この記事では、2019年に発売された書籍『海外名作映画と巡る世界の絶景』(インプレス)の解説を担当された映画コラムニストの新谷里映さんに、印象的な4つのロケ地をピックアップしていただきました。今のうちに、映画の世界に十分浸って、旅に出る準備をしてみてはいかがでしょうか。
文:新谷里映
遥か彼方の銀河系をイメージした『スター・ウォーズ』のロケ地はマヤ文明の遺跡にして世界遺産
「遠い昔、遥か彼方の銀河系で……」というオープニングでお馴染みの『スター・ウォーズ』シリーズ。43年にわたり物語が紡がれてきた、あまりにも有名な作品です。SF映画は、スタジオセットで撮影され背景はフルCGで作られると思われがちですが、物語の舞台となる“遥か彼方の銀河系”は、実は世界各地で撮影されています。
記念すべきシリーズ1作目『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』は、カリフォルニア、チュニジア、グアテマラなどがロケ地で、しかも世界遺産や大自然が広がる絶景ばかり。地球上にそんな場所があったなんてと驚くはずです。
たとえば、作品の後半に登場する反乱軍の基地のロケ地となっているのは、マヤ文明最大の都市遺跡、グアテマラのティカル遺跡です。映画のなかでは、神殿の上から遺跡のある国立公園を見わたすようなシーンになっています。
こちらの遺跡は1979年にユネスコ世界複合遺産に登録されているので、今現在も変わらず、同じ風景がそこにあります。およそ40年前の映画のロケーションを今でも実際に見ることができる、それって凄いことです。
女王アミダラの住む宮殿はイタリアのカゼルタ宮殿で撮影
『スター・ウォーズ』は、旧三部作、新三部作、続三部作、あわせて9本(ほかスピンオフやドラマ、アニメもある)もあり、世代的には新三部作の『エピソード1/ファントム・メナス』から観たという人が多いかもしれません。そこで、『ファントム・メナス』のロケ地情報も少しだけ紹介します。
惑星ナブーの女王アミダラ(ナタリー・ポートマン)が住む宮殿のロケ地は、イタリアにあるカゼルタ宮殿です。こちらはフランスのベルサイユ宮殿に対抗するために造られたといわれており、1997年に世界遺産に登録されました。宮殿も庭園もとにかく豪華で広大、敷地内には劇場や博物館などもあり、庭園の奥行きはなんと3kmにもおよびます。
『ロード・オブ・ザ・リング』と『ホビット』に登場するあの村はニュージーランドにある!
ニュージーランドで撮影された映画で有名なのは、『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』です。両シリーズの監督であるピーター・ジャクソンの故郷でもあり、ニュージーランド全体がロケ地と言ってもいいほど。
なかでも人気のロケ地は北部のマタマタという街、そこには主人公フロドたちが住むホビット村があります。『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚である『ホビット』の撮影時に再建され、そのまま取り壊さずに観光地になりました。映画に映し出されていた光景をリアルに体験できる、一瞬にしてファンタジーの世界に入ることができる、夢のような場所です。
技術の進歩によって、人間や動物もCGとしてリアルに描かれる時代、このシリーズもふんだんにCGが使われていますが、『ロード・オブ・ザ・リング』でフロドたちが指輪を捨てる旅の途中の風景は、ビクトリア山、サンデー山を見わたせる高原、カワラウ川といったニュージーランドの大自然。フロドたちの旅の終着点である滅びの山はトンガリロ国立公園にあるナウルホエ山で撮影されました。
首都ウェリントンが“ウェリウッド”と呼ばれるワケは……
ニュージーランドの首都ウェリントンは、映画にちなんだ自然を満喫できるツアーが充実しているだけでなく、文化都市としての魅力もあります。ピーター・ジャクソン監督の映像スタジオ「ウェタ・デジタル」もあり、撮影スタジオをはじめ映画の関連会社も多いことから「ウェリウッド」とも呼ばれています。
ちなみに『ホビット』の撮影はストーン・ストリート・スタジオの6つのスタジオをすべて使って撮影。また、ウェタ・デジタルに隣接する施設「ウェタ・ケーブ」では、『ロード・オブ・ザ・リング』のさまざまな展示や映像を見ることができるほか、映画で使う小道具の制作現場を見学できるワークショップツアーもあり、映画ファンが立ち寄りたいスポットになっています。
ハワイの大自然クアロア・ランチに作られた恐竜に会えるテーマパーク
恐竜と出会える映画として絶大な人気を誇る『ジュラシック・パーク』。シリーズの4作目となる『ジュラシック・ワールド』は、1作目でオープンに至らなかった恐竜のテーマパークが、22年の時を経て遂にオープンするところから物語が始まるパニック・アドベンチャーです。
撮影はどちらもハワイがメインロケ地。1作目の撮影時にハリケーンによってセットが台無しになるショッキングな出来事もありましたが、当時のロケーションの大半は昔のままの姿で残っています。『ジュラシック・ワールド』で、草食恐竜たちに触れたり、エサをあげたりすることができた「ふれあい動物園」は、オアフ島のホノルル動物園で撮影されました。
カメハメハ・ハイウェイにあるクアロア・ランチもロケ地です。クアロア・ランチは『ジュラシック』シリーズだけでなく、『GODZILLA ゴジラ』、ドラマ「LOST」や「HAWAII FIVE-0」など数多くの映画やドラマが撮影されている場所で、ロケ地ツアーもあります。
ほかにも、乗馬、カヤック、マウンテンバイク、ボートで海を周遊するオーシャンボヤージ、ジャングルを特別仕様車で駆け抜けるジャングルエクスペディションツアーなど、アクティビティが充実しています。
オアフ島とNASAの施設とバーチャルの世界が融合する
『ジュラシック・ワールド』に登場するテーマパークのメインストリートは、ハワイではなくニューオーリンズに巨大セットを建設して撮影されました。宇宙計画の中止によって空き地となったNASAの施設を利用して作られたスタジオです。
そんなリアルなセットと、ハワイの本物の風景と、そしてバーチャルな恐竜の融合によって生み出される『ジュラシック・ワールド』の世界。映画を見たあとにハワイを訪れると、恐竜たちが本当に現れるかもしれない、そんなふうに感じるはずです。
『美女と野獣』『ハウルの動く城』のモデルになったアルザス地方の小さな街コルマール
なんて美しい風景だろう……と、うっとりするアニメーション映画の世界も、実在する街がモデルになっていることが多々あります。
たとえばフランス東部、ドイツとスイスの国境に位置するアルザス地方。アルザスワイン街道があり、星付きレストランも多く、クリスマスマーケット発祥の地でもあり、世界中から人が訪れる場所です。そんなアルザスのなかで、まるで映画の中の世界のような街として有名なのはコルマール。ディズニーアニメーション『美女と野獣』と、スタジオジブリ映画『ハウルの動く城』のモデルになった街といわれています。
『美女と野獣』の冒頭でベルが立ち寄る噴水のある広場は、コルマールの街の中央にあるアンシエンヌ・デュアンヌ広場の風景と重なります。
一方、『ハウルの動く城』のソフィーが暮らしている街には、16世紀に建てられたユニークな形の建物“プフィスタの家”とそっくりな家が登場しており、ハウルが好きな方はぜひ立ち寄ってほしい観光スポットです。
まるで小さなヴェニス、絵本から飛び出したようなカラフルな街並み
コルマールを含めたアルザス地方の特徴のひとつが、コロンバージュと呼ばれる木組みの家。また街のなかには運河があり、小さなヴェニスとも呼ばれています。そんなカラフルで可愛らしいメルヘンな街並みはたしかにフォトジェニック、女性に人気なのも納得です。
映画のロケ地はロケ地でも、「異世界」という切り口でピックアップしてみましたが、いかがでしたか。セットではなく実在する場所があると思うと、旅ごころがくすぐられます。どんな場所で撮影したかを知った上で映画を改めて見ると、撮影風景を想像することもできる、映画の世界により近くなれる、そんな気がします。
映画を観ながら、次はどこへ行こうかと旅の計画を立てることも、思うように外出できない中で楽しみのひとつになりそうです。
新谷里映(しんたに・りえ)
雑誌編集者を経て現在はフリーの映画ライター、コラムニスト。雑誌・ウェブ・TV・ラジオ、各メディアで映画紹介をするほか、コラムの執筆、映画のオフィシャルライター、東京国際映画祭やトークイベントのMCなど幅広く活躍。2019年発売の映画写真集『海外名作映画と巡る世界の絶景』では解説執筆を担当。
https://note.com/rieshintani
海外名作映画と巡る世界の絶景(インプレス)
※2020年6月12日に一部内容を更新いたしました。
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