札幌は一年を通して美味の宝庫。鮨、フレンチ、イタリアン、ジンギスカン、ラーメン、居酒屋……何を食べるか迷ってしまうほどです。しかし、元「dancyu」編集長にして全国各地のおいしいものを訪ね歩いている“食の旅人”は、「この時季に食べたい“焼き魚の王様”がある」と言います。それは、冬に脂がのり、オホーツク海岸から流氷が離れると上物が揚がるメンメ(キンキ)。上品な白身と軽やかな脂のバランスが素晴らしい、至福の味わいを求めて、食の旅人が札幌を訪れました。
画像1: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。

植野広生(うえの・こうせい) win-do.us代表/文筆家

食の雑誌「dancyu」元編集長。執筆、講演を始め、企業・自治体のアドバイザーなど、食を軸に幅広く活動している。BSフジ「日本一ふつうでおいしい植野食堂」に出演中。「情熱大陸」「プロフェッショナル 仕事の流儀」「アナザースカイ」などにも出演。

30年程前のこと。札幌を訪れ、先輩に連れて行ってもらった店で大皿いっぱいにのった開きの焼き魚が出てきた。口に入れると、ふわりとした身の清らかな味わいと上品な脂の澄んだコクが広がった。

「どう?メンメはうまいでしょ?」

満面の笑みを浮かべながら店の主人は言った。
キンキのことを北海道ではメンメと呼ぶこと、そしてそれまでもキンキは食べたことがあったが別物と感じるくらいおいしいものであることがわかり、心の中でつぶやいた。

「メンメは焼き魚の王様だ!」

それ以降、何度もメンメを食べたが、その思いは変わっていない。変わっていないどころか増している。そしてまた王様の至福を求めて、市街地にもまだ雪が残る札幌を訪れた。

画像2: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。

札幌市中心部にあるアーケード街「狸小路商店街」からさらに細い路地を入った「狸小路市場」の一角に、その名も「めんめ」という炉端焼きの店がある。

画像3: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。
画像4: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。

焼き台を囲むカウンターに座ると目の前には色とりどりの野菜、ホッケやホタテなどの魚介が所狭しと並び、その中央に鮮やかな赤色に輝くメンメの開きが置かれていた。
早速、焼いてもらう。

店長の加藤雅章さんが両手でも持て余すくらい大きなメンメを炭火台の焼き網にのせ、身を下にしてじっくり火を入れる。
目の前で炭火の熱を感じながら、少しずつ焼けていく様子を見ながら呑む生ビールはうまい。
10分程経った頃に「よしっ」という声とともに皮目を下に返すと、美しい焼き色がついた白い身が現れ、魅力的な香りを漂わせる。
「皮目を焼いて、火を入れると身がふわっと膨らむんですよ。これが美味しく焼けたサインです」
と教えてくれたとおり、身がふっくらと厚みを増した。皮目の強い香ばしさも加わって、またビールが進む。

画像8: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。
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「はい、お待たせしました」

と差し出されたメンメは、見ただけで食欲を誘う薄い茶色に覆われている。

茶色のグラデーションに覆われた純白の身を口に入れるとふわっとやさしい口当たりで、上品な脂の香りをまといつつ雑味のない深い旨味が広がる。皮に近い部分はしっかり脂を感じるがあくまでも軽やかですーっと消えていく。皮は内側に魚の風味が凝縮したまま外側の香ばしい食感と相まって強い味わいとなる。腹、背、尾、頬、頭、目玉の周りとそれぞれ異なる持ち味を発揮し、絶妙な塩加減もあって上品で力強い旨味が迫ってくる。酒を呑むのも、添えられた大根おろしをのせるのも忘れるくらい集中する美味だ。

ふとわれに返って日本酒をお願いすると、脂がすっと切れて、脂の向こう側に隠れていたメンメならではの気高い味わいが引き立つ。

無口になったまま食べ進む僕を見て、「皮や身を少しだけ残しておいてくださいね」と加藤さん。離れがたい皿から箸を外すと、残った皮や身、骨をまた炭火で炙って、スープに仕立ててくれた。メンメの出汁と香ばしさがたっぷり入ったスープはじんわりと染みる美味しさ。酒を呑んだ後の胃と心に沁みる。
これぞ至福。札幌まで来た甲斐があった。
すると、加藤さんから衝撃的な言葉が。

「キンメは冬に旨くなる魚ですが、オホーツク沿岸から流氷が離れる“流氷明け”の3月には、もっと大きくて脂がのったものが入りますよ」

これ以上美味しくなるのか……。

そういえば、以前、流氷明け(「海明け」とも言う)のタイミングで食べた毛蟹もふくよかな甘味があり恐ろしく美味しかった。

来年は流氷明けに合わせて来よう、
そして、メンメは焼きの他、刺身、酒煮、から揚げ、鍋、茶漬けといろいろな食べ方があるので他の食べ方も試してみたい……とは思ったが、またきっと焼いてもらうだろう。
おいしい季節が限られているけれど、かなり高いものだけれど、やはり“焼き魚の王様”なのだから。

おいしいメンメを食べて大満足、であったのだが、その後も強い食感が印象的な焼尻島のもずくやフレッシュな歯応えが快感の数の子などをつまみながらずるずると呑んでしまった。そして、呑んでしまったら、どうしても食べたくなるものが札幌にはある。

「たらこバターおにぎり」だ。

札幌の締めはラーメンと思っている人が多いだろうが、すすきのの真ん中の雑居ビルで夕方から明け方まで営業している「蜂屋」、24時間営業の「名代にぎりめし」など、札幌には深夜でも食べられるおにぎりの店がある。
この日は「すすきの市場」の一角に店を構える「名代にぎりめし」へ。

画像10: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。
画像11: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。

おでんや惣菜、酒もあるのだが注文が入ると握ってくれる50種類程のおにぎりが、24時間いつでも食べられるのが楽しい。さらに、具によって塩と醤油を選べるのも嬉しい。
しかし、僕的には札幌での締めのおにぎりは「たらこバター」の醤油味、一択だ。
たらことバターを混ぜた具が中に入り、醤油をたっぷり塗るようにして握って海苔で巻く。海苔の香りと醤油のコクのある塩気がグラデーションとなってご飯に絡み、たらこバターのなめらかな塩気がご飯の甘味を誘う。この組み合わせは天才的にうまい。
呑んだ後の締め、ではあるのだが、この強い味わいは酒のつまみになる。

画像12: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。
画像13: 食の旅人・植野、札幌の旅へ。流氷明けにさらに美味しくなる“焼き魚の王様”メンメの上品な脂と気高き身に唸る。

「ビールください」
結局、締まらなかった。
さらにクリームチーズ山わさび、卵黄の味噌漬け、さばトロなども頼んでしまった……。

“焼き魚の王様”で至福のときを味わい、「たらこバター」おにぎりで満足を味わう。
やはり札幌は幸せな食の街だった。

※この記事の内容は2026年2月時点のものです。

めんめ

住所北海道札幌市中央区南3条西6 狸小路市場内
電話011-241-6810
営業時間17:00〜22:30(L.O)
定休日日曜

名代にぎりめし

住所北海道札幌市中央区南6条西4-11-1 すすきの市場内
電話011-512-1616
営業時間24時間営業
定休日なし

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