動物園は、いつの時代も変わらない人気観光スポットのひとつ。一方で、遠足や写生大会で訪れる場所というイメージも強く、子ども向けのスポットだと捉えている人もいるでしょう。しかし動物園は、大人の知的好奇心をくすぐるスポットでもあるのです。

そのポイントは、「動物の見せ方」。実は園によって動物たちが過ごす空間づくりの工夫は異なり、そこにはさまざまな学びをもたらす仕掛けがあります。

そこで本記事では、空間演出に注目して動物園を紹介。動物を愛でるだけではない、大人の動物園の愉しみ方をご提案します。

大人の動物園の嗜み方。動物園の「空間づくり」に注目すべき理由

画像: iStock/RussieseO

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動物園の歴史は非常に古く、野生動物の飼育という点では紀元前3000年ごろの古代エジプト王朝時代にまでさかのぼるといわれています。そして長年の間、珍しい動物を見せることで権威を表現したり、芸を覚えさせて人間の娯楽対象にしたりと、見世物的な扱いをしてきました。しかし20世紀も半ばになると、動物の保全や愛護の声が高まるように。それとともに、動物園は動物を取り巻く環境や生態なども展示するようになり、命の神秘や大切さも伝える施設へと進化していったのです。

そうして各動物園では空間づくり、すなわち「動物の見せ方」に対してこだわりを持ち、訪れた人々に学びを得てもらうための工夫を行うようになりました。例えば、パネルで動物が紹介されているだけではなく、ゾーニングに工夫があったり、動物本来の生態を見せるための環境が再現されていたり……。つまり空間づくりにそれぞれの動物園が伝えたい学びが詰まっているのです。このポイントに注目してみることで、「動物園で学ぶ愉しさ」も知ることができるでしょう。

それではここからは、個性的な空間づくりをしている動物園を2つピックアップ。各園の特徴と、そこから得ることができる学びについて、あわせて紹介します。

【神奈川】世界の自然環境と動物の暮らしを学べる「よこはま動物園ズーラシア」

1999年、「生命の共生・自然との調和」をメインテーマに開園した「よこはま動物園ズーラシア」。日本最大級の広大な敷地に、オカピやセスジキノボリカンガルーなど、世界の希少動物を数多く飼育している大規模動物園です。

「ズーラシア(ZOORASIA)」という名称は、「動物園(ZOO)」と広大な自然をイメージした「ユーラシア(EURASIA)」の2つの言葉を掛け合わせて付けられました。

同園の空間づくりの特徴は、園内が世界の気候帯・地域別の8ゾーンに分かれていること。世界各地の動物の生息環境を、「日本の山里」や「アジアの熱帯林」、「オセアニアの草原」といったゾーンに分けて再現しているのです。

画像: アフリカのサバンナゾーン 提供:よこはま動物園ズーラシア

アフリカのサバンナゾーン 提供:よこはま動物園ズーラシア

例えば2015年に全面開園した「アフリカのサバンナ」では、広い草原の中にグラントシマウマとエランドとキリンとチーターが同じ空間に共生。サバンナの縮図のようになっています。

ゾーンごとに各動物の生息地にある植物などの環境を再現することで、その動物を取り巻く環境まで丸ごと理解できるという空間演出。同時に、その地に暮らす人々の住居や遺跡なども要所要所で展示されているので、文化的な側面にも触れられます。次のゾーンに移るたびに世界観がガラッと変わるので、回遊してみるとより文化の違いがはっきりわかるはず。園内をめぐるだけで、「世界各地の自然環境」と「動物の暮らし」について学ぶことができるのです。

画像: 日本の山里ゾーン 提供:よこはま動物園ズーラシア

日本の山里ゾーン 提供:よこはま動物園ズーラシア

さらに、檻や柵などを使用せず動物により近い距離で観察できる「パノラマ展示」や、生息地を再現するために岩場を多く設けたり植物を植えたりすることで動物たちのリアルな行動を観察できる「環境エンリッチメント」という手法を取り入れているのもポイント。

例えば暑い日には日陰の多い茂みを探すと休んでいたり、水場の見える場所で待ち構えているとひょっこり姿をあらわしたり。自然の中で力強く暮らす動物の様子を近くで見ることで、よりリアルな動物の生態に迫ることができます。

同園での学びをより愉しむのであれば、「キーパーズボイス」に注目するのもおすすめです。これは動物たちが生息するゾーンの近くにある案内板で、担当飼育員が伝えたい、動物の耳より情報が記載されています。動物を観察するとともに「キーパーズボイス」を読むことで、動物の知らない側面にも触れられるでしょう。

画像4: 提供:よこはま動物園ズーラシア

提供:よこはま動物園ズーラシア

また、飼育員による「飼育員のとっておきタイム」も毎日行われています(休園日除く、8月現在は中止)。飼育員が動物にエサをあげる食事風景を間近で見たり、動物の性格など飼育員だからこそ知る裏話を聞いたりすることもできます。

日本最大級の規模を誇る「よこはま動物園ズーラシア」は見どころも多く、一日中愉しめるはず。なお、新型コロナウイルス感染症の対策を行いながらの営業となるため、入園には事前予約制による整理券が必要になります。来園の前に公式webサイトを確認しましょう。

よこはま動物園ズーラシア

住所神奈川県横浜市旭区上白根町1175-1
電話045-959-1000
営業9:30~16:30(入園は16:00まで)
定休日火曜(祝日の場合は開園し、翌日休園)、12/29~1/1 ※臨時開園あり
webhttps://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/

【大阪】ミュージアムのような空間づくりで、動物の知られざる姿を学べる「ニフレル」

2015年にオープンした、日本では比較的新しい動物園が「ニフレル」。大阪・吹田市の「万博記念公園」内にある屋内型動物園です。“生きているミュージアム”という呼び名を冠して画期的な取り組みが展開されています。

「ニフレル」の名称の由来は、“感性にふれる”というコンセプトから。8つのゾーンがあり、それぞれ「いろにふれる」「わざにふれる」と、エリアごとに多彩な愉しみ方ができます。

同園のテーマは「多様性」。動物園としての側面もありますが、ここは大阪にある世界最大級の水族館「海遊館」が運営していることもあり、水生生物が多く、陸と海両方の動物が暮らす博物館のような施設となっています。

同園の空間づくりの特徴は、全体が美術館のように整然としていて、スタイリッシュな構成となっていること。そして、個々の動物にフォーカスをあてて観察できるような見せ方になっています。

画像1: 【大阪】ミュージアムのような空間づくりで、動物の知られざる姿を学べる「ニフレル」

こうした空間により、まさにテーマの通り、各動物の多様性を知れることが「ニフレル」での学び。一頭一頭の動物を細部までじっくりと見たり、角度を変えて見たりすることができるため、「色彩」「行動」「形態」の多様性といった、生きものが持つ多彩な側面を知ることができるのです。

画像2: 【大阪】ミュージアムのような空間づくりで、動物の知られざる姿を学べる「ニフレル」

また、同園では動物園での演出としては珍しく、照明や映像、音楽にもこだわり、訪れた人の感性を刺激するとともに、動物の魅力をより感じられる仕掛けが随所にちりばめられています。その一例が、館内のインスタレーション。「ニフレル」の場合は視覚的な美しさはもちろん、動物の特徴をつかむための演出として効果的に活用されています。

さらに、飼育スタッフを「キュレーター」と呼ぶことも「ニフレル」の特徴のひとつ。学芸員のようなイメージでフロア内に待機しているため、聞きたいことがあれば気軽に質問することができます。こんなポイントも、同園がミュージアムのようであるといわれる要素のひとつです。それぞれの生態や特徴、性格などについて深く知ることで、生命の神秘に気付くことができるでしょう。

「ニフレル」と「海遊館」は距離が離れていますが、同じ大阪府内にあって電車で1時間強の場所にあります。それぞれじっくり楽しむなら、一泊して回るのがおすすめです。

ニフレル

住所大阪府吹田市千里万博公園2-1 EXPOCITY内
電話0570-022060(ナビダイヤル)
営業平日 10:00〜18:00、土・日・祝 9:30〜19:00(いずれも最終入館は閉館の1時間前)
※状況により変更となる場合あり
定休日なし
※年1回、設備点検のための臨時休業あり
webhttps://www.nifrel.jp/

関東の「よこはま動物園ズーラシア」と、関西の「ニフレル」。場所もコンセプトもまったく違う2つの動物園を紹介しました。日本には、他にもさまざまな動物園があります。ぜひ旅先にある動物園へ足を運んで、各地の動物園を比較して愉しんではいかがでしょうか。学びある時間が、旅をいっそう面白くしてくれるはずです。

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