文・写真:青木由香 編集:稲垣美緒(OnTrip JAL編集部)
日本から来る観光客の方は、お店が多すぎて、どこを選べばいいのか迷ってしまうかもしれません。そんな方たちのために私・青木由香が台北で「今、本当に行くべき小籠包」のお店を紹介いたします。
こだわりつくした伝統的な小籠包はレストラン「葉公館」 で
初めにご紹介するのは、葉公館(イエゴングァン)。ここは、モダンな空間で四川・上海の料理を出すレストランです。どこでも食べられるメニューにも絶妙なアレンジを加え、本場中国でも作られなくなった伝統的な料理も手間をかけて再現している粋な店。2017年にオープンするとすぐに台北のグルメたちの間で噂が広まりました。
オーナーシェフの葉文龍(ウェンロン)さんは、小籠包を点心の中の王者だと言います。葉公館の小籠包は、他のメニュー同様、現代ではあまり再現されていない昔ながらの作り方を実践しており、今どきの健康志向に合わせて油の量と質を調整しているんです。
「小籠包は簡単に作ることもできるけれど、こだわればいくらでも突き詰めることができる。蒸し料理の中で一番難しい」と葉さん。
葉公館の上海小籠包の皮は、薄すぎず厚すぎない、丁度いい厚み。簡単には破れず、粉物好きの台湾人を唸らせる食感です。発酵具合で、水分含有量と弾力をコントロールしており、中身の肉餡も処理方法や運送までしっかりと管理された肉を使用しています。赤身と脂身を店で合わせることで常に変わらない脂質の肉餡とスープを作るなど、細部にまでこだわることで、くどくなく、何個でも食べられる小籠包が出来上がるのです。
おすすめは、蟹粉小籠包(シエフェンシャオロンバオ)。カニの風味が濃いのは言うまでもなく、カニ肉の食感がしっかり味わえる一品なんです。一般的な蟹の小籠包は、市販の蟹みそを使い、実は蟹の肉は皆無。小籠包のために蟹を丸ごと蒸してほぐす店はほぼないと言えます。
こんなこだわりの小籠包ですが、実は日本の小籠包好きの間でもまだノーマークの存在。葉公館は小籠包を売りにしている点心のお店ではないし、手間がかかるため十分な人手が必要。中途半端なものは出さないと、一旦メニューから外していたからなんです。今年の春から販売を再開したばかり、というのも理由でもあります。
もちろんオーダーが入ってから包み、蒸し置きはしません。肉に火を通し過ぎず、こだわりの皮で包まれたスープの中にある肉餡は、十分にスープを含みふっくらしています。この肉餡の柔らかさ、スープとの一体感は、他では味わえないものですので、ぜひ行ってみてほしいお店です。
葉公館(イエゴングァン) | ||
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住所 | : | 台北市大安區安和路二段118號 |
電話番号 | : | (02)2736-1999 |
営業時間 | : | 11:30〜14:30 17:30〜21:30 台湾の旧正月以外無休 |
価格 | : | 上海小籠包(シエフェンシャオロンバオ) 4個90元8個180元 蟹粉小籠包(シャーフェンシャオロンバオ)4個170元 8個340元 |
台北ナンバーワンの“薄皮つゆだく” 「濟南鮮湯包」
日本人好みの小籠包は、“薄皮つゆだく”の傾向にあります。2008年に若い兄弟が立ち上げた濟南鮮湯包は、たっぷりのスープが透けるほど薄い皮に包まれた小籠包なんです。オープン後間もなく、日本の旅行雑誌やネットメディアで取り上げられ、日本人観光客が押し寄せることに。すると台湾国内でもまたさらに有名になり、ローカル店ながらも多くの台湾著名人も訪れる店となったのです。
濟南鮮湯包(ジーナンシェンタンバオ)では朝、市場で新鮮な材料を仕入れ、毎日餡を作ります。小籠包の作り置きはせず、注文が入ってから包む。薄い皮は、包んだらすぐに蒸さなければ弾力がなくなり破れやすくなってしまうからなんです。多くの小籠包専門店は、ピーク時はどうしても作り置きをしておくお店がほとんど。小さいアットホームな店だからこそ、お客さんも理解して待ってくれるのでしょう。
材料は台湾国産の黒豚を使い、ヘチマとエビの小籠包は、台湾の離島・澎湖産の角瓜(ジャオグア)というヘチマを使用しています。
角瓜は、台湾の一般的なヘチマに比べ多少値が張り、肉質は柔らかくつるりとした喉越しで栄養価も高いのです。濟南鮮湯包のヘチマとエビの小籠包は、ヘチマの青臭さがない点がほかとの大きな違いと言えます。
オーナーシェフの荘さんは、小籠包の見た目にもこだわっています。お客さんの目の前に出した時に、わぁっと声が上がるものを提供したいのだそう。それは、生地の薄さ、ヒダの細かさ、丸さ、形と大きさ、せいろの中の並び方まですべて揃えることが大事なんです。
見た目の驚きは、うまみを倍増させ、喜びになりますよね。薄皮小籠包以外にも、カリカリに油通しされた大量のしらすをのせたチャーハン(魩仔魚炒飯:プラヒーチャオファン)や、パリパリの皮で一枚に繋がった焼き餃子(脆皮煎鍋貼:ツェエイピージェングォーティエ)も、出てきた瞬間に客の表情がパッと明るくなる人気メニューです。台北ナンバーワンとの呼び声高い“薄皮つゆだく”を待つ間に、ぜひお試しあれ。
濟南鮮湯包(ジーナンシェンタンバオ) | ||
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住所 | : | 台北市濟南路三段20號 |
電話番号 | : | (02) 8773-7596 |
営業時間 | : | 11:20~14:30 17:00~21:30 |
定休日 | : | 台湾の旧正月以外無休 |
価格 | : | 圓籠鮮湯包(ユェンロンシェンタンバオ) 8個190元 絲瓜蝦湯包(スーグァシャータンバオ) 8個280元 |
家族で使いたい。長く地元に愛される名店「方家小館」
方家小館(ファンジャーシャオグァン)は、台北の中心地から少し外れた天母(テェンムー)というエリアにあります。観光客の方には馴染みの薄いエリアかもしれませんが、アメリカンスクールと日本人学校があることで外国人や海外と関係の多い人たちが住む、少し外国の香りがする住宅街なんです。そんな場所で40年近く、いつも近所の家族連れで賑わっているお店があります。
通りに面してガラス張りの点心を作る厨房が見えます。高く積み上げたせいろと真っ白く立ち上る蒸気を見れば、この店の点心の人気度は一目瞭然です。小籠包は、一般サイズより少々大ぶりで、数は一籠6個と少なめ。大粒でありつつ繊細さも残しスープはたっぷり、口に頬張る満足感がたまらないのです。素朴な質感の皮は、発酵はさせず、粉と冷水のみで作っているそう。
たくさんの料理を出しているお店ですが、小籠包のレシピは、オープン以来変わらないのだそうです。ホールで料理を運ぶ女性も厨房で働く料理人もみんな20〜30年の勤務歴。味も人も変わらぬ絶対の安心感に、地元客はまるで家の食卓のようにこの店を選ぶのでしょう。
小籠包の餡に使う肉は、黒豚の溫體豬(ウェンティーヂュー)。締め立ての、冷蔵冷凍を介さない豚肉で、新鮮だからこそ肉に甘みを感じます。小籠包のスープは、豚骨と鶏を12時間煮込み、コラーゲンたっぷり。薬膳にも使われ栄養価も高い老母雞(ラオムージー)という歳を取ったメス鶏でスープをとると、最高のうまみが出せます。こんな食材へのこだわりを知らずとも、一口食べれば天母の人たちが通い続けるのも納得できる味です。
他のメニューも充実した、しっかりとした上海料理がいただけます。一籠に小粒が20個ものっているミニ小籠包(迷你小包:ミーニーシャオバオ)もあり、子供もお年寄りも一口で食べられて嬉しい限り。どの料理も1、2人で食べるにはポーションは多めなので、4人以上集まって台湾人のようにわいわいと食卓を囲みたいお店です。
方家小館(ファンジャーシャオグァン) | ||
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住所 | : | 台北市天母東路7號 |
電話番号 | : | (02)2872-8402 |
営業時間 | : | 11:15〜14:00 17:00〜21:00 |
価格 | : | 迷你小包(ミーニーシャオバオ) 20個310元 小籠包(シャオロンバオ) 6個220元 |
究極の出来立てを、夜中でも気軽に。「正好鮮肉小籠湯包」
台湾人は真夜中も早朝も小籠包を食べます。それは、レストランで食べるものと違って、カジュアルでおやつのような小籠包なんです。そんな小籠包は、豆乳を出す朝ごはん屋でも食べられます。皮は厚く、ヒダも細かくない。繊細さは追求していない、庶民の小籠包です。値段もレストランの半額以下。
正好鮮肉小籠湯包(ヂェンハオシエンロウシャオロンバオ)は、通化夜市(トォンホァーイエシィ)のメインストリートから少し外れた隣の路地に位置しますが、ここ数年で日本人観光客にも知られるようになってきたローカルな小籠包店です。
屋台で作るカジュアル小籠包ではあるものの特徴が多く、食事時には毎日行列ができます。その特徴の一つはネギ。宜蘭三星葱(イーランサンシンチョン)
という「台湾一」のネギをふんだんに使用。「台湾ネギ」は、店内に山盛りになっています。日本のわけぎに似ていますね。
その三星葱を肉餡に混ぜ込むのではなく、包む時に、肉餡の上にネギをわざわざ後のせして包む。肉餡に混ぜてしまうと、ネギから水分が出てネギの食感を楽しめないからだそうです。
そしてここは、どんなレストランよりも最短で出来立てを食べられます。半屋台のような構造の小さなお店。一番離れた客席でも10歩も歩かず提供できるのです。何より、蒸し立ての小籠包に勝るものはないのです。広いレストランなら、料理が運ばれるまでに、どうしても時間のロスがある。正好鮮肉小籠湯包の小籠包は、蒸気を含み切った最高の状態でいただけるのです。皮も厚めで小ぶり、柔らかい肉餡にたっぷりの肉汁が閉じ込められている。一口噛めば肉餡から肉汁がジュワッと口に広がる。味付けもしっかりされていて、ほんのり甘め。酢醤油をつけなくても十分なのです。
営業時間は、17時から24時と夜のみの営業。小籠包を食べ逃していたら、夜中にだって駆け込んで食べられる。8個100元とかなりリーズナブルなので、気軽に使える名店なのです。(メニューは小籠包と酸辣湯と焼売のみ)
正好鮮肉小籠湯包(ヂェンハオシエンロウシャオロンバオ) | ||
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住所 | : | 台北市大安區通化街57巷6號 |
営業時間 | : | 17:00〜24:00 |
定休日 | : | 台湾の正月以外は無休 |
価格 | : | 小籠湯包(シャオロンタンバオ)8個100元 酸辣湯(スァンラータン)35元 焼賣(シャオマイ)6個100元 |
路上の屋台からレストランまで、特徴が様々ある「小籠包」。せっかく台湾に行ったのなら、お店ごとに食べ比べするのも楽しそうですね。青木さんのお墨付きの味をぜひ、お楽しみください。
青木由香
1972年神奈川県生まれ。台湾在住。エッセイスト、コーディネイターの仕事を通して日本に台湾を紹介している。日本での著書は『最好的台湾』『台湾のいいものを持ち帰る』ほか。台湾の出版社から出版した『奇怪ねー台湾』がベストセラーに。2013年に台湾観光貢献賞を受賞。台北のショップ&ギャラリー『你好我好』オーナー。ほぼ日『台湾のまど』連載。
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