愛媛県の県庁所在地、松山から特急電車で30分弱。木蝋生産で栄えた山あいの町・内子は、今もその文化的な景観を残す人気の観光地です。大きな商家が立ち並ぶ街道沿いは、歴史感じる白壁の連続。町並み散歩を楽しみます。
画像: 愛媛・内子で自撮りっぷ!文化の華咲くうつくしい里山を巡る

西村 愛

2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

100余年の歴史を持つ、人々を楽しませ続ける娯楽の殿堂。芝居小屋「内子座」

愛媛県内でも指折りの観光地「内子」。
ここには、華やかな内子の歴史を物語る家々が建ち並ぶ、美しい町並みが残っています。全国に先駆けて1982(昭和57)年に「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれ、また、国土交通省が選ぶ「都市景観大賞」も受賞、多くの重要文化財を残す街道が約2キロ続きます。

内子の町並みの外れにあるのが、演劇や芝居、コンサートなどで使われている内子座です。
1916(大正5)年に町の有志たちによって建設され、100年以上、娯楽劇場として地元の人たちを楽しませてきました。当時、全国どこにでもあった芝居小屋は次々と閉館。そんな中でも、内子座は形を変えながらも存続し、修復・保存されながら現役の芝居小屋として興行が行われています。
現在はその建物の価値を認められ、国の重要文化財に指定されました。

遠くからも見える太鼓櫓、寺院風の唐破風など入り口から堂々の風格、内子繁栄の歴史の生き証人として君臨します。
施設内は飴色の折上げ格天井や客席を区切る桝席、当時の看板がかかり、世界観に一気に引き込まれる非日常空間です。舞台上の仕掛けや舞台裏、舞台下の奈落も見学することもできます。
長い歴史の中での取り壊しの危機も乗り越え、文化的施設として、また娯楽の殿堂として多くの人に愛されてきた内子座。伝統芸能を支える貴重な場所のひとつとして、一見の価値ありです。

内子座

住所愛媛県喜多郡内子町内子2102
電話0893-44-2840
開館時間9:00~16:30
休館日公演時、年末年始(12月29日~1月2日)
※2023年秋から4年間の計画で、大規模改修工事に入る予定
URLhttps://www.we-love-uchiko.jp/spot_center/spot_c2/

おもてなしの町・内子のまち歩き

内子座から本町通りを抜け、旧街道沿いの町並みを歩くと、江戸時代末期から大正時代までに建てられた、豪華な屋敷と連なる軒、なまこ壁のうつくしい景観が続きます。
この町は、生糸や木蝋で栄えた町。豪商の家や当時の町家が保存され、自然とも相まって固有の趣ある風景を形成しています。

町にはさまざまな店舗や施設とともに住民の暮らしも残っており、歩いているとあいさつされることも。“四国お遍路”が定着する愛媛では、心温まるような地元の人とのふれあいや、ほのぼのとしたやりとりが盛んにおこなわれます。会釈や笑顔の会話、家の前に飾られた花や観葉植物など、町ぐるみの厚いおもてなしが感じられます。

もっとも豪華で優雅な建築様式を持つ建物が木蝋製造で大きく繁栄した本芳我住宅です。
大坂堺の商人が、「愛媛の山あいの町がこんなに栄えているのか」と驚いたという逸話を持つ贅沢な造りの建物が残っており、現在も住居として使われています。なまこ壁の袖壁や波状の模様を漆喰で描いた鏝絵、屋根に取り付けられた懸魚(げぎょ)にも精密な鏝絵が施され、豪華な外観を持つ建物なので、歩いていればすぐに見つけられるでしょう。
外観だけの見学ですが、それでも十分な見応えと感動があり、大切に保存されてきた地元への愛をはっきりと感じることができます。また庭園は無料で拝観することができるので、ぜひ立ち寄りたい場所です。

文化財に指定された建造物だけでなく、飲食店やお土産屋、宿泊施設が立ち並ぶ通りは鑑賞ポイントも多く、統一感ある街道は、ここを目的地として訪れる価値があります。
古民家を使った資料館や町並保存センターなどではこの町について学ぶことができ、入場無料。内子の歴史や文化を学びつつ、温かみある古民家の良さに浸れます。
内子は大切にしたい日本の風景と自然があり、情緒感じるスポット。のんびりと穏やかな空気感に、「内子へ来てよかった!」ときっと思えることでしょう。

内子町の町並み

住所愛媛県喜多郡内子町内子
URLhttps://www.we-love-uchiko.jp/

八日市・護国町並保存センター

住所愛媛県喜多郡内子町城廻211
電話0893-44-5212
開館時間9:00~16:30
休館日火曜日・祝日・年末年始(12月29日から1月3日)

ここは内子の“ひだまり”。世界の人が集うアットホームな「内子晴れ」

歴史的な町並みの中で、リーズナブルに泊まれる宿として5年前にオープンしたゲストハウス&カフェ・バー「内子晴れ」。
宿泊しなくても食事や休憩で立ち寄れ、また夜も営業しているので、町の中でもありがたい存在です。
オーナーの山内さんは、地域おこし協力隊として神奈川県から内子町へ引っ越し。そのまま移住し9年目。町に人が集まる場所を作ろうと、ゲストハウスを開業しました。

この日はランチに立ち寄りました。
チョイスしたのは、内子のブランド豚「内子豚」、西予市の大豆を使い、愛媛の味噌「麦みそ」を隠し味に使ったキーマカレー。コクがあって濃厚で、和風な味わいで食べやすいカレーでした。
ドリンクには松山市のブルワリー「DD4D BREWING」の伊予柑で作ったサワーエールを。DD4Dと山内さんは、内子町産クロモジや青柚子を使ったクラフトビールを開発。2022年11月から販売が開始されました。

ゲストハウスはドミトリーに加え個室タイプも完備。広い共有スペースでゆっくりと過ごすこともできます。主にひとり旅、またはお遍路旅の宿泊者が多く、ふらりと立ち寄る人が多いとのこと。
内子晴れへ来てはじめてこの町のことを知る人も多いそうで、山内さんは、内子の良さを知ってもらえるきっかけになっていると話します。さらにそこから人の流れが町につながり、周辺地域へとつながっていくことを願い、内子晴れ主催の地元に密着したツアーなども企画しています。
ゆっくりのんびりできる雰囲気はもちろん、気の利いた雑貨やおみやげも並んでいるので、まずは気軽に入ってみることをオススメします。
内子とその周辺地域の地域資源を次々と発掘していく山内さんを訪ね、面白い人、コト、モノが揃う町・内子の魅力をより一層深めてみてはいかがでしょうか。

古民家ゲストハウス&バー 内子晴れ

住所愛媛県喜多郡内子町内子3025
電話0893-57-6330
URLhttps://uchikobare.jp/

日本屈指の木蝋産地、世界も注目した内子の文化を学ぶ「木蠟資料館 上芳我邸」「大森和蝋燭屋」

内子の歴史と繁栄は、この土地に根付いた木蝋の生産にありました。
江戸時代末期から明治時代にかけては、内子の木蝋生産は日本最大規模を誇り、木蝋から作られる白蝋は、その品質の高さに当時から世界にも輸出されるほどでした。

木蝋はハゼの実から抽出します。ハゼはウルシ科の植物で、ハゼの実は落葉した冬の季節に採取されます。作業は大きく「ハゼの実を砕いて粉にする」「粉にしたものを蒸す」「蒸した粉を絞る」工程。生蝋はろうそくや力士の鬢付け油に、白蝋は文具や化粧品などに使われています。これらの作業工程を丁寧に説明しているのが、「木蠟資料館 上芳我邸」です。
上芳我家は本芳我家の分家にあたり、広大な敷地は1300坪。これは、木蝋を天日干しするなどの作業場として使われていたのが理由でもあり、また、上芳我家の繁栄を象徴するものでもあります。
邸宅は木造2階建てで、客座敷やそこから見える手入れされた庭などを鑑賞。建物のあちらこちらにはおもてなしの草花が活けられており、静けさが心を癒します。
時代を超えて現代にも語り掛ける内子の歴史を、また当時の豪商の住まいの優雅さを感じられる施設となっています。

もうひとつ、木蝋を体験するために訪れたのは「大森和蝋燭屋」。
かつては10軒ほどあったという和ろうそく店は現在ここだけ、四国でもたった1軒となり、伝統のろうそく作り「生掛(きがけ)製法」を7代にわたって伝えています。
生掛製法とは、灯芯に手でひとつひとつ蝋をつけ、手の上で転がしながら形成していくスタイル。昔から一般的な型流しに比べ、職人の手しごとによって生まれるぬくもりある手ざわりやその形、また特殊技法への敬意もあり、生掛製法はより価値があるものとして扱われてきました。現代もまた、その職人の匠の技や美しい炎に、多くの人が魅了されています。
灯芯には和紙、い草、生糸が使われ、私たちがよく知るろうそくの芯よりも太く巻かれています。融点が50度くらいと比較的低い温度で扱える木蝋の特徴により、灯芯に直接蝋を手で巻きつけることができるというものです。湿度、気温によって固まる時間、蝋の温度も違ってくるため、ろうそく職人になるためには“修行10年”ともいわれます。

木蝋を使った和ろうそくは、すべてが天然素材であることも人気が高まっているひとつ。ここ内子で作られる和ろうそくは、絵付けを行わず蝋の色を活かした優しい黄色みを帯びています。
和ろうそくは、火を灯しても蝋が垂れることがなく、燭台をあまり汚しません。また大きく燃えあがるため火の揺らぎをより感じることができ、最近ではインテリアや癒し時間に家庭で灯されることも多くなってきたそう。また伝統工芸への興味も高まっており、若い世代に商品としても人気です。
内子へ来た人たちが店頭で購入されることも多い和ろうそく。今では大変めずらしくなった手作りの和ろうそくをぜひ内子のおみやげに。

木蠟資料館 上芳我邸

住所愛媛県喜多郡内子町内子2696
電話0893-44-2771
開館時間9:00~16:30
休館日年末年始(12月29日~1月2日)
URLhttps://www.we-love-uchiko.jp/spot_center/spot_c3/

大森和蝋燭屋

住所愛媛県喜多郡内子町内子 2214
電話0893-43-0385
営業時間9:00~17:00
定休日火曜日、金曜日(臨時営業あり)
URLhttps://omoriwarosoku.jp/

内子の特産品とドイツ料理の掛け算を楽しめる「ツム・シュバルツェン・カイラー」

街道沿いに歴史散策を進めていくと、一番奥にあたる場所にドイツ国旗が見えてきます。
「内子まで来てドイツ料理!?」と思うなかれ。
全国的にも珍しいドイツの家庭料理を楽しめる貴重なお店がここ、「ツム・シュバルツェン・カイラー」です。

西ドイツ出身のご主人デルクセン・イエンスさんが作る料理は、イエンスさんのお母さんのレシピ。まさに毎日の食卓にのぼっていたご当地の味を食べられるお店なのです。
まずは、日本ではなかなかお目にかかれない「カイラー」のビールで乾杯!大きなジョッキで提供され、ドイツらしい雰囲気を味わえます。
前菜で注文したカプレーゼは、なんといってもそのチーズの美味しさ。内子にある「チーズ工房 醍醐」のモッツァレラは、牧草牛の生乳から作られたクリーミーな風味。ドイツ風にハーブがたっぷり使われ、香りも豊か。
オススメされた特大のソーセージは、内子豚を使った肉汁あふれるソーセージ。ビールもぐいぐい進みます。
ドイツ・オーストリア料理として良く知られる「ウィンナーシュニッツェル」は、通常仔牛を薄く叩いてカツレツにし、シンプルに塩味で食べるもの。しかし、家庭ではやはりリーズナブルな豚肉で作るそうで、お店では豚肉のシュニッツェルが、ハーブとパプリカを使ったまろやかなソースをかけたスタイルで提供されます。ドイツ料理を内子の食材を使って仕立て上げるというのが当地ならではといった感じです。

15年前に来日したイエンスさんは、内子のお隣・大洲市出身の奥様と埼玉で電撃的な出会いを果たします。滋賀県のドイツレストランで働いていた時に内子町役場の職員と会い、その縁をきっかけに奥様の地元でもある愛媛へ移住することに。人との出会いと行動力が、お二人を内子へと導き、ついにこの店を構えたといいます。
ゲーム好きのご主人のお話、バックパッカーをされていた奥様の話、国際結婚の話など、話題豊富なご夫婦からは、まだまだたのしいお話が飛び出しそう。内子の楽しい夜を演出してくれる、お二人とおいしい料理が待っています。

ツム・シュバルツェン・カイラー

住所愛媛県喜多郡内子町城廻204-1
電話0893-57-9066
営業時間17:00~21:30
定休日水曜日
URLhttps://peraichi.com/landing_pages/view/keiler2013/

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