : | http://kunigami-kikakukanko.com/itiran/06.html |
【体験ツアー】満天の星を観察「やんばる星空ツアー」
やんばる星空ツアーは、沖縄本島最北端の辺戸岬で行う星空観測ツアーです。周囲に光源がない暗闇の中で見上げる自然豊かなやんばるの夜空には、都会では見ることができない絶景が広がります。それは満天の星を、肉眼で360度に渡って観察できる特別体験です。天の川はもちろん、運が良ければ流れ星を見ることができるかもしれません。
やんばる星空ツアー
沖縄県・国頭村の2地域居住ツアー モデルコース
国頭村では、2地域居住を検討している方向けにジャルパックの体験ツアーを開催予定。移住担当者が「住んでこそわかる国頭村の魅力」をお伝えします。この地での暮らしを具体的にイメージできる機会を、ぜひ活用してください。
※ツアーは10月4日より発売予定
日程 | 内容 |
---|---|
1日目 | 那覇空港 →(レンタカーまたは路線バス)国頭村着。ビーチ散策、辺戸岬で夕日観賞 |
2日目 | 移住担当者訪問、希望に応じ各施設をご案内。夜のナイトツアー(森林公園・学びの森でのナイトハイクや、星空観望ツアー)がおすすめ |
3日目 | 電気バスでいく林道ツアー、各種アクティビティ(スキューバダイビング、SUP、カヌー、森林セラピー、ハイキング、比地大滝トレッキングなど) |
4日目 | 午前中はパワースポットで人気の大石林山を散策、道の駅ゆいゆいでお買い物の後はドライブがてらのんびり家路へ → 那覇空港 |
驚くほど美しい大自然がすぐそばにある国頭村での暮らし。そこには、ワクワクするような発見にあふれ、地元の方と触れ合いながら心豊かに過ごす毎日が待っています。まずはたっぷりと時間をかけて、国頭村をめぐってみませんか。
JALパックのお申し込みはこちら ※国頭村のツアーは10月4日より発売予定
2つの街で暮らす新しい生活スタイル「2地域居住」をはじめる旅
2つの拠点をもつ新しいライフスタイル、2地域居住。地域担当者との橋渡しや下見ツアーのモデルコースをご紹介!
国頭村
http://www.vill.kunigami.okinawa.jp/
他のエリアの情報はこちら
平日は都市部で仕事をし、週末は地方で豊かな自然に触れながら静かに暮らす。そんな魅力あふれる2地域居住を通じて、地域の魅力をお伝えします。
※2024年4月3日に一部内容を更新いたしました
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。