島暮らしをしているかのような滞在が楽しめる新上五島町。同町でのアイランドワーケーションの魅力は、こちらの記事でもご紹介しました。旅人を温かく受け入れる島民の存在こそが、その魅力をより引き立たせているといえます。島には一体どんな人々がいて、どこからその温かさが生まれているのか? 本記事では島民の代表たちに、新上五島町の人たちの想い、そして島ならではの体験について語ってもらいました。

※撮影時のみマスクを外しております。

「新上五島町の文化と自然を大切にしていきたいんです」

虎屋 代表取締役 南慎太郎さん

画像1: 虎屋 代表取締役 南慎太郎さん

今から35年ほど前、五島の自然と家族を愛した先代・犬塚虎夫さんが、海が望めるこの地で五島うどん作りを始めたそうです。さらに、目の前に広がる海から採れる塩を使って、もっと美味しい五島うどんを完成させたいという強い想いから、長崎県ではじめての塩づくりがここから始まりました。

「五島うどんを塩から作っているのは、ここ虎屋だけです」。2代目の南慎太郎さんが、塩づくりが行われている場所へと案内してくれました。

画像2: 虎屋 代表取締役 南慎太郎さん

「この塩田、自作なんです。もともと大工をしていたので、自分で櫓を組み、漁網も漁師さんが10年以上使っていたものを再利用しています。下に敷いている玉石も海から持ってきたんですよ」と、まるで愛しいわが子を見上げるように話をします。

漁網に玉石と、何とも不思議な建物ですが、くみ上げた海水をこの塩田でもっと濃縮させるには、できるだけ長い時間、海水を空気に触れさせ、水分を蒸発させることが必要。まるでアートのような塩田に驚くことでしょう。

南さん「海水をくみ上げる時期にもこだわっています。目の前に広がる有川湾は、周囲が山に囲まれています。この山からミネラルが海へと注ぎ込まれ、有川湾の海底に集まってきます。大潮の時になるとその海が干満の差や潮流によって攪拌され、ミネラルバランスの良い海水になります。この大潮の時期を狙って毎月2回、1度に25トン、月に50トン海水を汲み上げているんですよ」

海がきれいなことが塩づくりの絶対条件と話す南さんは、週末になると必ず海に潜っているとか。

それは寒い冬の時期でも同じこと。山が豊かであれば魚介類が豊富であり続ける。そのことを確かめるように南さんは、海に潜り続けているようです。

画像3: 虎屋 代表取締役 南慎太郎さん

次は釜炊きの作業場へ。ある程度濃縮された海水を、ここで丸2日間炊くのだそう。もちろん釜も南さんの手作り。

画像4: 虎屋 代表取締役 南慎太郎さん

南さん「五島石を使った釜土台。これも気に入っています。五島には石切り場も数多く残され、石文化も残っています。先人の手がかかった石はどれも味わい深いものばかりですから、それを大切に使っていきたいのです」

五島の文化を大切に思う気持ち、それは環境や自然にも向いていました。

南さん「釜を炊くときの燃料は廃油を使っています。家庭や飲食店で使ったあとの燃料を回収し、それを最後まで再利用すること。環境にも優しい塩づくりでありたいと思っています」

ちょうど結晶が出始めたころの塩を南さんが手のひらに乗せ「味わってみんね。本物の塩の味がするけん」と。それは甘みを含んだ潮の香りがする極上の塩でした。

自分たちで作った塩を使い、五島うどんはもちろん「塩プリン」や「チーズケーキ」といった新商品も生まれています。それらも、地元の契約農家から直接仕入れた安納芋と、安心の平飼いの卵、そして虎屋の塩と、3つの生産者の逸品がつないだ五島ならではの商品です。

2019年初夏には飲食店「島diningとらや」もオープンさせ、五島うどんと海鮮料理を提供しています。

南さん「今の新上五島町は雇用が足りていません。働く場所をもっと提供し、仲間を作っていきたいと考えています。今は30人の社員を作ることが目標です。雇用を増やしていくには、いろんな方にまずこの島に来ていただき、興味を持ってもらうことでしょうね。アイデア次第ではいろんな働き方が見つかるかもしれません」

株式会社 虎屋

住所長崎県南松浦郡新上五島町似首郷787-17
電話0959-54-1056
営業時間9:00~16:00
定休日土、日、祝日
webhttps://goto-toraya.com/

「五島灘は、新上五島町の風土を伝えている芋焼酎です」

五島灘酒造株式会社 専務取締役 田本佳史さん/営業部長 原知也さん

画像1: 五島灘酒造株式会社 専務取締役 田本佳史さん/営業部長 原知也さん

五島で育てられた芋を使い誕生した本格芋焼酎「五島灘」。2008年に販売がスタートして以来、島内はもちろん、関東や関西でも高い評価を得ている焼酎です。新上五島町に新しい風を吹かせる田本佳史さんと、それをサポートする原知也さんに、新上五島町の魅力について語っていただきました。

画像2: 五島灘酒造株式会社 専務取締役 田本佳史さん/営業部長 原知也さん

五島灘酒造の営業部長であり、新上五島町の町議会議員でもある原さんは、大学卒業後、22年間住んだ東京を離れ2016年に家族で新上五島町に移住してきました。

原さん「老後は海が見えるところでのんびり暮らしたいという願望がありまして、家族と全国あちこち回っていました。蛤浜海水浴場の海の美しさと、島の人々の温かさに触れ、移住することにしました」

最初は町の嘱託職員として働いていたそうですが、もっといろんな人たちと接したいと、五島灘の蔵開きイベントに参加。ここで田本さんと出会うことになるのです。

画像3: 五島灘酒造株式会社 専務取締役 田本佳史さん/営業部長 原知也さん

原さん「地元の畑で育てた良質の芋を使って焼酎をつくり、その酒を通して県内外の人々と繋がっていく。そのつながりがとても素敵だと思いました。自分も人と人をつなぐ仕事をお手伝いしたいと五島灘の門をたたいたのです」

田本さん「原さんが頭を坊主にして『五島灘で働かせてください!』と言いに来たので驚ききました(笑)。しかも、彼は五島灘で素晴らしいソーダ割を作ってくれるんですよ。それが旨くて、ついつい飲みすぎてしまいます」

田本さんは、それから原さんに営業を任せ、未開拓地だった関西で「酒の会」を開き、販売促進に乗り出したそう。そんなことを4年していると、今度は関西からわざわざ新上五島町まで来てくれる酒屋さんも現れ、感激のあまり夜遅くまで飲み明かしたのだそう。

こうやって島を訪れる人が増えていくには、島そのものが元気であることが重要だと田本さんは話します。

田本さん「自分たちがやりたいイベントをどんどん行い楽しむこと。そうすれば、ほかの人が気になって参加してくれるかもしれません」

地元で作られたものは、地元の食材に合う。すなわち地元で造られる酒も、地元の料理に非常に合うという田本さん。

画像4: 五島灘酒造株式会社 専務取締役 田本佳史さん/営業部長 原知也さん

原さん「私たちが参加しているまちおこしグループ『ダガスル・オガスル』では、飲食店と生産者が一夜限りの居酒屋を開催しました。生産者がホール担当、上五島の飲食店の方々に厨房に入っていただき、その日だけのオリジナル料理を作って島の人たちをおもてなししたのです。これが大盛況でした。2回転して100人が集まり、島の恵みを堪能しましたね」

田本さん「ちなみに、ダガスルは『誰がする?』、オガスルは『私がする』という五島弁。『ダガスル?』と言うと、仲間みんなが全員手を挙げるから、もう収拾つかないんですよ。それほど島の若い人たちにはパワーがあります。新上五島町は今がまさに転換期だと思っています」

画像5: 五島灘酒造株式会社 専務取締役 田本佳史さん/営業部長 原知也さん

田本さんと原さんのテーマは「陽気なよっぱらいで島を明るくする」ことなのだそう。お酒を通して新上五島町に行きたいと思ってもらうこと。ファンをたくさん作ること。それにはもっと美味しい焼酎をつくり続けることだと意気込みます。

田本さん「100年ほど前に島に伝わった芋があると聞きつけ、約3年かけてやっと種芋を見つけました。それが代々100年以上も守られていた芋だったのです。この貴重な芋を自分たちで栽培して増やし、『明治之芋 五島灘』を造ったのですが、8年という歳月がかかりました。五島灘は、まさに新上五島町の風土を伝える芋焼酎だと思っています」

原さん「この新上五島町の風土を、次の世代につないでいかなければなりません。魅力的で元気にあふれた新上五島町の人たちと一緒に『ダガスル・オガスル』を楽しむ人を増やしたいです」

画像6: 五島灘酒造株式会社 専務取締役 田本佳史さん/営業部長 原知也さん

五島灘酒造株式会社

住所長崎県南松浦郡新上五島町有川郷1394-1
電話0959-42-0002
webhttps://gotonada.com/products.html

<撮影協力>
潦り茶屋 し喜

住所長崎県南松浦郡新上五島町有川郷700-1
電話0959-42-0933
営業時間17:00~23:00
定休日日曜
webhttps://siki510.com/diningbar-siki.html

「塩づくりは島の宝。ここでないと生み出せないものです」

株式会社やがため 代表取締役 川口秀太さん

画像1: 株式会社やがため 代表取締役 川口秀太さん

塩屋を始めて20年。奈摩湾を望むこの場所で薪を使い、毎日塩づくりが行われています。
川口さんは、先代の祖父から言われた「必ず薪を使い続けろ」の言葉を守り継ぎ、山を守るために間引かれた間伐材を使って塩炊きをしています。

画像2: 株式会社やがため 代表取締役 川口秀太さん

川口さん「塩づくりは火加減が大事なので、塩炊きは繊細な人に向いている仕事なんです」

現在は、釜4つに対して3名が付きっ切りで作業を行っているそう。また、2021年12月には、チタンを使った新しい釜を完成させ、より質の高い塩づくりに挑戦していくと笑顔で話されました。

画像3: 株式会社やがため 代表取締役 川口秀太さん

川口さん「島にいるから塩作りができるのだと考えています。海水は目の前の奈摩湾からくみ上げていますから、まさに島の宝です。島でないと生み出せない塩づくりを、もっといろんな方に体験してほしいと思っています」

塩づくり体験は、小さい釜に海水を入れて炊き、結晶を作るのですが、これが観光客の間で長年人気になっています。そしてもう一つの島の恵み、それが椿油です。毎年秋になると、椿の実が収穫され、それを特殊な機械でギュッと搾って油を抽出するのです。この体験も店舗内で行われています。

画像4: 株式会社やがため 代表取締役 川口秀太さん

また、矢堅目の駅では塩づくりや椿油体験のほかに、観光案内や塩ソフトクリームの販売など観光客に寄り添った事業を展開しています。

川口さん「新上五島町の自然の恵みを、体験を通して知ってもらいたいものです。あとこれからは、この場所をもっと活用してもらおうと『ワーケーションスペース』の設置を考えています。今後の動きにも期待してもらいたいです」

矢堅目の駅

住所長崎県南松浦郡新上五島町網上郷688-7
電話0959-53-1007
営業時間9:00~17:00
webhttp://www.yagatame.jp/salt/

「新しいことをしようとする、島人の気持ちがとても熱いのです」

長崎大学大学院 工学研究科 橋本佳樹さん

画像1: 長崎大学大学院 工学研究科 橋本佳樹さん

長崎大学大学院に在籍している橋本さんは、2022年3月に新上五島町に移住しようと考えています。彼の気持ちが動いた理由は、何だったのでしょうか。

画像2: 長崎大学大学院 工学研究科 橋本佳樹さん

橋本さん「福岡や長崎県内の大学に通う学生が、イベントなどさまざまな活動を通じて、県内で働くことの価値や意義を再発見する学生サークル『TSUNAGU』が2020年7月にスタートしました。私はこの団体の副部長であり、発起人のひとりでした。長崎が人口流出ナンバーワンだったということもあり、長崎から福岡へ行った人を呼び戻そうという、長崎県の学生と福岡県の学生をターゲットにした事業でした」

この学生サークル「TSUNAGU」の活動にともなって、2021年9月、橋本さんは新上五島町に初上陸。自然豊かではあるけれども、若い人が興味を持ってくれそうな活動や施設などが見当たらず、もしかしたら自分みたいな人間が何かお手伝いできるのではないかと考えたのだそう。

島の方々と話す機会がたくさんあり、その度に「新しいことをしよう」という島人の熱意がとても伝わってきたと言います。

画像3: 長崎大学大学院 工学研究科 橋本佳樹さん

橋本さん「とにかく『どがんかせんばいかん!』という島の人の気持ちが、自分にも同じように移ってきたのだと思います」

移住を決めた理由は、コロナ禍の時代になったからこそ、逆に外に出たいなという意欲が出てきたからだと話します。閉じこもってしまうよりも、開放的な島へ。大学の授業もリモートになり、どこでも授業を受けられるようになったことも大きな要因に。

橋本さん「私は大分県出身なのですが、新上五島町は温泉が少ないですね。奈良尾に天然温泉がありますが、ここ有川周辺からはちょっと離れています。温泉でなくても、肌を触れ合って話せる場所や、交流ができる場所づくりも考えてみたいと思っています」

橋本さんは、自分がまず島暮らしを楽しまないといけないと話します。

画像4: 長崎大学大学院 工学研究科 橋本佳樹さん

橋本さん「自分が楽しめる場所ができれば、若い人たちが島に来てくれることにもつながります。これからは自分が活躍できる場所を作っていきたいですね。それを島の人たちと一緒にできれば最高です。自分自身が島のキーパーソンになれるよう頑張っていきたいと思います」

若い人たちが集まり、熱き心を持った島人がタッグを組めば、何かが始まっていくようなワクワクとした気持ちが込み上げてきます。島の自然もさることながら、“人”の魅力が光る新上五島町。島人と触れ合うと、新しい自分を発見できるかもしれません。島民が島を愛し、自然を愛し、人を愛する。そんなパワフルな島民たちとふれあい、ここだけの体験に出合うべく、新上五島町へ足を運んでみませんか?

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