食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」を創業し、近年は各地の芸術祭で積極的にアート作品やプロジェクトを展開している株式会社スマイルズ。代表取締役社長として会社を率いるのは、各界から注目を集める経営者、遠山正道だ。彩りと味わい豊かなスープ一杯のプロデュースから、人と人、人と世界との関係性や出会いを演出するアートまで――その幅広い活躍の核心には、どうやら「旅」が重要な経験としてあるという。かねてより機内食の開発も手掛け、この初夏にはヨーロッパのアートイベントへ旅行に赴いてきた遠山に、「人の心を震わせる」ビジネスに旅が与えてくれるものを尋ねた。
文:宮田文久 写真:岩本良介

世界最大級のアートフェア『アートバーゼル』で受けた刺激

OnTrip JAL編集部(以下、JAL):この6月、スイスで毎年行われる世界最大級のアートフェア『アートバーゼル』に行かれたのですよね。

遠山正道(以下、遠山):香港で開かれる『アートバーゼル香港』もあるので、そちらには例年足を運んでいます。でも、今年は5年に1度、ドイツのカッセルで行われる現代芸術展『ドクメンタ』の開催年でもあったので、併せて訪れてみようと、本国スイスの『アートバーゼル』に向かいました。二次元に収まる絵画作品ばかりでなく、インスタレーションやパフォーミングアートなど、三次元を効果的に使った作品が多くなっていて、考えさせられるものがありましたね。回廊に置いてある椅子のような四角い箱に腰をおろしたら、音楽が流れるスピーカーだったことに気づく、というような仕掛けの作品もあって、予期せぬ出会いや発見の演出など、大変面白かったです。

画像: 遠山正道氏

遠山正道氏

JAL:旅のなかで多くの刺激を受けて帰ってこられたのですね。

遠山:私たちスマイルズは、これまでにいくつかのアート作品を発表してきました。『大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ2015』ではDENSOさんとつくりあげた『新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円』、『瀬戸内国際芸術祭2016』では『檸檬ホテル』。来年も、こうした芸術祭への参加を企てているところです。今回の旅行では、ものを「つくる」側としても刺激を受け、創作意欲がグッと湧き起こってきました。私はよく、明け方、夢とうつつとのあいだにいる状態のときにアイデアが思い浮かぶのですが、今回も帰国後に、とあるアイデアを思いつきました。まだお話はできませんが(笑)

アートもスープも、新たな出会いや発見を与えるものでありたい

JAL:旅を通じての新たな価値の発見は、スマイルズさん、遠山さんのなかで非常に大切にされていることのように思います。『檸檬ホテル』はアート作品のなかに宿泊することができ、地元特産の豊島レモンの枝葉で染められた布に覆われた部屋で、淡い黄色い光に包まれて目を覚ます、といった経験をあたえてくれます。Soup Stock Tokyoさんの一杯のスープにおいても、そうした「出会い」の重視は徹底されているのではないでしょうか。

画像: オフィスに展示されているアート作品。眺めているとビジネスのアイデアが浮かぶこともあると言う

オフィスに展示されているアート作品。眺めているとビジネスのアイデアが浮かぶこともあると言う

遠山:そうですね。先ほど触れた三次元の作品の話にも通じることですが、特に地方の広大な土地のなかで作品をつくるときには、その場の空間や時間をも、作品のなかに織り込んでいくことが必要です。その場所に至るまでの旅路、着いた瞬間に開ける景色、照りつける暑い夏の日差しと樹々にこだまする蝉の音――都会では経験できない、非日常のなかでの旅の体験を、いわばピンを打つかのように固定化する役割を作品が果たせたらと思うのです。

空間や時間を内在させた記憶を、地図の上にプロットしていく。私たちが手掛けるスープも、同様のものであってほしいと願っています。いわば「経験の地図」に刺さるピンとして、スープが機能できれば嬉しいですね。

JAL:旅はビジネスとも、切っても切り離せない関係ですよね。

遠山:以前ベネッセさんと、交換留学ならぬ交換留「職」を行ったことがあるんです。瀬戸内の直島でベネッセさんが運営されている、現代アートの展示スペースとホテルを融合した「ベネッセハウス」という施設があるのですが、そこに弊社の社員が向かい、ベネッセさんからも社員の方を迎え入れるというものです。これからやってみたいなあと思っているのは、日本のあちらこちらに拠点を設けて、江戸時代の参勤交代のように、1年間のうち1シーズンくらいは普段と異なる場所で働くようにする、という働き方ですね。アイデアが行き詰まっていたとしてもリフレッシュできるでしょうし、新たな発見もあることでしょう。「旅するように働く」ことが実現できたらいいな、と考えているところです。

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