この企画の発案者であるJALの社内ベンチャーチーム「W-PIT(Wakuwaku-Platform Innovation Team)」メンバーの佐藤と、ヘラルボニー代表の松田崇弥さんに、企画を形にするまでの道のりを振り返ってもらいながら、これから実現したいことについても話を聞きました。
※撮影時のみマスクを外しております。
作家が生み出す「アート」とJAL整備士の「技」が掛け合わさった作品
――今回の企画は、どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか?
佐藤「3分間でベンチャー企業を紹介する動画をYouTubeで見ていたときにヘラルボニーが出てきて、ビビッときたのがきっかけです。“障がいのイメージをひっくり返す”というテーマの大胆さに、すごく惹かれたんです。アートも福祉ももともと興味がある分野だったので、一緒に何か斬新なことをやりたい!そう思って連絡しました」
松田「JALさんの方から連絡がきたとき、正直びっくりしましたよ。初めてやりとりしたのが、どれくらい前でしたっけ?」
佐藤「2020年7月なので、1年半くらい前ですね」
松田「メッセージのやりとりやオンラインでの打ち合わせもとても丁寧で、感動したことを覚えています」
佐藤「松田さんも想いのこもったメッセージをくださって、ますます一緒に何かを作っていきたいと思いました。私は客室乗務員として働いているので、外部の方との交渉やディスカッションが初めてで、当初はずっと緊張していました(笑)」
松田「当時、佐藤さんがJAL社内向けに企画内容をプレゼンする動画を見せてもらったんですが、熱量の高い素晴らしいプレゼンで、とても嬉しかったです。当社の社員全員に共有しました」
――その熱意が伝わって、実際に企画として動き出したのですね。
佐藤「W-PITの上長から『想いは伝わった』と言ってもらい、会社からもGoが出て、ヘラルボニーさんと一緒に動き出したという形でしたね」
松田「最初は『機内を美術館にする』『機体のデザインを共創する』といった、いろいろな案を出しましたよね。私の兄も重度の知的障がいがありパニックになりやすいのですが、そういう方に向けたフライトの企画も話に出ていた記憶があります」
佐藤「アイデアは尽きなかったですね。そのなかで、2021年末、障がい者週間の期間中に羽田空港で行った『廃材アート展』では、航空機部品の廃材とアートを掛け合わせた展示をメインにしました。JAL×ヘラルボニー第1弾ということで、飛行機の心臓部であるエンジンのパーツの原動力を借りたんです」
松田「飛行機のラッピングをする整備士の方が、アートをエンジンブレードに貼ってくれたんですよね。かなり湾曲しているブレードに、少しも気泡が入っていない状態で貼られていて、JALの職人の技術に脱帽しました」
佐藤「アートや飛行機だけでなく、整備士の匠の技も感じていただけたのが本当にうれしいです。この知られざる匠の技を今後の企画でも、さらに世に魅せていけたらと思います。『廃材アート展』のメインとなった青木玲子さんの『まる』という作品は、空に近いJAL社員全員の投票で決まりました。水色を基調としたカラフルな作品であることから『いろんな色の空があっていいんだと思った』『カラフルな色使いから多様性を感じた』などのコメントもありました」
松田「私たちが提供しているアートは、知的障がいというものが絵筆に代わって生み出されたものです。その作品や才能を、JALさんと一緒に社会に発信できることに、大きな喜びと可能性を感じています」
佐藤「障がいのある作家さんだからこそ描ける作品と、JALだからこそできることを掛け合わせることで、社会的な影響も大きくなるのではないかと私も思っています。飛行機や空港をヘラルボニーさんのアートでラッピングし、世界に飛ばすところまで持っていきたいです」
空港を「通過点」ではなく「目的地」にする“空港ミュージアム”
――羽田空港での「廃材アート展」の反響は、いかがでしたか?
佐藤「『廃材アート展』を目当てに、羽田空港を訪れてくださる方もいましたね。展示場所でボランティアとしてご案内役をお願いしたW-PITのメンバーには、必ずお客さまに1対1で作品に関する説明をすることをお願いしました。JALの旅コミュニティ『trico』やSNSを通じて『素敵な取り組みを応援したい』『全国各地でやってほしい』といった言葉をいただきました」
松田「お客さま一人ひとりに丁寧に向き合い、作品を紹介していただいたことに、ありがたさを感じました。『廃材アート展』をきっかけに、他の企業さんもヘラルボニーのアートに興味を持って連絡をくださったんです」
――JALとヘラルボニーという異なる業種が共創することで、思いがけない輪が広がっていくんですね。
松田「そうなんですよ。企画を通じた広がりを実感しています」
佐藤「コロナ禍でオフラインでの触れ合いが減っているなかでの開催だったので、リアルなつながりの大切さも感じましたね。障がいのあるお子さまと一緒に来てくださったお客さまが、『勇気をもらえる取り組みでした』と涙されている姿を見て、私たちが届けたかった想いが伝わったのかなって」
松田「すごくあたたかいエピソードですし、気持ちが引き締まりますね」
佐藤「はい。ただ、反省点もありました。1対1で説明することを重視したので、パッと見ただけでわかるような表示は少なめだったのですが、聴覚障がいのある方から『僕たちでもわかる表示があったらもっと良かった』という言葉をいただいたんです。今後に活かすべき教訓となりました」
――実際に開催してわかることもありますよね。現在は、三沢空港で「MISAWA ARTPORT」が開催中ですが、見どころを教えていただけますか?
佐藤「『MISAWA ARTPORT』では、三沢空港の出発口へ向かう階段や窓ガラス、展望デッキやボーディングブリッジなど「空港ならでは」の場所にアートが溶け込み、異彩を放っています。青森での開催なので、東北出身の作家さんの作品のみ展示しようと考えました。『廃材アート展』のお客さまの投票でメインに決まった小野崎晶さんの作品で、三沢空港の出発口の壁一面を彩っています」
松田「秋田出身の小野崎さんの作品は、色鮮やかな草花が明るい気持ちにしてくれますよね。あと、出発口に向かう階段もかっこいいんです」
佐藤「階段のアートは、岩手出身の田崎飛鳥さんが、実際にJALの飛行機に乗った経験を描いた作品なんですよね。出発を控えたワクワク感が増す絵なので、出発口に向かう道中にぴったりだと感じています。あと、展望デッキの『MISAWA』の文字にもアートを施しています。飛行機からも見えるこの文字は昼は積もった雪とのコントラストがキレイで、夜はライトアップされるので二つの顔が楽しめますよ」
松田「空港全体を美術館のようにして、新たな観光資源として捉える動きが面白いですよね。今回の企画を1回限りで終わらせるのではなく、いろいろな地域で展開して、“地域活性化型空港ミュージアム”というフォーマットを作るのもありじゃないかなと思っています」
佐藤「三沢空港を訪れてくださったお客さまからも、『空港が旅の通過点ではなく目的地になっていて、素敵だと思いました』という言葉が届いたんですよ」
松田「『通過点ではなく目的地になる』って、素敵な言葉ですね」
佐藤「そうですよね。まさにそこを目指していたので、お客さまにもしっかりと伝わっていたことがとてもうれしかったです。また、三沢の地元の方にもぜひ訪れていただきたいです。『アートを見に空港に行こうよ』って気軽に行けるようなレジャースポット、デートスポットになったらいいなと思います」
――そして、三沢空港でしか手に入らないお土産も手にしていただけたらいいですよね。
佐藤「そうですね。『旅にさらなる彩りを。』の想いのもと、JAL国内線のシートカバーの端材を、ヘラルボニーの作家さんの作品で彩ったバゲージタグをご用意しています。旅に出てバゲージタグを見るたびに、作家さんやアートを身近に感じていただけたらと思います」
佐藤「そしてなんと、3月1日から三沢空港お土産店(スカイマートビードル)にてコラボバゲージタグかJAL廃材商品を含み5,000円(税込)以上お買い上げの先着100名さまには、ブレードオブジェと同デザイン『まる』のJALオリジナルハンカチとメッセージカードをプレゼントしているんです。これが本当に可愛い! 明るい気持ちになれる青木玲子さんの『まる』が1人でも多くの方に届いて、使う度にMISAWA ARTPORTを思い出していただけるそんな光景が生まれたら幸せに思います」
共創の継続が「旅」「アート」「福祉」に近づくきっかけにつながる
――羽田空港や三沢空港での企画は共創の第一歩ですが、今後やりたいと考えていることはありますか?
松田「一番の夢は、機体をヘラルボニーのアートでラッピングすることですね。考えただけでワクワクします。もちろんそれ以外にも、JALのアメニティや機内販売のグッズに参加できたら面白いですよね」
佐藤「機内でしか買えないようなコラボ商品は実現したいですね。あと、客室乗務員やグランドスタッフのスカーフ、機内で使用するカップなどに使わせていただいて、アートがどんどん溶け込んでいくといいなって。例えば、機内食のマットにアートを配すことで、それをきっかけにヘラルボニーを知る方が増えたらうれしいです」
松田「先ほども話したような、地域活性化の取り組みも現実のものにしたいです。空港があるエリアの作家さんの作品を使って、空港を飾って、オリジナルのグッズも販売する。そういった取り組みを企画して、自治体とも連携できたら素敵だなと思います」
佐藤「やりたいです。“地方創生×アート”という形で展開して、社会的な課題をJALとヘラルボニーのタッグで解決できるところまでいけたら、共創を始めた意味が強まっていきますよね」
――社会的な意義という部分でも、可能性が詰まった共創ですね。
松田「そうですね。過去に私たちが百貨店に出店した際に、お客さまから『初めて百貨店に来ました』という声をいただいたんです。障がいのある家族がいると公共の場に行きづらい、と感じる人もいるんですよね。でも、ヘラルボニーが出店しているなら、行っても大丈夫だと思ってもらえる。JALさんとも、そういう効果を生み出していきたい。インフラがアートや福祉を取り入れることで伝わるメッセージって、大きいと思うんです」
佐藤「私たちとしても今回の企画を一過性のものにはせず、もっと遠くにゴールを設定して、長くご一緒したいと考えています。JALが、ヘラルボニーやアート、福祉について知っていただくパイプになりたいです」
松田「『廃材アート展』や『MISAWA ARTPORT』は、その第一歩ですよね。飛行機に乗る前の高揚感を視覚的に彩るアートが、障がいのある作家から生まれているという事実を感じ取っていただきたいですし、どんな人が描いているんだろうって思いを馳せていただけたら、とてもうれしいです」
佐藤「企画に込めた想いや作家さんがアートを生み出すまでのストーリー、JALの整備士の匠の技など、より深いところまで知っていただけるよう、私たちも発信していけたらと考えています。この取り組みが、飛行機・アート・福祉と心の距離を近づけるきっかけになることを願っています」
空港を彩るカラフルなアートには、さまざまな人の想いが詰まっています。まずは純粋にアートを楽しむため、ぜひ三沢空港に遊びにきてください。そして、アートに込められた意味を知り、福祉や社会について考えるきっかけにしていただけたらと思います。
MISAWA ARTPORT 〜三沢に放たれた異彩と廃材〜
実施場所 | : | 三沢空港(青森県三沢市三沢下沢) |
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開催期間 | : | 2022年3月31日(木)まで |
開催時間 | : | 8:00~20:00 |
web | : | https://www.jal.co.jp/jp/ja/dom/special/aomori/misawa_art/ |
株式会社ヘラルボニー / HERALBONY Co.,Ltd.
概要 | : | 「異彩を、 放て。」をミッションに、 福祉を起点に新たな文化を創ることを目指す福祉実験ユニット。日本全国の障がいのある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを軸に作品をプロダクト化するアートライフブランド「HERALBONY」、建設現場の仮囲いに作品を転用する「全日本仮囲いアートミュージアム」など、福祉領域の拡張を見据えた多様な事業を展開。 |
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所在地 | : | 岩手県盛岡市開運橋通2-38 |
代表者 | : | 代表取締役社長 松田 崇弥、代表取締役副社長 松田 文登 |
公式サイト | : | https://www.heralbony.jp https://www.heralbony.com |
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