JAL 国際線の新エアバス「A350-1000」
羽田 - ニューヨーク線から続々就航!
最新仕様で、世界最高峰を目指しました。
ニューヨークを旅するならば、ぜひ街歩きを楽しんでください。大規模なストリート・アートの数々に、きっとワクワクするはずです。ニューヨークらしい景色を写真に収めて回るだけでも十分ですが、その作品の裏側を知れば、さらに楽しめるでしょう。そこで、現地在住のライターに“いま観てもらいたいストリート・アート”を紹介してもらいます。
※記事の最下部にマップを用意しましたので、ぜひご活用ください
桐江キミコ
ニューヨーク在住のライター。食とアートが得意分野。著書に、小説集「お月さん」(小学館)、エッセイ集「おしりのまつげ」(リトルモア)、「滞米こじらせ日記」(小学館の文芸サイト「小説丸」掲載)などがある。現在は日系カナダ移民のノンフィクションの出版を控える。
アートの発信地、ニューヨーク
ニューヨークには世界最大級のコレクション数を誇るメトロポリタン美術館、MOMA(ニューヨーク近代美術館)、グッゲンハイム美術館などがあり、また、オペラやバレエ、ミュージカルなどが上演される劇場も多数。ありとあらゆるジャンルの最高峰・最先端のアートを楽しむことができます。
そうしたアートに触れるおかげで目や耳が研ぎ澄まされるのか、あるいはすでに研ぎ澄まされた目や耳を持った人たちが吸い寄せられるのか、ニューヨークには、アートを深く愛し、理解する人々が多く集まるのも特徴。街角や駅の構内や地下鉄の中など、あちこちでさまざまなアートが披露されている場面に出合います。
そのひとつがストリート・アートです。美術館やギャラリーから飛び出して、ストリート・アーティストたちは空の下でその才能を発揮しています。
以前は、社会に対して怒りを発散させる方法とされがちでしたが、今やストリート・アートは、平和や平等など社会にとって重要なメッセージを提起する手段になりました。そのために公共団体や非営利団体などもアーティストを支援するようになったのです。おかげで、美術館やギャラリーに行かなくとも、街角ですばらしいアートを楽しむことができるようになりました。そのいくつかをご紹介しましょう。
あなたを壁画に招き入れるケルシー・モンタギュー
まずは、国際的に活躍するストリート・アーティストのケルシー・モンタギュー(Kelsey Montague)から。
ケルシーは、自ら「What Lifts You(あなたをリフトするもの)」というプロジェクトを掲げ、夢のある楽しい壁画を描き続けています。
こちらは、ミッドタウンのヒルトンホテルの壁にあるもの。ニューヨークのエレメントをちりばめたミツバチの羽です。前に立って写真を撮ると、ニューヨークの楽しい記念写真ができます。
残念ながら、ノリータ(Nolita・マンハッタンのダウンタウンに位置する地区)にあったこの壁画はもうなくなってしまいましたが、ケルシーの典型的な壁画です。一方通行でなくインタラクティブであるのが特徴で、前に立つと、背に鳥やチョウの羽が生えたり、気球に乗って空を飛んだりしているように見えます。参加することで壁画が完成するのです。
ニューヨークの観光スポットのひとつ、「ハイライン(High Line)」は、廃止した線路跡に造られた全長2キロ余りにわたる高架遊歩道です。その29丁目あたりでケルシーの壁画を見ることができます。
この作品にも摩天楼や自由の女神、ミュージカルの仮面、イエローキャブなどニューヨークを象徴するものがちりばめられています。前でポーズを取れば、まるで口からハートが飛び上がっていくよう。ケルシーいわく、この作品はニューヨークへの「ラブレター」だそうです。
ハートをニューヨーク中に飛ばすアーティスト、ヘクタッド
さて、ハートと聞いて思い出すのが、ストリート・アーティスト、ヘクタッド(Hektad)です。ニューヨークの街角にカラフルなハートを飛ばしています。愛らしいロマンティックな絵を描き続けるヘクタッドは、ブロンクス出身の生粋のニューヨーカーです。
こちらは、ノリータ(Nolita)にある壁画。イーストハウストン・ストリートとモット・ストリートの角のベーグル屋さんの壁に描かれています。
こちらは、2ワールド・トレード・センター建設予定地にあるヘクタッドの作品です。
ニューヨーク・ニュージャージー港湾局が開発業者にこのエリアを活気づけるようなことができないか依頼したことが始まりで、ヘクタッドほか、トッド・グレイやスティッキーモンガーなどの数多くのストリート・アーティストが招かれ、工事現場を囲んだ壁やブロックをそれぞれハッピーでカラフルな壁画で彩りました。敷地の北側にあるヘクタッドの壁画は、色のしぶきが飛び散ってあたりを華やかにしています。
グラフィティが弾けるインディ184
さて、次にまたニューヨークを舞台に活躍する女性ストリート・アーティストを紹介しましょう。
インディ184(Indie184)ことソラヤ・マルケス(Soraya Marquez)は、カラフルでエネルギッシュなグラフィティで知られています。この壁画には、『ウエストサイド・ストーリー』でアカデミー助演女優賞を取ったリタ・モレノが描かれています。バブル文字などが描き込まれていることから、最初は落書きされたのかと思いましたが、実はこれが彼女のスタイル。グラフィティやバブルなどをちりばめ、カラフルな色を盛りだくさんに使うのが彼女の流儀なのです。
ちなみに、インディ184というアーティスト名は、彼女の好きな映画『インディ・ジョーンズ』と、彼女が育ったマンハッタンの184丁目(ワシントンハイツ地区)に由来するということ。ワシントンハイツは、多くのドミニカ系移民が住む、活気に満ち、多様性に富んだ地区で、ソラヤもまたドミニカ系のニューヨーカーです。
力強いメッセージを静かに伝えるフェイス47
そして、こちらも女性アーティストであるフェイス47(Faith47)の壁画、題して「Aequalitas」(ラテン語で「平等」を意味する)。女性労働の平等を訴えた作品です。ストリート・アートを通して社会変革の意識を促すことを目的にした非営利団体の「ストリートアート・フォア・マンカインド(Street Art for Mankind)」がILO(国際労働機関)とパートナーシップを結んだプログラムのもとで制作されました。
フェイス47は、南アフリカ出身で、壁画のほかに、彫刻、ビデオ・インスタレーション、タペストリー、絵画など、さまざまな分野で才能を発揮しています。渋く落ち着いた色調が彼女のスタイルです。
コラージュの達人、トリスタン・イートン
さて、「ストリートアート・フォア・マンカインド」ほか、ストリート・アートをサポートする団体はたくさんありますが、中でも「リトル・イタリー・ストリートアート・プロジェクト(Little Italy Street Art Project)」、略してLISAプロジェクトは、壁画を通して都市空間を変えることを目的とした非営利団体で、このプロジェクトを通して、すばらしい壁画が次々に生まれました。そのひとつがこちらです。
多才なアメリカ人アーティストのトリスタン・イートン(Tristan Eaton)によるオードリー・ヘプバーンの壁画です。リトルイタリーのカフェ、「カフェ・ローマ」の壁に描かれています。
イートンの描く壁画は、鮮やかな色のコラージュが印象的です。コラージュにいろいろなストーリーを含ませるのが彼のスタイル。Reebok、Nike、ユニバーサルスタジオ、高級時計ブランドのウブロなどの大手クライアントのためにオリジナル・アートやデザイン作品を制作しています。
オードリー・ヘプバーンの壁画からソーホーに向かって西にブルーム通りを歩いて1、2分ほどのところにまた別のイートンの壁画があります。
駐車場に面した壁に描かれた「ビック・シティ・オブ・ドリームズ(大きな夢の町)」です。これもまたLISAプロジェクトのもとに制作されており、イートンらしいニューヨークのアイコンのコラージュがされています。
イートンは、五番街にも高さ30メートルの大きな壁画を制作しています。不動産管理会社の要請を受け、ノーマッド(Nomad)地区のビルの側面に描きました。
題して「The Gilded Lady(金箔の貴婦人)」――テーマは金ぴか時代のノーマッド地区の豊かな歴史。金ぴか時代(Gilded Age)というのは、19世紀後半、アメリカで資本主義が急速に発達し、石油や鉄鋼、鉄道などで富を得た大富豪が豪奢な生活をした時代のこと。
トリスタンが選んだのが、この時代を生きたモデル、コーラスガール、女優であったイヴリン・ネスビットでした。彼女は、ここノーマッド地区で暮らし、その美貌ゆえに、数々の雑誌の表紙を飾ることになりましたが、のちにスキャンダルに巻き込まれることになります。
イートンは、この時代の様子をコラージュにしてエヴリンの衣装や帽子に組み込んでいます。ところで、こちら(下図)の18歳当時のイヴリンの写真ですが、実は、「赤毛のアン」の著者、モンゴメリーは、雑誌からこの写真を切り抜いて壁に貼り、だれかとは知らないまま、アン・シャーリーのモデルとして使ったとのことです。
世界を股にかけて活躍する色の達人、エデュアルド・コブラ
次は、ブラジル出身のストリート・アーティスト、エデュアルド・コブラ(Eduardo Kobra)です。彼は独学で絵を描くことを学び、サンパウロを拠点に世界を股にかけて活躍しています。
コブラは、自ら掲げる「自由の色(Colors of Liberty)」プロジェクトを通して、暴力や銃規制などさまざまな社会問題に対して訴えかけています。
「自由による平和」と題されたこの壁画は、アンディ・ウォーホールと共にポップ・アーティストとして有名なロイ・リキテンスタインが描かれています。鮮やかな原色、ドット、ストライプ、吹き出しなど、リキテンスタインがよく使うテクニックを借用しています。
「寛容(Tolerance)」と名付けられたこの壁画には、インドのために尽くした人道主義者のマザー・テレサとガンジーが描かれています。ハイライン(15丁目と16丁目の間)からも見ることができ、多くの人の目に触れています。コブラらしい万華鏡スタイルのカラフルな幾何学模様が見られます。
屋外にある壁画は、不特定多数の人にメッセージを伝えることができます。コブラは、どうすれば世界をより良い場所にできるのか、その答えを見つけるために壁画を通して問題を提起していると言っています。
こちらはパンデミック後、2ワールド・トレード・センター建設予定地に描かれた新しい壁画です。周囲にはかなりの数の壁画があるので集中的に見て回れます。
コブラは、世界平和を祈って、アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニアを代表する5人の女性を描いています。コンクリートのブロックに描かれた千羽鶴もまた平和のためのメッセージを伝えています。この地には、こうした平和をアピールする作品が数多く見られます。
ニューヨークを散策していると、お菓子屋さんの屋根や、お店のシャッター、学校やオフィスビルの壁など、いろいろな場所で壁画に出合います。のびのびした明るいものから写実的でシリアスなものまで作風も幅広く、アーティストたちは、個性を発揮してそれぞれのメッセージを伝えようとしています。
壁画探しの散策も、ニューヨークを楽しむひとつの方法。観光やショッピングの最中でも、ふと周りを見回すと、思いがけなく壁画が目に入ってくるかもしれません。
ニューヨークのストリート・アート オリジナルマップ
参考文献
Kelsey Montague
Hektad:@hektad._official
The Two World Trade Center Murals Project
Indie184
FAITH47
Street Art For Mankind
LISA Project NYC
Tristan Easton
Tristan Easton "Gilded Lady"
Eduardo Kobra
関連記事
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。