瀬戸内海と宇和海に面し、豊かな自然に恵まれた愛媛県。なかでも「南予(なんよ)」と呼ばれる西南エリアは、江戸のお殿様文化の影響を色濃く残す美しい町並みや城郭など歴史的な名所が点在しています。
そこで今回は、愛媛・松山のガイド誌を手掛ける編集者が、おすすめスポットを厳選。前編は、城下町、内子(うちこ)・大洲(おおず)をめぐる旅です。「八日市・護国の町並み」や夏の風物詩「うかい」、さらには世界的な注目も高まる「少彦名神社参籠殿(すくなひこな じんじゃ さんろうでん)」など、メジャーどころから穴場まで、南予の名所を紹介します。

後編はこちら

文・写真:タウン情報まつやま編集部

【内子】江戸の町並みが残る隠れた名所「八日市・護国の町並み」

松山市から車で約1時間の内子町。山々に囲まれた豊かな自然はもちろん美しいのですが、見どころはそれだけではありません。ここは、愛媛のなかでも貴重な景色に出会える場所でもあるのです。

画像: 商店街から少し歩くと…美しい町並みが現れました

商店街から少し歩くと…美しい町並みが現れました

それがこちら、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている「八日市・護国地区の町並み」です。約600メートル続く通り沿いには、江戸・明治期に形作られた歴史情緒ある町屋が並びます。

内子町は江戸時代後期から明治時代にかけて、木蝋(もくろう)の生産によって栄えてきた町。伝統的な造りの町家や豪商の屋敷は、当時の面影を残したまま軒を連ねています。

画像: 白壁の商家などには、職人の技術が光る意匠が見られます

白壁の商家などには、職人の技術が光る意匠が見られます

白壁の建物には、屋根の妻に付けられた装飾「懸魚(けぎょ)」や「海鼠壁(なまこかべ)」などの美しい意匠も見られます。通りをふらりと散策するだけで、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような気分に。

画像: 今なお続く手仕事職人の店も発見!

今なお続く手仕事職人の店も発見!

軒先に看板がかかっている家屋の中には、江戸・明治から続く手仕事職人が営む店もあります。長年継承されてきた伝統工芸の技が生み出した数々の逸品は、眺めているだけでその精巧さと情熱に引き込まれていきます。

職人たちの技に魅了されたら、製蝋業について知ることのできる「木蠟資料館上芳我邸(もくろうしりょうかん かみはがてい)」(重要文化財 上芳我家住宅)へ。伝統産業の知識を深め、当時の活気ある町のイメージを膨らませてくれます。

日市・護国地区の町並み
住所愛媛県喜多郡内子町
webhttps://www.we-love-uchiko.jp/howto/hayawakari1/

【内子】大正の名残も楽しめる現役の芝居小屋「内子座」

「八日市・護国地区の町並み」から歩いて数分、続いてやってきたのは「内子座」。こちらは大正5年(1916)に建てられた、国の重要文化財に指定されている芝居小屋です。老朽化による取り壊しの危機を乗り越え、昭和60年(1985)に復元されました。

画像: 創建時の面影を感じる堂々たる佇まい

創建時の面影を感じる堂々たる佇まい

神社建築にも見られ、格式が高いとされている瓦葺き入母屋造り(いりもやづくり)の建物には、回り舞台や花道なども復元され、当時の面影を感じることができます。現在も興業を行っており、芝居だけでなく、落語やコンサートなど町内外の芸術文化活動の拠点として活用されているそう。

画像: 建物内の様子。枡席や花道、舞台に上がることもできます

建物内の様子。枡席や花道、舞台に上がることもできます

また、公演のない日には内部の見学が可能です。ガイドさんの丁寧な説明を聞きながら、回り舞台や花道、枡席、さらに奈落と呼ばれる舞台下に入ることができます。普段は見られない、まさに「舞台裏」を知ることができる貴重な機会です。

さらに、見学の際には舞台に上がることができるのも嬉しいところ。用意されている法被を羽織って、当時の役者の気分で記念撮影をするのも楽しそうです。

内子座
営業時間9:00~16:30
定休日年末年始、公演時は見学できない場合あり
住所愛媛県喜多郡内子町内子2102
webhttps://www.we-love-uchiko.jp/spot_center/spot_c2/

【大洲】殿様も愛した、大洲秘伝の銘菓「月窓餅」

続いて訪れたのは、「伊予の小京都」といわれる城下町・大洲。2004年に復元された大洲城のお膝元には、国指定重要文化財「大洲城三の丸南隅櫓(おおずじょう さんのまる みなみすみやぐら)」などがある歴史公園「お殿様公園」(市民が親しみを持ってこの名前にしたそうです)を中心に城下町文化を感じる名所が点在しています。

画像: 肱川のほとりに建つ村田文福老舗 文福如法寺店

肱川のほとりに建つ村田文福老舗 文福如法寺店

たくさん歩いたので、そろそろ甘いお菓子を食べながらひとやすみしましょう。
大洲ならではの銘菓を求め、訪れたのは創業寛永元年(1624)の「村田文福老舗」。創業当時より大洲藩公の御用菓子司として「月窓餅」を献上していたという名店です。

画像: 青大豆きな粉がふわっと香る、銘菓「月窓餅」

青大豆きな粉がふわっと香る、銘菓「月窓餅」

旧大洲藩二代目藩主・加藤泰興(かとう やすおき)公の別称である月窓の名をつけたそのお菓子は、大洲藩の特産物であったわらび粉で餡を包み、風味豊かな青大豆をまぶしたひと口サイズのお餅。現在は十四代目・村田耕一さんが息子の真嗣さんとともに、当時の製法を守っています。

ふんわりとした食感は想像以上で、驚くほど。おみやげにもおすすめです。

村田文福老舗 文福如法寺店
営業時間8:00~19:00
定休日無休(元日のみ)
住所愛媛県大洲市田口字今出甲2624-6

【大洲】知られざる名建築も! 世界から賞される建物をめぐる

旧城下町である大洲では、歴史情緒あふれる景色を楽しみながら、ゆっくり散歩を。ここでは、必ず見ておきたい、美しい建築を紹介します。

少彦名神社参籠殿

杉の巨木に囲まれた参道を進むと突如現れるのは、少彦名神社参籠殿です。

画像: 「三方懸造り」の技法で修復された建築は、まさに圧巻の一言!

「三方懸造り」の技法で修復された建築は、まさに圧巻の一言!

堂々たる木組みは、伝統的な建築様式の美しさを感じさせます。

この参籠殿は大洲市街地から少し車を走らせた梁瀬山(やなせやま)にあり、2014年に修復工事が完了したばかり。伝統技術である「懸造り(かけづくり)」の建物が現代によみがえったと注目を集めています。

画像: 正面から見る参籠殿。内部は見学可能です

正面から見る参籠殿。内部は見学可能です

建物の大部分が細い柱によって支えられ、空中に浮いているような特殊な構造をした楼閣は、建築としても見ごたえ抜群です。2016年には、参籠殿の修復活動が「ユネスコアジア太平洋文化遺産保全賞」の最優秀賞に輝きました。参籠殿は内部見学もでき、御朱印を授かることもできるので旅の記念にもふさわしい場所です。

少彦名神社参籠殿

少彦名神社参籠殿
住所愛媛県大洲市菅田町大竹乙937-2
SNShttps://www.facebook.com/osukuna/

臥龍山荘

続いては、肱川の景勝地・臥龍淵を見下ろす「臥龍山荘(がりゅうさんそう)」。ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで一つ星を獲得した山荘庭園です。

画像: 臥龍院の縁側から臨む、四季折々の庭の景色を借景としています

臥龍院の縁側から臨む、四季折々の庭の景色を借景としています

明治後期、大洲の貿易商、河内寅次郎が京都の名工たちを招いて建築。広大な敷地に臥龍院、不老庵、知止庵という庵があり、それぞれに四季やわびさびを表現した粋な意匠が見られます。

画像: 肱川から臨む不老庵。4月~10月末の毎週日曜にはお抹茶が振る舞われています(1杯400円※8月はお休み)

肱川から臨む不老庵。4月~10月末の毎週日曜にはお抹茶が振る舞われています(1杯400円※8月はお休み)

臥龍山荘
営業時間9:00~17:00(16:30札止め)
定休日無休
住所愛媛県大洲市大洲411-2
webhttp://www.garyusanso.jp/

大洲城

画像: 戦後復元の木造天守として19.15mという高さは日本一なのだそう

戦後復元の木造天守として19.15mという高さは日本一なのだそう

明治21年(1888)、老朽化により天守は解体されてしまいましたが、大洲城を愛する地元住民の働きかけにより2004年に復元。戦後復元された木造天守として日本初の四層四階で、強度の高い国産材を使用した城郭建築特有の木組みは迫力満点です! また、城内には大洲城の歴史を紹介した展示も常設されています。

画像: 城内から臨む景色

城内から臨む景色

緑豊かな自然美と、すぐそばを流れる肱川。いつまでも見ていられるような、美しい景色に、きっと心が癒されるでしょう。

大洲城
営業時間9:00~17:00(札止め16:30)
定休日無休
住所愛媛県大洲市大洲903
webhttp://www.ozucastle.jp/

【大洲】 日本三大うかいのひとつ「大洲のうかい」を観覧

大洲に流れる肱川の、夏の風物詩。それは、岐阜県長良川や大分県三隈川とともに、日本三大うかいのひとつに数えられる「大洲のうかい」です。

画像: 夏に大洲を訪れたら、ぜひとも体験しておきたいのが、清流肱川を舞台に行われる「大洲のうかい」

夏に大洲を訪れたら、ぜひとも体験しておきたいのが、清流肱川を舞台に行われる「大洲のうかい」

夏の夜、5羽の鵜をともなって暗闇の河畔に現れる、かがり火をあげた鵜舟。それを屋形船2艇が挟みながら並走するのが、大洲独特の「合わせうかい」というスタイルです。鵜匠が見事な鵜綱さばきを魅せ、鵜が見事に鮎(アユ)を捕る様子を楽しむことができます。

画像: 写真は例です。現在のメニューと異なる場合があります

写真は例です。現在のメニューと異なる場合があります

そして、うかいの楽しみといえば、肱川の流れに揺られながら味わう、大洲の郷土料理。肱川の恵みをふんだんに盛り込んだ逸品に舌鼓を打ちながらの遊覧は格別の体験。

大洲のうかいの開催期間は毎年6月1日から9月20日まで。期間中は毎日運行しています。乗船プランも乗合から貸切まで充実しているので、個人旅行でも団体旅行でも、シーンにあわせて利用することができます。

大洲のうかい
webhttp://www.oozukankou.jp/02ukai.html

内子・大洲に残る情緒を感じて町歩きを

今回は愛媛県のなかでも歴史情緒あふれる内子・大洲の名所をご紹介しました。江戸・明治の面影を残す美しい町並みを歩けば、伝統的な造りの芝居小屋やお殿様の愛した銘菓、先人の知恵を感じる建築など、見どころが満載。
歴史の風を感じながらのんびりと、大人の町歩きを楽しんでください。

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