とは言え、生活を大きく変える決断には不安がつきもの。まずは気軽に現地を訪れたり、経験者の話を聞いたりして、イメージを具体化するのが一番です。今、自治体では2地域居住体験ツアーを運営し、地域の魅力や暮らしのリアリティを感じることができる機会を提供しています。OnTrip JALでは、そんな各地の「2地域居住」の魅力を取材。さまざまなエリアの情報を、連載記事で紹介しています。
今回ご紹介するエリアは、兵庫県の北部に位置する豊岡市。豊岡市では“小さな世界都市”を目指して芸術、特に演劇に力を入れた街づくりが行われています。
また、情緒豊かな城崎(きのさき)の温泉街や出石(いずし)の城下町など、街の見どころも豊富。空港が近く、コワーキングスペースや移住者が集う場所もあり、地方暮らしを楽しみながら都市部にも拠点を置く2地域居住にぴったりな場所なのです。
そんな豊岡の魅力を、城崎国際アートセンターの館長・田口幹也さんと、2019年から豊岡に移住された劇作家・平田オリザさんのインタビューを通してご紹介します。
城崎国際アートセンター館長・田口さんが語る豊岡の魅力
豊岡の日高で生まれ育ち、大学進学を機に東京へ。そんな田口さんが故郷に戻るきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災でした。
「震災の時、子どもがまだ小さかったので、豊岡にしばらく戻ることにしたんです。神鍋高原の自宅と東京とを行き来する2地域居住の生活が始まりました。そんな中、東京から遊びにきた友人を豊岡のあちこちに案内するうちに、改めて豊岡の魅力に気づいていきました」
城崎という古き良き温泉街があり、コウノトリの繁殖に成功する情熱があり、神鍋高原など自然も残っている。豊岡が持つポテンシャルをもっと世界にPRすべきだと考えるようになった田口さん。現在は舞台芸術を中心としたアーティスト・イン・レジデンス「城崎国際アートセンター」の館長としてまちの魅力を発信されています。
「ここは城崎温泉街の中にある滞在型の創作活動の場です。2014年にオープンし、現在は平田オリザさんが芸術監督を務めています」
ホールはもちろん、スタジオとレジデンス(宿泊施設)を完備しているのが大きな特徴。舞台芸術の発信の場であるだけでなく、アーティストが城崎で暮らしながら作品づくりに集中できる場所でもあるのです。滞在期間は、最短3日間から最大3ヵ月。1年に1度公募を行い、選考に受かったアーティストは無料で滞在が可能です。
「滞在している国際的なアーティストによるワークショップやトークなど、城崎のまちの人と交流する機会もコーディネートしています。住民の方は無料でイベントに参加し、世界のアートと触れ合うことができます」
アーティストにとって暮らしやすいまちは、多様性を尊重し合えるまち。そこで育つ子どもたちは、自分のまちに誇りを持って成長していけると、田口さんは確信しています。
豊岡では、演劇を活用したコミュニケーション教育をはじめ、小・中学校の9年間で地元を深く学ぶふるさと教育、さらに幼稚園、小・中学校に外国人教員を派遣する英語授業など、独自性のある教育が行われています。
「おもしろい人間が育つ、おもしろい地方がたくさん創生されると、世の中はきっともっと楽しくなる。『2地域居住』を検討中の方には、温泉旅行を兼ねたワーケーションや、9月に行われる演劇祭をめがけた長期滞在などで、旅を楽しみながら豊岡の魅力に触れていただきたい。『2地域居住ツアー』も上手に活用していただきたいと思います」
豊岡の小中学生の学びと育ちを支える、コミュニケーション教育~平田オリザさんとの出会い~
教育に力を入れている豊岡市。2017年から始まった豊岡市小中一貫教育「豊岡こうのとりプラン」の重要な柱のひとつが、演劇的手法を取り入れたコミュニケーション教育です。
この日は、日高小学校で対話劇を制作する演劇ワークショップが行われていました。「台本づくりや話し合いを通して、人に伝えるための手段や、他人の考えを認める力を育んでほしい」と語るのは、教壇に立つ平田オリザさん。
対話劇のテーマは「転入生がやってきた」。6人ほどのグループに分かれて、転校生役や先生役を決めたり、設定やセリフを決めたり。困った時には平田さんからアドバイスをもらい、それぞれのグループで徐々に内容をまとめていきます。
「現代社会では、さまざまな知識や情報がインターネットで手に入れられます。どこで暮らしても、便利に暮らすIT環境を得ることができる。だからこそ、そこにしかないリアルな価値というものが地方に求められる。僕たちが携わるパフォーミングアーツ、つまり演劇を取り入れた教育というのは、ほかの地方にはない価値です。豊岡の地方創生に大きな役割を果たしていけると考えています」
完成した対話劇は、最後にクラスメイト全員の前で発表します。お互いに感想を言い合い、授業は終わり。豊岡市の小学6年生、中学1年生はそれぞれ年に3回ずつ、合計6回このような授業を受けて、「考えを受け入れる」、「折り合いをつける」、「合意形成する」など、コミュニケーション能力を養うのです。
2019年に豊岡に移住。劇作家・平田オリザさんインタビュー
東京生まれ、東京育ち。主宰する劇団「青年団」の演出を担当。さらに大阪大学COデザイン・センター特任教授、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授など、多忙な日々を送っていた平田オリザさん。豊岡に通いはじめたのは「城崎国際アートセンター」の運営に携わるようになってからなのだそうです。
「2014年にアートセンターがオープンして、豊岡に移住したのは2019年。2021年に開校する『芸術文化観光専門職大学』の学長をすることになり、そのことが移住を決定づけました。僕がここにいるということは、『青年団』の拠点もここになる。劇団員の多くも移住してきています」
豊岡を選んだ人というよりも、豊岡というまちに選ばれた人、というのがふさわしい平田さん。実は以前から、東京という都市へのこだわりはまったくなかったそう。
「僕は東京にいる時から、日本各地、世界中で仕事をしていましたから、東京に帰るのが月に1回ということも珍しくなかった。そういう意味で、自分の拠点は東京じゃなくてよかったし、作品の生産拠点が東京である意味はない、と以前から思っていました」
移住してほどなく、世界はコロナ禍という未曾有の状況に突入しました。2020年の東京では一時期、稽古すらできない状況でした。
「産業と同じで文化にもバックアップ機能が必要だと思っています。東京がストップしたから全国的にストップする、という文化状況は良くない。東京がダメな時こそ、そういった影響が少ない環境で文化を継続、復興していくことが必要だと感じました」
円山川の穏やかな水面を望む一軒家での新しい暮らし、新しい仕事スタイル。そんな豊岡での生活に不便を感じることはないそうです。
「現在の住まいは、劇団の拠点となる江原河畔劇場から徒歩圏内。最寄りの江原駅までは歩いて4分、空港までは車で10分ですから、まったく不便はないですね。少し前までは、コウノトリ但馬空港を夕方に出て、羽田を経由して、翌朝からパリで仕事する、なんてことが日常でした」
長年、多忙な日々を送ってきた平田さんにとって、のどかな豊岡は家族で過ごすのに適した場所でもあったようです。
「子どもがまだ小さいということも移住の決め手になりました。たまたまこの江原地域は子どもが多く、ご近所づきあいもあってすごくありがたいです。子育てする場所としては、圧倒的に東京より豊岡がいいですしね。移住してきた劇団員もみんな、移住してきてよかったと言っています。
『コウノトリ育むお米』をはじめ、無農薬の食材を安定して安い値段で手に入れることができるのも大きな魅力です。
食の安全は、子どもが成長していくうえですごく重要なことです。しかも、何を食べても本当においしい。それは暮らしてみて実感した、日々のよろこびのひとつですね」
平田さんが移住して気づいたという、豊岡の魅力。それは、アーティストとしての仕事のしやすさだけではありません。街並みや食べ物、地域の人の雰囲気など、その魅力の一端は旅の中でも感じることができるでしょう。
ここからは、「2地域居住ツアー」でも訪れられる豊岡の見どころをご紹介します。
2地域居住ツアーで楽しみたい、豊岡の見どころ
地元住民も利用する情報交換の場、城崎温泉
関西有数の温泉街として知られる城崎温泉。その起源は奈良時代で、開湯1300年以上の歴史があります。旅館の中にある内湯だけでなく、7つの共同浴場に出かける「外湯めぐり」をするのが、城崎温泉のおすすめの楽しみ方です。
外湯は地元の人も日常的に利用しているのだそう。湯船に浸かりながら貴重な地元情報を得られるかもしれません。
城崎温泉
全国でも珍しい、カフェ内に移住相談所がある「ふれあい公設市場」
日本最古の木造の市場として地元の人々から親しまれている「ふれあい公設市場」。昨今はUターンやIターンでやってきた若い世代がコーヒースタンドやゲストハウスを運営しているおしゃれなエリアになっています。
市場内の「カミノ珈琲」内には、移住相談窓口「暮らしのパーラーTOYOOKA」があり、移住を希望する人や移住した人たち同士のコミュニケーションの場となっています。移住相談窓口がカフェの中にあるのは、全国でも珍しいのだそう。移住や2地域居住に関するパンフレットなども置かれているので、情報収集にもおすすめです。
ふれあい公設広場
住所 | : | 兵庫県豊岡市千代田町3−6 |
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web | : | https://www.storkcci.jp/(豊岡商工会議所) |
暮らしのパーラーTOYOOKA
住所 | : | 兵庫県豊岡市千代田町2-24 |
---|---|---|
web | : | https://tonderu-local.com/support/consultation |
「津居山かに」は、食通もうなる関西随一のブランド蟹
かに漁解禁の11月から3月まで、関西の食通がこぞって食べに訪れる豊岡グルメの最高峰が「津居山かに」です。津居山港に水揚げされるズワイガニのことを、津居山かにと呼びます。
丹後半島沖を漁場にした日帰り漁が行われるため、鮮度の良い状態で提供されるのが特徴。豊岡にある料理店や料亭では、かに刺し、茹でがに、かにすきなど、さまざまなかに料理が味わえます。
事前予約なしで利用可能なコワーキングスペース「FLAP TOYOOKA」
2地域居住では、仕事環境も重要です。家以外の仕事場として重宝しそうなのが、コワーキングスペース「FLAP TOYOOKA」。2時間500円、1日最大1,000円というリーズナブルな価格なのも魅力的です。個人会員、法人会員になれば、会議室やミーティングルームも自由に使用できます。
事前予約なしで一時的に利用できるプランなら入会金は不要。ワーケーションを兼ねた2地域居住ツアーで、一度利用してみても良いのではないでしょうか。
FLAP TOYOOKA
住所 | : | 兵庫県豊岡市大磯町1-79 |
---|---|---|
電話 | : | 0796-24-5551 |
web | : | https://flap-toyooka.com |
コウノトリ但馬空港から羽田までは、最短約2時間で移動可能
北近畿エリアの空の玄関口として利用されている「コウノトリ但馬空港」。陸路に比べて空路は大幅に時間短縮できるので、出張やショートトリップの強い味方になってくれます。
但馬~大阪(伊丹)間を1日2往復。大阪(伊丹)から乗り継ぎを利用すれば、但馬~東京(羽田)間は最短約2時間で移動することが可能です。JR豊岡駅からバスで約15分、2地域居住には欠かせない地域密着の空港です。
兵庫県豊岡市の2地域居住ツアー モデルコース
そしてジャルパックでは、2地域居住を検討している方向けに体験ツアーを開催中です。コワーキングスペースや小学校など、通常のツアーでは訪れることができない地域の様子を垣間見られるスポットを、ご希望に合わせてご案内します。豊岡での暮らしを具体的にイメージできるこの機会を、ぜひ活用してください。
日程 | 内容 |
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1日目 | コウノトリ但馬空港 → コウノトリの郷公園 → 玄武洞 → 城崎温泉をそぞろ歩き |
2日目 | 期間中 移住担当者 訪問(教育への取り組み・弘道小学校・コワーキングスペースなどご希望に合わせて約4時間ご案内) → 午後から自由行動 出石城下町散策 → 神鍋高原 |
3日目 | 神鍋高原 → 豊岡市内(カバンストリート)→ コウノトリ但馬空港 |
アーティストにとって暮らしやすいまちは、多様性を尊重し合えるまち。豊岡には、都会からの2地域居住希望者も温かく迎え入れてくれる環境があります。地方には馴染めないのでは…と不安になってしまう人こそ、ぜひ一度、豊岡を訪れてみてください。
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2つの街で暮らす新しい生活スタイル「2地域居住」をはじめる旅
2つの拠点をもつ新しいライフスタイル、2地域居住。地域担当者との橋渡しや下見ツアーのモデルコースをご紹介!
豊岡市
https://www.jal.co.jp/domtour/jaldp/new_journey/2chiiki/toyooka/
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平日は都市部で仕事をし、週末は地方で豊かな自然に触れ合いながら静かに暮らす。そんな魅力あふれる2地域居住を通じて、地域の魅力をお伝えします。
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