播磨平野の西端に佇むたつの市。静かな地方都市でもあるこの町は、日本の食文化と匠の技が息づく宝庫です。うすくち醤油の繊細な香り、揖保乃糸そうめんの滑らかな喉越し、城下町の風情ある石畳、そして上質な国産レザーの手触り。これらはたつの市の歴史や風土、環境の中で育まれ、磨かれてきました。日本の伝統文化の奥深さとそれを守り続ける人々の誇り、職人の技と情熱に出会える場所。知られざる魅力に満ちたたつの市を旅しました。
画像: あなたの知らないディープ兵庫県たつの ~匠の息吹 知られざる4つの伝統が紡ぐたつの物語

西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎(実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典(PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

うすくち醤油の郷たつの 醸造の歴史と現代の魅力を巡る

たつの市は「うすくち醤油」日本一の生産量を誇る町です。
うすくち醤油の製法は、濃口醤油と似ていますが、小麦、大豆、塩に加えて米を使用するのが一般的。淡い色合いながら濃口よりも高い塩分濃度を持つのも特徴のひとつです。だしと相性のよいうすくち醤油は主に素材の風味を生かす関西地方の料理に用いられ、少量でもだしとの相乗効果でおいしく仕上がります。

醤油の進化は、日本の食文化の深化と共に歩んできました。
1660年頃、兵庫県たつの市で当時画期的な「うすくち醤油」が誕生します。大豆・小麦の産地であり、瀬戸内海から塩の調達も容易だったことから醤油の一大産地へと発展。この革新的な調味料は、日本の食文化に新たな風味をもたらしました。
濃口醤油、たまり醤油、調味醤油など各地域の特性を活かした醸造技術が多様な醤油を生み、今日の豊かな食文化の礎となっています。

うすくち醤油の特徴は、その名のとおり色が淡いこと。料理の色合いを損なわず、視覚的な美しさを引き立てます。当初たつので消費されていたうすくち醤油は、関西、特に京都の料理人に好んで使われるようになりました。見た目を重視する京料理との相性の良さが、その普及を後押ししたのです。
明治時代の最盛期には80軒ほどの醤油醸造所があり、現在は7軒の醤油メーカーが存在しています。中でも市内に本社を置くヒガシマル醬油株式会社は、うすくち醤油の製造量で全国でもトップシェアです。

市内には、そんなうすくち醤油について楽しみながら歴史を学べる施設があります。
「うすくち龍野醤油資料館」は、1932年(昭和7年)に建てられた元ヒガシマル醬油本社社屋を利用して、1979年11月に全国初の醤油資料館として開館しました。入館料わずか10円で、時を超えた醤油の物語への扉が開かれます。
江戸時代からの醤油醸造用具や資料など数千点が展示されており、巨大な仕込み桶や麹室の再現など、先人の知恵と工夫、そしてうすくち醤油づくりの原点を見て、改めて日本食の奥深さを感じ取ることができます。

次に訪れたのは「醤油の郷 大正ロマン館」です。ここは旧龍野醤油同業組合の建物であり、大正時代の建築様式を色濃く残す風情ある建物です。中では、醤油の歴史やたつのの産業を伝えています。
隣接する建物は、大正期に建てられた木造の醤油工場をリノベーションした「クラテラスたつの」。ここは発酵食品をふんだんに使ったランチや、醤油のスイーツなどが楽しめるレストランになっています。
人気の「地産地消たつの発酵ランチ」は、本醸造醤油をはじめとする発酵調味料をふんだんに使い、肉や魚などの動物性食品をあえて使用しないヘルシーな内容。地元産の無農薬露地栽培野菜を中心に、大豆製品や乾物を使った惣菜を盛り込んでいます。メインおかずにも肉魚を使用しておらず、内容は2〜3週間で変わります。盛りあわせる野菜の惣菜は旬の野菜をつかうため、不定期で変わります。自家製おぼろ豆腐や卵かけご飯用にと、市内の醤油蔵から厳選された醤油が複数種類用意されているのもうれしいです。試した中から気に入った醤油は、隣にはお土産ショップで購入することもできます。
醤油の町として知られるたつのでは、単なる観光にとどまらない深い学びが得られる旅ができます。この体験によって、日常の食への関心がさらに深まり、新たな味との出会いもあるかもしれません。ぜひ醤油の世界に足を踏み入れ、その魅力を存分に味わってみてください。

うすくち龍野醤油資料館

住所兵庫県たつの市龍野町大手54-1
電話0791-63-4573
入館時間9:00~17:00
休館日月曜日 年末年始
URLhttps://www.higashimaru.co.jp/enjoy/museum/

醤油の郷 大正ロマン館

住所兵庫県たつの市龍野町上霞城126
電話0791-72-8871
入館時間10:00~17:00
休館日月曜日
URLhttps://www.city.tatsuno.lg.jp/machinami/taishouroman.html

クラテラスたつの

住所兵庫県たつの市龍野町上霞城126
電話0791-72-9291
営業時間10:00~17:00
定休日月曜日
URLhttps://kuraterrace.jp/

横尾商店 龍野直売所(JR東觜崎駅前)

住所兵庫県たつの市神岡町大住寺506-1
電話0791-65-0191
営業時間10:00~16:00
定休日水曜日 土曜日 日曜日 祝日

日本の食文化を支えるそうめんブランド「揖保乃糸」

たつの市発祥のそうめん「揖保乃糸」は、室町時代から続く600年の伝統を持ち、日本一のそうめん生産量を誇る、歴史と品質で知られる名実ともに日本を代表するそうめんブランドです。

「揖保乃糸」というのはひとつの工場で生産される商品を指すものではなく、西播磨地区の約400軒の生産者が製造する手延べそうめんの商標であることは、ちょっとした豆知識になりそうです。兵庫県手延素麺協同組合による厳しい品質検査を通過した製品にのみ与えられるブランド名で、信頼の証です。
生産量日本一、かつ三大そうめんにも挙げられる播州手延べそうめん揖保乃糸に迫ります。

そうめんづくりは10月から4月、寒い時期の早朝に始まります。
11の工程があり、それぞれが伝え継がれてきた製法に則った方法で進められます。
原材料は小麦粉、食塩、水。この材料で麺を作る場合は、小麦に含まれるグルテンを活用し、切れないように伸ばしていかなければなりません。そのため、「延ばし」と「寝かし(熟成)」を複数回繰り返すことにより、最終的には2メートル近くまで延ばしていきます。

麺のおいしさはさまざまな工程によって生み出されます。
揖保乃糸特有の"歯ごたえ"は、生地から切り出した麺の大元「麺帯」を延ばしながら何本も合わせていく作業によって生まれます。結果24本もの麺帯が1本になり、熟成され延ばされていくことにより、ぷりっとした食感と弾力のある麺へと成長していきます。
なんといっても麺料理には"コシ"が大事。これには、ただ延ばすのではなくねじりながら「縒り(より)」をかける作業が加わります。この際一緒に油を塗ることで、乾燥させない、麺同士の付着防止、熟成にあたって麺が空気に触れないようにし、じっくりと時間をかけて熟成させます。
私たちが一般的にスーパーで購入できる「上級品(赤帯)」は、太さ0.7~0.9ミリ、一束が50gと決まっており、帯には生産者それぞれに付与された製造者番号が付けられています。製法、保管管理、規格まで全てが組合および検査指導員によるチェックで管理され、揖保乃糸として認められたものだけが、私たち消費者に届けられる仕組みです。

「揖保乃糸資料館 そうめんの里」では、手延べそうめんの歴史や製造工程を学べる他、さまざまなそうめんの創作料理を味わうこともできます。売店では揖保乃糸のそうめん・冷麦・うどんの他、地元特産品も充実しています。
2025年4月13日から183日間にわたって行われるEXPO 2025 大阪・関西万博(大阪万博)に関連し、兵庫県では"大阪万博会場を飛び出して、兵庫県地域(フィールド)を実際に見て、体験できる"「ひょうごフィールドパビリオン」が開催されており、そうめんの里でも揖保乃糸を体験できる特別なプログラムが行われています。

たつの市では、そうめんを提供する飲食店をはじめ、この地ならではのユニークな「素麺神社」(正式名称:大神神社)や、そうめんをモチーフにしたお菓子を販売する店舗など、そうめんにまつわる多彩な体験ができます。

単に食べるだけでなく、「そうめん」をさまざまな角度から楽しむことで新たな魅力を発見し、より深くその魅力を感じ取ることができるでしょう。
夏の定番そうめんの奥深さを味わい、体験によって新たな発見の喜びを感じられる旅になりました。

揖保乃糸資料館 そうめんの里

住所兵庫県たつの市神岡町奥村56
営業時間9:00~17:00(展示室の入館は16:30まで)レストラン庵 11:00~21:00(L.O.20:00)
定休日月曜日(祝日の場合は翌日)年末年始
URLhttps://www.ibonoito.or.jp/soumennosato/

ひょうごフィールドパビリオン

素麺神社(大神神社)

住所兵庫県たつの市神岡町大住寺794-5

大黒屋丹治

住所兵庫県たつの市新宮町觜崎331-1
電話0791-75-2118
営業時間8:00~17:00
定休日水曜日
URLhttps://tatsuno-daikokuya.co.jp/

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