なによりも寒い国というイメージとは真反対の、世話好きで温かい人々が魅力的で、何度行っても色褪せるどころか、どんどん好きになってしまいます。今回はそんなロシア・モスクワの魅力を厳選してご紹介いたします。みなさんにもラブリーなロシアを知ってもらいたいな。
文・写真:井岡美保 編集:佐々木鋼平(CINRA. inc,)
まず押さえておきたい、歴史ある巨大デパートの楽しみ方
グム百貨店
ロシアを訪れたことのない人でも、「赤の広場」は聞いたことがあるのではないでしょうか。モスクワの中心部、ロシア連邦の大統領府も入るクレムリン宮殿に面した73,000㎡もの大きな広場で、世界遺産にも登録されています。
政治的なニュース報道などで取り上げられることも多いので、イカついイメージを持っている方も多いかもしれませんが、じつは毎日のように世界中から大勢の観光客が訪れているスポット。
クレムリン宮殿のほかにも、国立歴史博物館やヴァスクレセンスキー門、カラフルな玉ねぎのような形状の屋根が印象的な聖ワシリイ大聖堂、19世紀の建築が美しいグム百貨店など、見どころがたくさん。モスクワに訪れたのなら、最初に訪れてほしい場所です。
そして、そのなかでも今回特にご紹介したいのがグム百貨店。共産主義時代の国営百貨店が民営化されたこのスポットは、3階建て、売り場面積35,000㎡ものスペースに、約141店のテナントが集結。天井のファサードまでの吹き抜けや多幸感のあるBGMのセレクトなど、「こんなデパートがあればいいのに」と、私が夢見るものすべてが詰まっています。
たとえば、1階の噴水広場を中心にした季節ごとのデコレーションは、モスクワ訪問時の楽しみのひとつ。
その横に広がる食料品売り場は、クラシカルな19世紀建築の雰囲気を残した内装が印象的で、お土産を選ぶためにぶらぶらするのにもぴったり。
ロシアチョコレートの代名詞ともいえる「アリョンカ」のコーナーもあり、チョコレートを量り売りで買うことができます。
3階のフードコートは、自分の好きなものを指さしで注文できるスタローヴァヤ(ロシア特有のビュッフェスタイルの大衆食堂)スタイル。ロシア語ができなくても気軽に本格的なロシア料理を楽しむことができます。
ローカルな市場で「美味しい」モスクワを体験
ダニロフスキー市場
モスクワには、共産主義時代につくられた大きなルイノク(市場)がいくつも残っており、この街で暮らす多くの人々が、野菜や果物、乳製品、ピクルスやお肉類などの食料品を購入しています。
そのなかでもおすすめなのが、ダニロフスキー市場。赤の広場からは地下鉄を乗り継ぎ30分近くかかりますが、歴史を感じる建築を現代風にリノベーションし、観光客もランチをしたり、食材のお土産を探したりと楽しめるスポットになっています。
フードコートでは、ロシア料理、ウクライナ料理をはじめ、メキシコ、韓国、ベトナムなど、各国の料理を楽しめます。
いつも行列のできているベトナム料理屋「Bo」のフォーは、びっくりする美味しさ。バターや生クリームなどがよく使われるロシア料理に疲れたときには、あっさりしたアジアの料理が胃に沁みます。
注文したお料理は2階のイートインスペースでゆっくり食べることができます。食べた後のお皿などは返却せず、そのままにしておいて大丈夫です。
芸術的なケーキを、ラグジュアリーな気分で
コンフェクショナリーカフェ・プーシキン
モスクワでは、カフェというとレストランのことも指します。「カフェ・プーシキン」は、重厚で伝統的なロシア料理をいただける超有名レストランですが、私が大好きなのは、カフェ・プーシキンの隣にある「コンフェクショナリーカフェ・プーシキン」。
こちらはケーキがメインのサロン・ド・テで、内装もケーキも美しく、ラグジュアリーな気分をたっぷり味わえます。
メニューには、ロシアの文豪アレクサンドル・プーシキン(1799〜1837年)をイメージした本の形のケーキのほか、マトリョーシカをイメージしたかわいいケーキも。ナイフでなかを開けるとケーキの断面に小さなマトリョーシカが現れるなど、ユニークさだけでなくとても美味しいです。
コンフェクショナリーカフェ・プーシキンの近くにあるトヴェルスカヤ大通りには、ロシアの伝統的な陶磁器「インペリアルポーセレン」や、オーガニックコスメブランド「NATURA SIBERICA(ナチュラシベリカ)」のお店もあり、散策するには楽しい地域です。休憩に美味しいケーキとお茶を楽しんでみて下さいね。
猫好きはマスト。動物が大好きなモスクワッ子に人気の猫サーカスとは?
ククラチョフ猫劇場
ロシアには有名なサーカスがたくさんあり、日本でも「ボリショイサーカス」が来日していますが、モスクワっ子が大好きなのは「猫と少しの犬」によるサーカス劇場です。
ククラチョフ猫劇場は「猫を愛するオーナーによる、猫が出演する、猫好きのため」のサーカス劇場。劇場の内装も猫づくしで、2階には世界の猫グッズの展示などもあります。
「猫がサーカス芸をするの!?」と驚く人も多いかもしれませんが、このサーカスの猫たちは無理なく、ピエロの足の間を歩いたり、カゴの上でじっとしていたりなど、数々の芸を披露。幕間には猫との撮影タイムもあり、猫好きには絶対に行ってほしい劇場です。
ヨーロッパとアジアのいいとこ取り。グルジア料理に舌鼓
カフェ・イルラリオン / アラグヴィ(グルジア料理)
モスクワは、地理的にヨーロッパとアジアの中間地点に位置するため、さまざまな食文化が混じり合っており、カザフスタン料理やアルメニア料理など、多様な食を気軽に楽しむことができます。ロシアの有名な料理、ボルシチもじつはウクライナ料理がルーツです。
そのなかでも私のお気に入りはグルジア料理(日本ではジョージアと表記)。
グルジアはヨーロッパと中東とアジアの境目にある、黒海に面した小国ですが、その立地からもわかるように、独特の洗練された食文化が発展しています。
モスクワには、グルジア料理のレストランがたくさんありますが、そのなかでも私のおすすめのレストランは2軒。
地下鉄ノヴォクズネツカヤ駅から徒歩3分のところにある「カフェ・イルラリオン」は、緑色の壁が印象的なカジュアルでお手頃な料理店。「ハチャプリ」や「ヒンカリ」といった代表的なグルジア料理を楽しむことができます。
「ハチャプリ」は、チーズがのっているパンのような食べ物。おすすめは生卵が乗っているもので、熱々チーズと卵を混ぜて食べます。「ハルチョー」という酸味の効いた牛肉のスープも絶品で、ここを訪れたときはいつもオーダーしてしまいます。
大きな小籠包のような見た目の「ヒンカリ」というメニューにも注目。ねじれた突起部分を手で持ち、皮を少しかじって、なかのスープをすすってから食べるのもまるで小籠包。違いはねじれている突起部分を食べずに残すことです。
そしてもう一軒のおすすめは、地下鉄アホトニ・リャト駅から徒歩7分のところにある「アラグヴィ」。ここはソビエト時代の秘密警察・KGBのメンバーも御用達だった(!)といわれるレストラン。
もともと17世紀に宮殿だった建物が、19世紀にホテルとして改築され、さらに20世紀にレストランとして改装された歴史を持つこのお店。
17世紀当時の壁が一部残っていたり、もともと薬局があった地下のエリアがバーになっていたり、室内それぞれが素敵にリノベーションされています。ヒンカリはもちろん、ロシア風ロールキャベツ、デザートもおすすめです。
ちなみにモスクワの地下鉄駅構内はものすごくおしゃれ。駅ごとに個性的でとても美しいのですが、特にカフェ・イルラリオンの最寄り、ノヴォクズネツカヤ駅にはドーム型の巨大トンネルに内装彫刻、天井画など、Instagram映えするスポットがたくさんあり、見応え抜群です。
まだまだ伝え足りないロシアの魅力
ロシア語ができない私をいつも温かく迎え入れてくれるロシアの人々。フランスやイタリア、スイスなど、他のヨーロッパの国に比べて観光のイメージが薄いかもしれませんが、じつは人々がとてもフレンドリーで安全な国です。
以前もマーケットのなかのお店で財布を忘れて他の場所に行った私を30分も探して届けてくれたり、国際郵便を送れる郵便局を20件も電話して探し当ててくれたり、いつも彼らの優しさにホッとします。
これまでハードルが高かったビザの取得も簡単になり、日本からの直行便も増えました。
今回はご紹介できなかった数々の美術館も見どころ満載ですし、梅雨がなくカラッとして気持ちのいい夏のモスクワ川クルーズも最高です。ぜひ次の旅先にモスクワを検討してみてはいかがでしょうか?
井岡美保
奈良生まれ。夫と奈良でカフェ「カナカナ」「ボリクコーヒー」を営む。旅が好きで、年数回渡航し、そこで見つけたかわいい雑貨やお店などを紹介している。著書に『かわいいロシアのAtoZ』
『ロシアと雑貨〜ラブリーをさがす55の旅〜』『カナカナのかわいい東欧に出会う旅』『はじめまして奈良』などがある。
https://www.instagram.com/iokamiho/?hl=ja
https://www.instagram.com/miho_ioka/?hl=ja
http://kanakana.info/bolik-coffee
http://kanakana.info/
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