標高2,238mの山頂に鎮座するのは1.8メートルの岩。その岩に開いた大きな穴は、仏教徒には仏陀の、ヒンドゥー教徒にはシヴァ神の、イスラーム教徒にはアダムの、キリスト教徒には聖トーマスの足跡と信仰されています。宗教や国籍を超え、あらゆる人々を引き寄せるメッカ。登頂から下山まで、そのおすすめルートと楽しみ方をご紹介します。
取材協力・写真提供:スリランカ料理店カラピンチャ
現地人はサンダルで。3時間でたどり着く聖山への登頂ルート
スリー・パーダのふもとの町への道筋
スリー・パーダへの頂上へは、山の北に位置する街ナラタニヤ側から登るルートと、南に位置する街ラトゥナプラ側から登るルートがあります。前者がポピュラーで、勾配こそきついものの、頂上までの所用時間は3時間程度。後者は、勾配、距離ともにハードな道のりで、登山に慣れた足でも登頂までに6時間半ほどの時間を要します。
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北ルートのナラタニヤからのぞむスリー・パーダ
今回は北ルート、ナラタニヤ側から上るルートをご紹介します。スリランカの玄関口、バンダーラナーヤカ国際空港から最寄りハットン駅までは電車やバスを乗り継いで向かうことになります。おすすめはキャンディ駅から茶畑の間を通り抜けて走る鉄道のコース。車両に乗って広大な自然に目を奪われていると、やがてハットン駅です。そこからさらに小さなバスでナラタニヤへと向かいます。
日の出を拝むには深夜の時間帯に山に登らなくてはなりません。登山時期によっても多少前後しますが、日の出の時間は午前6時ごろ。少し時間に余裕を持ってスリー・パーダのふもとを2時頃に出発するのがベスト。なので、あらかじめ登山ルート付近に宿を予約しておきましょう。
月明かりに照らされる登山道。幻想的な真夜中のスリー・パーダを歩く
登頂ルート
スリー・パーダは老若男女色んな人がお参りする聖山です。実際、お年寄り、子どもが歌いながら、一生懸命登っています。真夜中とはいえ、山頂までの道には灯りがあるので安心して歩くことができます。また、登山におすすめなのは満月の夜。月の光が一体を照らし出し、幻想的なムードを味わうことができます。照明器具がいらないのではないかというほどに、本当に明るくなるのです。
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登山道の入り口に待ち構える門
足下はほとんど階段になっており登りやすく、サンダルで登っている現地の人の姿を見かけるほど。とはいえ標高2,000mを超える山道なので、しっかりと歩きやすい靴を準備して登山にのぞみましょう。
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ほぼ全道が階段で整備されている。その数なんと7,364段!
夜間の登山に関して、注意したいのは「寒さ」です。山のふもとですら肌寒いのですが、それでも登山中は汗をかきます。高度が上がる頂上付近では、気温はさらに下がるので、登山中にかいた汗が体を冷やします。少なくとも、携帯しやすい防寒着、着替え用のTシャツ、汗拭きタオルは用意したいところ。お持ちでない場合は、ふもとのカデー(売店)でも売ってます。
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ふもとにあるカデー(売店)。個性的なデザインの衣服がにぎやか
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道中には小さなお店がいくつも立ち並んでいる
登山道中の売店には、スリランカ料理のカダラ(茹でたひよこ豆)、バナナ、ボトルの水、ジュースなど、簡易に栄養補給ができる食べ物、飲み物などはある程度揃っています。歩いていると重たい荷物を頭の上で乗せてガシガシと山道を登っていく運び屋さんを見かけることも。土日や満月の日には人が多すぎて渋滞することもあるので、注意して歩きましょう。平日であれば比較的、スムーズに登ってくことができます。
再訪する巡礼者が後をたたない、パワースポットから眺める絶景
スリー・パーダ山頂
頂上が近づいてくると、ご来光を拝みにきた参拝者で賑わいます。空が明るくなりはじめ、澄んだ空気が体を包みます。さらに歩みを進め、そしていよいよ山頂です。
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大きな足跡がまつられている山頂の寺院。建物内は撮影禁止
山頂にあるのは、大きな足跡として信仰される岩にあいた穴。スリー・パーダとは、サンスクリット語で「聖なる足跡」という意味であり、この足跡こそが人々の信仰を集めスリー・パーダを聖山たらしめているものなのです。宗派によってそれぞれの言い伝えがありますが、たしかなのは、この山とこの穴は人々を惹きつけるパワーがあるということ。
アダムス・ピークとその周辺地域は、2010年に「スリランカの中央高地」として世界遺産に指定され、以前にも増して訪れる人々が増えました。日の出がよく見えるスポットを抑えようと、早くから登山を開始し、場所取りをしている人も見かけます。山頂はかなり狭いスペースに巡礼者たちが集うため、身動きが取りづらくなるので注意が必要です。そして、いよいよご来光の瞬間です。
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スリー・パーダからのぞむ日の出
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この瞬間を待ちわびた人々から歓声が上がる
祈りの言葉を口にする人や、日の出に向かって手を合わせる人々。宗教を超え、人々が太陽向かい合うこの瞬間は、ここが観光地ではなく「聖地」であることをあらためて感じさせます。巡礼者はもちろん、この地を再訪するという旅行者が多いというのも納得です。
美しい山々と売店が楽しめる下山ルート
下山ルート

寺院のそばにある鐘。列をなし、巡礼者が鐘をついています
そして下山。日の出を拝んだあとには、あたりが完全に明るくなり、早朝のスリー・パーダを味わうことができます。下山の際に注意したいのは、山頂のお寺には出口が2つあること。登りルートと同じく、ハットン方面へは3時間程度で下山することができますが、ラトゥナプラ方面への下山ルートはかなり距離が長く6時間くらいかかります。一旦ルートを間違えると、別ルートに戻るためにはふたたび頂上を目指すしかないので、下山の際には寺院の出口を間違えないように気をつけましょう。
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「ハタン・パーラ(ハットン道)」と書かれている。ナラタニヤへ降りていく出口
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「ラトゥナプラ・パーラ(ラトゥナプラ道)」と書かれている。ナラタニヤとは反対方面のラトゥナプラに降りていく出口
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下山ルートは美しい山々が眼前に広がる
夜中の登りとは一転、強い朝日を受けての下りルートはとても清々しい雰囲気に。下山ルートにはスリランカのアーユルヴェーダ製品の会社「シッダーレーパ」のブースがあり、フットマッサージやヘッドマッサージを体験することもできます。登山でこわばった筋肉をほぐすのに利用してみてはいかがでしょうか? その他にも、早朝からさまざまな売店が店を開けています。
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下山ルートに数多くあるドドルというお菓子の店。しっかりとした食感で甘みが強く、スリランカの羊羹みたいなもの
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下山後に振り返って眺めるスリー・パーダ
これまで歩いた道を振り返ってのぞむスリー・パーダは格別です。スリランカには、このほかにも多くの聖地が点在しています。高さ200メートルの岩山「シーギリヤ・ロック」や、仏教文化の遺跡群が集中している「アヌラーダプラ」「キャンディ」などの地域もスリランカ中部にあるので、スリー・パーダとともに回るのもおすすめです。
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