沖縄の魅力はなんといっても豊かな食文化です。大地の恵みである野菜と、南洋の海から獲れる海産物の数々。南国のような気候のなかで、本州とは違った独特の食文化が育ってきました。今回は、沖縄に夫婦で移住し、グラフィックデザインの仕事をしながら「琉Q」という沖縄原産の食品ブランドの仕事に携わる坪田大佑さんの献立をご紹介。東京、ベルリン、沖縄と、住む場所を変えながら「食」の研究を続ける坪田さんが、1週間の献立とともに沖縄の食文化を紹介します。
写真・文:坪田大佑

島の野菜は「いのちの薬」。沖縄に根づく医食同源の文化

<月曜日の夕食>

画像: 中央 / アグー豚と野菜の蒸し煮 右 / ニガナの白和え 左 / ハヤトウリのピクルス

中央 / アグー豚と野菜の蒸し煮 右 / ニガナの白和え 左 / ハヤトウリのピクルス

この日のメニューは初夏が食べごろの島野菜をたっぷりと使ったメニューです。農園「カナンスローファーム」さんで大切に育てられたアグー豚を、たっぷりの野菜と合わせて蒸しました。口のなかでとろける豚の甘みと、島野菜の元気で野生的な味を贅沢に楽しみます。

画像: 豚肉とたっぷりの島野菜。ポイントは弱火でゆっくり蒸すこと

豚肉とたっぷりの島野菜。ポイントは弱火でゆっくり蒸すこと

・アグー豚と野菜の蒸し煮

野菜はサクナ、シビラン、ツルムラサキ、ウイキョウに、シメジ。サクナは長命草(チョーミーグサ)、シビランは頑丈菜(ガンジューナー)とも呼ばれ、それぞれ非常に栄養価の高い野菜です。ウイキョウは、胃腸葉(イーチョーバー)と呼ばれ、胃腸を健康に保つと、古くから沖縄で利用されている伝統的な島野菜。ハーブとして洋食でもよく使われています。食材は山原(ヤンバル:沖縄本島北部の自然豊かな地域の総称)産のものです。

・ニガナの白和え

ニガナは琉球王朝時代から風邪予防に利用されてきた葉野菜で、水抜きした島豆腐と和える「白和え」という調理法が一般的です。こうすることで苦味がマイルドになり食べやすくなります。この日は、自家製のおかかとごま油を少し足しました。

・ハヤトウリのピクルス

ハヤトウリは主に熱帯でとれるウリ科の野菜。沖縄料理はウリ科の野菜を使ったものが多く、ニガウリ(ゴーヤー)、ヘチマ(ナーベーラー)、赤毛瓜(モーウィ)、冬瓜(シブイ)などは戦前から食べられている伝統的な島野菜です。

沖縄では古くから「食薬同源」という考え方が根づいていて、食事や食材が「命の薬(ぬちぐすい)」と呼ばれていたほどに、健康的な食文化が育まれていました。昔ながらの食文化が残る地域では、「薬膳」の考え方が民間療法のなかに浸透していて、野草やハーブが料理やお茶などに取り入れられています。年間を通して湿度が高く、体調を崩しやすい気候にありながらも、沖縄が日本有数の「長寿県」であり続けていられるのは、こういった食文化に支えられていたからだと考えられています。

「鳴き声以外すべて食べる」と言われる、沖縄の豚肉

<火曜日の夕食>

画像: 右 / 酵素漬け豚クビ肉のグリルとニガナのソテー 中央 / ニラの味噌汁 左上 / ハヤトウリのピクルス

右 / 酵素漬け豚クビ肉のグリルとニガナのソテー 中央 / ニラの味噌汁 左上 / ハヤトウリのピクルス

月曜日は豚肉を野菜と一緒に蒸しましたが、今日はソテーにしました。ポイントは下ごしらえ。生姜とレモンを黒糖で漬けこんで発酵させたものをみじん切りにし、豚のクビ肉にもみこんでおくと、肉質が柔らかくなります。1日おいて塩をひとつまみふってグリルをすれば、簡単おかずのできあがりです。

・酵素漬け豚クビ肉のグリル

クビ肉とは一般的には「豚トロ」といわれている部位。沖縄では、近所のスーパーでも買うことのできるポピュラーな部位です。グリルしたクビ肉から溶け出てきた脂は別の器に移して冷凍し、ラードとして大事に使います。甘みの強いクビ肉は、島野菜のニガナとは相性がとても良いです。

画像: クビ肉からつくったラード。保存しておいて、炒めものなどに使います

クビ肉からつくったラード。保存しておいて、炒めものなどに使います

沖縄では、豚は「鳴き声以外はすべて食べる」と言われています。戦後の食糧難の時期から大切に食べられてきたことを表すおもしろい言葉です。一般的なスーパーでも、「なかみ(内臓)」「てびち(豚足)」「耳(ミミガー)」「皮つき三枚肉(豚バラ)」「出汁用豚骨」など、東京では見られなかったような部位が棚いっぱいに並べられています。

魚も野菜も地産地消。生産者の近くに暮らすことの豊かさ

<水曜日の夕食>

画像: 中央 / シビマグロの刺身 左 / ツルムラサキのおひたし 右 / ハヤトウリのピクルス

中央 / シビマグロの刺身 左 / ツルムラサキのおひたし 右 / ハヤトウリのピクルス

1日目、2日目と、夕食にあぶらものが続いていたので、この日はさっぱりとお刺身にしました。お刺身は沖縄で水揚げされた「シビマグロ」。シビマグロは、本州では大型のクロマグロを指す言葉ですが、沖縄ではキハダマグロの幼魚のことを指します。わが家では、醤油にレモンを絞り、コーレーグースを加えたものをお刺身のつけ汁として使っています。

画像: 坪田さんが働く「琉Q」の琉球ガラス瓶と自家製のコーレーグース

坪田さんが働く「琉Q」の琉球ガラス瓶と自家製のコーレーグース

泡盛に唐辛子を漬けこんだコーレーグースは、沖縄の家庭では一般的な調味料。まろやかさと辛味をさっぱりと足してくれるので、味にアクセントを加えたいときには重宝します。炒め物やスープ、パスタ、雑炊などなど、何にでも合うので便利です。

画像: よく足を運ぶという野菜の直売所。散歩のコースでつくられた野菜なども並んでいるというほどに生産者との距離が近い

よく足を運ぶという野菜の直売所。散歩のコースでつくられた野菜なども並んでいるというほどに生産者との距離が近い

わが家では野菜、肉や卵、塩や砂糖、味噌・醤油・調理酒などはほとんど沖縄県産のものを使っています。海の幸、山の幸という言葉がありますが、日々の食材を沖縄県産のもので揃えることができるのは、沖縄に暮らしていて嬉しいことの一つ。生産者と近い距離で、その土地のものをその土地で味わうというのは、味覚から四季を感じるとても贅沢な食生活のように思います。

大地の恵みが詰まった、パワフルな島野菜を味わう

<木曜日の夕食>

沖縄の野菜は高気温や台風・海風による塩害など、絶えず厳しい環境にさらされています。その結果として強い生命力が培われ、非常に高い機能性成分や抗酸化作用を持ちます。また、原種・古来種に近い品種の野菜も多く、青々とした野趣に溢れる味が特徴的です。

・島らっきょうの塩もみ

4日目の夕食はそんな島野菜を中心とした献立です。島らっきょうは泥つきのものをよく洗って葉の部分を切り(わが家では葉の部分はきざんで醤油漬けにします)、薄皮をむき、塩もみします。ちょっとした辛味としゃきしゃきした食感が楽しい一品です。シンプルな調理法ですが、野菜の味が強いのでこれだけでとてもおいしい。

画像: らっきょうの葉は醤油漬けにしておく

らっきょうの葉は醤油漬けにしておく

・ハンダマのピクルス

ハンダマは葉の表が緑色、裏側が紫色という見た目にも特徴的な葉野菜。紫はポリフェノールの色で、ピクルスにするとつけ汁が赤くなりとてもきれいです。コリアンダーはパクチーの西洋名。沖縄ではハーブの栽培も盛んで、特に私たちの住んでいる南城市はハーブを使った加工品や調理品の開発を推奨しています。

画像: 栄養価が高く、見た目にも特徴的なハンダマ

栄養価が高く、見た目にも特徴的なハンダマ

・ンスナバーのおひたし

ンスナバーは南ヨーロッパから中国を経て沖縄に伝わってきた島野菜。はじめて耳にしたときは「ン」から始まるというところにすごく驚きました。葉が大きく茎もしっかりしていて、出汁がよくしみるのでおひたしがおすすめです。青みの強い味にシャキシャキとした食感は、沖縄風野沢菜という感じでしょうか。イーチョーバー(フェンネル)のお茶と一緒にいただきました。

沖縄の小麦で焼く酵母パンと、島バナナの朝食

<金曜日の朝食>

画像: 全粒粉の酵母パン 島バナナのソテー 目玉焼き

全粒粉の酵母パン 島バナナのソテー 目玉焼き

最後に紹介するのは、週末の朝食です。パンは伊江島という離島で作られた全粒粉を使って焼いた自家製のもの。風味豊かで、噛むほどにおいしい食べごたえ十分のパンです。島バナナはオリーブオイルでソテーしました。熱を加えることで甘みが増します。

画像: 坪田さんお手製の酵母パン。個人活動としてパンづくりのワークショップなどを行なっている

坪田さんお手製の酵母パン。個人活動としてパンづくりのワークショップなどを行なっている

紹介したレシピはわたしの日々の食卓という個人的なものですが、沖縄の食材や食文化について少しでも興味を持っていただけたなら、嬉しいかぎりです。沖縄の観光もいいですが、料理が好きな方は、キッチンのついた宿泊先を予約して直売所やスーパーをめぐりながらのんびり沖縄を味わってみてはいかがでしょうか?

坪田大佑

神奈川県横浜市生まれ。2015年に夫婦で渡欧。ドイツ・ベルリンを拠点として、約1年間でヨーロッパ各地を巡り、10カ国30以上の都市にて滞在。帰国後は沖縄に拠点を移す。個人の仕事と併行しながら、沖縄県セルプセンターにて食品ブランド「琉Q」の実務に携わっている。http:ditabata.org/琉Q:http:shop.ruq.jp/

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