ここ数年のランニングブームにともない、市民ランナーにとっては旅行も兼ねてマラソンに挑戦できることから、全国各地で開催される地方マラソン大会が盛り上がりをみせています。けれど初心者にとって、どんな準備をすればいいのか、そもそも完走できるのかなど不安はいっぱい。さらにどの大会に出場したらいいのか、魅力的な大会がたくさんあって選ぶのも大変です。
マラソンと、旅ランの魅力をご紹介する【JAL 旅ラン INTERVIEW】。第三弾となる今回は、毎日10分間、走ることから始めてわずか1年半でサブスリー(*)を達成してしまった市民ランナー、鈴木莉紗さんにインタビュー。フルマラソンに初めて挑戦するにあたり気をつけるべき点や完走するコツをお伺いしました。合わせて初心者にとってやさしいマラソン大会として人気の『いぶすき菜の花マラソン』をご紹介します。
*サブスリーとは?
サブスリーとは、42.195kmのフルマラソンを3時間以内で走ること。市民ランナーにとってひとつの大きな目標となるタイムです。
鈴木莉紗(すずき・りさ)
学生時代はとくに運動部に所属した経験はなく、社会人になってからランニングを始め、わずか1年半でサブスリーを達成。自己ベストは、2016年に東京マラソンで記録した2時間39分57秒(日本人女子7位)。現在は、加圧トレーナーとして勤務しながら市民ランナーとして全国各地の大会に出場し活躍する。著書に『1日10分も走れなかった私がフルマラソンで3時間を切るためにしたこと』、『フルマラソンを最後まで歩かずに「完走」できる本 一番やさしい42.195㎞の教科書』(ともにカンゼン刊)がある
山登りで膝を負傷。復帰を目指し、リハビリも兼ねて始まったランニング人生
OnTrip JAL編集部(以下、JAL):本日は鈴木さんのご経験をお伺いしながら、これからフルマラソンに挑戦したい人が完走を目指すためには何を準備すればよいのか、アドバイスをいただきたいと思っています。まずはそもそも鈴木さんが走り始めたきっかけを教えてください。
鈴木莉紗(以下、鈴木):もともと私は山登りが好きだったんですね。毎週末のように山に出かけてリフレッシュして月曜日から仕事に励む、という生活をしていました。でもある日、膝をケガしてしまいました。知らず知らずのうちに膝に負担がかかって、筋力があまりなかったことから膝が悲鳴をあげてしまったんです。
それからしばらく山登りはできなくなったのですが、やっぱり登りたい、でもまたケガするのが怖い、そんな葛藤をしていたら、そもそもケガした原因になった筋力不足を補おうと、リハビリも兼ねて走り始めたのがきっかけです。
JAL:山登りを復活するために始めたランニングに、はまっていったというわけですね。走り始めて、すぐに早く走ることはできたのですか?
鈴木:いえいえ、最初はひどいものでした。そもそもうまく走れないんです、足が上がらなくて。最初の1ヶ月は、小さな段差につまづいてよく転んでいました……。でも走り始めて気づいたのは、走ると気持ちいいのと、太りづらくなること。食べることは大好きなので、これはいいと、走り続けました。繰り返し転んでいたので生傷は絶えなかったですが(笑)
少しずつ時間を伸ばしていく。無理をせず、マイペースで続けることが大切
JAL:これからランニングを始めようとする人にとって、何が一番大切ですか?
鈴木:まずは、いきなり長い距離を走ろうとするのではなく、少しずつ、時間と距離を伸ばしていくことですね。私も最初は本当に10分も走れなかったので、5分走って5分歩くということを毎日繰り返しました。そうして少しずつ距離ではなく、走る時間を伸ばしていくことで、ケガをすることもなく、走る筋力をつけていきました。
JAL:なるほど。ケガをしてしまうとテンションも下がって再開することが難しくなる。ケガをしないことは、特にランニング初心者にとってとても大事なポイントですね。
鈴木:真面目な人にありがちなのですが、何分、何キロ走ればいいですかとか、1km何分のペースで走ればいいですかとか、よく聞かれます。でも最初のうちはノルマを課さないほうがよいです。距離を決めてしまうとどうしても無理してしまうので、体調に合わせて走る時間とペースを決めること。それを継続することを心がけてください。
JAL:マイペースで走ることが、継続することにもつながるわけですね。
鈴木:はい。とにかく大前提として無理をしないことです。筋力がないうちにいきなり負荷をかけてしまうと、ケガをしてしまう原因にもなります。走っていくうちに筋力は確実についてくるので、最初は本当に5分歩いて5分走るという程度からスタートしても、それを続けて距離を伸ばしていけば、マラソンは走れるようになりますから!
あとはしっかり食べて強い体をつくることですね。マラソンはやっぱり体力勝負なので、普段から体づくりをする必要があります。川内優輝さんもそうですが、強い人はケガもしないし、たくさん食べますよね。それはトレーニングももちろんですが、やっぱり日々の食事でも鍛えられているからだと思います。
私も食べることが大好きなのでいっぱい食べますが、気をつけていることは栄養バランスと朝・昼・晩と1日3食、欠かさないこと。朝、時間がないときは、コンビニでゼリーだけでも食べるようにしています。
JAL:大会前の食事で気をつけることはありますか?
鈴木:練習もそうですが、大会の日に疲労を残さないことが大切です。体調を整えて体を軽くしていくために、1週間くらい前から揚げ物や生物など消化によくないものは食べないようにしています。そしてレース前日は、炭水化物をとるようにしていますね。
JAL:よく試合当日や前日に食べる食事を、勝ち飯といいますが、鈴木さんにとって勝ち飯ってありますか?
鈴木:勝ち飯というわけではないのですが、レース当日の朝はおもちとレーズンをかならず食べています。おもちは腹持ちもよく、体力の消耗が激しいレース中のエネルギーにもなってくれます。個人的にはきなこにまぶして食べるのが好きですね。レーズンは糖質や鉄分のほかに、カリウムやマグネシウムなどのミネラルの補給ができます。糖分の吸収もゆっくりなので、レース中のエネルギー補給にも効果的なのでおすすめです。
ゆっくりでもよいので歩かず、”走り切る”という強い意志を持って完走を目指しましょう
JAL:そのほかにこれからランニングを始めるうえで、またマラソン完走を目指すためにやるべきことはありますか?
鈴木:普段の練習用もそうですが、シューズにはこだわってほしいですね。私も走り始めた頃はシューズのサイズ選びに失敗して、足を痛めてしまったことがあります。ウェアはデザインなど好みで選んでもいいですが、シューズは実際に履いてみることが大切。メーカーによって甲高や幅が広めのタイプなど、それぞれ特性があるので、シューズはできれば通販などで買わずに専門店に行ってスタッフのアドバイスを受けながら選ぶことをおすすめします。あと初心者が気をつけてほしいのは、どの大会に出場するかですね。
JAL:ビギナー向けの大会というのはあるんですか?
鈴木:初めてのマラソン大会を選ぶ際に、注意してほしい点がふたつあります。
ひとつは、時期。これは私の失敗経験からいえることですが、初めてのマラソンで梅雨の時期や夏のマラソン大会は避けてください!私は何も考えずに6月の大会にエントリーして初めてのフルマラソンに挑戦したのですが、もう暑くて、つらくて……フラフラになってゴールしました。夏のマラソンはスタミナも経験も求められるので、初めてのマラソンは走りやすい秋か冬の大会がいいですね。
もうひとつは、コースです。初めてのマラソンはアップダウンの少ないほうがおすすめ。慣れてくると単調なコースを嫌う人もいますが、最初は完走を目指すためにも、走りやすいコースの大会を選ぶとよいでしょう。
JAL:おそらく初めてマラソンを走る人とって完走は大きな目標になると思います。完走を目指すうえでの心構えのようなものはありますか?
鈴木:マラソンはがんばったことが結果に表れやすいスポーツ。それが自信にもつながります。ちゃんと練習して大会に挑めばいい結果が出やすいし、トレーニングをさぼれば結果は伴いません。そういう意味で一番大切なことは、やっぱり日頃のトレーニングと体をつくる食事などの準備を怠らず、続けることですね。
JAL:レース中に意識すべきことはありますか?
鈴木:つらくなってくると、どうしても歩いてしまいますよね。もちろん足が痛いときは無理して走るのはやめたほうがいいですが、気持ちが折れそうなときはなるべく歩かずに、走り切るという強い意志を持って走り続けてほしいと思います。たとえば、地方マラソンの場合、エイドにその地域の特産物が用意されていることが多いのでそれを目標にしたり、景色を見て気分転換をしたりするのもよいですね。本当にゆっくりでもよいので、最後まで走ることを目指してほしいと思います。
JAL:やっぱり歩いては、ダメなんですね……。
鈴木:ダメというわけではないです。私も初めてのフルマラソンでゴールはしましたが、途中、何度も歩いてしまいました。だから、なんとなく自分の中では完走した!やったー!という気分にはなれず、心から喜べなかったんですね。実力も足りなかったのですが、大会選びから失敗したり当日の心構えも甘かったり、初歩的なミスが多く、それが悔しくて。
フルマラソンの醍醐味は、やっぱり走りきったときの達成感。特に初マラソンって一生に1回しかない思い出なので、絶対に走りきって完走してほしい。そして最高の達成感を味わってほしいと思います!
おもてなし日本一のマラソン大会『いぶすき菜の花マラソン』ってどんな大会?
毎年、1月の第2日曜日に、九州薩摩半島の南端、鹿児島県指宿市(いぶすきし)を駆け巡る市民マラソン大会として開催される『いぶすき菜の花マラソン』。大会名にもあるように、あたり一面に咲き誇る黄色い菜の花畑や、薩摩富士とも称される開聞岳、湖周辺や海岸線など、めくるめく絶景を望みながら走るコースが魅力。また比較的高低差も小さく、スタートからゴールまで同じ道は走ることがない変化に富んだコースであることも人気で、毎年1万5千人以上のランナーが参加します。
さらにフルマラソンを初めて走るランナーにとって嬉しいのは、制限時間が8時間と他の大会と比べても長いほうであること。何よりも約2000人の地元市民ボランティアが、コースのあちこちで参加者を全力で応援してくれるおもてなしが、ランナーを元気づけてくれます。
また、エイドステーションでは、さつまいもや、茶ぶし、菜の花漬けなどの特産品が用意されています。もちろん、ストイックに完走やベストタイムを目指して走るのもよいですが、制限時間は8時間と比較的長いことから、各エイドで振舞われる食べ物をいただきながら走るのも、地方マラソンならではの楽しみのひとつといえるでしょう。
かぶりもので仮装して走るなど、参加スタイルも自由です。市をあげて大会を盛り上げ、参加者もそれぞれに走ることや指宿を全力で楽しむ。その一体感が、同大会を素晴らしいものにしているようです。
いぶすきといえばコレ!走り終わったら、世界でもめずらしい砂むし温泉で疲れを癒そう
いぶすきには、国内最大の花のテーマパーク「フラワーパークかごしま」や、九州最大の湖「池田湖」、竜宮伝説発祥の地である「竜宮神社」など、多くの観光スポットがありますが、マラソンを走ったあとにぜひ体験してほしいのが「砂むし温泉」。指宿市は温泉地としても知られ、市内のあちこちに源泉掛け流しの温泉場があるほか、海岸から湧き出る豊富な温泉を利用した、世界でもめずらしい天然の砂むし温泉が人気を博しています。
浴衣のまま砂の上に仰向けになり、50℃〜55℃くらいの砂をかけてもらいます。そのままじっと待つこと10〜15分ほどすると、全身から汗が拭き出てくるそう。
いぶすきの砂むし温泉は300年も前から湯治に活用されていましたが、その効能が医学的にも証明されるようになったのは、最近になってから。砂むしは体を芯から温め、血液循環を活性化させ、体内の老廃物を排出。さらに炎症性・発痛性物質を洗い出し、体をリフレッシュしてくれるとのこと。その効果は通常の温泉の3〜4倍も高いという報告もあります。マラソンで疲れた体を癒すにはまさにうってつけですね。
海に囲まれた指宿市には、都会では決して拝むことのできない、日の出や夕日の絶景ポイントがいくつかあります。初めてのフルマラソン、また新春を飾る初マラソンとして『いぶすき菜の花マラソン』に挑戦してみませんか?
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