ここ数年続く観光列車ブーム。その発信源とも言えるのが九州エリアです。特急列車、SL、さらには市電に至るまで、九州全域にさまざまなコンセプトの観光列車が運行されています。その魅力は、車窓からの景色やこだわりの内装だけではありません。移動時間帯に合わせて個性溢れる食事が振る舞われたり、使い勝手のいいダイヤで運行されたりと、九州観光の旅程の中に列車旅を取り入れやすくする工夫もなされています。そこで、鉄道好きの方だけでなく旅の通も唸らせる、最新の観光列車旅を3つご紹介しましょう。

九州7県を巡り、自由度の高い旅が楽しめる「36ぷらす3」

最初にご紹介するのは、2020年10月16日の運行開始直後から大きな話題となっている「36ぷらす3」。他の列車にはない大きな特徴は、この列車で九州全域を周遊できるということ。木曜日に博多駅を出発すれば、月曜日までの5日間をかけて九州7県をぐるりと巡れるのです。走行距離は1198kmで、円を描くように環状運転する列車としては世界一(JR九州調べ)となるそう。

しかも、全部で5つあるルートは曜日ごとに発着駅が設定されており、福岡、宮崎、鹿児島、大分、長崎と、メインとしたい観光地を起点に旅の設計がしやすくなっています。

36ぷらす3 運行ルート

木曜日ルート博多→ 熊本→ 鹿児島中央
金曜日ルート鹿児島中央~宮崎
土曜日ルート宮崎空港・宮崎~大分・別府
日曜日ルート大分・別府~(門司港)~小倉・博多
月曜日ルート
(午前便)
博多~佐賀~長崎
月曜日ルート
(午後便)
長崎~佐賀~博多
画像1: 九州7県を巡り、自由度の高い旅が楽しめる「36ぷらす3」

周遊と聞くと、寝台列車のようなものを思い浮かべるかもしれませんが、「36ぷらす3」は日中のみの運行なので、チケットはルートごとに個別販売されています。このため車内泊はできませんが、より自由度の高い旅が楽しめるようになっているのです。すべてのルートを購入して九州を周遊するも良し、好きなルートだけを選んで楽しむも良し。日程や予算にあわせて利用できるのが魅力です。

また、各ルートで鉄道旅の醍醐味である途中下車ができるのも嬉しいポイント。例えば日曜日ルートには、門司港駅で30分間の散策時間が設けられています。お土産選びや写真撮影を楽しむ自由時間として、旅をさらに思い出深いものにできそうです。

画像2: 九州7県を巡り、自由度の高い旅が楽しめる「36ぷらす3」

JR九州では、車体のデザインにこだわり、沿線地域が持つ文化やそれにまつわるストーリーを盛り込んだ観光列車のことを「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と呼んでいます。この新D&S列車プロジェクトの責任者、堀篤史さんは「『36ぷらす3』は、JR九州が積み重ねてきた技術やプロダクト、サービスなどの集大成です」と言います。

というのも、「36ぷらす3」は車両からして特別。これは1992年にデビューした787系という車両にリノベーションを施したものですが、787系はJR九州の車両や駅舎などを手掛けてきたことで有名なデザイナー、水戸岡鋭治氏が初めて企画段階から関わった車両なのです。

車内レイアウトも個性に満ちています。1号車から3号車までは個室、5号車と6号車は座席タイプの客室。1号車は畳敷きに洋風の椅子がレイアウトされており、レトロな雰囲気となっています。この個室から眺める車窓の景色は、一味違って見えることでしょう。

3号車では、九州ならではの土産やドリンクの物販のほか軽食を味わえるビュッフェが17年ぶりに復活。4号車はマルチカーとして、車内での体験やイベントなどに活用されます。

画像: 4号車

4号車

さらに、列車内にはちょっとした遊び心も。

「787系を代表する一台が『つばめ』という往年の特急なのですが、実はこの『つばめ』をモチーフにしたオブジェが『36ぷらす3』の車内に隠されています。ご乗車された際には、ぜひ隠しつばめを探していただきたいですね」(堀さん)

画像: 36ぷらす3のもととなった787系「つばめ」

36ぷらす3のもととなった787系「つばめ」

事前に食事付きのプランを予約すると、沿線地域の有名店の料理を楽しめるのも魅力。鹿児島から宮崎を走る金曜日ルートなら鹿児島の食材をふんだんに使ったフレンチが食べられるなど、各ルートに合わせた地域の旬の恵みを使った和洋の献立となり、個室はお重、座席タイプでは弁当を味わえます。また、月曜日の長崎発のルートのみ、ディナーが用意されます。

週末旅行なら、宮崎空港駅から列車が出発する土曜日ルートがおすすめ。そのまま北上して九州観光を楽しめます。もちろん検温、手袋、マスク、消毒などのコロナ対策も徹底されているので、安心してご利用ください。

36ぷらす3

幻の豪華客車でワールドシェフのスイーツを味わえる「或る列車」

列車内の空間だけでなく、食事も豪華に楽しみたいという方におすすめなのが、JR九州が2015年から運行している「或る列車」です。
見た目からして印象的な列車は、明治39年(1906年)に当時の九州鉄道がアメリカのブリル社に発注した豪華列車「九州鉄道ブリル客車」をモデルにしており、そのクラシカルでラグジュアリーなデザインで人気を博しています。

「木を多用した車内の空間は、ゴージャスさとともにやさしさと温かみにあふれており、約3時間の乗車中、くつろいでお過ごしいただけると思います」と話してくれたのは、JR九州の営業部営業課(観光)篠原崇さん。篠原さんの言うように、内装や家具にはメープルやウォルナットなどの木材がふんだんに使われ、華やかながらも落ち着きのある空間となっています。

車両だけでも贅沢な気分が味わえますが、旅をさらに優雅なものにしてくれるのがスイーツを主体とした珍しいコース。手掛けているのは世界的な巨匠であり、「ワールド50ベストレストラン」に10年以上連続で選出されている、南青山「NARISAWA」の成澤由浩シェフです。

画像: 成澤由浩シェフ

成澤由浩シェフ

食材は、成澤シェフ自身が生産者のもとに足を運んで選び抜いた、九州の山海の幸が盛りだくさん。器は九州の職人たちが制作したオリジナルの作品が用意されます。コースは彩り豊かな小箱スタイルの料理とスープからはじまり、その後は旬のフルーツをたっぷり使ったスイーツが計4皿登場します。

画像: 幻の豪華客車でワールドシェフのスイーツを味わえる「或る列車」

ひと皿目は、カクテルグラスに盛り付けられたサプライズ感満点のスイーツ。次は大きなガラス皿に盛り付けられたスイーツとなり、車内のライトの演出とともに甘美な世界へいざないます。3皿目は陶器のプレートで提供されるメインスイーツ。ボリュームのある逸品ばかりで満足度も随一。そしてラストはひと口サイズのミニャルディーズ(お茶菓子)が提供され、お酒やお茶などとのペアリングとともに堪能できます。

4皿とはいえどれも重すぎずメリハリのある味わいで、女性はもちろん男性でも夢中になってしまうほどのおいしさ。旬の食材を堪能できるよう、毎月メニューが変わるのも「或る列車」の楽しみのひとつです。

「スイーツは大変好評で、私自身、次はどんなコースなのだろうと毎月わくわくしております。スイーツ以外にも、乗務員との会話も楽しみのひとつと好評をいただいており、現在は各種ウイルス対策を徹底して、安全を確保しながらおもてなしをしております」(篠原さん)
運行ルートは博多~ハウステンボス間に加え、2021年1月からは佐賀~長崎~佐世保の新しいルートが仲間入り。ここでは佐賀の日本酒3種を飲み比べできる企画を予定しているそうです。

また、篠原さんにおすすめの車窓を聞くと、長崎の早岐(はいき)駅から諫早(いさはや)駅までの大村線(佐賀~長崎~佐世保ルートのみ)だとか。真横が海という絶好のロケーションで、特に夕日の時間はキラキラと輝く大海原が感動的だと教えてくれました。

宮殿にいるかのようなゴージャスな空間で、美しい景色を眺めながら贅沢なスイーツのコースを堪能する……、友人と一緒に乗っても、自分一人で乗っても、思い出深い旅になることは間違いないでしょう。スイーツ好きの人は、特に注目の観光列車です。

或る列車

レストラン列車の先駆け。九州西海岸の夕日を堪能できる「おれんじ食堂」

画像: おれんじ食堂(肥薩おれんじ鉄道提供)

おれんじ食堂(肥薩おれんじ鉄道提供)

食が魅力の観光列車をもうひとつ。肥薩おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」はレストラン列車の先駆けとしても有名です。“九州西海岸を走る、動くレストラン”として2013年に運行を開始しましたが、当時は参考例がなかったため手探りの状態でゼロから作り上げたとか。

運行されているのは金土日と祝日。区間ごとに食事の内容が決まっており、今は、鹿児島県の出水駅から熊本県の新八代駅の区間でモーニング、新八代駅から鹿児島の川内(せんだい)駅までがランチ、川内駅から出水駅までがサンセット(秋冬ダイヤ)となっています。

提供される料理は地産地消と郷土のストーリー性が重視されていて、沿線の有名レストランが便ごとに担当。コーヒー豆だけは地元で生産されていなかったものの、それ以外の99%は沿線地域の食材が使われています。鹿児島ならサツマイモや黒豚、熊本ならトマトや阿蘇の赤牛など、特産品を随所に盛り込んだオリジナルメニューが人気です。

旬の素材を使うため、メニューは春夏秋冬に合わせて年に4回入れ替わります。例えば冬の野菜なら、桜島大根をはじめとした根菜類がふんだんに。また、地元の柑橘ジュースや酒蔵から直送した焼酎などが豊富にそろい、ここならではのフードペアリングを満喫できます。

秋冬の夜はディナーではなく「サンセット」という名前で提供となりますが、これには理由があります。夕方以降の時間は、夕日が最も美しく映えるプランとなるようこだわって組まれているのです。そのために、車内から見られる自慢の夕日をより楽しんでもらえるよう、今年度の運航ダイヤが設定されました。春夏は1日4便、秋冬は3便という、まさに夕日とともに食事を楽しむためのプランなのです。

画像3: 肥薩おれんじ鉄道提供

肥薩おれんじ鉄道提供

景色について教えてくれたのは「おれんじ食堂」で客室乗務員を務める前野さくらさん。九州西海岸沿いの内海では八代海のおだやかな海原が、外海では東シナ海の荒波が見どころだそうです。

「駅を挙げるなら牛ノ浜(うしのはま)駅ですね。ホームのすぐ先には海が広がっており、夕方には町と空全体がオレンジ色に染まり、非常にロマンティックです。また、秘境の駅と言われる薩摩高城(さつまたき)駅も見逃せません。こちらは昔、海水浴場だった場所です。降車して社員手作りの遊歩道を2~3分ほど歩いて高台にお客さまをご案内しているのですが、そこからの景色は美しさと開放感が抜群です」(前野さん)

走行中の景色のなかには「1メートル先が海」という場所も。波しぶきが車体に飛んでくるのではないかという瞬間があったり、さえぎるものがない水平線を横目に「まるで海の上を走っているのでは」という感覚に浸れるスポットがあったり。そんな非日常空間が、料理をよりおいしく感じさせてくれるのです。

画像: 上田浦付近の車窓。海の上を走っているかのように見える(肥薩おれんじ鉄道提供)

上田浦付近の車窓。海の上を走っているかのように見える(肥薩おれんじ鉄道提供)

今後は、職人が寿司を握って提供するプランを企画しているほか、伊勢エビやウニを使った贅沢な海鮮コースなどを計画中。もちろん、マスクや消毒のほか、換気にも万全の対策をしているので安心して旅を楽しめます。Go To トラベルキャンペーンを活用したお得なプランを販売している点にも注目です

おれんじ食堂

車両そのものだけでなく、それぞれが提案する旅の形も独特な九州の観光列車。まるごとお任せで楽しむだけで、押さえるべきところは外さずに、旅の思い出をより印象的なものにしてくれるでしょう。一味違った観光体験として、九州を初めて訪れる方にもリピーターにも、両方におすすめしたい旅のスタイルです。

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