『リオデジャネイロ2016パラリンピック』では女子シングルスで日本人初の銅メダル、女子ダブルスでもベスト4。さらに『東京2020パラリンピック』の出場も内定しているなど、車いすテニスプレーヤーとして世界で活躍する上地結衣さん。
現在24歳の彼女が、はじめて海外遠征を経験したのは中学3年生、15歳のとき。親元を離れ、チームメイトとともに訪れたイギリスでの経験は、もともと海外に強い興味を持っていた彼女の胸を躍らせたといいます。以来、コンスタントに海外での試合に出場し続け、いまでは月の半分以上を遠征先の海外で過ごしているとのこと。
決して身軽とはいえない車いすでの旅ながら、旅の話をする上地さんの様子は身軽そのもの。試合の日程が詰まっていて、身体的にもハードな日々のなかで、そうした姿勢をキープできる秘訣は何なのか。テニスを通して世界を見てきた彼女だからこそのこだわり、そして車いすで旅することの魅力を聞きました。
取材・文:片貝久美子 撮影:Lori Barbely 編集:原里実、佐々木鋼平

やるならみんなと同じルール、土俵で戦いたい。

OnTrip JAL編集部(以下、JAL):上地さんが車いすテニスをはじめたのは11歳のときだそうですね。きっかけは何だったのでしょうか?

上地結衣(以下、上地):歳が4つ離れた姉がいるんですけど、その姉が中学校の軟式テニス部に入部したのがきっかけの一つだったと思います。姉と一緒にテニスがしたいなって。

その前にやっていた車いすバスケットボールのチームの方から、車いすテニスの存在を教えてもらったことも大きかったですね。

画像: 上地結衣選手(オーランド Lake eola Park)

上地結衣選手(オーランド Lake eola Park)

JAL:車いすバスケットボールより車いすテニスのほうに魅力を感じた理由は?

上地:車いすバスケットボールをはじめたころは10歳にもなっていなかったので、やっぱり年上の選手とは全然パワーが違って。

そのため、「結衣ちゃんは身長が小さいからリングに当たったらシュートが入ったことにしよう」とか、特別ルールをつくってくださったのですが、自分としてはそれがすごく悔しかったんです。

やるならみんなと同じルールでやりたいし、同じ土俵で戦いたい。その点、テニスだったらネットがあって、ボールがネットを越すことさえできればどんな人でもできるっていうのが楽しかったんですよね。

画像1: 『NECシングルスマスターズ』でプレーする上地結衣選手 ※関係者よりご提供

『NECシングルスマスターズ』でプレーする上地結衣選手 ※関係者よりご提供

自分の身体とどう向き合ってプレーしているかを見てほしい。

JAL:車いすテニスプレーヤーとしてのご活躍は周知のとおりですが、上地さんはロンドン、リオデジャネイロに続き『東京2020パラリンピック』への出場も決定しています。

自国開催ということもあって注目が集まるなか、車いすテニスの観戦がより楽しくなるポイントを教えてください。

上地:健常者のプレーヤーだと、その人のプレースタイルがわかりやすくあると思うんですけど、車いすテニスのプレーヤーの場合、それに加えてその人がどんな障がいを持っているかも意識してみるといいと思います。

というのも、車いすテニスは他のパラスポーツより分類が細かくないので、いろんな障がいを持った人が同じクラスで戦っているんです。

なので、それぞれのプレーヤーが自分の身体や症状とどう向き合って、どうプレーしようとしているのか着目してもらえるとおもしろいと思います。

画像2: 『NECシングルスマスターズ』でプレーする上地結衣選手 ※関係者よりご提供

『NECシングルスマスターズ』でプレーする上地結衣選手 ※関係者よりご提供

海外に興味があったので、むしろ一人で行かせてくださいって感じでした(笑)。

JAL:上地さんは、国際試合にも多く出場されていますが、年間でどれくらい海外遠征に行かれているのですか?

上地:海外は年に20大会弱くらいで、1大会につき移動も含めて1週間くらいの旅程になります。なので、月の半分以上は海外にいる感じですね。

JAL:はじめての海外遠征は中学3年生で、そのときはご両親の付き添いもなく一人で参加されたとか。

上地:そうなんです。イギリスで行われた『車いすテニス世界国別選手権』の団体戦に出場することになったんですけど、15歳での参加は前例がなくて。

大会スタッフの方が「ご両親と一緒に来られますか?」って聞いてくださったので、家族会議を開きました(笑)。

ただ、今後もこういう機会が増えるかもしれないと考えたとき、毎回来てもらっていたら両親の負担になるし、単純に費用も倍になりますよね。でも一人だったら、その倍の大会に出られる。それなら一人で行きますって(笑)。

もともと海外にすごく興味があったので、むしろ一人で行かせてくださいって感じでした(笑)。

画像: 『NECシングルスマスターズ』の表彰式 ※関係者よりご提供

『NECシングルスマスターズ』の表彰式 ※関係者よりご提供

海外の選手たちが「YUI!」って声を掛けてくれたのがうれしかった。

JAL:海外に興味があったのはどうしてですか?

上地:小学生のころ、学校で配られた海外ホームステイのチラシを見て、説明会に参加したんです。実際に話を聞いてみて、より興味が湧きました。

でも、当時は車いすの人がホームステイで留学した前例がないということで断られてしまい、悔しい経験をしたんですよね。

JAL:念願叶っての初海外遠征はいかがでしたか?

上地:すごく楽しかったですね。日本で行われる国際大会には出場していたので、海外の選手を知らなかったわけではないんですけど、ちゃんと話したことはあまりなかったんです。

でも、そのときはじめて海外の選手と一緒に写真を撮らせてもらったりして。当時は15歳でしたけど、身体が小さかったので周囲からは12、3歳くらいに見られていたっぽくて(笑)、みんなが「YUI! YUI!」って声を掛けてくれたのもうれしかったですね。

大会がはじまる前、一人で参加する私を心配した監督が、1日1回日本にメールを送っていいよと言ってくれたんですけど、私は現地の人たちと交流するのに手一杯で、結局一度も送らなかったくらい(笑)。

車いすテニスを通じて、子どものころに思い描いていた海外に行くという夢が叶えられたような気がします。

画像: 海外の選手たちが「YUI!」って声を掛けてくれたのがうれしかった。

JAL:その後、数々の大会に出場されていますが、とくに好きな場所や印象に残っている出来事はありますか?

上地:フランスのイル・ド・レという島で開かれる『トヨタ国際オープン』には、どんなに厳しいスケジュールでも毎年エントリーしてます。海に囲まれているので魚介類もおいしいですし(笑)、島の雰囲気もすごくゆったりしてて。

大会っていうのを忘れるくらい、選手と運営スタッフさんとの距離が近いアットホームな雰囲気なので、一番好きな大会ですね。私が戻ってくるのを待っていてくれるおじいちゃん、おばあちゃんたちもいっぱいいて、その人たちに会えるのも楽しみなんです。

あと『全仏オープン』では、自分が乗った飛行機を操縦してくださったJALの機長さんが試合を観にきてくださったことが印象に残っています。現地の方々、応援しに来てくださる方々にとても支えられているんだな、と思いました。

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