地中海の宝石とも呼ばれる美しい島国、マルタ共和国。イタリア最南端のシチリア島からさらに南に位置し、ヨーロッパ有数のリゾート地としても知られています。近代的なカフェやレストランが数多くある一方、首都のヴァレッタは街全体が世界遺産に登録されており、深い歴史や文化を感じることができます。そんなマルタ島には、さまざまな伝統工芸品があり、その繊細な手仕事の美しさに魅せられる人が少なくありません。マルタならではの魅力の一つである伝統工芸品について、『まるごとマルタのガイドブック』(亜紀書房)の著者であり、マルタの魅力を伝えるスペシャリストである林花代子さんに伺いました!

見どころ満載! “地中海の宝石”マルタ共和国の魅力

さまざまな美しい工芸品が生まれるマルタとは、どんな国なのでしょうか?

日本からヨーロッパの主要都市で乗り継ぎ、約18時間。地中海の美しい海に囲まれたマルタ共和国は、イタリア・シチリア島のすぐ南に位置する島国です。マルタ島、ゴゾ島、コミノ島の3つの有人島で構成され、総面積は316平方キロメートル。東京23区の約半分の大きさで、沖縄県の西表島より少し大きいくらいです。

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春夏秋冬、異なる魅力が見つかる場所

1年間のうち8割が晴天で、年間を通じて過ごしやすい気候に恵まれていますが、夏と冬で気温は大きく変わります。南の島のリゾートというイメージが強いマルタは、年中常夏だと思われがちですが、11月~2月あたりはかなり寒くなります。太陽の照りつく夏のマルタももちろん魅力的ですが、ヨーロッパならではのクリスマスの雰囲気が味わえる冬に訪れるのもおすすめです。

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最も過ごしやすい秋は、文化的な催しなども多く、毎年10月に首都ヴァレッタで開催される最大規模のお祭りNotte Bianca(ノッテ ビアンカ)では、街全体がライトアップされ、さまざまなライブやパフォーマンスが見られるだけでなく、普段は非公開の首相官邸が開放されたり、美術館や博物館などの文化施設も無料で楽しんだりすることができます。

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自然の豊かさと近代的な都市を両方楽しめる国

マルタ国民の誇りともいえるのが、自然の豊かさです。特にマルタ島の北西部や南西部、ゴゾ島、コミノ島は自然が多いエリアです。驚くほど鮮やかな青さと透明度を誇るコミノ島のブルーラグーンや、島の地形を感じられる洞窟や岩場。春から初夏にかけては新緑と鮮やかな花々を楽しむことができます。

画像1: 自然の豊かさと近代的な都市を両方楽しめる国

一方、セントジュリアンなど都会的な街には、おしゃれなカフェやレストラン、高層ビルなども増えていて、近代的リゾート都市の雰囲気が楽しめます。コンパクトな国ではありますが、エリアによって特徴が異なり、自然も都市もどちらも楽しめるのが魅力の一つともいえます。

画像2: 自然の豊かさと近代的な都市を両方楽しめる国

世界遺産の街ヴァレッタで、マルタの長く深い歴史に触れる

さて、マルタの工芸品の魅力を語る上で欠かせないのが、その背景にある歴史です。マルタの歴史はとても長く、紀元前5200年頃にシチリア島から人々が移り住んできたことから始まります。地中海の真ん中に位置することから、貿易や戦争の中継地点とされ、その歴史は侵略の連続だったともいえるでしょう。スペインやイタリア、イギリス、フランスなどのヨーロッパの文化や技術と、イスラム教国やアラブ人に支配されていた時代に入ってきたイスラム文化が融合し、独自の芸術や文化が生まれ、発展してきました。

画像1: 世界遺産の街ヴァレッタで、マルタの長く深い歴史に触れる

そんなマルタの深い歴史を感じられる代表的な場所が、首都であり、街全体が世界遺産として登録されているヴァレッタです。ヴァレッタは、1565年のオスマントルコ軍との戦いであるグレートシージ(大包囲戦)後に建設された要塞都市で、街の名前の由来は、大包囲戦で勝利をもたらした、当時の騎士団長ジャン・ドゥ・ヴァレットからとっているそうです。

クリーム色が特徴のマルタストーンに、家々を飾る赤や緑のカラフルな窓。騎士団が築いた歴史的な建造物の数々……。ヴァレッタの街並みは、どこを切り取っても絵になる美しさ。街のあちこちで、その深い歴史を感じることができます。

ヴァレッタ市街にある歴史的な建造物の一つに、1577年、キリストの洗礼者聖ヨハネを称えるために騎士団によって建てられた修道院、聖ヨハネ大聖堂があります。大聖堂内部に入るとその豪華さにきっと驚くはず。天井には聖ヨハネの生涯が描かれ、大理石の床は騎士団員の墓碑となっており、約400枚のモザイク画で埋め尽くされています。こうした部分からも、当時栄華を誇った騎士団の資金の豊かさがうかがえます。

画像2: 世界遺産の街ヴァレッタで、マルタの長く深い歴史に触れる

マルタの歴史を物語る、美しい伝統工芸品

そんなマルタの深い歴史と豊かな自然は、伝統工芸品にも反映されています。

これまで数々の国に占領、統治されてきたマルタ共和国は、そうした中で持ち込まれた文化や技術を独自に発展させてきました。マルタは小さい島国だったこともあり、産業がなかなか発展しづらく、手作りの工芸品が収入源の一つになっていたとも考えられています。そして、その多くは、家業として代々受け継がれ、今日まで守られてきましたが、そこには、侵略の歴史の中で固く強くなっていったマルタの家族の絆を感じることができます。

ここでは、中でも代表的な伝統工芸品を5つご紹介したいと思います。

フィリグリー(銀線細工)

フィリグリーは銀線細工といわれ、銀の塊から作った細い銀線を巻いたり編んだりして、繊細な透かし模様のアクセサリーにします。フィリグリーの起源は紀元前3000年ともいわれ、その技術はヨーロッパや中国、インドなどにも渡っていますが、さまざまな国の文化や芸術が出入りしたマルタでは、独自の工芸品として発展してきました。

画像1: フィリグリー(銀線細工)

中世、騎士団や貴族の装飾品としてお抱え職人が作っていた頃から、その作り方は変わらずに受け継がれ、マルタ騎士団の紋章である八角星の十字「マルタ十字」はよく見られるモチーフの一つ。他には花や動植物などマルタの自然がモチーフになっていることが多いようです。

家業として代々大切に受け継がれてきたフィリグリーですが、学校もあり、若い世代の職人も育っています。

画像2: フィリグリー(銀線細工)
画像3: フィリグリー(銀線細工)

マルタレース(ゴゾレース)

マルタのレースづくりは16世紀に伝わったといわれていますが、1880年代の半ば、イタリア・ジェノヴァのボビンレース技術がマルタに持ち込まれたことで、独自のスタイルへ発達したといわれています。イギリスのビクトリア女王が気に入ったことで広く知られるようになったのも有名な話です。

画像1: マルタレース(ゴゾレース)

その多くは、真っ白か生成色のクロスに施されていて、マルタ十字をはじめ、花や小麦など自然のモチーフがよく見られます。ハンカチやテーブルクロス、日傘の他、最近ではブレスレットなどのアクセサリー、本の栞などの小物も。ゴゾ島にあるレース専門店では、実際にレースを編んでいる様子を見られることもあります。

画像2: マルタレース(ゴゾレース)

マルタでは、長年、女性の内職業として受け継がれてきたレース編みですが、現在は継承者の減少が問題になっているようです。非常に手間がかかる一方で収入に結びつきづらいのがその原因だとか。素晴らしい技術だからこそ、今後も受け継がれていってほしいと願うばかりです。

画像3: マルタレース(ゴゾレース)

ガラス工芸

マルタのガラス工芸が産業として本格化したのは、1968年、イギリス人のガラス職人がイムディーナガラスを設立したことがきっかけだそうです。マルタの3大ガラス会社の一つでもあり、他にヴァレッタガラス、ゴゾガラスがあります。

画像: ガラス工芸

マルタのガラス工芸の特徴は、なんといっても美しい色彩。輝く太陽のように鮮やかなオレンジや赤、海や空を連想する澄んだ青など、そのどれもがマルタの自然や風景をモチーフにしています。伝統的な吹きの技法を使って作られるマーブル模様も印象的です。

お土産としては、食器やグラス、花瓶などの他、ランプシェードやアクセサリーなどの小物も。クラフトヴィレッジにある工房では実際にガラスを吹く様子を見ることができます。

マルタ時計

マルタ時計は17世紀から残る伝統工芸品の一つです。一般的には貴族や上流階級、裕福な聖職者の邸宅に置かれ、代々受け継がれています。木と石膏で彫刻がなされ、その上に金や金メッキで装飾が施された豪華絢爛さが特徴で、紋章や勲章が配されているものも少なくありません。現在では、その希少価値の高さからコレクターズアイテムとしても人気だそうです。また、ホテルのロビーや、マルタ伝統料理のお店で見られることがあるかもしれません。

画像: マルタ時計

マルタタイル

ヴァレッタにある16世紀の貴族の宮殿「カーサ ロッカ ピッコラ」の他、マルタの住居の装飾としてもよく見かけるマルタタイルは、カラフルな色彩や植物をモチーフとした幾何学模様が美しく、マルタらしさを感じるものの一つ。最近では、いわゆる古民家をリノベーションしたホテルやカフェでも、装飾として生かされています。

画像1: マルタタイル

起源ははっきりとはわかっていませんが、フェニキア人が地中海貿易の拠点として定住していた紀元前800年頃から存在しているといわれています。似たようなものがアフリカや中東、スペインにもあり、さまざまな文化が行き交ってきた歴史の中で伝わってきて、住宅の床タイルとして定着したのでしょう。

画像2: マルタタイル

お土産物屋さんでは、コースターやアクセサリーなど、マルタタイルを使って趣向を凝らしたものも見かけます。地元のクリエイターや若者が、マルタタイルの伝統的な模様を生かした雑貨やアクセサリーなどを新たに生み出す動きもあります。宝探し感覚で気になるものを見つけるのも面白いかもしれません。

伝統工芸品に出合える場所、クラフトヴィレッジへ

こうした伝統工芸品が一堂に集まるのがクラフトヴィレッジです。一度にさまざまな工芸品を見られるだけでなく、工房では、職人さんの作業風景を見られることも。足を運んでみてはいかがでしょうか。

Ta' Qali Crafts Village(タ アーリ クラフトヴィレッジ)

特に、ヴァレッタガラスとイムディーナガラスを見るなら、マルタ島のイムディーナ郊外のタ アーリというエリアにある、「タ アーリ クラフトヴィレッジ」がおすすめ。広々とした敷地内には、ガラス工房をはじめ、工芸品を販売する店舗が点在しています。

Ta' Qali Crafts Village

住所Ta Qali Crafts Village, Ta' Qali, Malta

Ta' Dbiegi Crafts Village(タ ビージ クラフトヴィレッジ)

ゴゾ島なら「タ ビージ クラフトヴィレッジ」へ。レース製品をはじめ、ゴゾの民芸・工芸の工房や土産店などが立ち並びます。ゴゾガラス工房で行われる「吹きガラスの実演」も見どころです。

Ta' Dbiegi Crafts Village

住所Triq Franġisk Portelli, L-Għarb, Gozo, Malta
webGozo Artisans 公式サイト(外国語サイト)

豊かな自然に深い歴史……、マルタそのものがぎゅっと詰まった伝統工芸品

マルタ人の誇りである自然の美しさが落とし込まれた、伝統工芸。その背景には、深い歴史の中で育まれ、受け継がれてきた文化や家族の絆、葛藤や愛などがあります。そんな伝統工芸品からマルタを見てみると、これまでとは違ったマルタの魅力に気づけるかもしれません。

また、現地で見るだけでなく、お土産として持ち帰れば、マルタを思い出すきっかけになりますし、その美しさを誰かに伝えることもできるはず。それは、職人の技術を後世まで絶やさずに受け継いでいくことにもつながります。気になる伝統工芸品をきっかけに、マルタ共和国の魅力を見つけてみてください。

写真:林花代子

地中海の宝石 マルタ共和国周遊 8日間

ツアーコンダクター(添乗員)と巡るマルタ共和国周遊の旅。ゴゾ島もじっくり観光!JALビジネスクラス、JALプレミアムエコノミークラス利用で充実の旅。

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