10階に設えた客室には、実際に飛行機内で使用していたサイドウォールパネル(機内の壁)やシートなどが配置され、臨場感あふれる空間に。窓からは東京湾を一望することができ、風向きによっては羽田空港へ着陸進入する飛行機を眺めることもできます。
ウイングルームを通してお客さまに「新しい飛行機の楽しみ方」をお届けしたい。その想いを実現するまでの背景を、本記事を通してお伝えします。
“本物”を使うことでしか味わえないコンセプトルームをご提案
矢田貝「ホテル業界では今、多様化する顧客ニーズに応えるためにさまざまな施策が行われているといいます。そんな中、東急ホテルさんより『ホテルの強みを活かしつつ航空ファンに喜ばれる部屋をつくりたい』とご相談をいただき、この『ウイングルーム』のプロジェクトが始まりました」
こう語るのが、JALエンジニアリング 部品サービスセンターの矢田貝です。
矢田貝「特に東京ベイ東急ホテルの場合、新浦安地区にあることからどうしても東京ディズニーリゾート需要に偏ってしまいやすいという課題があります。違う目的を持つ新たな顧客層も開拓することで、価格競争や需要の波から独立した付加価値をつくりだすことが必要でした。
そこで、当時駆け出しだったJALの廃材活用の取り組み(※)について東京ベイ東急ホテルさんにご説明をしたところ、私たちの想いに共感してくださり、『“本物”の飛行機材を使うことでしか味わえないコンセプトルーム』をつくることになりました」
※2021年10月より開始した、廃棄される飛行機部品を活用したポーチやバッグなどの商品開発と販売プロジェクト。廃棄物の削減のみならず、「空の旅を身近に感じていただける商品づくり」を目指しています。
飛行機を知り尽くした、若手のプロフェッショナルだからこそ実現できたこと
コンセプトルームの製作にあたり、主体となったのは若手のJALエンジニアリングチーム(整備士チーム)。飛行機部品にもっとも近い場所にいるチームとして大切にしていたこと、彼らだからこそ実現できたことがあります。
矢田貝「大切にしていたのは、とにかく“本物にこだわる”ということです。情勢的に旅行に行きたくても行けないお客さまが大勢いらっしゃることから、本物の飛行機部品やアメニティを用いてホテルの客室でリアルな機内を再現し、『新しい飛行機の楽しみ方』をご提供することを目指しました」
このコンセプトルームづくりは、大型飛行機の部品を廃棄せずに新たな楽しみとして届けていく取り組みのスタートでもありました。JALグループが持つさまざまなアセットを良い形で最大限活用し、中途半端なものにならないよう取り組んでいたと話します。
矢田貝「本プロジェクトは、整備士がアイデアを出し合い形にしました。廃棄される部品を活かしたいという強い想いや、最大限の活かし方を考えられるのは、飛行機を知り尽くしたプロフェッショナルだからこそではないでしょうか」
アイデアを形にすることで社会から評価をいただき、それによって需要を知り、また新たなアイデアの源泉にする。このサイクルを生み出せたことは、廃材活用事業を発展させていくためにとても重要な成果のひとつです。
また、ウイングルームを“写真映え”する空間に仕上げるというのは、若手整備士のアイデアによるもの。部屋には数々のアイコニックなアイテムが点在していますが、それらの「見え方」に一貫して重点を置き、具体的な意見を出していったといいます。
矢田貝「飛行機の座席やカーペットなど、社内の材料を集めることにはとても苦労しました。しかしその甲斐もあって、写真でご覧になるだけでもインパクトを感じていただけるコンセプトルームに仕上がったと思います」
機内にいる臨場感をよりリアルに。見えない部分まで凝らした工夫
廃材を活かすためのアイデアを、どのように実現させていくか。それにはもちろん見た目だけではなく安全性の確保も不可欠です。見えない部分にまで整備士の技術が光ります。
矢田貝「使用する廃材部品のそれぞれの性質を改めて検証しながら、補強や材料選びをしつつ製作しました。たとえば、飛行機のサイドウォールパネル(飛行機内の壁)の形状は、機体の丸みに合わせて湾曲しています。それを四角い客室内に設置するにあたり、アルミの補強材を日本刀のような曲線に曲げる技術を用いているのですが、これも飛行機整備士の持つ技術力のひとつです。ほかにも展示物を支える土台や骨組みとして、飛行機部品輸送時に使用した木箱の廃木材を活用しました。材料を見極め、直接は見えない部分まで工夫を凝らしています」
矢田貝「サイドウォールパネルの横には、1機につき限られた数しかない『フロントシート』を設置しました。ひじ掛けからテーブルが出てくるタイプの座席のことです。より機内にいる感覚に近い形でくつろいでいただきたいという思いからです」
矢田貝「飛行機は揚力(機体を上空に上げるための力)を発生させるため、飛行中は常に前方が上になるように傾斜した姿勢を保っています。したがって飛行機用に調整されたテーブルは少し傾いてしまう造りになっているのですが、地上でも使用しやすいようにこまやかな調整を行いました」
普通に使用していただく分には気がつきにくい部分かもしれませんが、このように整備士ならではの技術を存分に活かして、コンセプトルームを完成させました。
また、普段はふれることのない飛行機内の設備を存分に楽しんでいただきたいという思いで、シートのほかにもさまざまなアイテムを設置。中には、より親しみやすい形に生まれ変わったものもあります。
矢田貝「シート横には、実際に動き、扉も開閉できるミールカートを設置しました。普段、客室乗務員がお客さまにドリンクなどをご提供する際に使用するものですが、機内でお客さまにふれていただく機会はほとんどありません。このウイングルームでは、ぜひ間近で眺めたり動かしたりしながら楽しんでください」
シートの下に敷いたカーペットも、実際に飛行機内で使用しているものです。いくつか種類がある中から部屋の雰囲気に合うものを選び、飛行機型にくり抜いて可愛く仕上げました。
矢田貝「タービンブレード(飛行機を動かすためのタービンに組み込まれている羽の一枚)は、ルームナンバーを示すオブジェとして生まれ変わりました。成田にある『エンジン整備センター部品整備課』で、実際に使用していたエンジン廃材からつくっています」
このようにJALでは、廃材をアート作品に使用するといった活用方法の多様化も目指しています。
実際の空の旅と同じサービスをホテルの客室で
矢田貝「アメニティは、ポーチ、ティッシュ、イヤプラグ(耳栓)、アイマスクをご用意しました。パリのブランド『MAISON KITSUNÉ(メゾン キツネ)』とコラボレーションしているアメニティキットです。通常、JALビジネスクラスにご搭乗いただかないと手に入らないものですが、ウイングルームにご宿泊のお客さまにもお配りすることにしました」
矢田貝「また、ご宿泊の方々にお渡ししている宿泊記念カードは、飛行機の本物の搭乗券を模して製作しました。光にかざしていただくと飛行機が透かしとして見えるようになっており、細かいところまでお楽しみいただけるよう趣向を凝らしています」
廃棄物の活用の幅を広げ、より多くの方にお楽しみいただけるサービスを
矢田貝「今回のウイングルームのご提供は、JALの廃材活用の取り組みにおいて非常に大きな一歩だったと感じています。JALでは、飛行機部品の再活用を通じた廃棄物削減へのさらなる取り組みはもちろん、今後は客室にとどまらず、ホテルのロビーや商業施設の公共スペースでの展示などさらに活用の幅を広げていけたらと考えております」
これからもJALは、多様な視点で空の旅をお楽しみいただけるようなサービスを展開していきます。この記事をご覧いただき興味を持ってくださった方は、ぜひ東京ベイ東急ホテルのウイングルームに足を運んでいただき、JALの機内空間に泊まるという新たな空の旅を体験してください。
東京ベイ東急ホテル
住所 | : | 千葉県浦安市日の出7-2-3 |
---|---|---|
電話 | : | 047-390-0109 |
web | : | https://www.tokyuhotels.co.jp/tokyobay-h/ |
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