ファッション誌・カルチャー誌・WEBメディアと、ジャンルを問わず多くの連載を抱える作家 辛酸なめ子さん。全国各地を取材してきた彼女ですが、行きたいけど妄想止まりとなっている憧れの空港も多いとか。時にはじっくり腰をすえて空港の良さを味わいたいとのことで、妄想のその先、実態をレポートしていただくことになりました。そのモノの本質をイラストで表現し、エッセイに加える辛酸なめ子さんスタイルでお送りします。

奄美大島は南国ムードを妄想――空港にはシーサー的な存在が?――

この度、奄美大島にはじめて行く機会がありました。女性誌の仕事で現地の方を訪ねる旅だったのですが、今回このサイトで空港について書かせていただくことになり、せっかくなので奄美空港について思い巡らせてみたいと思います。
まずは、奄美に行く前、どんな空港なのか妄想してみます。沖縄の那覇空港には行ったことがありました。もう何年も前なのでおぼろげな記憶しかありませんが、奄美空港も沖縄に似た南国のムードが漂っているのではないかと想像。なんとなくシーサー的な存在が鎮座していそうです。

行く前に名産品を買って妄想――便利なお取り寄せ――

奄美を訪れる前に、名産品をいくつか取り寄せてみました。奄美の新聞に包まれていたりして、島の空気も運ばれてきたようです。奄美市の進路ガイダンスや市民スポーツフェスタの記事など拝読しつつ、試食しました。

左奥:なり味噌/中:奄美産もずく/右奥:ごまざた

妄想と実態の格差――沖縄とは文化が違うようです

そしていよいよ迎えた奄美行きの日。地図を見ると、奄美周辺にはいくつも島があって、喜界空港、徳之島空港、沖永良部空港、与論空港、久米島空港など、空港が確認できました。徳之島空港の別名が「徳之島子宝」なのが気になります。何か子宝に恵まれる伝説でもあるのでしょうか。奄美空港は直行便があるのがありがたいです。
JALの飛行機はボーイング737-800でした。約150人乗れる、両側に三列ずつの機体で、思いのほか大きくてホッとしました。離島イコール小型機というイメージがあったので……。しかもほぼ満席で平日の昼間に奄美大島に行く人がこんなにいらっしゃるとは。出発がお昼というのも、肉体的に楽で余裕があっていい感じです。

画像: 奄美空港外観。白くてシンプルな建物ですが、南国の青空とよく合います。

奄美空港外観。白くてシンプルな建物ですが、南国の青空とよく合います。

画像: 空港内のさり気ないフォトスポット。奄美大島に来たという実感がじわじわきます。

空港内のさり気ないフォトスポット。奄美大島に来たという実感がじわじわきます。

二時間ほどのフライトで奄美空港へ。飛行機から拝見すると、白くてこじんまりしていますが、素朴でかわいい建物です。窓から青い海を見ながら着陸。ほとんど揺れない快適なフライトでした。さっそく到着ロビーへ。貝殻と奄美大島のお酒がたくさん並んでいます。シーサーは……いませんでした。沖縄とは文化が違うようです。その代わりに祭りの儀式で使われるというプリミティブなお面が飾られていました。
まず一階のショップをざっと見てみます。大島紬の帽子や財布など小物が展示されていました。一階の奥には真珠のお店が。奄美パールはクオリティーが高くて有名だそうです。色艶が良くて大きい奄美パールを前にすると、その日安い淡水パールを身に着けていたのが恥ずかしいです。値段は8000円台から、超巨大な486万円の真珠のネックレスもありました。空港に真珠の店があるというのは珍しいです。
空港の二階にはファミレスとお土産の店、そして期間限定で変わる名産のお店が。行った時は、奄美の泥染のお店が展開していました。

画像: くび木のお茶。少しずつ飲んだらそんなに利尿しませんでした。何よりおいしかったです。

くび木のお茶。少しずつ飲んだらそんなに利尿しませんでした。何よりおいしかったです。

軽く拝見しただけでも、コンパクトな建物内にかなりの情報量です。二階のショップで「くび木のお茶」という奄美のお茶のペットボトルを購入。ガイドさんによると利尿作用がすごくて、奄美では漢方のお茶と呼ばれているそうです。かすかな甘みがあって想像以上においしかったです。空港にはチェーンのファミレス、ジョイフルも入っていて軽くランチをいただきましたが、普通のサラダなのに割増でおいしく感じられました。水質が良いからでしょうか。
奄美の料理は沖縄料理とまた雰囲気が違い、優しい味が多い印象です。沖縄料理が炒めものが多いのと対象的に奄美は煮もの系メイン。体に良さそうな発酵食品も多いです。今回取材でお会いした方や料理店のおかみさんなど、70代でも髪が黒々していたり、肌にハリがあってきれいだったりで、羨ましかったです。

アンチエイジングの島、奄美の食で美容と健康に良さそうだったのは、
・黒糖が主流
・味噌や豆腐などの発酵食品
・煮物メイン
・豊富な海藻
・シークヮーサーやグアバ茶などの飲料

と、どこを見ても体に良さそうなものだらけ。
島に行く前にいろいろとお取り寄せしましたがそれだけでは飽き足らず、島のコンビニや空港で一万円以上爆買いしてしまいました。

画像: 島内のコンビニ的なお店にあった島唄CDコーナー。地元愛が伝わります。

島内のコンビニ的なお店にあった島唄CDコーナー。地元愛が伝わります。

画像: 朝に行ったコンビニでまず爆買い。それ以外に空港でも買いまくってしまいました。

朝に行ったコンビニでまず爆買い。それ以外に空港でも買いまくってしまいました。

画像: JAL PLAZA(旧BLUE SKY)は安定の品揃え。やはり鶏飯が目立つところに並んでいました。

JAL PLAZA(旧BLUE SKY)は安定の品揃え。やはり鶏飯が目立つところに並んでいました。

空港のJALのお店ではちょっとしゃれた黒糖のお菓子やクッキーなど。コンビニでは配布用の手頃な黒糖やハーブティーなど。コンビニでは島唄のCDコーナーまであり、地元愛が伝わります。

妄想の粋を超える大島紬村で聞いた大島紬の作業量

雑誌の取材は無事に終わり、翌日は黒糖焼酎の酒造所や黒糖の工場、聖地や田中一村の生家、ハブのグッズのお店などスピーディに観光。中でも印象的だったのは、大島紬村です。大島紬の製造過程を説明&販売する施設です。大島紬の製造過程を伺ったらあまりの大変な作業量に意識が遠のきました。シャリンバイという植物と泥で80回以上染めて着色。「先染め」といって糸の段階で、ドット絵を作るように点々で図柄に合わせて染めて、1ミリもずれないよう一本一本図柄通り何百本も機織り機に並べます。糸を機織り機にセットするのに3日もかかるそうです。こんな大変な手法誰が考えたのでしょう……。

画像: 大島紬に使うシルクの糸を染める職人さん。シャリンバイの成分と泥の成分が反応して色が付きます。

大島紬に使うシルクの糸を染める職人さん。シャリンバイの成分と泥の成分が反応して色が付きます。

画像: 機織り機にズレないように糸をセットするのも大変な作業。真剣な表情が素敵です。

機織り機にズレないように糸をセットするのも大変な作業。真剣な表情が素敵です。

織りの細かさはマルキという単位で表され、10マルキ以上になるとグラデもきれいに出て感動ものです。見学していたマダムが「涙出てきた。あんなして織るんだもん!」と感極まって泣いていました。製造過程で人を泣かせる大島紬、半端ないです。

画像: 糸の時点で柄が浮き出ているのがご覧になれますでしょうか。糸に模様を染めるとは、想像を絶する作業です……

糸の時点で柄が浮き出ているのがご覧になれますでしょうか。糸に模様を染めるとは、想像を絶する作業です……

実態を知り、大島紬のコスパに思いをはせる

お値段もそれなりですが、膨大な手間を考えるとコスパは高いような……。ただ数十万円するのと着物の素養がないので、小市民の私は大島紬のパスケースや印鑑ケースなど小物を購入。

原ハブ屋にて遠近法を使った顔ハメで大島紬を疑似着用。似合うかどうか確認できます。

それでも大島紬の夢があきらめられず、原ハブ屋(ハブもいるハブ革グッズのお店)で、顔に当てはめる写真で大島紬の着用風写真を撮影しました。なんとなく縮尺が合っていないのがシュールで笑えます。
後日、帰ってから、都内でおばあさまから大島紬の着物を譲り受けた方にお借りして、着用してみました。意外と表面がツルツルしていて、軽くて着やすいです。シルクなのに、押し付けがましい高級感がなく、肌触りも心地よいです。

画像: 妄想を現実に。大島紬を着用

妄想を現実に。大島紬を着用

着付けの先生によると、大島紬は水を弾く生地で、普段着として重宝されていたとか。涙が出そうなほど大変な製法ですが、実際は水を弾くというのが素敵です。苦労を感じさせない、さらっとした着心地に、大島の女性たちのポジティブな精神が表れているようで感動しました。予習&復習を含めて、内側からも外側からも奄美に浸ることができました。

ちなみに帰りの飛行機内で、イラストを描いていたら、CAさんに話しかけていただいたのは良い思い出です。「もう描き終わったんですね!」と離陸直前に言われて、大島紬の時間をかけた丁寧な手仕事と自分の慌ただしい仕事を比べて反省。旅からは、いつも学ぶものがあります。

もずく、ごまざた購入先

JAL PLAZA(旧BLUE SKY) 奄美空港店
場所奄美空港ターミナルビル2階
電話0997-63-2541
営業8:00~19:00
定休日年中無休

そてつみそ(なり味噌)購入先

株式会社ヤマア 空港売店
場所奄美空港ターミナルビル2階
電話0997-63-1516
営業8:30~19:00
定休日年中無休

次回予告

妄想空港、お次のスポットは山口県宇部。妄想と現実のギャップはいかに!? 

辛酸なめ子
漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『ヌルラン』(太田出版)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『おしゃ修行』(双葉社)、『魂活道場』(学研)など。
ツイッターアカウントはhttps://twitter.com/godblessnameko

撮影:アナザーチョイス 構成:コレロ

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