
この記事の監修者
白倉正子
トイレ研究家。一般社団法人日本トイレ協会運営委員。1996年 多摩大学経営情報学部卒業。大学時代の卒論「トイレ空間における企業の経営戦略」を書いたことがきっかけで、トイレの大切さに気づいたと同時に、トイレ問題の深刻さを痛感。大学卒業後は就職せず、トイレに関する活動をはじめる。TBS「マツコの知らない世界」ほか、数々のメディアに出演。アントイレプランナー代表。2023年5月に日本人初の世界トイレ協会(WTA)理事に就任。
事前に知っておくと安心。アジアのトイレの特徴
海外に行く場合、大前提として知っておくべきは、“日本では当たり前のことが、海外ではそうではない”ということ。
それはトイレも同様。トイレがなく、野外で排泄している人は世界に4億人以上もいるとされています。(※1)
この記事では、世界各国でさまざまなトイレを見てきたトイレ専門家・白倉正子さんの実体験とともにアジアのトイレの特徴を解説。日本と同じアジア圏でも、国によって常識や設備が異なるので、旅行前の参考にしてください。
※1:ユニセフ「ユニセフの主な活動分野|水と衛生」
トイレットペーパーが流せない

iStock/Aekprachaya Ayuyuen
アジア圏への旅行でよく遭遇するのが、トイレットペーパーが流せないパターンです。下水設備が整備されていなかったり、水圧が弱かったり、トイレットペーパーの紙質の問題があったりと、さまざまな要因でトイレットペーパーを流せない場合が多いというのが実情です。
韓国でトイレットペーパーを流せることを説明しているイラスト(2017年撮影)
日本からの観光客が多い韓国も、数年前まではトイレットペーパーが流せないトイレがほとんどでした。近年、空港や主要な観光施設などでは水洗トイレも増えてきたものの、そう多くはありません。
トイレットペーパーが流せない場合は、注意書きが書いてあったり、蓋のない大きなゴミ箱が置いてあったりするので、トイレに入ったらまず確認するようにしましょう。
白倉さんコメント
「海外に行く際は、 “トイレットペーパーは流せないかもしれない”くらいの心構えの方がいいかもしれません。大便器ブースに入って、近くにゴミ箱がなければそのトイレは流せる、と判断してもらってもよいと思います!」
トイレットペーパーがない
そもそも備え付けのトイレットペーパーがないなんてことも多々。イスラム教やヒンドゥー教の国ではホースなどがついたトイレシャワーや水が入った桶が設置されていることが多く、「不浄の手」とされている左手で洗う文化があります。

ラオスのトイレ(2024年撮影)
ほかにも、中国では出かける際に自宅からトイレットペーパーを持参する習慣があったり、ラオスでは桶の水を柄杓ですくっておしりを洗い、最後に便器を水で流すという文化があったりするのだとか。特にローカルなエリアや農村部に行くとこのようなケースが多々見られるそうです。

写真の左側についているのがトイレシャワー
iStock/Agung Putu Surya Purna Kristyawan
このようにトイレットペーパーが置かれていない場合に、代わりに使うのがトイレシャワー。ホース式や、ピストル型スプレー式、桶式などがあり、いずれも水洗浄のスタイルです。
現地の人は洗ったらそのままという場合も多いのですが、濡れたまま下着をつけることに抵抗がある場合や、衛生面が気になる場合は、持参したトイレットペーパーや水溶性のティッシュを使って拭きましょう。ゴミ箱がないこともあるので、ゴミ袋も持ち歩いておくと安心です。
白倉さんコメント
「マレーシアのような熱帯地域のトイレは、水で洗浄してもすぐ乾くからか、トイレットペーパーが設置されているところが少なく、トイレシャワーで洗う場合が多いんですよ」
和式とは違う「しゃがみ式」トイレがある

インドのトイレ(2024年撮影)
最近の日本のトイレはほとんどが「腰掛け式」と呼ばれる洋式スタイルです。一方、アジアの一部では「しゃがみ式」と呼ばれるスタイルが主流の地域もあります。日本では、しゃがむスタイルを「和式」といいますが、日本の「和式」と海外の「しゃがみ式」で大きく違うのは“金隠し”があるかどうかということ。
金隠しとは、和式トイレの前方に設けられている半球状のでっぱり(ドーム型の部分)を指し、排泄物の飛沫や便器を洗浄する水が飛び散るのを防ぐ役割があります。
日本では、この金隠しの方に頭を向け、ドア側に背中を向ける形で用を足しますが、海外のしゃがみ式トイレには金隠しがなく、ドアの方を向いて用を足すのが一般的です。

腰掛けもしゃがみも使える「アングロ・インディアントイレ」と呼ばれるインドのトイレ(2024年撮影)
国によっては、腰掛け式としゃがみ式を両方兼ね備えたものや、高さのあるしゃがみ式などがあります。
白倉さんコメント
「海外旅行に行くと、しゃがみ式のトイレの多さに驚くかもしれません。金隠しがないため、前と後ろの判別が難しいかもしれませんが、便器の穴の真上に用を足すと思っておけば正解です」
個室がない場合がある

中国・北京のしゃがみ式トイレ。仕切りはあるものの、個室になっていない(2024年撮影)
日本人が最も衝撃を受けるケースは、トイレの個室がないことです。知らない人と顔を合わせながら用を足すことから「ニーハオトイレ」とも呼ばれ、中国などで見かけるタイプで、ドアや仕切りの壁がないケースがあります。先述したしゃがみ式トイレと同じで、正面(本来ドアがある側)を向いて使います。
白倉さんコメント
「最近ではだいぶ減ってきていますが、住宅地や農村部などで見かけることはあります。このタイプはトイレットペーパーがないことも多いです」
衛生面が行き届いていない場合がある
日本のトイレに慣れていると、海外のトイレの衛生面に驚くことも。ゴミ箱のトイレットペーパーが溢れかえっていたり、便器が破損していたり、臭いが充満していたり…掃除が行き届いていないことも多々。洋式の場合は便座がなく、中腰の状態で用を足さなければならないという場面にも遭遇します。
日本のトイレは世界でも最高水準なので想像しがたいかもしれませんが、アジアに限らず、海外のトイレを利用する際は、衛生面が行き届いていない場合もあるため、ある程度心の準備をしておくようにしましょう。
白倉さんコメント
「街中にある有料の公共トイレでも、日本に比べて清潔だとは感じにくいことが多いと思って入る方がベターです」
有料の公共トイレがある

インドのトイレ(2024年撮影)
日本では公共トイレというと、無料が当たり前ですが、海外ではそうはいきません。街中にある公共トイレは有料のことが多く、日本のコンビニやサービスエリアのように、誰でも使えるトイレは多くありません。

インドのトイレ。看板に料金がかかれている(2024年撮影)
料金は場所によりまちまちですが、入り口にスタッフがいない場合はゲートで料金を支払ったり、大便器ブースのドアにコインを投入する穴があったりするため、両替不要な小銭をいくらか準備しておくとよいでしょう。
また、有料ではないものの、飲食店などのトイレは食べ物や飲み物を購入していないと利用できない場合も。たとえば韓国のカフェなどはレシートに暗証番号が書いてあり、その番号をパスロックに入力することでトイレが利用できます。日本とは勝手が違うことを頭に入れておくとよいでしょう。
白倉さんコメント
「日本に比べると自由に使えるトイレの数が少ないので、トイレがある場合は積極的に入って済ませておきましょう。そもそもお腹を下さないよう、食べ物や飲み物にも十分注意を払ってくださいね」
トイレの流水音がない
外国人観光客が日本で驚くもののひとつとして挙げられるのが、「音姫」などで知られるトイレの擬音装置です。排泄音のプライバシー保護と節水を目的に開発された擬音装置ですが、この文化は日本独自のもののため、海外では基本的に設置されていません。
白倉さんコメント
「温水洗浄も基本的には日本のみ。あったとしても経済的に豊かな商業施設に限られるでしょう。人工肛門の方などが利用するオストメイトの設備も日本特有のものですね」
荷物を掛けるフックがない
海外のトイレを利用するときに意外と困るのが、荷物を置く場所がないこと。日本では、荷物を掛けるためのフックがあったり、荷物置き用の棚が設置されていたりしますが、こちらも海外ではないことが珍しくありません。
そんなときのために、カバンはハンドバッグではなく、両手が空くボディバッグなどを持っていくと便利です。
白倉さんコメント
「たくさんお買い物をしたときのために、ドアに引っ掛けられるくらいの大きめのS字フックを1個持っておくと安心かもしれません」
あったら便利なトイレアイテム
アジアでトイレに行く際に、持っておくと便利なアイテムをまとめました。
| アイテム名 | 用途 |
|---|---|
| ティッシュ(水に流せるタイプ) | トイレットペーパーが置かれていない場合や、備え付けのトイレットペーパーが流せない場合に便利 |
| トイレットペーパー | 筒に紐を通したトイレットペーパーを持っておくと、首に掛けてそのまま使えて便利 |
| ウェットティッシュ | 便座を拭くときなどに使う |
| アルコールスプレー | 便座を拭いたり手を洗ったあとの除菌に使ったりする |
| ビニール袋 | ゴミ箱や汚物箱がない場合もあるので、いざというときのために。中が透けないタイプの方がベター |
| 便秘薬・下痢止め | お腹を下したときなどのために携帯しておくと安心 |
| 携帯用おしり洗浄機 | 普段日本で欠かせない人はあると便利。手動式と電動式など種類も豊富 |
| 携帯型便座 | 折りたたみ式で軽い携帯便座なら、便座がないときや汚れているときなどに使える |
| ハンカチ | ペーパータオルやハンドドライヤーがないときのために |
| 生理用ナプキン | 海外のナプキンは入手困難かもしれないので、使い慣れた日本のナプキンが安心 |
| 両手が空くカバン | 荷物置きがない場合に備えてボディバッグがおすすめ。荷物を掛ける用のS字フックもあると便利 |
| ヘアゴム | 衛生面が気になるしゃがみ式トイレのときに、汚れないよう、ズボンの裾をとめる |
| 小銭 | 有料の公共トイレを使う場合に備えて、細かいお金を持っておく |
| 携帯用消臭スプレー | 臭いが気になる人はマナーとして持ち歩くのもよし |
生理用ナプキンや携帯用おしり洗浄機は、旅行中に生理になった場合やお腹を壊したときのために持っておくと安心です。
また、トイレアイテムを準備する以外にも、ホテルやレストラン、商業施設など、整備が行き届いている場所をチェックしておきましょう。安心して使えるトイレの候補があると、いざというときにも少し余裕を持って過ごせます。
都心から離れたローカルなエリアに行くときほど、事前にトイレがありそうな場所を調べておくといいでしょう。
そのほか、その国の言葉で「トイレはどこですか」というフレーズを覚えておくことをおすすめします。海外では「トイレ」という用語が伝わらないこともあります。たとえば「レストルーム」など、訪問国で一般的な表現を事前に確認しておくことも重要です。言葉がうまく伝わらないときのために「トイレはどこですか」と現地語で書いたメモを持っておくと、役立つかもしれません。
事前準備でトイレ問題を解消しよう
海外旅行にトイレ問題はつきもの。ただ、事前に準備をしておけば、ある程度トイレのストレスを回避できるでしょう。この記事を参考にして、楽しい旅にしてください。
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