“女性の活躍”を表現した「カルティエ ウーマンズ パビリオン」
Victor Picon ©Cartier
大阪・関西万博に出展している「カルティエ ウーマンズ パビリオン」。美しい外観が目を引くこの建築を手掛けているのは、ドバイ万博で日本館のデザインも手掛けた建築家の永山祐子さんです。ドバイ万博で使われた組子の木のパーツを再利用するなど持続可能性に配慮した建築で、外観は日本の江戸切子をイメージした幾何学模様に仕立てています。

Victor Picon ©Cartier
2フロア構成となるパビリオン2階にはトークセッションスペース「WA」を設け、さまざまなイベントを実施しています。今回レポートするトークセッション「夢を現実に:障壁を撤廃し、子どもの憧れを叶える」は、6月9日から22日まで「SHAPING THE WORLD TOGETHER」をテーマに2週間開催された「WA ダイアローグ」のひとつです。
この日は梅雨の空模様。それにもかかわらず、美しいパビリオンには入場待ちの列ができ、イベントも満席の活況でした。この日の登壇者は、JALの藤明里機長、銀座「鮨竹」大将の三好史恵さん、クラシックバレエダンサーの熊川哲也さん。モデレーターはフリーアナウンサーの中村江里子さんが務めました。
ブレずに、折れずに、しなやかに。そうして現れる、パイロットの“エレガンス”
藤はJALのボーイング787型機の機長であり、飛行操縦教官の経験もあります。米国のパイロット養成学校でライセンスを取得後、帰国し仕事をしながら国内のパイロット養成学校で日本のライセンスを取得、1999年にJALエクスプレスに入社しました。2010年、ボーイング737型機にて本邦エアライン初の女性旅客機機長となり、飛行操縦教官(インストラクター)を経て、現在に至ります。
「何となく乗り物が好きでパイロットに憧れた」という藤は、自分自身の軸を大切にした結果として、この職につながった経緯を振り返ります。
藤「女性パイロットが珍しかった30年以上前、渡米してフライトライセンスを取得しました。女性であることや背の低さ、視力など、今では乗り越えられることも乗り越えづらかった時代です。でも海外で空港に行ったとき、眼鏡をかけたパイロットや女性パイロット、背の低いパイロットを見かけました。そのとき、私の何がダメなの?と感じたのです」
かくして渡米。日本より女性の自主性が尊重されたアメリカという環境を、「リミットをかけずに進むことができた」と顧みます。
「周りの誹謗中傷は、私の人生に関係しません。受け止める言葉を取捨選択し、自分に負けない芯だけは曲げずにいました」と強い自分軸を持つことの大事さを付け加えます。また、日本にいたときの大学のゼミの教授からの一言が支えになったそうです。
藤「夢について相談したところ、『エレガントに生きなさい』という言葉をいただいたんです。エレガントさはおそらく、外見ではなくて内面から現れるもの。きっと大変なことがいっぱいあるけれど、ブレないように、折れずにしなやかに、あなたらしく生きなさいというアドバイスだったのかなと思います」

2010年には日本初の女性旅客機機長に就任。現在はボーイング787型機を操縦しながら、後進の育成にも携わっています。中村さんは「学生さんがうまくいかないときに、どんな言葉をかけてあげますか」と問いかけました。
藤「今の子は失敗を恐れたり挑戦を躊躇したりといった傾向があると思います。でも失敗から学ぶことのほうが絶対大きいので、自分が考えたことを思い切ってやりなさいとアドバイスします」
その結果として起きる失敗も、糧になると語ります。
「コンチクショウ」を糧に。“女性”をポジティブに捉える三好史恵さん
一方、三好史恵さんは、日本ではまだまだ少ない女性寿司職人として活躍しています。東京のインテリア専門学校に入学後、イギリスで1年間の生活を経て、和食料理人になることを決意。帰国後に「新ばし しみづ」に弟子入りし、2014年に「鮨竹」を銀座で開業。海外にもファンを持つ名店として愛されています。
しかし28歳とやや遅く修業のスタートを切ったことで、「新しいことを学ぶのに、年齢のプライドが邪魔してしまうことも多かった」といいます。
三好さん「でも結局は修業でそのプライドをズタボロにされて、自分はここでは何もできないんだと知るんです。それがモチベーションになって、『コンチクショウ』で頑張ったという感じです」
晴れやかな笑顔を見せる三好さんは、女性の寿司職人でいいのかと悩んだとき、憧れの職人からの一言で迷いが消えたのだとか。
三好さん「あなたは女性だから、その視点を活かしたうえで男性の社会を学んでみたらいいよ、と言われて。どんな業界においても、『男性』と『女性』の両方の視点は必要です。寿司業界という男性社会に、女性の視点を持って入ることは、アドバンテージになるのだと気付かされたんです」
自分たちが活躍することが、お客さまへの提供価値につながる
藤「確かに。特にコックピットなどは常に緊張を強いられる場なので、自分がいることで少しストレスレベルが下がるのもいいなって思ったりします」
場の雰囲気を良くしてパフォーマンスを上げることは、仕事において感動を生むことにもつながります。このことは、三好さんの仕事にとっても大事な目的だといいます。

三好さん「カウンターのなかで、お客さまに美味しかった、ありがとうと言ってもらうのが一番の喜びですね」
対して藤はなかなかお客さまと接する機会がない立場ですが、お客さまの満足度はモチベーションにつながる大事な要素だそう。
藤「客室乗務員から『いいフライトでしたとお客さまからお声をいただいた』と聞くとやりがいを感じます。ボーディングブリッジから手を振っていただけるとめちゃくちゃ嬉しいんです」
中村さん「そうなんですね、これからは必ずコックピットに向けて手を振ります!」
舞台は違えども、同じくお客さまの満足を求めるプロフェッショナル同士。トークセッションは大いに盛り上がりました。
自分に忖度しない。熊川哲也さんが語る、前に進むためのポリシー

トークセッションは2部構成で、中村さんと熊川さんの対談も行われました。15歳でイギリスへのバレエ留学を実現させた熊川さんは、自身の経験を印象的に振り返ります。
熊川さん「後押ししてくれる両親など環境に恵まれていたことも大きいですが、『リミットをかけないこと』が大事です。人は感動しないと成長が止まってしまいます。リミットを設けず、解放されたところで失敗も成功も学び、その成功が感動につながる。感動が歴史を作るんです」

また「K-BALLET SCHOOL」を創設するなど後進育成に努め、挑戦を続ける熊川さんに対し、「これだけは譲れないことは?」と中村さんが尋ねると、「おごることなく、劣っていると思ったら人よりも頑張って自信をつける。自分に忖度しないことです」と自身のポリシーを語りました。

「子どもたちが夢を叶えるために」という今回のテーマに関する話では、「頑張ればバレリーナになれるよとは決して言わない」と夢を実現することの難しさについて前置きしたうえで、「でも転んだときにはなぜ転んだかを考えて、次は転ばないようになる。他の夢に向かうにしても、その経験値が必ず活きます」と伝えました。
リミットをかけない人生の先に、感動が生まれる。子どもたちが夢を叶えるための指針
登壇者たちが異口同音に語っていたのは、「子どもたちが夢を叶えるためには、自分にリミットをかけないことが大事」ということです。大切なのは、親も含め、世間の思い込みや制限に対して疑いを持ち、扉を閉ざしてしまわないこと。選択肢の幅を無限に広げて挑戦し、成功も失敗も経験することで「自信」につながるといいます。
そうしてやりたいことや好きなことに取り組むなかで「感動」が生まれます。常に自分自身が感動し、子どもたちや後進にも「感動」のバトンタッチをすることで、伝統や文化が継承されていくはずです。
手に取れる情報が増えた結果、取捨選択がどんどん難しくなる時代において、自分自身に問いかけながらブレない軸を保つことが、いかに大切か。登壇者の人生とメッセージを通して、夢を実現させるためのヒントが伝わるトークセッションになりました。
関連記事
A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。









