中能登町:のどかな田園風景が広がるあたたかい町
国史跡に指定されている石動山(せきどうさん)や雨の宮古墳群に囲まれた中能登町。のびのびとした田園が広がる緑豊かな地域でありながら、商業地域もあり、ゆったりと生活できる暮らしやすい町です。
古くからの寺社やそれらを舞台とした祭事も地域に受け継がれた大事な文化。どぶろく特区の認定を受けていたり、能登上布の生産が盛んだったりと、人々の営みと自然が溶け込んだ豊かさがあります。
夢を叶えてくれた中能登町で地域に恩返しをしたい。ゲストハウス結舎・寺田匠吾さん
2022年4月に開業し、能登と金沢を行き来する観光客に人気のゲストハウス「結舎(ゆいのや)」。広い土間や囲炉裏、天井の太い梁など、築80年の趣ある造りを活かした空間となっています。
「結舎」のオーナーである寺田匠吾さんは、妻の真友里さんと2歳になる娘さんとともに三重県から移住してきました。元々ゲストハウスに興味をもっていた真友里さんの影響で、さまざまなゲストハウスを訪れてきた2人。自然とその経営が夫婦の夢になっていったのだとか。
そんな夢を実現させるため、まず悩んだのは物件。古民家の雰囲気を好んだ2人は、いろいろな地域の古い物件を内見し、その中で出会ったのが中能登町の現在の物件でした。前オーナーが丁寧にメンテナンスを行っていたこともあり、築80年の古民家にしてはとても良好な状態だったそうです。
匠吾さん「子育ては田舎でしたいという考えも、中能登町への移住を後押ししたのだと思います。豊かな自然が身近にある環境は魅力的でしたし、保育園や学校、商業施設もそう遠くないのでそこは安心できました」
さらに、移住してから気付いたことは自治体の手厚い支援。中能登町は特に子育て支援に力を入れており、能登地方のファミリー層にも注目されているそう。実際、匠吾さんの周りでは、隣町に実家がありながらも自治体の取り組みを見て中能登に新居を構えたという家族も多いといいます。
中能登町で夫婦の夢と理想を叶えた寺田さん夫妻に、今後の目標もうかがいました。
関西に住んでいた頃、通っていたゲストハウス内のカフェで生まれる人との交流に魅力を感じたという真友里さん。だからこそ、「結舎」も人をつなげる場所でありたいと話します。
匠吾さん「まだ準備段階なのですが、共有スペースを使って、今後はカフェの営業も考えています。この周辺ではそういった飲食店がそれほど多くないというのもありますし、地域の方々に恩返ししたいというのもあるんです。移住したての頃から周囲の方にはたくさん気にかけていただいて。宿泊業だけではなかなかみなさんにお返しする機会がないので、喜んでいただけたらと思っています」
今後移住を考えている人には、事前の長期滞在をおすすめしたいという匠吾さん。旅行気分ではなく、長い時間その土地にとどまって“暮らし”の目線で町を見ることで、いろいろなものが見えてくると話します。そういう方の力になりたいと、「結舎」では長期滞在も受け入れているそう。移住を検討されている方は、当事者のリアルな声を聞いてみてはいかがでしょう。
ゲストハウス結舎
住所 | : | 石川県鹿島郡中能登町良川ヲ71 |
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web | : | https://www.yuinoya2022.com/ |
羽咋市:美しい海と山に囲まれたコンパクトシティ
能登半島の付け根に位置する羽咋(はくい)市。日本で唯一の車で走行できる砂浜「千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイ」や、宇宙科学を体感できる「コスモアイル羽咋」など、この町ならではのスポットが点在しています。商業地域が密集した小規模な市でありながら、海や棚田が広がるおおらかな風景を持ち合わせた、人と自然が共存する町です。
「本当にしたいこと」を見つけられた。IMAJIN&移住プランナー・松本仁考さん
肥料も農薬も使わない自然栽培という手法で野菜を育てている農家「IMAJIN」。季節ごとにさまざまな野菜を栽培するとともに、自身の畑で採れた豆や芋を使ってつくった味噌や干し芋などの加工品もECサイトや道の駅を通して販売しています。
「IMAJIN」を運営している松本仁孝さんは、2015年に妻の恭子さんとともに大阪から移住。農業をする傍ら現在は羽咋市の移住プランナーとして、地域の魅力を伝える活動もしています。
移住のきっかけは恭子さんの夢にありました。元々調理師として働いていた恭子さんは、仕事をしていく中で食材と人間の体づくりについて考えるようになり、「自然栽培農家を目指そう」という気持ちが強くなったといいます。
以前からJAはくいと連携して自然栽培農家への就農支援を行っていた羽咋市。その取り組みを聞きつけた恭子さんは、羽咋市への移住を提案します。当時、仁孝さんは健康食品の販売業に就きながらも、自身の生き方について「このままでいいのか」と悩む部分があり、現状を変えようと恭子さんの移住計画に賛同。サラリーマンから一転、農家になる決意をしたそうです。
仁孝さん「自分が本当は何がしたいのかというのを、一つ一つ確かめてみたいと思ったんです。自然の力だけで野菜が育つ自然栽培は、人生観や人間関係などともリンクする部分がある気がして、自分自身に何か面白い変化が起きるのではないかと思いました」
移住プランナーとしても活動する仁孝さん。住んでから気付いた町の魅力を「田舎すぎない田舎」と表現します。海端に住居を構えた2人は、歩いてすぐ海に行けることを大変気に入っているそう。夫婦喧嘩をした際は、海を見ながら心を落ち着かせるのだと笑います。
仁孝さん「海も近ければ、山もすぐそこにある。仕事場は遠くまで見渡せる開けた田畑。かといって、生活する上で不便かといわれるとそういうわけでもないんです。日常で利用する施設はなんでも揃っているし、金沢に出るのも車で40分ほど。僕は大阪に住んでいましたが、都会で車に40分乗るのと田舎で乗るのとでは全く異なります。信号も車も少ないから運転にストレスがなくて、思っている以上に遠くまで行けるんですよ」
同じように農家を目指し移住を検討している方には、特にしっかりとリアルな現状を伝えるようにしているといいます。仁孝さん自身、農家として北陸の気候や日本の農業の仕組みによってさまざまな壁にぶつかることも多いそう。
試行錯誤をしながら、困難を乗り越えている2人。仁孝さんは、移住前に感じていた「本当は何がしたいのか」という問いに対し、少しずつ答えが見つかってきた気がすると話していました。
移住の検討を始めるきっかけは、さまざま。この記事で紹介した3つの市町に共通する雄大な自然と程よく便利な街の存在は、日々の営みや暮らしを豊かにしてくれる“ちょうどいい”バランスなのかもしれません。
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