「炭鉱の町」が「彫刻のまち」になった背景
宇部市は石炭産業の振興で築かれた都市ですが、後に戦災復興と公害問題という課題を抱えます。その克服を目指し、心の豊かさも取り戻したいと願う市民運動が湧き上がり、1961年に日本初の大規模な野外彫刻展が開催されした。それが現在の「UBEビエンナーレ」へとつながっていったのです。
これまでになかった「まちづくりにアートを取り入れる」という先駆的な取り組みのもと、宇部市が「彫刻のまち」として歩みはじめてから約60年。現在は市内に200点超の野外彫刻が設置され、その国内屈指のコレクションはますます充実しています。
2年に一度の頻度で開催されている「UBEビエンナーレ」は、今年で通算30回目を迎えました。今回は世界42カ国318点の応募があり、その中から選ばれた、イタリア、フィリピン、台湾、日本の4カ国15名のアーティストによる実物作品が展示されています。会期中に開催されている入選作品プラン展やライトアップなどの多彩な催しとあわせて、その様子をお伝えしていきましょう。
歴代のUBEビエンナーレ作品は、宇部のシンボル的存在に
「UBEビエンナーレ」が開催されるのは、約189ヘクタールの面積を誇る「ときわ公園」内にある「UBEビエンナーレ彫刻の丘」です。公園の正面入口前には、第17回現代日本彫刻展(1997年)に大賞を受賞した「重力空間−赤」(内田晴之作)が設置されており、磁力の支えを受けながら立つその堂々とした姿で来場者を歓迎しています。また、入場してから「UBEビエンナーレ彫刻の丘」までの道中にも数々の彫刻作品に出会うことができ、まるでビエンナーレへのプロローグを楽しんでいるかのような感覚を味わえます。
常盤湖沿いの歩道を進むと現れるのが、羽の部分にチタンを使用した作品「風になるとき」。チタンの軽さと風を利用し、動きのある彫刻に仕上げた一品です。全体の形状はもちろん、土台部分のサビた色合いと光を受けたチタンの羽が放つさまざまな色とのコントラストも見所です。
「彫刻の丘」の北側に位置する「底流」も印象深い作品でした。表面には現れない底の方の流れを表現したこの作品は、宇部市を流れる真締川に実際に架かっていた橋脚の一部を利用して作られています。上部には剥き出しになった鉄筋が、流水下にあった部分には貝殻が残っており、当時の川の流れや橋が走り抜けてきた時代や歴史が目に浮かぶようです。
そして、「彫刻の丘」で一際目を引くのが、多くの市民に親しまれ、現在ではシンボル的な存在になっている「蟻の城」です。ときわ公園で彫刻展が始まった頃、「宇部をテーマとした彫刻」として制作されたもので、当時は日本最大の抽象野外彫刻として注目されました。蟻の巣を地上に引き上げたイメージで、小さな蟻が力をあわせてみんなで大きなものを作り上げていく様子が、宇部市の過去から未来へのイメージと重ね合わされています。材料は宇部市内の工場から出た廃材が使用されており、近づいてよく見るとその一つ一つが巧みに組み合わされていることに驚きます。
特に印象的だった作品を3つほどご紹介しましたが、ときわ公園内には他にも数多くの歴代作品が設置されており、新作も含めるとその数は100を超えます。一つ一つをじっくり鑑賞したい場合は時間に余裕を持って来場することをおすすめします。
個性あふれる第28回UBEビエンナーレの作品たち
今年のビエンナーレで審査を通過した作品も、どれも個性的です。
「彫刻の丘」に到着すると、ときわミュージアムのすぐ隣に設置された巨大な卵が目に入ります。大賞を受賞した「はじまりのはじまり」です。高さ3.5メートル、重さ4トンの卵型をしたこの作品は、表面がステンレスのプレートと苔で覆われており、動植物に共通する「奇跡の誕生」を表現しています。こちらの作品の特徴は、ある意味で未完成の状態であるということ。苔に飛来した植物が種を落とし、その種から生まれた新しい生命の成長とともに作品自体の表情も変化することが計算された、成長し続ける作品なのです。
さらに進むと現れるのが、フィリピン生まれの作家が手がけた、「DO NOT POP!(弾けるな!)」と題された作品。55個のガラス玉をシャボン玉に見立て、幼い頃に抱いた「シャボン玉よ、消えないで…」という無邪気な願いを実現することで、過ぎ去った子ども時代への郷愁をかき立てています。
その他、止まることのない大気の循環を表現した「天地を巡るもの/大気循環(Trinity)」や、36脚の回転する椅子を並べた「みんなで微笑む(虹色の椅子)」など、見ごたえのある実物作品がいくつも設置されています。野外彫刻はそのダイナミックなスケールはもちろんのこと、実際に触れることにより作品を肌で感じられることも魅力です(一部触れられない作品もあります)。取材当日も散歩がてらに作品を楽しむ年配のご夫婦や、小さな子ども連れの家族の姿が多く見られました。
会期中に楽しみたい限定イベント
「UBEビエンナーレ」の会期中は、ときわ公園内の「ときわミュージアム UBEビエンナーレライブラリー」で入選作品プラン展が行われています。展示されているのは実物制作指定作品プランの15点を含む計40点の入選作品プラン(模型)です。ミニチュアながらどれも精巧かつ個性的なので、「すべての実物作品が見てみたい!」と思わずにはいられません。また、会場内のモニターには設置する時の様子を撮影した動画が流れ、作家たちが作品を完成させていく工程を見ることができます。
無料休憩所では塗り絵コーナーやカプセルトイが楽しめ、実物作品に関する資料も自由に閲覧することができます。同じ建物内にあるミュージアムショップでは、作品を収めたポストカードやマグネットシート、ショッピングバッグなど限定グッズも販売されています。
ときわ公園内は、グルメスポットも充実
Bar Miel(バルミエール)ときわ遊園店
ときわ遊園地の無料休憩所内にあるカフェテリア「Bar Miel(バルミエール)ときわ遊園店」のおすすめは8種類がそろう手作りイタリアン・ジェラートです。市内にある西本牧場の低温殺菌牛乳を使用したミルクや地元「小野茶」の煎茶をブレンドした抹茶など、宇部市ならではの味が楽しめます。
Bar Miel ときわ遊園店(バルミエール トキワユウエンテン) | ||
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住所 | : | 宇部市大字西岐波325 |
電話 | : | 0836-51-1212 |
営業 | : | 10:00~17:00(冬期間は~16:00) |
定休日 | : | 火曜 |
web | : | https://www.tokiwapark.jp/shop/barmiel_yuen2/ |
Hawaiian Resort Cafe Leola(ハワイアンカフェレオラ)
「Hawaiian Resort Cafe Leola(ハワイアンカフェレオラ)」の人気メニューは、スーパーフード「バオバブ」の実のパウダーを生地に練りこんだ「ヘーゼルナッツのハワイアンパンケーキ」(800円)と、6時間以上かけて仕込む自家製グレービーソースと手ごねハンバーグの相性が抜群の「ふわふわハンバーグのロコモコ」(1200円)です。常盤湖を眺めながらゆったりとした時間が過ごせるロケーションも魅力です。
Hawaiian Resort Cafe Leola(ハワイアン リゾート カフェ レオラ) | ||
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住所 | : | 宇部市沖宇部254ときわ湖水ホール内 |
電話 | : | 0836-51-7120 |
営業 | : | 10:00~18:00 |
定休日 | : | 水曜 |
web | : | http://leola.jp/ |
「UBEビエンナーレ」は夜もいい
11月4日までの18~22時は「彫刻の丘」に設置された「第28回UBEビエンナーレ」の実物作品がライトアップされます。どの作品も昼間に見た印象とはガラリと変わり、全く異なる世界観を醸し出しています。
短いステンレススチールを一本一本つなぎ、網目状に完成させた「Plantronica Ube」は、昼間は空の青と芝生の緑とのコントラストの美しさが、夜間は暗闇に浮かび上がる幻想的な姿が楽しめます。
漁師たちが星を捉えた瞬間を作品にした「STAR FISHERMAN」や、空にぷかりと浮かんでいるように見える「雲の上にあるもの」が見せる夜の表情も圧巻です。
11月2日17時半からは作家と一緒に夜の彫刻を鑑賞する「夜の彫刻☆鑑賞ツアー」が行われます。作品に込められた想いや制作秘話が聞けるチャンスをお見逃しなく。
さらに「UBEビエンナーレ」を楽しみたいという方は、平日の10~16時の間、会場内に常駐しているふるさとコンパニオンによる彫刻ガイドを利用するのもおすすめです。2年に一度の「UBEビエンナーレ」、せっかく足を運ぶからには思う存分堪能してください。
「日常に彫刻があるのが当たり前」、それが宇部市
ビエンナーレの会場を離れ、次は市内の彫刻をめぐります。宇部市の各所に彫刻作品は点在していますが、一度の旅でできるだけ多くの作品を楽しむには、やはり宇部市が推奨するモデルコースがおすすめです。今回は、宇部新川駅前から始まるシンボルロード(平和通り)と、真締川を越えて続く常盤通りに設置された彫刻を鑑賞しました。
シンボルロードには、第15回現代日本彫刻展で毎日新聞社賞を受賞した「ノアの家族」や歩道の真ん中にドスンと設置された「しばられたピラミッド」など13点の彫刻が並んでいます。どの作品も人や車が行き交う街並みに溶け込み、ごく自然に存在しているのが印象的です。一つ残らず鑑賞するなら、事前に下調べしておくか、UBEビエンナーレ事務局が配布している「うべ市街地彫刻ウォーキングマップ」の活用をおすすめします。
シンボルロードの最終地点に差し掛かる辺りに設置されている「SEEDS増殖」も人気が高い作品です。キラキラと輝くシルバーのボディは周りの景色だけでなく、近づいて眺める人間すらも取り込んで作品の一部にしてしまいます。それとは対照的に落ち着いた雰囲気を漂わせているのが宇部市役所前に設置された「宇部産業祈念像」です。こちらは戦後復興のシンボルとして設置され、60年以上もの間、市民を勇気づける存在として愛され続けています。
真締川に架かる新川大橋を渡ると常盤通りが始まります。こちらは比較的新しい作品が多くそろい、ユニークな造形に思わず引きつけられてしまいます。中でも、くねくねと天に伸びる背の高い彫刻作品「The Man」や、中央に驚きの表情をしたマスクが浮き彫りされている「アルウィン・ニコライの陽–〈眩驚〉」は写真に収めたくなるほどインパクト大の作品です。
シンボルロード、常盤通り、そして真締川周辺に設置された彫刻作品はなんと70点近くにもなります。また、季節や天候、時間、見る角度によって受ける印象が全く異なりますので、何度訪れても楽しめるのが魅力です。街全体がミュージアムになっている「彫刻のまち宇部」は、一度の来訪では味わい切れない、芸術に満ちあふれた街でした。
彫刻めぐりの合間に立ち寄りたい宇部のグルメスポット
シンボルロード、常盤通りには日頃から市民に愛されるグルメスポットが満載。ぜひ立ち寄ってほしいおすすめの店を紹介します。
BENCH(ベンチ)
シンボルロードのスタート付近にある「BENCH」。「体に優しいパン」をコンセプトにしたパン屋で、2階にはイートインスペースもあります。
BENCH(ベンチ) | ||
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住所 | : | 宇部市中央町1-4-15 |
電話 | : | 0836-39-8378 |
営業 | : | 10:00〜17:00 |
定休日 | : | 月曜、日曜、祝日 |
web | : | https://spibe.jp/bench_ube/ |
CAFE126(カフェ イチニーロク)
カフェラテやカプチーノなどエスプレッソ系ドリンクと厳選したナチュラルワインが人気の「CAFE126」。
素材本来のおいしさを重視するため、添加物や着色料、保存料はできるだけ使用しないことにこだわっています。キャラメルソースやシロップも無添加で、自家製できるものはすべて作っているというから驚きです。
CAFE126(カフェイチニーロク) | ||
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住所 | : | 宇部市中央町1-1-6(ANAクラウンプラザホテル宇部向かい) |
電話 | : | 0836-39-8979 |
営業 | : | 11:30~25:00 |
定休日 | : | 不定休(ホームページ、Instagram、店頭のブラックボードでご確認いただけます) |
web | : | https://cafe126.jimdo.com/ |
ごはん充実 カフェテリア トレボル
第26回UBEビエンナーレ彫刻家の志賀政夫さんの作品「ubeのそらいろ」からインスピレーションを得た、あおぞらテラスがある「ごはん充実 カフェテリア トレボル」。
おすすめの「トレボルおまかせランチ ※ごはん小サイズ」(890円)は、旬の食材を取り入れた魚のカルパッチョやサラダ、お肉などがワンプレートでいただけます。
デザートは「フロート」(580円)が人気メニューで、あおぞらテラスの青い壁の前で写真撮影をする人が多いそう。思い出の一枚に撮影してきました。
ごはん充実カフェテリア トレボル Trébol | ||
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住所 | : | 宇部市中央町2-6-5 |
電話 | : | 080-2893-6833 |
営業 | : | 11:00~17:00 |
定休日 | : | 毎月第3、第4木曜日 ※臨時休業あり |
web | : | https://trebol.shopinfo.jp/ |
2年後の「UBEビエンナーレ」が楽しみに
今回の「UBEビエンナーレ」で展示された彫刻作品の中には、そのまま宇部市に残るものもあれば、国内外に移設されるものもあります。さらに今後も、新しい作品が仲間入りするでしょう。つまり、どの作品も確実に間近で鑑賞し、触れることができるのは、会期中のみなのです。そう考えると、2年ごとの作品との出会いがとても貴重なものに感じられ、気づけばもう2年後の「UBEビエンナーレ」が楽しみになりました。
みなさんもぜひ、「彫刻のまち宇部」でアートとの一期一会を楽しんでください。
第28回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展) | ||
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開催期間 | : | 2019年9月29日(日)~11月24日(日) |
会場 | : | UBEビエンナーレ彫刻の丘(山口県宇部市ときわ公園内) |
web | : | https://ubebiennale.com |
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