さわやかな秋晴れとなったこの日。13時になると成田空港国内線チェックインカウンターに127名のお客さまが続々といらっしゃいました。受付時には今回のフライトで演奏される曲目を丁寧に解説したプログラムが配られます。
「空と音楽を愛する人へ」。そんな想いからはじまった共創企画
JAL史上初となる機内でヴァイオリンを演奏するというこのアイデアは、“ワクワク”を創出するJALの社内ベンチャーチーム「W-PIT(Wakuwaku-Platform Innovation Team)」の伊藤翔次郎(以下の写真右)が東京交響楽団に話を持ち込んだことからはじまりました。
「音楽業界も航空業界もコロナ禍で厳しい状況であるなか、さまざまな手法で音楽の火を絶やすまいと活動している楽団さまとならば何か新しいことができるのではないかと思い、お声をかけさせていただきました」と伊藤。
それに対し、東京交響楽団 楽団長 大野順二さん(上記の写真左)はこう応えます。
「お話をいただいたときは本当に嬉しかったですね。コロナ禍では無観客でのオンライン演奏配信などを続けてきたわけですが、こういった形で新たに発表の場をいただけたことは非常に光栄です」
今回のフライトには東京交響楽団のヴァイオリニスト2名だけでなく、普段はJALの客室乗務員を務める吉田裕佳もヴァイオリニストとして搭乗。幼少期からヴァイオリンを演奏してきた経歴を持ち、客室乗務員によるミュージックベル隊「JALベルスター」での演奏経験もあります。
地上でも行われた音楽を通じたおもてなし
チェックインを終え、保安検査場を抜けると、エンジンの廃棄部品でつくられたオブジェ「~天使のオーケストラ~」がお客さまをお出迎え。こちらはJALのエンジン整備センターの熟練整備士が製作したものです。
地上と空の全2幕からなるのが、本企画の特色です。出発ロビーでは第1幕として、機内でも演奏を披露してくれる東京交響楽団のアシスタント・コンサートマスターの廣岡克隆さんと、ヴァイオリン奏者の土屋杏子さんによる二重奏が披露されました。
さらに、出発直前にはJALグランドサービススタッフによるサプライズダンスも。「音の翼がつなぐ世界」というテーマに沿い、JALならではの方法でお客さまに喜んでいただける「音」の楽しみを表現しました。
いよいよ、空のステージに向けて移動開始
JALから提供された機内持込用のヴァイオリンケースを持ち、2名のヴァイオリニストもお客さまとともに搭乗ゲートへ。
「コロナ禍でなければ生まれなかったアイデアだと思うので、初の試みですがいつも通りの演奏をお届けしてきます」と廣岡さん。
「地上1万メートルの環境で演奏するなんて、飛行機好きの私からしたらとてもワクワクします。地上とは気圧も湿度も違いますが、さまざまな対策を練ってまいりましたので頑張ります」と土屋さん。
今回のチャーターフライトのために用意したのは、国際線仕様のボーイング767-300ER。空のステージへの入り口ともなるここでも、大勢のスタッフがバスから降りるお客さまをお迎えします。
搭乗タラップの前ではお客さまが東京交響楽団のヴァイオリニスト2名と記念撮影。いつもとは違うコンサート会場への期待を胸に搭乗します。
いざ空へ! コンサート前はヴァイオリニストによる楽曲解説とQ&A
15時7分、フライト開始です。「本日はご搭乗いただきありがとうございます。この便は航空業界と音楽業界の共創により新たな音楽・旅の楽しみ方をご提案したいという想いから、日本航空と東京交響楽団が企画した成田周遊フライトになります。短い時間ではありますが、皆さまの素敵な思い出づくりのお手伝いをさせていただきたく思っております」と板垣機長の機内アナウンスが響きます。
飛行ルートは山形、青森を通り函館、札幌へ。その後は旭川で折り返し、盛岡、仙台、福島を経て成田空港へ戻るという経路です。富士山を左手に、日本列島を北に縦断するコンサートツアーの幕が上がります。
機内では欧州線のファーストクラスでプレゼントしているオリジナルショコラを特別にご用意。他にも国際線ビジネスクラスでご提供しているBEAMSのアメニティキットや、搭乗証明書、JALと東京交響楽団のコラボレーションマスクケースが記念品として配られました。
機長による挨拶のあとは廣岡さんと土屋さんによる、事前アンケートに基づいたQ&Aコーナー。普段はなかなか聞けない楽団ならではのお話を聞かせてもらいました。さらに、今回演奏する楽曲の解説も!
「今回は『旅』や『空』をイメージした曲を中心に選ばせていただきました。クラシックに詳しくない方でも耳馴染みのある曲ばかりですのでお楽しみください」
そして、空のステージ「第2幕」スタート!
時刻は16時10分、ついに第2幕のコンサートのはじまりです。コンサートは機内3カ所で、東京交響楽団のふたりと客室乗務員が移動しながら行われました。
東京交響楽団の二重奏はE.エルガーの「愛の挨拶」にはじまり、F.メンデルスゾーンの「歌の翼に」を含む全6曲。通常のコンサートよりも圧倒的に近い距離で美しい音色が響きます。
客室乗務員の演奏はV.ヤングの「八十日間世界一周」と、W.A.モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525より第1楽章」を含む全4曲が披露されました。
上空1万メートルに流れる優美な音色。クライマックス後はアンコールも!
コンサートが後半に近づくにつれ外の景色もムーディに。聴覚と視覚両方で楽しめる非日常的で豊かな時間が機内に流れます。
東京交響楽団の廣岡さんと土屋さんの演奏後、鳴りやまぬ拍手に応え演奏されたのは「アメイジング・グレイス」。「刻々と変化する空の色に合わせて」と選ばれたこの曲で、コンサートは無事終了となりました。
閉幕後に間近で演奏者に拍手を送ったり話しかけたりできるのは機内で行われるコンサートならでは。お客さまからのあたたかな声援に包まれ、ヴァイオリニストのふたりはステージ席を後にしました。
「通常のコンサート会場で聴けるヴァイオリンの音色とはひと味違う臨場感をお届けできたかと思います。飛行機とヴァイオリンがこのようにコラボレーションできるとは思っておりませんでしたので、私たちにとっても貴重な体験となりました。本日は本当にありがとうございました」と廣岡さん。
旭川で折り返した機体は成田空港へ。眼下には東北の夜景が広がり、感動の余韻にささやかな華を添えてくれました。
ランディング後はスタッフ全員でお見送り。今後のチャーター企画にもご期待ください
成田空港に到着したお客さまには記念品が贈呈され、今回の旅はお開きに。
参加された石黒万里生さんと凜生さん親子。なんと凜生さんは国際ジュニアコンクールで優勝したほか、昨年は東京交響楽団とサントリーホールが主催する「こども定期演奏会」にこども演奏者として参加し、土屋さんの隣で演奏されたとのことです。
「コロナ禍で世の中が難しい局面に向きあう中、優雅な時間を過ごせ、気持ちが優しくなれました」と万里生さん。
飛行機が好きでJALのチャーター企画にはすべて参加しているという上原さん(写真右)と中村さん(写真左)。
「本当に素晴らしかったです。廣岡さんと土屋さんのヴァイオリンを弾いている姿がとにかく美しくて感動しました! いままで参加したチャーター企画の中で一番良かったです!」と上原さん。
本来フライトのひとときは、お客さまひとりひとりの自由な時間です。お食事を召し上がったり、機内エンターテインメントを楽しまれたり、お仕事をされたりと、思い思いにお過ごしいただける醍醐味があります。一方今回のように、空の旅路での時間の過ごし方にテーマを設けることで、いつもとは違った豊かなひとときにできることがお客さまの笑顔から伝わってきました。これからもJALは、フライトにさまざまな工夫を凝らして、素敵な体験を届けてまいります。
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