JALふるさと応援隊〔島根県〕 森
皆さま、こんにちは。
JALふるさと応援隊の森です。
今回は、伝統的な技術が今なお息づく島根県雲南市・松江市をご紹介いたします。
世界一とも言われる高品質の玉鋼を作り出してきた「たたら製鉄」
まず訪れたのは、島根県雲南市の山中にある「菅谷高殿」。1715年からその火が消える大正10年まで170年間の長きに渡って製鉄が行なわれていました。最盛期は日本の鉄需要の8割を供給し、現代の技術を持ってしても再現不可能な唯一無二の「和鋼」を生み出していました。たたら製鉄とは製鉄の方法で、そのたたら製鉄が行われていた場所が「高殿」であり、菅谷高殿は日本各地にあった高殿の中で唯一、当時の姿のまま保存されている国の重要有形民族文化財です。有名なアニメ映画に出てくる「たたらば」のモデルになったと言われています。
ガイドを担当して下さった朝日さんの案内のもと一歩中に足を踏み入れた瞬間、高殿の壮大さ、空気感に圧倒されました。約300年前に建てられ、その後170年間、何千何万もの人がこの場所で製鉄をしていたと思うと歴史的、文化遺産の偉大さをあらためて実感しました。何故、170年という長い間たたら製鉄がこの地で栄えたのか。朝日さんによると、鉄の原料となる砂鉄、炭を作るための木材や炉を築く良質な土が豊富に採れる山があり、たたら操業により砂鉄が溶けて出来た「鉧(けら)」を冷やすために必要な川が近く、高殿内部の温度を下げる役目の谷風の通り道であったことが、製鉄に最適な立地だったからとのこと。
また、高殿に負けず劣らず目を引く高殿の横に立つ桂の巨木は、たたらの神様「金屋子神」が降り立った御神木とされており、3月下旬から4月末の1カ月間で劇的にその姿を変えます。3月下旬、桜の開花と共に赤く芽吹き、その期間はたった3日ほど。その後は若葉の成長と共に、輝く黄金色から鮮やかな緑へと姿を変えていきます。その時期を狙っておとずれてみるのもおすすめです。
さて、場所を少し移動し「和鋼たたら体験交流施設」にやってきました。ここは、かつて菅谷高殿を経営していた田部家の第25代当主が、当時のたたら製鉄を約100年ぶりに復活させた施設であり、世界で唯一たたら製鉄の炎が燃え続けている場所でもあります。
オートマチック化されている部分こそあるものの、炉の内側も当時と同じように土で作り、原材料や製鉄方法も昔と全く同じとのこと。ちょうど11月に製鉄した鉧(けら)を見せていただくことが出来ました。
写真の鉧は約143kgあり、日本刀などに使われる玉鋼はこの鉧から約10%しか採れないそうです。1年に2度行われる田部家によるたたら製鉄で作られる貴重な玉鋼は「真火鐡」と名付けられ、多彩な分野の職人やデザイナーの手よって、現代の生活文化と融合し新たな製品として世に送り出されています。
【お問い合わせ先】公益財団法人 鉄の歴史村地域振興事業団
所在地 | : | 〒690-2801 島根県雲南市吉田町吉田892番地1 |
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Tel | : | 0254-74-03111 |
URL | : | http://www.tetsunorekishimura.or.jp/ |
その貴重な玉鋼を使用した製品を購入できるお店が、白壁が美しい田部家土蔵群の目の前にお店を構える「鐵泉堂」。玉鋼で出来たゴルフクラブ、包丁や日本酒のお猪口など、店主の福島さんにご説明いただきました。
店内では約100年ぶりに復活した田部家のたたら製鉄への道のりや想いがまとめられたビデオを鑑賞できる他、田部家のたたら製鉄で復活後初めて造られた鉧(けら)も見ることができます。福島さんは鉧について、「鉧(けら)は、かねへんに母と書きます。たたら製鉄は玉鋼にじっくり愛情を込めて育てる感覚と似ている。」と仰っていました。菅谷高殿でたたら製鉄の歴史を体感した後は、ぜひこの鐵泉堂に立ち寄って職人の想いがこもった本物の玉鋼に触れてみてください。
【お問い合わせ先】奥出雲前綿屋 鐵泉堂
住所 | : | 〒690-2801 島根県雲南市吉田町吉田2557-1 |
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Tel | : | 0854-74-0008 |
URL | : | https://tanabetataranosato.com/tatara/tessen-tatara/shop/ |
また、鐵泉堂から静かでノスタルジックな「吉田の街並み」を5分ほど歩いた場所にある「鉄の歴史博物館」では、菅谷高殿のたたら製鉄をより詳しく説明した図形や当時実際に使われていた道具などの展示があり、たたら製鉄をより深く知ることができます。
鉄の歴史博物館の1号館は、「タタラ製鉄とその技法」をテーマにたたら製鉄の歴史、製鉄技法、たたら用具、たたら師の生活に関する資料が展示しています。また、展示2号館では、「鉄山経営と鍛冶集団」をテーマとして、萱葺の民家を移築し、鉄師による鉄山経営の実態と鋼造りや鍛冶の技法、和鉄生産の流れについて展示されています。
松江名物、身体も心もぽっかぽか
「むし寿司」の元祖、浪花寿司へ
島根県雲南市でたたら製鉄の歴史を感じた後は、工芸が盛んな水の都松江市に移動してまいりました。松江といえば蒸し寿司。その蒸し寿司の元祖、創業明治20年の老舗寿司屋「浪花寿司」に伺いました。蓋を開けるとボワッと立ち昇る湯気と共に酢飯や椎茸、鰻や海老などの良い香りが立ち込めます。酢飯は想像以上にあつあつで小雨で冷えた身体も直ぐにぽかぽかに。蒸し寿司を考案した初代店主の奥さまの「寒い冬でもお寿司を楽しんで欲しい」という想いが伝わる、見た目にも華やかな蒸し寿司で心も身体も温まりました。
【お問い合わせ先】浪花寿司
住所 | : | 〒690-0844 島根県松江市島根県松江市東茶町27 |
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Tel | : | 0852-21-4540 |
「醤油は生きている」を五感で感じられる、
森山醤油店
身体も暖まり、次に伺ったのは1875年創業の「森山醤油店」。伝統的醤油文化の継承と発展、展開を目指すことを理念としている森山醤油店社長、森山さんが蔵の中を案内してくださいました。現代のほとんどのお醤油はステンレス製のタンクの中で短期間で発酵が進むよう人工的に温度管理され、数週間から数カ月で出荷されています。一方、森山醤油店で造られているお醤油は、100年以上使われてきた杉の木桶の中で最低でも2年熟成されます。その木桶が並ぶ蔵を見学させていただきました。
もろみの呼吸が聞こえてきそうなほど、しん…と静まり返ったその蔵は、今まで体感したことのないような神秘的な空間でした。夏場になると本当に発酵しているもろみの呼吸音が聞こえてくるそう。ここにある木桶の中にはそれぞれ1年〜7年熟成されたもろみが入っており、発酵が1番進む夏季には、熟練の職人が舌でもろみの出来を確認する「もろみ調べ」が行われ、出荷するお醤油のブレンド比率を決めているとのことです。
【お問い合わせ先】合資会社 森山勇助商店(カネモリ醤油)
住所 | : | 〒690-0881 島根県松江市石橋町393 |
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メールアドレス | : | info@kioke.com |
現代の生活の中にある“用の美”を追求する民藝 袖師窯
明治10年開窯から約140年の歴史を持つ「袖師窯」。5代目の尾野さんにお話を伺いました。
地元の陶土・原料を使用し、藁木の灰や石などから作る釉薬を使い分けた現代の日々の暮らしに馴染む穏やかな色合いが袖師窯の特徴。昔は和の雰囲気に馴染むような深い色合いが主流でしたが、現在のスタイルに変わったのは、民藝運動に触れ“用の美”を追及した3代目の尾野敏郎氏の代からとのこと。民藝とは、美術品や観賞のために造られた工藝品ではなく、名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具のことです。民藝には美術品にも負けない美しさがあり、美は生活の中にこそあるという考えであり、“用の美”を追求した3代目の想いと伝統を大切に受け継ぎ、新たな“用の美”がこの袖師窯で生まれ続けています。
【お問い合わせ先】袖師窯
住所 | : | 〒690-0049 松江市袖師町3-21 |
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Tel | : | 0852-21-3974 |
八雲塗山本漆器店
明治20年創業の「八雲塗山本漆器店」で、八雲塗の絵付体験をさせていただきました。着色された漆を細い筆に取り、職人さんの見本を見ながらいざ絵付。力加減が難しかったですが、黒の背景に鮮やかな色が乗る感覚が楽しく、思わず八雲塗の世界へ弟子入りしたくなりました。笑
時間の経過と共に模様が色鮮やかに発色していくのが、八雲塗り最大の特徴。店内に飾られていた100年前に作製された漆器も、年月を感じさせないほど色鮮やかでした。その秘密は、模様の上に塗り重ねた天然透漆にあるとのこと。最初は半透明の飴色の漆が、光の作用で透明感を増していき、下に描かれている模様を鮮やかに浮かび上がらせるそうです。
元来、八雲塗は花鳥風月をテーマに模様を描いた漆器が主流でしたが、近代の「無地の漆器が欲しい」というニーズにより、八雲塗が始まって以来初めて、天然透漆の下に金箔を使った八雲白檀子琥珀を開発し、現代の日常生活でも長年使える漆器が完成したそうです。
【お問い合わせ先】株式会社山本漆器(八雲塗やま本)
住所 | : | 〒690-0843 島根県松江市末次本町45 |
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Tel | : | 0852-23-2525 |
URL | : | https://www.yakumonuri.jp/ |
安倍榮四郎記念館
「和紙を千年先へ渡す」。その想いを今も育んでいる「安倍榮四郎記念館」で、紙すき体験をさせていただきました。この記念館には安倍氏が情熱を傾けた紙の研究資料や、数々の民藝のコレクションが展示されています。
安倍氏は家業であった紙すきを自らの探究心と努力で極め、民藝運動に感化されたのち、和紙の持ち味を殺さずに染めた「和染紙」、植物の繊維を活かしてすき分けた「生漉紙」などの、出雲民藝紙を誕生させました。数ある和紙の産地と一番異なる点は、民藝運動に参加しその思想である“用の美”を追求している点だと、館長の安倍さんがお話してくださいました。この歴史ある紙すきを体験させていただきましたが、一つ一つの作業に繊細な調整が必要で、四苦八苦しながらすき上げた和紙には不思議と愛着が湧きました。
【お問い合わせ先】公益財団法人安部榮四郎記念
住所 | : | 〒690-2102 島根県松江市八雲町東岩坂1754 |
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Tel | : | 0852-54-1745 |
URL | : | https://izumomingeishi.com/abeeishirou/ |
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)記念館
“耳無し芳一”や“雪女”など誰でも知っているこれらの話を、英文著書を通じて世界に発信した小泉八雲の生涯や思想、作品について学ぶことができる「小泉八雲記念館」にやってまいりました。
生まれはギリシャ、幼少期をアイルランド、青年期をイギリスとフランスで過ごし、単身アメリカに移民後はジャーナリストとして活躍した小泉八雲。英訳された「古事記」に影響を受け1890年に来日した後、古事記の神話の舞台である島根県松江に移り住みました。複雑な生い立ちから得た独自の異文化理解の視点と豊かで鋭い感性により、日本人よりも日本の本質を五感で捉えており、失われていく日本の古き良き心を明確に書き記し世界へと広めていった小泉八雲を知るにつれ、日本人以上の日本愛や果てしない探求心にただただ圧倒されました。
【お問い合わせ先】小泉八雲記念館
住所 | : | 〒690-0872 島根県松江市奥谷町322 |
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Tel | : | 0852-21-2147 |
URL | : | https://www.hearn-museum-matsue.jp/ |
最後に
当時の技法を再現し造られた「玉鋼」、食べに来る人を想い生まれた「蒸し寿司」、先代の“用の美”への想いと伝統を大切に受け継ぐ「袖師窯」など、作り手の想いを体感できる、雲南市・松江市へぜひ一度いらしてください。
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