フライトのCO2排出量実質ゼロ。のみならず、さまざまな取り組みが
秋晴れの羽田空港第1ターミナル南ウィングの一角には、「JAL2030」と大きく映し出されたモニターがひときわ目を引きます。
いつもとは違う雰囲気に、多くのお客さまが足を止めていらっしゃいました。
チェックイン時には、お客さまに記念品をお渡ししました。そのなかにはシートカバーなどの廃材で作られたバゲージタグや、一部の国・地域のビーチの規制に配慮したビーチフレンドリー処方の日焼け止めクリーム「ALLIE」、さとうきびの搾りかす「バガス」を使った「森のタンブラー」が入っています。
9時30分、羽田空港第一ターミナル11番搭乗口の前で行われた出発式では、常務執行役員総務本部長の青木紀将がこう話します。
青木「我々JALグループは、2050年のカーボンニュートラル宣言に加え、誰もが豊かさと希望を感じられる社会を作るJAL Vision2030をはじめ、事業活動全体をサステナブルにする取り組みを進めています。本日は、あらゆるシーンでサステナビリティを感じていただけることでしょう。フライトにおけるCO2排出量実質ゼロを国内で初めて実現しています。このような取り組みは一企業だけで実現できるものではありません。今日のフライトが、誇らしい空の旅を考える、未来を考える、有意義な時間になってほしいと考えています」
一緒に見て・学んで・体験するナビゲーターとして、慶應義塾大学大学院でSDGsを研究する蟹江憲史教授、未来をつくるSDGsマガジン「ソトコト」編集長・指出一正氏に加え、ファーストクラス機内食を監修した狐野扶実子シェフが登壇しました。
蟹江教授「脱炭素は大きな課題です。実質的な排出ゼロを実現できることは大きな機会。フライトを通じて、具体的な取り組みを観察したいですね」
指出氏「このフライトにはたくさんのアイデアやヒントが隠されています。サステナビリティっていったいなんだろうと考えるためのチャンス。またその先に、幸せ、ウェルビーイングがあることを感じ取っていただきたい」
狐野シェフ「今回召し上がっていただく機内食では、『未来の食材50』を使っています。この企画を通して、みなさんと一緒にSDGsを考える機会にしたいと思います」
機体はもちろん、フライトを支える作業車両にもエコな工夫
さて、JL2030という特別な便名が与えられたA350に搭乗されたのは、総勢約320名ものお客さまです。搭乗ゲートから屋外を見ると、給油をしている車体が。通常の航空燃料とSAF(Sustainable Aviation Fuel)が約6対4の割合で配合されています。SAFとは廃食油や動物油脂、廃棄物などを原料に作られた持続可能な代替航空燃料で、国産化に向けても研究が進められています。
もともと省燃費なA350ですが、SAFを使い、運航におけるCO2排出量削減の工夫に加え、お客さまにご協力いただいたカーボンオフセットも含めて、CO2排出量実質ゼロを実現しています。また、お客さまのお手荷物を運ぶトーイングトラクターは電気自動車を使用し、ハイリフトローダーにはバイオディーゼル燃料を搭載し、地上車両のCO2排出量実質ゼロを実現しました。
機内へと乗り込めば、普通席各シートにお食事が。こちらはサステナブルな趣向が施されたランチタイムのお楽しみです。
機長がキャビンにて、お客さまにメッセージ
出発時には片側のエンジンのみで滑走路付近まで移動し、離陸直前でもう一方のエンジンを作動させる「ワンエンジンタクシーアットディパーチャー」という方法を使用しました。片側エンジンの始動を3分遅らせるだけで、自動車の満タン燃料程度と同等の燃料節約効果があります。飛び立つときにもひと工夫。離陸後、早めに加速することで燃料消費を抑え、トップスピードでの巡航時は省エネに最適な高度1万2200メートルをキープ。細かな省エネの工夫を積み重ねたフライトです。
杉本機長「このように機内でマイクを使ってご挨拶するのは初めてでございます。この高度1万メートルで、サステナビリティに向かって皆さまと心をひとつにできたことに、無限の可能性を感じています」
パイロットが客室内で自らマイクを握るケースは極めて稀で、このあとは客室内を巡回しお客さまにご挨拶をしながら、フライトについての質問に応対します。機内では海外の拠点から来たスタッフ、聴覚に障がいのあるスタッフなどがおもてなしをしました。多様な人財の活躍も持続可能な社会実現の大切な観点です。
食の持続可能性に配慮した、新たな機内食
やがて、オープニングムービーが流れます。「誰もがいつまでも自由に。あたらしい何かと出会える未来のための取り組み」と題して、CO2排出量実質ゼロ、資源循環、地域活性化、アクセシビリティ向上、ダイバーシティ&インクルージョンなど、JALが取り組むテーマをアニメーションに仕立ててご説明。
続いて、機内食について、ファーストクラスを手掛けた狐野扶実子シェフによるプレゼンテーションです。
狐野シェフ「機内という限られた空間で、おいしいことはもちろん、健康的で消化によく、楽しんでいただくことを重視しました。今回使用した『未来の食材50』とは、気候変動にも影響されにくく栽培しやすいものばかり。またグルテンフリーの豆腐麺や、環境や資源に配慮したASC認証のサーモンなどを使っています。食と未来について考えるきっかけになるひと皿になればいいなと感じています」
またクラスJ、普通席の機内食については、商品開発部の東久世 彩がご案内します。
東久世「環境負荷が低く、ヘルシーな食材として注目されている大豆ミートを使ったハンバーガーです。栄養価の高いスーパーフード『スピルリナ』をバンズに練り込んでいて、マヨネーズは『エコマヨ』を採用。環境に配慮しながら、食べ応えのあるひと品となっております。ご一緒にフェアトレードチョコレートも。ミールフリーをご選択されたお客さまには感謝の気持ちを込めて、マイルをご提供しています」
またドリンクにもひと工夫。すべてのクラスのお客さまに、無添加のアップルジュースをご用意。不揃いで規格外であったものの、味は確かなリンゴの食品廃棄削減の取り組みです。
デザートとしてご提供した紅イモ味のブルーシールアイスクリームのフタは、紙製のものを採用。飲み物の紙コップのフタも紙にしました。食後には客室乗務員が紙コップを回収、リサイクルを行います。
さらに機内誌はデジタル化をして機体重量を削減。モニタに表示されたQRコードにスマホなどでアクセスすれば、機内Wi-Fiを通して機内誌をご覧いただけます。
トークセッションでは、フライトのサステナビリティについて議論が
さて、食事を挟んで機内ではトークセッションが繰り広げられています。機内食や旅、フライトといった視点から、サステナビリティの第一人者であるナビゲーターの知見が光ります。
狐野シェフ「食は味わいや出自のみならず、ストーリーや思いが大切だと思っています。こんな作り手の思いがあるということもシェアしたいんです。思いを受け止めたら、愛着が生まれますよね」
蟹江教授「思いや気持ちを汲んで食べるのは、『いただきます』という思いのなかにも含まれる行為だと思います。食べて楽しんで会話して、とフライトは生活の縮図かもしれません。飛行機の周辺にさまざまな車両があり、機内食に至るまでの食の流通も複雑。フライトのサステナビリティとひと口にいっても、いろんな要素があるんですよね」
指出氏「環境負荷低減のみならず、自分自身の生活の豊かさも求められることを感じてほしい。地域で循環する世界でともに楽しく生きていくことは、自分自身に近いことです。ウェルビーイング、すなわちご機嫌な状態で旅をして、社会や地域について思いを馳せてもらえればいいなと思います」
従来のフライトで重視されてきた価値観に、新たな要素が加わります
「県民を代表して、心から歓迎申し上げます。あらゆる豊かな自然、多様な文化、地域の魅力に触れながら、沖縄を楽しんでください」と、沖縄県玉城デニー知事からのサプライズメッセージが読み上げられ、A350は青空の広がる那覇空港に着陸しました。
現地沖縄では地域の魅力に触れるプログラムや宿泊をご用意。環境に配慮した「やんばるの森ネイチャーガイドツアー」や「首里城60分ぐるっとツアー」のほか、ホテルでもサステナブルな取り組みをご体験いただけます。
「これまで、自分たちでできることだけしかしてきませんでしたが、企業の取り組みが増えるのはとてもいいことですよね。移動という必要な手段が、サステナブルになることはとても大事だと思います」と感想を語ってくださったお客さまも。
今回のチャーターフライトは「みんなで行こう、サステナブルな未来へ。」というキャッチフレーズを掲げました。JALの取り組みをご紹介することのみならず、多くのお客さまと一緒にサステナビリティを実現することが目標です。
快適であることや楽しいこと。従来のフライトに求められてきたこのような価値に、新たな要素が加わりつつあるなか、JALはさまざまな手段でアプローチを続けています。これからのJALのフライトで、もしサステナビリティへの気付きや学びを得ていただくことができれば、これ以上ない喜びです。
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