陶芸家の日常に飛び込む旅「陶泊(とうはく)」。工房に泊まり、土に触れ、窯元を巡り、作家との会話を通じて、ものづくりの深みや暮らしの豊かさを体感する旅です。観光だけではない、訪れた土地をより深く知る旅の楽しさや、非日常な体験をすることで、私たちの生き方や働き方に小さな化学反応を起こしてくれるかもしれません。これは、日々の喧騒を離れ、丹波の里山で新たな自分と出会う2日間の物語です。

日本六古窯のひとつ「丹波焼」の世界へ

画像1: 日本六古窯のひとつ「丹波焼」の世界へ

大阪府豊中市にある大阪国際空港(伊丹空港)から車を走らせること約50分、兵庫県丹波篠山市の立杭エリアが「陶泊」の舞台です。自然林の山のふもとに広がる美しく手入れされた田畑は、初めて訪れたとは思えない懐かしさを感じる風景で、心がほっとほぐれます。

この里山の中で、850年以上の歴史を持つ丹波焼が守り続けられています。今も50軒以上の窯元が点在していて、伝統の技を守りながら日々新しい表現に挑戦し続けています。

画像2: 日本六古窯のひとつ「丹波焼」の世界へ

立杭地方の中心に位置する「陶(すえ)の郷」(丹波伝統工芸公園・立杭陶の郷)は、陶磁器展示即売場、ギャラリー、陶芸教室、登り窯、レストランなどを備え、丹波焼の魅力をギュッと体感できる複合施設。51の窯元が個性豊かな作品を展示販売しており、伝統的な作品から現代的なデザインの器まで、多様な丹波焼の表現を目にすることができます。

丹波焼とは?

瀬戸、常滑、信楽、備前、越前とともに「日本六古窯(ろっこよう)」のひとつに数えられる由緒ある焼き物。時代の営みに合わせ、市井の人々の日用陶器を作ってきた土地柄から、「特徴がないのが特徴」と言われることも。しかし、「灰かぶり」や「しのぎ」といった丹波焼の伝統的な技法は今も受け継がれ、これらの技法から生まれる新しい表現や普段使いしやすい器であることが、現代の丹波焼の特徴です。

陶工の工房で時間を共にする「陶泊」を体験

陶工の工房に泊まれる新しい旅のスタイル「陶泊」は、単なる「陶芸体験」ではなく、陶芸家の日常に深く入り込み、ものづくりの現場を肌で感じる特別な旅体験です。

画像: 陶工の工房で時間を共にする「陶泊」を体験

「陶泊」の最大の魅力は、観光では味わえない濃密な時間を過ごせることと、陶芸家との深い交流ができること。ものづくりの背景にある考えや生活に触れ、創作に携わる人たちの生き方そのものを感じ取ることができる2日間なのです。さて、どんな体験が待っているのでしょうか?

①陶工のガイドで、丹波焼について知る

画像: この旅でガイドしてくれたのは、市野伝市窯・3代目の市野弘通さん。地元で生まれ育ち、家業を継いで陶芸の道に入った若手陶芸家です。

この旅でガイドしてくれたのは、市野伝市窯・3代目の市野弘通さん。地元で生まれ育ち、家業を継いで陶芸の道に入った若手陶芸家です。

陶泊体験が始まる「陶の郷」で出迎えてくれるのは、「さとびとガイド」と呼ばれるツアーガイド。「さとびとガイド」はこの地で陶芸家として活動している人たちです。

画像1: ①陶工のガイドで、丹波焼について知る

さっそく市野さんのガイドで丹波焼を学びます! まずは丹波焼の特徴について。

「大きな特徴のひとつが『灰かぶり』。登り窯で焼くうちに自然に灰がかかってつく模様がもともとの意匠ですが、今では意図的に灰をかけて大胆な模様をつけることもあります。使う木の種類や灰のかけ方で、さまざまな表情が生まれるんですよ」

画像2: ①陶工のガイドで、丹波焼について知る

炎の影を写し取ったような不思議な模様も……。ここにも理由があるのでしょうか?

「窯の中で火の通り道になった部分は、独特の模様がつきます。これも丹波焼の魅力のひとつです。作家によっては、この炎の模様を計算して作品を配置する人もいます」

特徴について学びを深めたところで、次は窯元へ。市野さんの「市野伝市窯」を訪れました。

画像3: ①陶工のガイドで、丹波焼について知る

工房からはやわらかな土の匂いがして、ものづくりに打ち込む匠の息遣いが伝わってきます。ここでは、土作りから成形、釉薬づけ、焼成まで、すべての工程を一貫して行っているのだそう。

画像4: ①陶工のガイドで、丹波焼について知る

工房見学を終えたら、日本遺産の構成文化財でもある丹波焼「最古の登窯」へ。明治時代から使われている窯は、山の傾斜に沿って約47メートルもの長さが……! 今も焼成を続けている巨大な窯です。

普段の仕事では電気やガスの窯も使用し、これぞという作品は登り窯で焼成するそう。

「3日3晩かけて焼き上げるため、その間はほとんど寝られません。1回の焼成で3~4キロ体重が落ちることもあるんです」と市野さん。

それだけ手間をかけるからこその風合いなんだなと納得できます。

最後は、「坏土(はいど)工場」へ。丹波焼はほとんどの窯がこの工場の陶土を使っています。各窯や作品によって独自配合するものの、原土は同じ。手で触るとほろほろと崩れる乾いた原土が、工場で練られ、窯元で成形して焼き上げられ、作品に進化します。

画像5: ①陶工のガイドで、丹波焼について知る

②陶工の暮らしに触れる

市野さんとのまち歩きを終えたら、陶泊の宿泊先である昇陽窯(しょうようがま)へ向かいます。3代目の大上(おおがみ)裕樹さんと奥さんの彩子さんが温かく出迎えてくれました。

建物は2階建てで、1階は店舗と工房。吹き抜けが心地よい1階は手に取りやすい日常の器が並べられ、ショールーム兼ショップとなっています。気に入った器は購入も可能です。

画像1: ②陶工の暮らしに触れる

2階のギャラリーには、伝統的な茶器からモダンなオブジェまで、祖父から続く3代の作品がゆったりと並んでいます。まるで美術館のよう……アートを感じる空間です。

画像2: ②陶工の暮らしに触れる

昇陽窯は、伝統的な技法を守りながらも現代的なデザインを取り入れた作風が人気。特に3代目の裕樹さんが、へらを使って土を削る「しのぎ」技法を用いて生み出す作品は、モダンでありながら温かみを感じるデザインが魅力的。歴史ある焼き物ですが、どんなインテリアにもマッチする絶妙な風合いに引き込まれてしまいます。

さらに、店舗上の吹き抜けテラスからは立杭の山々を一望できます。思わず伸びをして深呼吸。澄んだ空気と美しい自然で一気にくつろぎモードになると、だんだんとこの土地との距離も縮まったような気持ちになりました。

ギャラリーを満喫したところで、本日の宿へ。宿泊するのは、2階ギャラリー奥の客室。「“窯ビュー”です」と案内をしてもらった言葉通り、窓から見えるのは登り窯! めったにない景色を堪能しつつ、荷物を置いて、丹波焼の茶器でほっと1杯です。

夕食は、ガイドをしてくれた市野さんをはじめ、たくさんの郷の人が集まります。山の幸・ジビエやバーベキューなど心づくしの料理を囲めば、緊張もどこへやら。陶芸家として生きるということ、里山の日々の暮らしについてなど、対話はつきることがありません。進学や陶芸修業などで一度ここを出ても、Uターンして窯元を継ぐ人が多いという立杭。若手陶芸家たちの郷土愛や陶芸への熱意に、爽やかな熱をもらった気がしました。

画像3: ②陶工の暮らしに触れる

翌朝の朝食は、気持ちのよいオープンテラスで近所のハンバーガーショップ「コナト」のパンケーキを。だんだんと立杭の空気になじんでいき、自然と笑みがこぼれます。

画像4: ②陶工の暮らしに触れる

その後は、いよいよ陶芸家への弟子入り体験です。掃除を済ませたら、大上さんをはじめとする陶工たちの仕事ぶりを間近で見学。土を練る音、ろくろを回す音、陶器を擦る音、さまざまな作業音が聞こえてきます。

画像5: ②陶工の暮らしに触れる

弟子入り体験のひとつ目の仕事は、器の底をなめらかに擦る作業。まっすぐにヤスリを当てて、平らにしていきます。平らになるように集中して、力を入れてやさしく丁寧に。陶工の指導を受けながら、真剣に取り組みます。陶工の人たちも、最初はこの作業を毎日続けたそう。

画像6: ②陶工の暮らしに触れる

「次は窯出しをしてみましょう」と声がかかり、電気窯の前へ。焼成された作品を窯から出す作業です。焼きたての熱い焼き物に触れる機会なんてめったにないこと。軍手をして、ひとつずつ慎重に、つやつやとした陶器を熱い窯から出していきます。

窯元の一員になったような気持ちで取り組んだ弟子入り体験が終わると、あっという間に帰路につく時間。名残惜しさはあるものの、陶工と過ごした2日間はかけがえのない思い出になりました。たくさんの人と密に関わる旅なので、コミュニケーション力もアップしたような……? 普段と全く違う職業に触れることで、今の自分を見つめ直すきっかけにもなりそうです。自然と「また来ます!」としっかりと握手をして工房を後にしました。

③陶工と同じ目線で丹波を見る

陶泊体験を終えて車で通り抜ける立杭の道。昨日と同じ道なのに、昨日までとは全く違う景色に見えました。「きれいだな」としか思わなかった田園風景が、今は「この土から生まれる豊かな自然と四季が、丹波焼を支えているんだ」と感じられるように。あちこちの窯元の看板にも、一軒一軒に込められた歴史と個性を想像して、興味が湧いてくるのです。

画像: ③陶工と同じ目線で丹波を見る

陶泊体験は、単に陶芸の技術や知識を学ぶだけではなく、立杭に生きる人たちの思いや、歴史、文化、自然との共生を肌で感じる旅となりました。単なる観光客ではなく、この土地を少しだけ理解し、共感できる存在になれたと思います。

もっとこの土地を知りたい。陶工に聞いたおすすめスポット

陶泊体験を通じて立杭の魅力にすっかり引き込まれてしまいました。もっとこの土地を知りたい……と、チェックアウト後、大上さんに「もっと立杭を感じられる場所はありますか?」と尋ねてみると、にっこりと笑って3つのスポットを教えてくれました。いざ、さらなる立杭探訪の旅へ。

お土産を探すなら「陶の郷・窯元横丁」

画像1: お土産を探すなら「陶の郷・窯元横丁」

旅の締めくくりに欠かせないのはお土産探し。「窯元横丁」は、「陶の郷」内にある丹波焼の旗艦店で、51軒の窯元の作品がずらりと並びます。

画像2: お土産を探すなら「陶の郷・窯元横丁」

横丁に連なるブースをのぞきながら歩くと、伝統的な茶器から現代的なテーブルウェア、斬新なオブジェまで、実に多彩な作品に出会えます。

この旅のお土産には、ブルーのお茶碗をチョイス。お気に入りの一点を探してみてください。

陶の郷・窯元横丁

住所兵庫県丹波篠山市今田町上立杭3
電話079-597-2034
営業時間10:00~17:00
定休日火曜(祝日は営業)、年末年始(12月29日~1月1日)
Instagram@tanbayaki_official

地元の美味をガレットに「SAKURAI」

丹波焼と食とのマリアージュが楽しめるレストラン「SAKURAI」は、陶泊体験終了後のおすすめランチスポット。フランス・ブルターニュ地方の郷土料理「ガレット」が看板メニューです。

画像: 地元の美味をガレットに「SAKURAI」

オーナーシェフは本場フランスで腕を磨いたクレピエ(ガレット職人)で、ランチのメインはガレット。香ばしくもちっとした生地に具材がマッチして、食べる手が止まらない……。地元の食材をふんだんに使った料理は丹波焼の器に盛り付けられていて、目にも鮮やかです。

SAKURAI

住所兵庫県丹波篠山市今田町下立杭44
電話079-506-7735
営業時間11:00~18:00(ランチ11:00~14:00、カフェ14:30~18:00)
定休日不定休
Instagram@sakurai.tachikui

展望スポット「立杭の郷を見下ろす丘」

最後は絶景が見えるビュースポット、「陶の郷」向かいの山。息を切らして坂を登り、丘の上へ。

画像: 展望スポット「立杭の郷を見下ろす丘」

のどかな田園風景と点在する窯元の屋根、そしてその向こうに緑豊かな山々が連なり、思わず声が出ます。この一望できる風景の中に、立杭の歴史と文化が凝縮されているようです。

2日間、立杭にどっぷりと浸かれる「陶泊体験」。陶器の感触、窯の熱気……そして大上さんや市野さんをはじめとする陶工たちとの温かな時間を思い返すと、第2の故郷を想うような、やさしいぬくもりを感じると同時に、新しいことを吸収し成長した自分を体感することもできるはず。次の旅は、深く土地を知る陶泊の旅に出かけてみませんか。

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